INTERVIEW

心の「モヤモヤ」は気づきのチャンス!【後編】

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2016/08/28/Sun
Photo : Taku Katayama Text : Momoko Yajima
矢野 友理 / Yuri Yano

1992年、愛知県出身。東京大学文学部行動文化学科卒業。在学中にセクシュアルマイノリティサークル『トポス』などに在籍。ジェンダー論の授業を受けたことをきっかけにジェンダー研究を志望し、卒業論文は「同性愛者のカミングアウト」をテーマにする。不動産系ベンチャー企業に就職し、現在社会人2年目。職場ではバイセクシュアルを公表して勤務している。

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INDEX
01 大学に入って訪れた ”モヤモヤ”
02 LGBTサークルでの様々な出会い
03 恋愛対象の性別にこだわりがない
04 ジェンダー論と同性愛をテーマにした卒業論文
05 家族へのカミングアウト
==================(後編)========================
06 「結婚はするものだ」という価値観
07 子どもは思い通りにならない
08 職場でのカミングアウト
09 社会に出て感じる何気ないジェンダー意識
10 バイセクシュアルというセクシュアリティ

06「結婚はするものだ」という価値観

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「よく知らないから勉強しておく」

仲の良い家族だと思う。両親のケンカした姿を見たことがないぐらい、夫婦仲もよい。それが普通だと思っていたが、友人から「恵まれた家族だね」と言われてハッとすることがある。

基本的に両親ともに真面目で、父は自分に甘く、母は厳しくもあり優しくもある人だ。

就職活動や将来のことで悩んでいる時に、母にはよく電話で相談をした。今回もそのノリで「実はね」と告げた。

自分のカミングアウトを聞きながら、母は淡々と衝撃を受けているようだったが、電話の最後に「よく知らないから勉強しておく」と言ってくれた。

母がそう言ってくれたことが、何より嬉しかった。

大学生の頃は帰省する度、「彼氏できた?」「早く結婚してね」と言われ続けた。

付き合っている人はいない、この先どうなるかも分からない、と言っても、親は自分の未来に「結婚」の二文字を見ている気がしてプレッシャーだった。

「以前から、『結婚はしないかもしれないよ』とは会話の中で出していたんですけど、そう言うと悲しそうな顔をされたり・・・・・・。親として子どもに結婚してほしいという気持ちと、それとは別に、 “結婚はするものだ”という価値観もあったんじゃないかなと思います」

結婚願望は、あるにはある

結婚しないと幸せになれない、結婚してこそ一人前・・・・・・ハッキリとそう言われたわけではないが、同じようなことを言われたことが何度かあり、その都度、「結婚ってしなきゃいけないの?」と疑問が沸いてきた。

「一度、母と兄と居酒屋に行った時にそういう話になって、『いや、そうじゃない人もいるし。その考えってどうなの?』みたいなことを言ったら、険悪な空気になっちゃって(笑)」

「別に親を責めようと思っているわけではなくて、ただ、その価値観だけしかないのはどうなのよって反発したくなっちゃったんですよね」

カミングアウト以来、両親と改めて自分のセクシュアリティについて話したことはない。

ただ、兄には彼女がいるのか聞いても、自分には恋人や結婚について話がふられることはなくなった。

「そもそもそんなに恋愛の話をオープンにする家庭でもないので・・・・・・。でも、それまであった結婚圧力がぱったりなくなったので、どう思ってるんでしょうねえ」

「結婚」に関するジェンダーバイアスについて言いたいことはある。かと言って、結婚願望がないかと聞かれれば、ないこともないと思う。

「必ずしも結婚という形にはこだわってはいないですけどね。ただ、安心感があるのと、単純に制度として、いまの日本社会では結婚していた方がお得なことが多いと思うので」

07子どもは思い通りにならない

親の想定外の人生を歩む子どもたち

最近、母は「子どもは思い通りにならない」とよく言っている。

自分のセクシュアリティのことだけではない。自分の就職や兄の転職について、上京するたびに、「やれやれ」といった感じでつぶやいている。

東大に進学したが、就職活動は希望の会社に落ちまくった。

エントリーシートにはサークルのことや卒論のテーマも書いて面接に臨んだが、LGBTに関しての企業の反応は様々だった。

多くはタブー視する傾向があり、その度に残念な気持ちになった。

ようやく内定を得たのは、食料品大手の会社。しかし悩んだ末に、サークルの先輩が先に入社していたベンチャー企業に就職を決める。

兄も証券会社という一見手堅く安定してた仕事を辞め、両親ともめながら芸能事務所のマネージャーに転職した。

テレビが嫌いな親であまり見せてもらえなかったのに、「どうしてうちの家庭からマネージャーがねえ・・・・・・」といつも母はぼやく。

「”子どもはどう育つか分からない” ということを悟ったらしく、最近よく言うんですよ。諦めたというか、予想と違う生き方に驚いているというか。だけど、自分たちが納得のいく生き方ができているならいいよ、と受け止めてくれているとは思うんですよね」

