INTERVIEW
等身大の「私」を、まだ出会っていない人たちへ届けませんか?
サイト登場者(エルジービーター)募集

たった1人との出会いで、Xジェンダーやアセクシュアルってカテゴリーを気にしなくていいかなって思えた。【前編】

「お気に入りの服で来ました!」と、太陽のようにキラキラした笑顔で待ち合わせ場所に現れた和泉直さん。凛とした佇まいと無邪気な振る舞い、人を魅了するギャップを持つ和泉さんだが、心から笑えるようになったのはつい最近のことだった。自らを男性と感じつつも性別適合手術は考えていないXジェンダー、恋愛感情を抱かないアセクシュアルとして生きてきた和泉さんが見た景色を、少しだけ覗かせてもらった。

2017/10/12/Thu
Photo : Taku Katayama Text : Ryosuke Aritake
和泉 直 / Nao Izumi

1988年、北海道生まれ。女性として生まれたが、幼い頃から自らを女性と思ったことがなく、大学4年の時に「Xジェンダー」「アセクシュアル」という言葉と出会う。大学卒業後は声優を目指し、専門学校に進学。後に東京の声優事務所に所属するが、2年弱で退所。現在はショッピングセンターのインフォメーションを務める一方で、ライター活動も行う。

USERS LOVED LOVE IT! 10
INDEX
01 ありのままの自分と隠していた過去
02 馴染めなかった女の子の遊び
03 “普通” でいたかった学生時代
04 性別を気にしないでいられた家庭
05 男として接してほしかった
==================(後編)========================
06 “Xジェンダー” と “アセクシュアル”
07 真意が伝わらない理由と伝える術
08 社会に出て強く感じた “性別違和”●
09 性別を気にしなくなった理由
10 性別を超えた関係を築ける相手

