02 “女の子” が好きな自分
03 柔道に打ち込んで隠した本当の気持ち
04 突き付けられた性別という現実
05 振り回された高校時代の恋愛
==================(後編)========================
06 “柔道” と “家族” を手放す選択
07 失くして気付いた必要だったもの
08 社会で “男” として生きる覚悟
09 親子の絆を取り戻し、家族になる時
10 目標を達成したことで見つかった “目標”
01“強さ” に魅了された柔道の世界
大らかな父と厳格な母
実家は3代続くそば屋。
小さい頃は注文を取ったり料理を運んだり、看板娘としてよくお手伝いをしていた。
幼いながら、楽しんでいた記憶がある。
店主の父ははっちゃけた人で、何に対しても「やってみろ」と背中を押してくれた。
母は昔気質なところがあり、しつけに厳しい人だった。
「テーブルに肘をついていると、母に腕を叩かれましたね。間違っていることを叱ってくれる母親でした」
「父はこっそり見守っている感じ。バランスが取れている両親だと思います」
1個下の弟は店の手伝いをまったくしなかったが、よく一緒に遊び、仲が良かった。
「私も弟も活発で、家で本を読んだりするより、外で遊ぶのが好きでした」
勝つことに憧れて始めた柔道
小学1年生の時、父に地区のスポーツ少年団に連れられていったことをきっかけに、柔道を始めた。
高校時代に柔道部に所属していた父の薦めも大きかったが、選手への憧れもあった。
「初めて道場に連れていかれた時に、道着を着てバンバン投げている人達を見て『かっこいい!』って思ったんです」
小学生の間は毎週2日、放課後に道場に通った。
低学年の頃は左右が覚えられず、手の甲に「右」「左」と書いて練習に出ていた。
「道場の先生がすごく怖い人で、指導する時に竹刀を持ってくるんですよ。でも、柔道は好きでした」
「試合で勝つことがとても楽しかったんです」
高学年に入ってからは、小学生の県大会で優勝したこともあった。
「小学生のうちは階級がなくて、体が小さい子も大きい子も一緒に戦うんです。私は体つきもやや大きかったので、がんがん投げていた記憶がありますね」
「優勝することがうれしかったです」
柔道にしか感じなかった魅力
柔道以外のスポーツにも挑戦した。
母の薦めでスイミングに通い始めた。
しかし、先生に無理やり水に潜らされたことで恐怖心が生まれ、スクールを辞めた。
遊び感覚でサッカーやゴルフにもトライしたが、柔道がもっとも魅力的に感じた。
「やっぱり柔道が好きだったんでしょうね」
「柔道の大会で優勝すると、夕飯が豪華になるんですよ(笑)。両親が出前を取ってくれたり、お寿司屋さんに連れていってくれたり」
「ちっちゃい頃から食べることが好きだったし、贅沢に1日を終えることができてうれしかったです」
02“女の子” が好きな自分
好意を抱く相手は女の子
幼稚園児の頃から、女の子が好きだった。
初恋と呼ぶほどのものではなく、ただ「いいな」「気になるな」という程度。
小学生に上がった頃、友達が「○○君が好き」と言っていた。
他の子の好きな人は、総じて男の子だった。
「私自身は女の子が好きだったので、だんだん『あれ?自分はどうしちまったんだ?』って思うようになりました」
「『自分は男の子』って意識はなかったけど、自分の性別に違和感を抱き始めました」
人と違うことでいじめられてしまうという恐怖心からか、「女の子が好き」という気持ちは周りに言えなかった。
男の子と違う自分への疑問
トイレに入っても、座って用を足さなければいけないことが不自然に感じた。
「父や弟、同級生の男の子が立って用を足す姿を見ていたので、『なんで自分は座らなきゃいけないんだろう?』って」
「小学校低学年の頃、風呂場で何度も立ちションの練習をしました(笑)」
しかし、前には飛んでいかず、真っ直ぐ落ちていくだけだった。
「『おかしいな?なんで男の子達と同じじゃないんだ?』っていうハテナが、ずっと頭の中にありました」
「もしかして自分は男の子?」
年齢が上がっても、好きになる相手は女の子だった。
小学校中学年になった頃、ふと思った。
男の子を好きになるのは必ず女の子で、女の子を好きになるのは必ず男の子。
だから、自分は男の子なのではないか・・・・・・?