就職活動で悩んだ時、両親には相談をしていた。

大手企業の内定を蹴ってベンチャーに行くことには反対された。

しかし両親は、「結局、決めるのは自分だから」というスタンスでもあり、最終的に自分で答えを出して決めたからには、そこまで反対することもない。

でも、子どもの気持ちと、実際の親の気持ちは違うかもしれないから、母の本心は分からない。

カミングアウトで自分の心の負担は軽くなったが、両親には逆に重荷を背負わせてしまっているのかもしれないとも、どこかで思っている。

個性的な先輩たちが働いていられる職場に興味

大手企業に内定をもらいながらも行くべきか悩んでいた時、大学の学園祭で、サークルのゲイの先輩と会う。先輩に就職先のことで悩んでいることを伝えると、「うちの会社どう?」と誘われる。

実はその先輩の他にも、セクシュアルマイノリティではないと本人は言うものの女装家の男性と、高校の先輩で一浪して東大に入った女性も、同じ会社に内定が決まっていた。

「怒られるかもしれないんですけど、3人とも社会人やれるのかなってぐらいかなり個性的な人たちで(笑)。だけど逆に、彼らを採用する会社っておもしろいんじゃない? あったかい会社なんじゃないかなって。ここなら私でもやっていけるかも! と思ったのもありました(笑)」

職場のことは何も聞いていなかったが、セクシュアリティをオープンにして働いていられることは分かった。それに同期に3人も知り合いがいることにも安心感があった。

「面接でも、結構とんがった人がいる、おもしろい会社だよと言われて、結局、大手の食料品会社からこっちに変えてしまったんです」

08職場でのカミングアウト

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セクシュアリティを原因とした圧力はない

特にセクシュアリティにオープンであることを謳っている会社ではない。だが実際に働いてみて感じるのは、「きちんと仕事をしてくれればいい」というスタンスだ。

以前、トランスジェンダーの人から求人に問い合わせがあった際も、社内でトイレの問題などが議題に上がったことがある。

「結局その方は応募されなかったのですが、その人が本当にうちで働きたいと思っていて、こちらも求める人材であればきちんと考える、という雰囲気があったので、なんだかいい会社だなって(笑)」

職場では、同僚、先輩、人事部など、直接関わりのある人はほぼ全員、自分のセクシュアリティのことを知っている。

自分だけではなく同期たちも、ゲイであること、普段はスーツで出社するが趣味が女装であることなどを隠さずに仕事をしている。

「積極的にこちらからカミングアウトしているわけではないんですけど。でも知っているからか、部署異動の後も周りは全員知っていて、気を使って話してくれているのは感じます」

飲み会の席で、同期に促されるようにカミングアウト

職場でのカミングアウトは、入社前後の時期だったと記憶している。

同期と、人事部の人と、何人かの先輩で、交流目的の飲み会があった。その場で恋愛の話になり、「彼氏はいないの?」などと聞かれた時に、居合わせた女装家の友人が、カミングアウトできるような雰囲気を作ってくれた。

「彼が『言ってもいいんだよ』みたいなオーラを出してきて、誘導尋問的に『お前もそうだよな』って感じで話をふってくれたんです」

そこで自分が男性も女性も好きになるバイセクシュアルであることを告白する。隣にいた人事部の人は、「ああ、そうなの!」と驚きつつも受け入れてくれた。

その後も話の流れで同期には伝えてきた。

上司には直接は言っていないが、飲み会などで自分だけが恋愛話をふられなかったことがあり「これは知っているんだな」と気がついた。

また、OJTについてくれた先輩にも知っているか訊ねたところ、少し聞いているとの答えが返ってきた。

カミングアウトによって嫌な思いをしたことはなく、むしろ自然に、冗談も言えるぐらいの関係が作れているのはありがたい。

09社会に出て感じる何気ないジェンダー意識

ジェンダーバイアスにもやっと

しかし入社したての頃は、それまで大学でジェンダー論の授業を取っていたのもあり、ちょっとしたことが気になる日々。

「周りの人の発言に少しでもジェンダーバイアスを感じると、心の中でツッコミを入れていました(笑)」

最初に配属された部署は男性ばかりで、女性が配属されるのは珍しかった。

「たとえば、自分のところの部署でやらなければならない業務なのに『女の子なんだからこんな汚いことしなくていい』『男にやらせればいいよ』という発言があった時、『別に、私もやるし』みたいに思っちゃうんです」

