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男だから女だからではなく “自分だから”。【後編】

男だから女だからではなく “自分だから”。【前編】はこちら

2017/11/02/Thu
Photo : Mayumi Suzuki Text : Kei Yoshida
有田 逸馬 / Itsuma Arita

1995年、東京都生まれ。都内の高校を卒業後、多摩美術大学へ進学。卒業を前にLGBT向けの就職支援のイベントに参加し、その後高齢者の介護施設であるデイサービスに就職。現在は、男性の介護士として働きながら、社会福祉士主事の資格を取得するための勉強に励んでいる。

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INDEX
01 言えない気持ちが拳となって
02 女の子になれないのは未熟だから
03 希望をもてなかった学生時代
04 初めての告白とカミングアウト
05 人生のターニングポイント
==================(後編)========================
06 レズビアン? 性同一性障害?
07 お母さんへの花束と手紙
08 好きなものは好きって言っていい
09 男性としての働くということ
10 仕事も恋愛も、自分らしく

06レズビアン? 性同一性障害?

初めてFTMという言葉を知る

美大では、多くの気づきを得ることができた。

「そもそも校風として、“当たり前” という感覚が薄いので、○でもなく×でもなく、いろんなものがあっていいんだと思えました」

それは、周りの女の子と同じようにはなれない自分を受け入れることにもつながった。

「あるとき、セクシュアリティをモチーフにした作品をつくったんです」

「そしたら、作品を見た人から『ボーイズ・ドント・クライ』という映画の話を聞いて」

体は女性だが、性自認は男性である若者が主人公の映画だ。

「そこで初めてFTMという言葉を知ったんです」

「自分はレズビアンかもしれないと思って、ネットでレズビアンという言葉を検索したことがあったんです」

「でも、ゲイやレズ疑惑のある芸能人とか、見分ける方法とか、役に立たない情報ばっかりで」

「自分は、こんな風に世の中から面白おかしく取り上げられる存在なんだと絶望しました」

「自分はやっぱりおかしいんだと」

小学校から高校までは、学校という社会のなかで、違和感を感じつつも女性として生きていく方法しか知らなかった。

大学に入って、セクシュアリティによって区別されることがなくなり、“当たり前” の枠が取り外されて初めて気づいた。

自分は女の子じゃない。

レズビアンコミュニティで感じた違和感

「そのころ、お姉さんのような存在の、バイト先の先輩を好きになって告白したんですが、女の子としか思えないと言われて振られたんです」

「しかもその先輩、僕と同時期に告白してきた男性客と付き合って、さらに子どもができて結婚しちゃったんです」

「男として見てもらえず、子どもをつくることもできず、結婚すらできない自分が悲しくて」

「それから、自分を好きになってくれる人がいるかもしれないと思って、レズビアンのコミュニティに行くようになったんです」

しかし、そこでも違和感を覚えた。

「女性としての自分に好意を向けられて、やっぱり違う・・・・・・と、感じました」

「自分はレズビアンのなかでも、男性的な『ボイ』なのかもしれないと思ったりもしたんですが、それも違う」

「かと言って、男女どちらでもないとかあるとか、そういうわけではなかったので、Xジェンダーとも違うと思いました」

「そうなると、自分が何なのか分からなくなってしまって、女性用トイレを使うのも、女性用の服を着るのも嫌になってしまった」

「しばらくは、セクシュアリティに関わるものすべてにアレルギーというか嫌悪感を覚えました」

この先の人生、どうやって進めばいいんだろう。

答えを求めるように、本を読んで性同一性障害について調べ、LGBTのコミュニティにも行き、いろんな人から話を聞いた。

そうして、少しずつ、人生の進み方を見出していった。

07お母さんへの花束と手紙

LGBTだって普通に働いている