「男の子が女の子を好きになることが、社会の決まりごとのように感じたんです」
「私は柔道をやっていたし見た目もボーイッシュだったから、徐々に『自分=男』と感じ始めたように思います」
高学年に入り、体つきが女性らしく変わっていくと、自分自身への嫌悪感も生まれた。
「胸が出てくるのがすごく嫌でした」
03柔道に打ち込んで隠した本当の気持ち
初めて感じた女の子であることの苦痛
小学生の頃は常にパンツスタイルで、スカートははいていなかった。
「弟も着られるように、母が男の子っぽい服を買ってくることが多かったんです」
「だから、中学生になって制服のスカートをはかないといけないのが嫌でした」
「スカート以上に苦痛だったのが、体操着のブルマ・・・・・・」
女性の象徴ともいえる服を身につけるのが嫌だった。
しかし、その感情は家族にも打ち明けず、胸の内に秘めた。
「両親のことが好きだったので、悲しませるようなことは言いたくない、って思いがあったんだと思います」
「女の子である自分を演じていたんです」
柔道への思いを強くした県大会
制服や体操着に対する嫌悪感を発散する術は、柔道だった。
中学校の女子柔道部に入り、ほぼ毎日部活に励み、週2日は地区のスポーツ少年団に顔を出していた。
中学1年で初めて出場した県大会で、衝撃の試合を経験することになる。
「相手と組んだ瞬間、速攻投げられたんですよ。まさに “秒殺”」
「それまでは自分が一番強いと思っていたので、衝撃を受けました」
世界の広さを知った。
「その試合がきっかけで、『もっと柔道に打ち込もう』って思ったんです」
2年まではなかなか実力を発揮できなかったが、3年で県大会優勝を果たす。
「残念ながら、3年で初めて出場した全国大会は2回戦で負けました」
「上には上がいることを実感しましたね」
気持ちを言葉にできなかった初恋
柔道に専念する一方で、密かに恋心を抱いていた。
相手は陸上部の同級生。身長が高く、スラッとした女の子だった。
「小学生までは『気になる』程度だったけど、この時は『これが好きって気持ちなんだ!』って感じでした」
「その子とずっと一緒にいたかったんです」
走り高跳びの県内チャンピオンだった彼女とは、表彰式などに一緒に赴く機会が多く、自然と仲良くなっていった。
彼女の部活が終わるまで待ち、偶然を装って「今終わったの?一緒に帰ろう」と誘った。
「家の方向が真逆なんですけど、送っていってましたね」
「会話しながら彼女の家まで行って、『あ、ついてきちゃった』って誤魔化したり(笑)」
しかし、思いは告げなかった。
「相手は私を女の子としてしか見ていなかったと思います」
「告白して関係性が崩れるのは避けたかったし、友達として一緒にいられるだけでよかった」
「中学を卒業するまで、2年半くらい好きでした」
切ない片思いだった。
04突き付けられた性別という現実
強くなるために選んだ高校
中学時代の柔道での功績が評価され、スポーツ推薦で県内の柔道強豪校に進学することができた。
「いざ柔道部に入部したら、中1の時に秒殺された相手が3年生の先輩だったんです」
「『うぉ、すごいところに入ってしまった』って思いました(笑)」
「柔道が強くなりたい」という一心だった。
しかし、思いがけない壁がそびえ立つこととなる。
「共学だったので、柔道部では男女一緒に練習するんですけど、高校生になると女の子と男の子で差が付いてきたんです」
受け止めきれなかった男の子との差
高校生にもなると男の子も体つきが男らしくなり、スピードやパワーが女の子と比べ物にならなくなっていった。
相手が同級生であっても、力の差は露骨に出てしまうのだ。
中学までは気にならなかった男女の差が、高校で明確になってしまった。
「男の子と組んだ時にボロカスにやられるので、常に『くそっ』って思っていました」
「なんで自分は彼らみたいに力がつかないんだろうって、すごく悔しかったのを覚えています」
夏場になると、柔道部の男子は上半身裸でトレーニングをしていた。
そんなことすらも羨ましかった。
