02 スポーツの才能が開花、野球部と陸上部で活躍!
03 失恋で、男性になりきれない自分に気づく
04 男性とは付き合えないと実感
05 暗黒の高校時代をサバイブする
==================(後編)========================
06 自分の “正体” と向き合って
07 暗いトンネルを抜けて、明るいところへ
08 周りの目と、家族の関係と
09 早過ぎた姉の死をきっかけに、FTMをオープンに
10 暗黒時代の自分に伝えたいアドバイス
01 4人きょうだいの末っ子として可愛がられて
兄は、14歳も年上!
自分は、どんな子ども時代を過ごしただろうか。
あの頃、どんなふうに遊んでいたか、記憶を手繰り寄せる。
「うちの中にずっといるタイプでもなく、おままごともするし、外でボール遊びもする」
「内気でもなく、外でも活発に遊ぶし、どちらも、という感じでした。お絵かきも好きでしたね」
姉、兄、兄の4人きょうだい末っ子だ。
年の一番近い兄で、14歳離れている。
そのせいか、きょうだい喧嘩をした記憶はない。
記憶にあるのは、遊びに連れて行ってもらったり、お菓子やおもちゃを買ってもらった、楽しい思い出だ。
みな面倒見がよく、末っ子の自分を可愛がった。
「当時の遊び相手は、近所の子たちでしたね。男女の比率も、同じくらい。5歳くらいまでは、特になにも気にしてませんでした」
「仮面ライダーやウルトラマンが好きで、そのへんは男の子寄りでしたけど、これはきょうだいの影響というよりも、テレビの影響ですね」
小学校に入学する頃、あのモヤモヤが始まる。
ランドセル問題だ。
赤が嫌だった。
小学校は、モヤモヤの始まり
「学校となると、色とかでどうしても、男女のくくりが出てしまいますよね。そういうもので男女の違いが出てきて、ここから徐々に、年々、違和感が高まっていきました」
「そのピークは高校時代だったんですけど・・・・・・」
しかし小学生だった当時、この違和感をうまく言語化することなど、もちろんできなかった。
「赤いランドセルが嫌だと、親に訴えてはないんです。ただ、なんとなくモヤモヤしたのを覚えています」
ちなみにこの頃の髪型は、おかっぱ。母の言う通りの髪型にしていた。
「3年生くらいの時に、短くしたいって言って、短くしてもらいました。そこからずっと短髪ですね」
そう、髪型にはこだわりがあったのだ。
のちに方向転換をするものの、一時は、美容師を自分の職業に選んだほどだった。
02スポーツの才能が開花、野球部と陸上部で活躍!
小4で野球部にスカウトされて
体を動かすのが好きで、体育が得意だった。
周りの子と較べても頭抜けていた運動神経、身体能力は誰の目にも明らかで、教師の間でも評判になっていた。
そのため、部活が始まる小学校4年になると、野球部にスカウトされる。
顧問の先生に、すでに目星を付けられていたのだ。
「体力テストや体育の授業を見てくれていて、スカウトされたんです」
「学校で会うたびに『野球部来い、野球部来い』ってすごかった(笑)。そんなこと言ってくれる先生もなかなかいないし」
自分ではバスケット部に入るつもりだったが、請われて男子野球部に入部。
兄弟が野球部だという同級生の女子も2人、一緒に入部したことも心強かった。
もちろん、女子が入部したのは、学校始まって以来のことだった。
それまで野球には、別段の思い入れはなかった。
父が昔、野球をしていたので、家でテレビの野球中継を見るくらいで、実際にやったのは、初めてだった。
そして、すっかり野球に夢中になる。
完全にはまった。
「休みの日には『キャッチボールしよう』って友だちを誘ったり、バッティングセンターに行ったり。部員の女の子とも、男の子ともですね」
ともに練習するうちに、男子部員も自然と、女子部員の存在を認めるようになっていた。
「ポジションは、最初はサードやセカンドなど内野をやっていましたが、最終的にはライトに。熱中してやっていたので、今も鮮明に覚えているシーンがあります」
男子にレギュラーの座を譲ることはなかった。
野球三昧の日々を送った。
クラスメートがアイドルの「嵐」に夢中になっている時、憧れはジャイアンツの高橋由伸だった。
と同時に、陸上部でも活躍!
