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Aセクシュアル、Xジェンダー・・・、セクシュアルマイノリティは「LGBT」だけじゃない【前編】

セクシュアルマイノリティだからといって、必ずしも全員が悩み苦しんでいるわけではない。そして、非当事者であっても、セクシュアリティとは違う部分で何かしらの生きづらさを抱えていることだってある・・・・・・。今徳さんの語りからは、そんな “至極当然なこと“ を、改めて実感させられたように思う。

2017/12/08/Fri
Photo : Taku Katayama Text : Mana Kono
今徳 はる香 / Haruka Imatoku

1995年、愛知県生まれ。ファッション系の専門高校を卒業後、18歳で上京。レインボーカラーのアクセサリーを販売する雑貨店の経営を経て、NPO法人「にじいろ学校」を立ち上げる。現在は、同NPO法人の理事長として、恋愛における自由化の普及活動に取り組んでいる。

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INDEX
01 愛着障害と診断されて
02 家庭環境に問題を抱えた友人たち
03 居場所は外で見つければいい
04 セクシュアルマイノリティとの出会い
05 L・G・B・Tだけがセクシュアルマイノリティじゃない
==================(後編)========================
06 ストレートは、この業界では逆にマイノリティ
07 鬱を乗り越えて
08 もしかしたら自分も当事者かもしれない
09 知らないことは “悪” じゃない
10 誰もが安心できる場所を提供したい