さまざまな人と出会い、話を聞いていくなかで、大学4年生のとき、LGBT関連のNPO法人「ReBit」に参加した。

「いろんなセクシュアリティがいて、いろんな考え方をもつ人がいるんだ、と知ることができました」

「以前は自分を見失って、どうやって生きていけば分からなくなったりもしたけれど、みんな普通に働いて、社会で生きていることが分かった」

「たくさんの人と知り合ううちに、自分の人生は自分で切り拓けるんだと気づいたんです」

では、切り拓いた自分の人生、どのように進んでいこう。

「女性としてではなく、男性として生きた方が自分には心地いいだろうから、男性として生きていこうと決めました」

気持ちを伝え合うことの大切さ

そして成人式の日の朝、母親に花束とともに手紙を渡した。

「お母さんに対して、許せないと思う気持ちもあったけど、ひとりで大変なときに、僕たちに労力と金を費やしてくれたことは本当に感謝していたから」

「節目だし、お母さんへの感謝の気持ちと、自分は女性ではなく男性として生きようと思っていることを、ちゃんと伝えようと思いました」

「でもやっぱり怖くて」

「家に帰りたくないから、成人式の日は翌日の朝までカラオケに行って、その後も一週間くらい会話を避けてしまいました(笑)」

「そしてある日、お母さんから『あなたが女の子じゃないとは分からなかったけれど、他の子とは違うと感じていた。思うように生きていけばいいよ』と言ってもらいました」

それからは親子でお互いに思ったことを言い合うようになった。

ときには喧嘩になることもあったが、それも必要なことだと今では思う。

「自分の気持ちを相手に伝えることは、悪いことじゃないと分かったから」

「喧嘩になったときに、『カミングアウトされたときの、私の気持ちなんて分からないでしょ!』と言われたこともありました」

「でも、いっぱい口論を重ねて、今となってはお母さんも、いろんなセクシュアリティがいるってことを理解してくれているはず」

「お母さんの凝り固まった考えも、最近では薄れてきたと思います」

08好きなものは好きって言っていい

あとに続く若者が通る道を

就職活動は男性として取り組んだ。

「最初はメンズスーツを着て外を歩くのすら怖かったです」

「でも、『ReBit』主催の就職支援イベントに参加して、変わりました」

「代表の藥師実芳さんや『バブリング』の平山裕三さんが親身になって話しを聞いてくださったのがうれしくて」

「本当にありがたかったです」

「思わず号泣してしまうこともあったんですが、構わず受け止めてくださいました」

「就活するなかで、当たり前のように男女の枠に縛られて、辛い思いもしたけれど、自分がそこで負けちゃいけないと思ったんです」

「そこで負けたら、これから就活しようとする若者の未来を閉ざすことになる。彼らが通る道をつくることができない」

「自分がやっていることは間違っていないと信じて、なんとか就職することができました」

現在は、男性の名前を使い、男性としてデイサービスで高齢者介護の仕事をしている。

就活中に就職先として希望していたのは、固定観念にとらわれない、新しい考えをもつ会社だった。

固定観念にとらわれず

「僕も以前は、オタクはキモいからダメとか、誰かが決めた謎の価値観にとらわれていました」

「でも今では、いろんな人のおかげで、自分が好きなものは好きって言っていいし、自分の道は自分で選んでいいっていうことに気づきました」

「きっと、僕のように “当たり前” とか固定観念にとらわれてしまって、もっと幸せになれる可能性に気づいていない人もいるんじゃないかと思って」

「僕はいろんな人と関わって、自分の可能性も、周りの人の可能性も広げたいと思っています」

就職先のデイサービスは、カフェのようなリラックス感がありつつも洗練された空間デザインが特徴的。

簡素で無機質な建物が主である一般的な介護施設とは一線を画している。

「うちの代表は、白い病棟のような介護施設を見て、お年寄りだからこういう場所で過ごすという “当たり前” なものはつくりたくないと」

「一生懸命生きてきて、最期をこんなところで過ごすなんて自分は嫌だ、と言ったそうです」

介護業界の “当たり前” や固定観念を覆す一翼を担っているのだ。

09男性として働くということ

100%男? 100%女?