本人は悪気があったわけでもなく、無意識で言っているのだと思うが、特別に女の子扱いされることはとても居心地が悪かった。

また、同性のクライアントを担当することになった時、職場の先輩が何気なく「このクライアントは女性と話す方が好きだから」と言った。

「そういうことを言われる度、別にいいんですけど、なんとなくもやっとしたりしていました」。

柔軟に対応してくれる職場

社会人も2年目に入り、人事部に異動になる。

担当は社員の勤怠管理なので直接社員と面談したりする立場ではない。

しかし社員の悩み事の相談を人事部が受け持つことは多く、当然、自分も相談の窓口となる可能性がある。

「そういう役回りは女性の方が向いているんじゃないかな、というようなことを異動前の部署で先輩に言われた時には、嬉しいような、嬉しくないような、やっぱりもやっとした気持ちになりました。でもそれも分からなくはないので・・・・・・」

「まあ、そういうもんかあ、とも思ったり」

人事部というセクションにいるうちに、セクシュアルマイノリティに対する理解を促すような活動はしないのか、尋ねてみる。

「正直、いまは自分がバタバタしているのでそれどころじゃないというのがありますけど、LGBTについての研修をマネージャークラスにしてはどうかという案も出たことがあります。その時はタイミングが合わず見送られたけれど、提案したら拒絶するような会社ではないと思います」

「制度や研修として採り入れなくても結構柔軟に対応してくれる会社なのと、自分がセクシュアリティのことでそこまで辛い思いをしていないので、自分事としてそんなに必要性を感じていないというのもあって、いまはそういう活動に注力しようとは思ってないんです」

10バイセクシュアルというセクシュアリティ

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「男も好きになるなら、普通じゃん」

セクシュアリティのことでつらい思いをしてきていないと言うが、男女ともに恋愛対象となるバイセクシュアルというセクシュアリティも、関係しているのだろうか。

「そういう意味でもやっとすることを言われることはあります。『男も好きになるなら普通じゃん』『普通の女の子だよ』と言われたことはありますね」

「あとは、バイセクシュアルだって言っているのに、付き合ったことがあるのが女の子だけなので、『男も本当にいけるの?』と聞かれたり」

確かに、恋愛をして性的な関係を持たないとそのセクシュアリティを認められない人は多い。

「男と付き合ったことがないならレズビアンじゃないの?」とは、女性のバイセクシュアルがよく言われることだ。

また、おもしろいのが「どのくらいの割合なの?」と聞かれること。

「それは結構みんな関心があるらしく、男女が半々なのか、7対3なのか、とか(笑)」

分からないからこそ、人は知りたくなる、聞きたくなるのだろう。

「私は本当に、『性別じゃなくて、”その人” を好きになるだけ』と言っているので、そういう意味では半々の割合かなあって答えると、だいたいみんな、『そっかぁ』って反応です」

自分も、周りも、自然体で

周りが自分のセクシュアリティをどう理解しているのかは、正直今でもよく分からない。

自分にとって、好きな人を好きである状態は自然なことで、その気持ちを疑ったことはなかった。

どうやら同性を好きになる人は少ないらしいなど、考えもしなかった。

しかし「バイセクシュアル」という言葉を知り、同性を好きになることもある自分を客観視できるようになったので、やはり名前をつけることの効果は大きい。

「でも、男を好きになるのも女を好きになるのも、正直どっちでもいいじゃんって思いますけどね(笑)」

友理さんには「こうあるべき」という力みを感じない。
ジェンダー的な発言にいちいち引っかかっていた時期があると言うが、それも「許せない!」と憤る類のものではなく、「それはどうしてそういう発言になるのだろう」と、理由を探るタイプのもので、好奇心から湧き上がる疑問や反発心だったりする。

人の話に耳を貸さないのとも違い、むしろ自分とは異なる他人の意見を受けてなるほどと考えたり、自分の中に新たな気づきを得たりする。それはセクシュアリティやジェンダーに関連することに限らず、とにかく考えることが好きなのだ。

友理さんの素直さと率直さは、きっと本人も気づかぬところで周囲のストレートの人たちに「すぐ隣にいるLGBTER」として影響を与えているだろう。むしろセクシュアリティは単なる個人の特性のひとつとして、自然に受け取られているのかもしれない。自分も、周囲も、自然体にさせてしまうのが、何よりの魅力なのである。

あとがき
はずむような空気がゆきわたる―― 友理さんと会える時、感じるフレーズ。重いコートを脱いだ時のくつろぎ感、そんな感じだ■新しい環境へ飛び込むたびに「感じて」、そして「考える」を繰り返してきた。“手強いぞ“ と人を構えさせるものは、何もない■未来を明るく予見できる友里さん。でも、自身を「迷い子」だという■おもうように生きて、たまに寄り道しながら。日差しが強い日は、木陰で休めばいい。「大丈夫、大丈夫!」と何度も伝えたい。(編集部)