01愛着障害と診断されて

両親からのネグレクト

昨年、発達障害を疑って精神科を受診した。

しかし、結果は発達障害ではなく、過労とストレスによる「鬱」と幼い頃の家庭環境が原因ではないか、と伝えられる。

「ほかの家庭を見たことがあるわけじゃないから、我が家が変だったのにもずっと気づかなかったんです」

「病院のカウンセリングでいろいろ話しているうちに、『あれ、うちっておかしかったのかな?』って、ようやくわかるようになりました」

両親は仲が悪く、家でふたりが会話しているところも、ほとんど見たことがなかった。

「父は仕事で朝から夜まで家にいなかったし、土日もずっとパチンコをやっていました。母もパートに出ていて、家にいることは少なかったです」

「特に父とは全然顔を合わせなかったから、家族というよりも『たまに家にいるおじさん』くらいの認識でした(苦笑)」

家庭内別居に近い状態だったのだと、今になって思う。

1軒屋に暮らしていたが、それぞれが自分の部屋にこもりがちで、まるでシェアハウスのようだった。

もちろん、食卓を家族全員で囲んだ経験もほぼゼロだ。

「学校から帰ってきたら、だいたい自分の部屋でひとりでご飯を食べていました」

「でも、その時は『これが普通なんだろうな』って思ってたんです」

弟と妹がいるが、今ではふたりともほぼ連絡を取っていない。

「ふたりが今何をやってるのかも、全然知らないんですよね」

「というか、家族っていうもの自体がよくわからない・・・・・・。自分に家族はいないものだと思って生活しているんです」

真面目な幼少期

小さい頃の記憶は、ほとんど残っていない。

「ずっと実家を出たいと思っていたし、上京してからの生活が濃すぎて、地元にいた頃の記憶は無に等しいくらいなんです」

それでも、幼い頃は保育園に行きたくなくて、毎日泣いていたのを覚えている。

「どうやら、保育園の頃が人生で一番モテたようなんです(笑)」

「でも、そのせいでほかの女の子たちからは嫌われてたみたいで・・・・・・」

小学校に上がってからは、リーダー的なポジションにつく機会が多かった。

「家ではずっと本を読んでいました」

「ゲームやおもちゃはほとんど買ってもらえなかったんですけど、本だけは買っていいって親に言われてたんです」

両親から「勉強をしろ」と言われたことはなかったが、そもそも勉強が好きだったから、学校でもそれなりの成績をキープしていた。

02家庭環境に問題を抱えた友人たち

不干渉な両親

真面目だった小学生時代とは打って変わって、中学に入ってからは成績がガクッと落ちてしまった。

「グレちゃったんですよね」

「たまたま仲良くなった友だちがやんちゃタイプで、一緒に悪さするようになって、勉強も全然しなくなったんです」

それでも、両親に叱られることはなかった。

中学時代、まわりの友だちからは「親が口うるさい」と愚痴られることも多かったから、親があまり干渉してこない我が家は幸せな家庭なのかと思っていたくらいだ。

だから、つい最近カウンセリングで「それは育児放棄だよ」と言われて、ものすごくびっくりしたのを覚えている。

うちの家はマシな方

「仲のいい友だちもグレてる子が多かったせいか、大体みんな家庭環境が悪かったんですよね」

シングル家庭の子や、親から暴力を受けている子も珍しくなかった。

今思えば、どこか自分と似たような、家庭に問題を抱える友だちに惹かれる部分もあったのだろう。

「親に殴られて傷だらけで登校してくる子もいたから、うちはだいぶマシなんだと思ってたんです」

両親が離婚していなくて、ちゃんとふたり揃っているんだから、我が家はまともな家庭なんだろうと思っていた。

「でも、中2の時にどうしても部屋から出たくなくなって、1ヶ月ほど不登校になった時期があったんです」

03居場所は外で見つければいい

人助けで感謝されたい

高校は、ファッション系の専門学校に進学した。

「不登校だった時期に、部屋に引きこもって刺繍や手芸作品をずっと作っていました」

小さい時から、手作業で何かを作ることが好きだった。

だから、大好きな手芸を授業で学べるなんて天国だ!と思い、専門学校を志願したのだ。

「その時は、いつかファッションスタイリストになりたいな、って思ってました」

たとえ体型にコンプレックスを持っていても、服の選び方である程度カバーできる。

コンプレックスを持つ人を、スタイリングで助けたいと思った。

「小学生の頃から、ゴミ拾いとか地域のボランティア活動に参加する機会が多かったんです」

「だから、自分もいつか人助けになるような仕事をしたい、って思ってたんですよね」

親にほめられた経験が少なかったから、人助けをすることで誰かに感謝されたい、認められたいという気持ちが源にあったのだと思う。

「今振り返ると、そういう考え方自体、かなり病んでいたなって思いますけどね(苦笑)」

充実した高校生活

専門学校での生活は、とても充実していた。

「変わった子も多かったし、本当にいろんなタイプの生徒がいました」

授業も楽しかったから、中学時代にはボロボロだった成績も、徐々に回復していった。

「うちはお小遣いがなかなかもらえなかったので、高校に入ってからはすぐにバイトを始めました」

バイト先は、大手回転寿司チェーン店。

週5日シフトを入れて、ガッツリ働いた。

「とにかくお金がほしくて、毎月7万円くらいは稼いでました」

土日は8時間、夏休みも連勤で働いた。

飲食店ということで仕事はかなりハードだったが、同僚との仲が良かったから、それほど苦ではなかった。

「お金がもらえてうれしかったし、職場にはいろんな人がいて、すっごい楽しかったんです」

「貯めたお金で旅行にもよく行っていました」

家族旅行なんてほとんど行ったことがなかったから、ずっと旅行に憧れていたのだ。

「京都が大好きで、ほぼ毎月ひとりで訪れていました」

バイトのない日は部活をしていたため、家にいる時間はほとんどなかった。

「たまに気分が落ち込むこともありましたが、学校もバイトもとにかく楽しかったので、中学の頃よりはだいぶ持ち直したと思います」

04セクシュアルマイノリティとの出会い

18歳で上京

田舎で生まれ育ったせいか、「いつか都会で働いてみたい」という夢をぼんやりと抱いていた。

それに、実家を出てひとり暮らしもしたかった。