「小4から小6まで野球部でしたが、陸上部にも所属して、二足のわらじを履いていたんです」
陸上は、小学校の部活に加え、地域のクラブチームにも所属。
短距離、幅跳び、ハードル、リレーなどで活躍、県大会や全国大会の常連に。
小6の時には幅跳びで約4メートル80センチを記録し、全国優勝した。
「スポーツもそうだけど、学校の勉強もガクンと落ちたりしないよう、ちゃんとしてました」
学級委員をやるような、いわゆる優等生タイプとはまた違う。
スポーツで否応なく目立つ、ボーイッシュな子。
バレンタインデーには、当然のように女子からチョコをもらった。
レズビアンじゃないの、と言われたこともあった。
小学校では、そんな存在に成長していた。
03失恋で、男性になりきれない自分に気づく
初めて彼女ができた陸上部
進学した地元の中学では、部活を陸上部一本に絞った。
「野球か陸上かで悩みましたが、やはり体格の差も出てくる。だから陸上に切り替えたんです」
専門は得意の幅跳び。中2の時に、関東大会で2位になった。
さらにハードルやリレーの選手にも選ばれた。
県大会では四種競技のベスト8の常連と、変わらず活躍していた。
部活に打ち込んだ中学時代、初恋の舞台も、陸上部だった。
自分は中2で、相手は中1。
女子と初めて付き合った。
「可愛かったのと、素直だったのと、一生懸命部活をしている姿に惹かれて、付き合い始めたんです」
この時、セクシュアリティについて、意識はしていなかった。
「相手も別に気にしていなくて。お互い好きっていう思いがあって付き合った感じ。どっちが男女、というのはなかった」
「自分のことは『優しい』って、彼女から言われていましたね」
中学時代の失恋が、尾を引いてしまう
だがこの関係は、1年ほどするとギクシャクし始める。
「彼女に浮気をされて、かなり衝撃を受けて、ドンと落ちちゃって」
様子がおかしいなと思い、彼女を問い詰めたところ、彼女が同級生の男子とも付き合っていたことを白状する。
これはダブルにショックだった。
「彼女が浮気を隠していたことがひとつ、そして男性と付き合っていたということ」
「彼女は、僕にはないものを求めていたんだと思って。男性になりきれない自分が嫌だ、という気持ちになりました」
彼女の心変わりは、なにが原因だったのか。
「彼女のほうが先に違和感を覚えて、同性と付き合ってること、僕と付き合っている彼女自身のことを、自分で気持ち悪いと思っちゃったみたいです」
「人に見られたくないとか。それで逃げるように・・・・・・」
彼女と付き合い始めて、自分の意識にも変化が現れていた。
「付き合っていくうちに、彼女を守らなきゃっていう気持ちが芽生え始めてていました」
「でもそんな矢先に、自分は叶わないんだな、っていう諦めにも似た気持ちが出てきてしまって」
中3の秋、受験を控えた大事な時期だったので、これは余計に辛かった。
精神的に自分を追い込んでいた。
「授業中も思い出して泣きそうになったり、家に帰って受験勉強しても思い出したり、もうちょっと彼女の話を聞いてあげればよかったと、激しく後悔したり・・・・・・」
失恋の悲しみは無論、誰にも言えなかった。
「自分の女性的な成長も嫌になっていました。生理だとか胸だとか、そういうものに対する嫌悪感もあって」
いろいろが織り混ざった感情だった。
追い討ちをかけるような宿命的な悩みにも、悶々とするしかなかった。
この中学時代の失恋が、その後の人生に、思いのほかに長い間、ほの暗い影を落としてしまう。
04男性とは付き合えないと実感
1ヶ月だけ、男子と付き合ってみた
失恋のダブルショックで、ごはんが食べられない時期もあった。
それでも必死に受験勉強をして、無事、志望校に合格できた。
高校の陸上部にはもちろん誘われたが、断った。
中学時代で、燃え尽きた。
そんな思いだった。
入学してすぐ、気の合うクラスメート同士で遊ぶようになる。
「入学当初は、新しくできた友だちとも楽しく遊んで、中学時代の失恋を忘れられた時期もあったんです」
気の合う仲間の男子と、付き合ってみたのもこの頃、5月か6月だった。
休み時間を一緒に過ごしたり、放課後遊びに行ったり。お互いの家にも行き来した。
「初めて彼氏として付き合ってみたんですけど、まあ仲いいし、いいかと思って。いちおう家族もクラスメートも公認でしたね」
「でも、1ヶ月しか続かなかった。本当にちょっとだけなんです」
やはり、違和感しかなかったのだ。
女性扱い、されたくない!