「職場では男性として働いていますが、セクシュアリティのことで戸惑うことはほとんどないですね」

「僕がFTMだということは周りに伝えていますし、介護施設なので『誰でもトイレ』もあります」

「うちの会社では新人が社内報を作成するんですが、僕はそこでLGBTについても書いています」

「LGBT当事者だということが、自分らしい生き方を阻む要因となるような社会を変えたい」

「ライブラリーコーナーには、LGBT関連の本も置かせてもらってます」

職場の先輩から他意なく「将来、有田くんは結婚するつもりなの?」と訊かれることもある。

理解のない質問だと驚くこともあるかもしれないが、逆の見方をすれば、それほど男性として自然に過ごせているということだろう。

「でも、セクシュアリティについて100%男とか、100%女とか、それは自分でも分かりません」

「男なの? と訊かれたら、『はい』と答えますが」

「僕は男性として生きた方が心地いいから、今は男性として生きているだけです」

誰もがそのままで生きていける社会

セクシュアリティは何%以上ならどっち、と決めるものではない。

「自分が生きたいと思う自分を選択することが大切なんじゃないかな」

「男性として生きているけど、『男性だからこうでしょ』と決めつけられるのは好きじゃありません」

「僕は、かわいいものも甘いものも好きだし、車やスポーツは興味ない」

「男だからとか、女だからとか、そういう考えにとらわれたくないんです」

そして何より、職場では自分が成長することが第一と考えている。

「今は理想だけを追ってたまに発言しちゃう、ただのペーペーだと思われていると思います(笑)」

「これからは、自分の考えを大切にしつつも、意見が合わない人とうまくやっていくことも諦めたくない」

「その上で、社会や職場で変えた方がいいと思うところは変えていきたいです」

「LGBTはきっかけでしかありません」

「いろんな人がいて、いろんな生き方があるってことを知ってもらう、ひとつのきっかけです」

「生き方に○も×もない。それに気づけたら、当事者だけでなく、誰もがみんな、自分はそのままでいい、そのままで生きていけると思える」

「そんな考え方を広めたい。そのための力が早く欲しいです」

10仕事も恋愛も、自分らしく

ホルモン注射をしないとFTMじゃない!?

男性として働くうえで、胸はシャツで押さえつけているが、ホルモン治療などは行っていない。

「胸は、気持ち悪いし、いずれは手術で取ろうと思っています」

「ホルモン治療は・・・・・・。した方がより男性的になれるんだろうけど、今はいいかなって」

「見た目が男性的じゃないと男性じゃないとか、ホルモン注射をしないとFTMじゃないとか、そういう考えも違うんじゃないかなって思うんです」

「当事者にも、男性として就活するのはホルモン治療が終わってから、と言う方が多いけど、そこにこだわらなくてもいいのではと」

「僕は男性として働いていますが、そもそも性別によって生き方が限定されると思いたくない」

「“男性として” というよりも “自分として” 生きているという気持ちが強いんです」

職場では、デイサービスを利用するお客さんから「かわいい方のお兄さん」と呼ばれることもある。

「以前は『かわいい』なんて言われたら、女の子として見られている気がして嫌だったけど、今は小柄で愛嬌があるってことかなって思うと悪くないです(笑)」

いつか自分を好きになってくれる人と

仕事に慣れていけば、自分自身にも少しずつ自信が湧いてくるはず。

恋愛に関しても、ひとつの目標があるという。

「恋人が欲しいというよりも、自分を好きになってくれる人を見つけたい」

「僕、恋愛に関してすごいコンプレックスがあるんですよ。今まで、女の子と友だちとしての関係しか築いてこなかったから」

「自分を理解して好きになってくれる人なんていないのかも、女の子の恋人なんて一生できないかもって不安になったこともあります」

でも、そう決めつけて臆病になっていたのは自分自身だったと気づいた。

「これからはセクシュアリティにこだわらず、自分らしく、仕事にも恋愛にもチャレンジしていきたいと思います」

あとがき
取材中、憤りも率直に表現する逸馬さんだった。最初はハラハラ。でも同時に、発することで起こることも引き受けてきたエピソードでもあると知った。反応を受けとめるたびに、よく考えて、よく伸びる。笑顔は格別だ!■「中学時代、希望がなかった」という逸馬さんの言葉を聞きながら思う。「早くこっちへおいで」と、昔の自分に言える大人が増えたらいい。自分らしい今を歩く人は、誰かの希望のたねになる。(編集部)

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