「男の子のように上を脱いでトレーニングしたいって気持ちは、高校生くらいから持ち始めました」
「練習で負けると悔しかったし、男の子のグループに入りたい気持ちも強かった」
「それなのに試合は女子として出るので、気持ちの整理がうまくつかなかったです」
周りから、女の子としてしか見られていないことの悔しさもあった。
「ネガティブな感情が一気に膨らんだ時期だと思います」
悔しさを解消する方法は、柔道の練習しかなかった。
「今思うと最低なんですけど、女の子相手の練習でガンガン攻めて、発散していました」
「モヤモヤしたけど、思い悩んで塞ぎ込むことはなかったです」
05振り回された高校時代の恋愛
初めて実った恋心
男子との差を見せつけられた高校時代だったが、うれしいこともあった。
初めて彼女ができたのだ。
柔道部の1学年上の先輩。
これまでずっと内に秘めていた恋心を高校生で伝えられたのは、先輩も好意を示してくれたから。
「付き合う前から先輩のアピールがすごかったんです」
「相手からの “好き” を確認できたから、告白できたんだと思います」
彼女が自分のことを男と女、どちらの性別として好きだったのかはわからない。
それでも、一緒に帰ったり互いの家に泊まったりする日々が楽しかった。
「ただ、“初めての彼女” は大変だった記憶が強いんです(苦笑)」
うまくいかない部活と恋愛の両立
彼女は束縛が強かった。
「部活や試合で一緒にいられる時、彼女はずっとくっついて傍を離れなくて」
同級生に部活の連絡事項を伝えようとしただけで、間に割って入られた。
練習中もずっと「一緒にやろう」と離れてくれず、寝技をしていると耳に息を吹きかけられた。
「今はネタとして話せますけど、その当時は『部活には柔道の練習に行ってるんだから、邪魔するのはやめて』って何度も伝えていました」
「でも、彼女は『いいじゃん』ってくっついたまま」
「柔道に集中したかったから、結構キツかったですね(苦笑)」
初めての彼女とは、高校1年から3年の途中まで付き合った。
「相手が大学に進学して遠距離になってしまったので、関係も終わってしまいました」
「レズビアン」と呼ばれること
付き合っていた当時、周囲には秘密にしていた。
しかし、彼女のあからさまな束縛によってバレていた。
「傍から見ていても、おかしい関係だっていうことはわかったと思います」
「バスケ部の男の子から『お~い、レズ』って言われたこともありました」
「弟がバスケ部に所属していたんですけど、『お前の姉ちゃん、レズだろ』とか言われていたみたいで、悪い思いをさせてしまったなって」
心ない言葉に苦しめられたが、決して否定はしなかった。
恥ずかしさや怒りよりも、疑問の気持ちの方が大きかったのだ。
「自分の頭はもう男性思考だったので、『レズビアンではない』って思っていたんです」
「『男性が女性と付き合って何が悪い』って思うけど、周りから見たらレズビアンだし、葛藤がありました」
「この頃、 “性同一性障害” という言葉を『3年B組金八先生』で知りました」
練習中の彼女とのやり取りを見ていた先生にも呼び出され、「どういう関係なんだ?」と聞かれた。
「その時は『ただの先輩です』って説明しただけで済みました」
「でも、先生にも気付かれるくらい露骨だったんです」
一度目の母へのカミングアウト
3年生の時に、新しい彼女と付き合い始めた。
家に泊まりに行ったりはしたが、友達らしく振る舞っていたはずだった。
でも。
「母に呼び出されて、『仲良すぎじゃない?どういう関係なの?』って聞かれました」
「その流れで『実は付き合ってる』って打ち明けたんです」
「母には『ダメだよ、それは絶対に許さない』と否定されました」
予想していなかった母の反応にショックを受けた。
高校時代の恋愛は、苦い思い出だけが残ってしまった。
<<<後編 2017/07/17/Mon>>>
INDEX
06 “柔道” と “家族” を手放す選択
07 失くして気付いた必要だったもの
08 社会で “男” として生きる覚悟
09 親子の絆を取り戻し、家族になる時
10 目標を達成したことで見つかった “目標”