「彼氏ができたってなった時に、自分がなんか、すごくモヤモヤしちゃって。なんだこれは!?って」
「ありがちなことなんでしょうけど、さりげなく道路側を歩いてくれるとか、重いものを持ってくれるとか。あ、相手の方は優しかったですよね(笑)」
「自分が社会的に女性に見られたり、女性扱いされるのがものすごく嫌で、女性扱いが嫌でしたね。ちょっと前までもあったんですけど」
男性と付き合ったのは、軽いノリだったのかもしれない。
だが、今思えばこれは、自分がトランスジェンダーだということに気づくための、大切な契機だった。
「自分のセクシュアリティが確立していなかったので、自分を試す感じでした。するとやっぱり拒否症状が出てしまって、ああ、だめだって」
男性とは付き合えない。そう実感した1ヶ月だった。
05暗黒の高校時代をサバイブする
自分が何者なのか、まったくわからない
しかしこの交際は、無邪気な戯れでは、済まされなかった。
元彼氏もメンバーに含むクラスメートのグループのある女子が、自分の悪口を言い始めたのだ。
仲のよい子だったのに。
深く傷ついた。
「ギクシャクして、グループから自分だけ孤立してしまって。それと同時に自分の身体への嫌悪感もガーンと高まってしまいました」
「学校も行きたくない、制服も着たくない、誰ともしゃべりたくないっていう時期に入っちゃって、それで引きこもったんです」
暗黒の高校時代の始まりだ。
そして、不登校。当然、家族は心配した。
「本人が頑なに登校を拒否してますから(笑)。理由は、最初は言えなかったですよね。体調悪いとか、とりあえず言い訳を作って」
「でもあんまり行かないんで、母に布団を剥がされて蹴られたりもしました(笑)」
自室に引きこもり、布団に潜ってガラケーを手に、必死に検索した。
同じ悩みを抱える人や、心の症状を相談できる人や場所を探した。
「まだ検索ワードもよくわからなくて。最初は栃木県とか近くの人を調べたり、学校に行けなくなった人、不登校、そういう感じで調べて行ったら、だんだんセクシュアリティのことも、キーワードに入れていけるようになったんです」
自分が何者かまったくわからない状態だった。
「小学生のころから、レズビアンじゃないかとか言われてたんですけど、なんか違う気がしてました」
3ヶ月の引きこもり後、学校生活に復帰
同じ時期に「このままじゃ自分がおかしくなる」と思い、心療内科にも通った。
「なんとか学校に行かなきゃ」と自分を奮い立たせた。
「負けず嫌いだったので、必死になりました。自分を変えなきゃという思いもあったし、卒業だけはしたかったから」
保健室登校から始めた。
そして、その年の秋も深まった頃、再び教室に戻ることができた。
「学校を辞めると思われてたみたいで、『あ、来たんだ』っていう冷ややかな視線を感じながら、席に着きましたね」
その頃、救いだったのは、ネット掲示板の存在だった。
悩みを抱えているのは、自分だけじゃなかったことがわかった。
「掲示板からは情報をもらうことのほうが多かったんですが、その中で情報を選び、自分はこれじゃないか、という目星をつけていきました」
「すると、だんだん自分の正体がわかってくるんです」
当時はまだ、LGBTの用語をまったく知らなかった。
ひとつずつキーワードを調べて比較して、自分の中に当てはめ、「自分はこうだからこうなんだ」と整理していった。
そしてついにGID(性同一性障害)という言葉に、出会った。
<<<後編 2018/01/15/Mon>>>
INDEX
06 自分の “正体” と向き合って
07 暗いトンネルを抜けて、明るいところへ
08 周りの目と、家族の関係と
09 早過ぎた姉の死をきっかけに、FTMをオープンに
10 暗黒時代の自分に伝えたいアドバイス