「最初は、近いし名古屋でもいいかなと思ってたんですけど、どうせひとり暮らしをするなら名古屋も東京もそれほど変わらないと思ったんです」

それなら思い切って東京に出てみようと思い、18歳で上京を決意する。

「不安は特になかったです」

「やっと自由になれるっていう期待感しかありませんでした」

東京に親戚もいなかったが、ネットを通じてできた友人と頻繁にオフ会をしたり、さほどさみしくもなかった。

「高校生くらいの時からTwitterをやっていて、東京に住んでる子ともたくさん友だちになっていたんです」

「その中にセクシュアルマイノリティの子もいたので、高校生の時には、LGBTに関する知識をそこそこ身につけていました」

LGBTの存在を知っても、特に大きな驚きはなかった。

「へー、いろんな人がいるんだな、くらいにしか思いませんでしたね」

友だちがたまたまセクマイだっただけ

たまたまTwitterで知り合った友人が、セクシュアルマイノリティの界隈では比較的有名な活動家だった。

「その人とよく遊ぶようになって、自然とLGBT当事者の友だちが増えていったんです」

そうはいっても、別にセクシュアルマイノリティに取り立てて関心があったわけではない。

「本当にたまたま、仲良くしているコミュニティにLGBT当事者が多かったってだけなんですよね」

当事者同士の会話で飛び交う「用語」も最初は全然わからなかったが、自分も話についていきたいと思って勉強を重ねた。

「『パンセクシュアルとバイセクシュアルは何が違うの?』とか、用語の定義は一通り教えてもらいました」

「大切な友だちにまつわることだし、ある程度知識をつけておかないと相手に失礼かなって思ったんです」

自分の周囲には、明るい性格の友人が多かった。

「仲良くしている人たちはみんなすごく前向きで、ラブラブな恋人もいるリア充タイプが多かったんです」

LGBTといえば「生きづらさや悩みを抱えている」というのが世間一般のイメージかもしれない。

実際に悩んでいる人がたくさんいることは確かだ。

しかし、たまたまかもしれないが自分はそういう当事者にはほとんど会ったことがなかった。

だから、「セクシュアルマイノリティ=悩みを抱えている」というステレオタイプは、あまり好きではない。

「当事者だって、別にずっと悩んで苦しんでいるわけではないし、元気に生きている人や過去を乗り越えて人生を楽しんでいる人もいるんです」

パンセクシュアルに生まれたことを、「男女両方を好きになれてラッキー!」と前向きに捉えている人だっている。

『当事者は必ず悩んでいるものだ』っていう固定概念は、どうなんだろう?って思います」

生きることを諦めてしまうほど悩みが深い人もいれば、セクシュアリティに関して悩みがない人もいる。

当たり前の話しではあるが、それも多様だ。

05 L・G・B・Tだけがセクシュアルマイノリティじゃない

20歳で雑貨店を開業

ある日、友人に「東京レインボープライドに行こう」と誘われた。

どんなイベントかもよく知らずに足を運んだが、そこで売っていたレインボーのグッズが偶然目に留まった。

「その時連れていってくれた友だちが、『レインボーのアクセサリーって、こういうイベントでしか買えないんだよね』って、教えてくれたんです」

それなら、イベント以外でも手に取れるように、自分がレインボーのアクセサリーを作って販売すればいいじゃないかと、ふとひらめいた。

もともと手芸は好きだったし、自分の作品が誰かに喜ばれるのであれば万々歳だ。

すぐさまオリジナルのレインボーアクセサリーを作り、委託販売を始めた。

「でも、自分でデザインするよりも、ちゃんとした作家さんに頼んで作ってもらった方がクオリティの高いものができると思ったんですよね」

自分は作家ではなく、販売などの裏方にまわった方がいいかもしれない・・・・・・。

というわけで、思い立ったら即行動!

すぐさま物件を手配し、吉祥寺に自分の雑貨店をオープンした。

「初期費用は100万円くらいだったかな。貯金もあったし、店舗を借りる契約もかなり簡単でした」

「でも、当時まだ20歳だったってこともあって、もちろん経営のイロハなんて知らなかったし、先のことも何も考えずに突っ走ってしまったんですよね・・・・・・(苦笑)」

店長兼オーナー。

細かい事務作業にいたるまで、何から何までひとりでこなさなければいけない。

右も左もわからない状態で、目まぐるしい日々が幕を開けたのだった。

NPOの立ち上げ

「店を開けてしばらく経って、横浜レインボーフェスタにブース参加した時、こういうイベントを自分でも主催したいなって思ったんです」

気になってすぐに調べたところ、NPO団体であれば、地域の公園などを安価に借りてイベントを開催できるとわかった。

「それなら自分でNPOを作ろう!って思って、『にじいろ学校』という団体を立ち上げました」

そのNPO団体では、Aセクシュアルにスポットを当てて、オフ会を中心としたイベントを企画している。

「L・G・B・T以外のセクシュアルマイノリティに注目したかったんです」

「というのも、雑貨店のお客さんやTwitterの友だちにも、LGBT4つ以外のセクシュアルの方が多かったんですよね」

「LGBT」のどれかに該当する人だけが、セクシュアルマイノリティというわけではない。

だから、セクシュアルマイノリティについて語る時に、「LGBT」という言葉はあまり使いたくもなかった。

自分自身がそうしたボーダレスなスタンスでいたところ、自然と周囲にXジェンダーやAセクシュアルの人々が集まるようになっていった。

「せっかくだから、LGBT以外の、それぞれのセクシュアリティでオフ会を開いてみたんです」

「そしたら、Aセクシュアルのオフ会がとにかく人気だったんですよね」

きっと、Aセクシュアルが集まる場所はまだまだ足りていないんだろう。

そう思い、自分のNPOではAセクシュアルのための場所作りをしようと考えた。


<<<後編 2017/12/10/Sun>>>
INDEX

06 ストレートは、この業界では逆にマイノリティ
07 鬱を乗り越えて
08 もしかしたら自分も当事者かもしれない
09 知らないことは “悪” じゃない
10 誰もが安心できる場所を提供したい

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