01ありのままの自分と隠していた過去

サービス精神旺盛な性格

「今は、都内のショッピングセンターの受付のお姉さんをやっています」

インフォメーションカウンターに入り、館内や街の案内を行う仕事。

もともと困っている人を助けることが好きだった。

「地元の北海道では、ガイドブックを広げて迷っている観光客の方をよく見かけたんです」

「いつも自分から『どこか探してますか?』って話しかけて、案内していました(笑)」

自主的なボランティア活動が、仕事になったというわけだ。

「仕事は超楽しいです!」

「道で迷っている人に話しかけても、『仕事がインフォメーションなので、つい』って言い訳できるようになりました(笑)」

本当は好きなかわいいもの

4月に始めた今の仕事も研修期間を終え、7月から制服が着られるようになった。

バスガイドのような小さな帽子とAラインの膝丈スカート。

「制服を着るたびにワクワクしています」

「フリルとかひらひらしたスカートとか、かわいいものが好きなんですよね」

「ぬいぐるみも好きだし、女の子が好きっていわれるものは全部好きです」

そう素直に言えるようになったのは、ここ数年のこと。

「私は自分を女性として認識していない、と言っても周りには伝わらないんですよね」

「女じゃない」と言うたびに、周囲から「女子の制服は嫌じゃないんでしょ」「髪長いじゃん」と言われてきた。

女性ではないことをわかってもらうために、幼稚園から大学2年までスカートは、ほとんどはかなかった。

「女性らしい服は好きだったけど、自分は女子じゃないから着ちゃダメだ、って思っていたから、学生時代はメンズの服を着ることが多かったです」

「たまにスカートをはいて、『色気づいた格好して』って茶々を入れられるが嫌でした」

「恋でもしてるの?」の質問も困った。

着たい服が着られる喜び

外見は女性だが男性に見られたい、と感じている自分をわかってくれる人を求めた。

男性っぽい服を着ている時は、気持ちが落ち着いた。

自分らしくいられた。

髪も短くした。

「かなり男性に寄せていましたね。わかってもらうためという気持ちもあったけど、それだけではなかったのかもしれませんね」

「今は受け止めてくれる人も現れて、格好を気にしなくなりましたね」

「ファッションやメイクで自分を飾ることは好きだから、性別に関係なく自分に似合う格好を楽しんでいます」

周りに理解者が増えてからは、部屋に置いているぬいぐるみの数が一気に増えた。

自分に正直になれるまでには、性別に対する長い長い葛藤の日々があった。

02馴染めなかった女の子の遊び

「自分には同性がいない」

小学校中学年に入ったあたりから、「自分には同性がいない」という感覚を抱いていた。

女子は同性だと感じないし、どうやら男子も同性ではないらしい。

「誰かの同性になるためにはどうしたらいいんだろうって、すごく考えていました」

低学年の頃は、男女関係なく遊ぶことが多かった。

男子とも自由帳に迷路を書いたり、オリジナルルールのRPGゲームを作ったり。

のびのび過ごせてとても楽しかった。

しかし、小学3年生の頃から女子たちの遊びや流行に合わせるようになった。

周囲の女子たちから「なんで男の子と遊んでるの?」と好奇の目で見られたから。

「女友だちに変なことを言われないためには、女の子がやっている遊びをしなきゃいけないなって思ったんです」

したくなかったシール交換

当時、女子の間ではシール交換とモーニング娘。のカード交換がブームだった。

どちらも興味がなかった。

「モーニング娘。に憧れたことはなかったし、シールもお気に入りのものを人にあげる意味がわからなかったんです」

「そもそもシールを持っていなかったから、交換のために買わなきゃいけないのも嫌でした」

それでも、女子の仲間に入るためにはシールを買うしかなかった。

母に相談すると「シール、買いに行こうか」と言ってくれた。

「すごく申し訳なかったです」

「せっかくお母さんに買ってもらったのに、なんで人にあげなきゃいけないんだろう、って複雑でした」

女子の遊び方に合わせていると、体に不具合が生じ始めた。

ストレスが原因で吐き気をもよおし、倒れることもあった。

一般的な女子と自分は違うのではないか、とぼんやりと感じていた。

女子の中にいなければならないことは、とても苦痛だった。

惹かれた女性キャラクター

アニメや漫画は好きだったが、どちらかといえば少年漫画を好んでいた。

兄がいたため、少年漫画は家で読めたからかもしれない。

女子向けのアニメでも、共感に近い感情を抱いたキャラクターがいた。

『美少女戦士セーラームーン』に登場するセーラージュピター。

「男っぽく振る舞っているけど、実はかわいいところがあるキャラクターに惹かれていました」

「外見と中身のギャップが好きだったし、共感する部分もあったと思います」

03“普通” でいたかった学生時代

男女で分かれることへの違和感

小学1年生の頃からずっと、周囲から「変だ」と言われていた。

今にして思えば、当時から「自分を女子だと思っていない」と公言していたからかもしれない。

同級生からは「でも男じゃないじゃん」と言われていた。

しかし、担任の先生がみんなの輪にうまく入れてくれたので、気にせずに過ごせた。

小学3年でクラス替えしてからは男女が分かれるようになり、女子に合わせようとした。

「低学年の頃は天真爛漫だったんですけど、小3の頃から悩み始めましたね」

「何のために自分は生きているんだろう、本当の自分はどこにいるんだろうって」

その根本にあったものは、女子と男子で分かれなければいけないことに対する違和感。

体の違いはわかっても、それ以外に何が違うのかがわからなかった。

「変だ」から始まった嫌がらせ

女子に馴染むことができず、「変わっている」とも言われ続けた。

「変だ」という言葉だけだったものが、徐々に嫌がらせへと発展していった。

シカトや仲間外れ、時には暴力を振るわれることもあった。

中学に上がっても嫌がらせは続いた。

一度ついてしまった「変な奴」というレッテルは、そう簡単に剥がれなかった。

いつからか、自分から人に関わらないでいようと考えるようになっていた。

「中学3年まではずっと孤独でした。拠り所はなかったです」

小学校でも中学校でも、ことあるごとに担任の教師に相談していた。

しかし、担任も積極的には動いてくれず、いじめがなくなることはなかった。

シカトや意地悪をしてくるのは、主に女子だった。

「幼なじみが女子から人気だったんですけど、その子と話してるだけで、嫌がらせを受けました」

「当時の嫌だった記憶は忘れるようにしているので、今はほとんど覚えていないんです」

「それでも、死にたいと思っていた記憶があるから、ひどいことをされていたんだろうな・・・・・・」

休まなかったのは母がいたから

しかし、実際に死を選ぶことはしなかった。

いざ自分の葬式を開いても、来てくれる友だちはいないと思ったから。

その光景を母に見せたくなかった。

だから、死ねなかった。

「友だちができるまでは死ねない、って思っていました」

「お母さんは絶対的にやさしく受け止めてくれる存在だったから、悲しませたくなかったんです」

「悲しませちゃうから、お母さんには相談もしていなかったですね」

本当は学校を休みたかった。

しかし、一度休んでしまったら復帰できない気がした。

「『変だ』と言われていたせいか、普通じゃないって思われることが、とにかく嫌だったんです」

「不登校になってしまったら、それこそ普通じゃなくなるって思ったから、学校には行っていました」

04性別を気にしないでいられた家庭

我慢していた母

小さな心に大きな悩みを抱えながら、一生懸命学校に通っていた。

支えは、家族の存在だったのかもしれない。

しかし、家も居心地がいいとは言えなかった。

「あの頃は、お母さんに対して厳しいおばあちゃんが嫌だと思ったし、仕事で忙しかったお父さんとはあまり関わっていなかったです」

「家の中では、お母さんが我慢しているって印象しかなくて・・・・・・」

「お母さんはお母さんで辛い思いをしているから、私の相談で困らせられないって気持ちもありました」

やさしかった兄と寡黙な父

もう1人、支えとなってくれていたのが3歳離れている兄だった。

知的でやさしい兄は、幼い頃からよく一緒に遊んでくれた。

「小さい頃のビデオを見ると、赤ちゃんの私にお兄ちゃんが『なおちゃーん』ってずっと話しかけてるんです」

「小学生になっても、家の中で謎解きゲームをして遊んでいましたね」

兄が家の中のさまざまな場所に謎を隠し、楽しませてくれた。

兄がいてくれたおかげで、家ではあまり性別を気にせず、楽しい時間が過ごせた。

父とは、話した記憶がほとんどない。

「多分、娘との接し方がわからなかったんだと思います(苦笑)」

「大学に入って、長かった髪をばっさり短く切ってから、話しかけてくれるようになりましたね」

「いらない服ない?」と聞けば、「これ着るか」と大量に服を用意してくれた。

野球関連の仕事をした時には、「今日、日本ハムは勝ったな」と野球の話を振ってくれた。

父なりの子どもに対する愛情だったのだと思う。

性別で判断しない家族の存在

家にいる時は、性別を意識することはなかった。

母はあまり化粧をしない人だったため、家に女性がいる感覚はなかった。

「自分は女子じゃない」と話すと、母は「ナオはナオだから、何も変わらないよ」と言ってくれた。

「両親から女性らしさを求められることは、一切なかったです」

「だから、私服でジーパンをはいても、何か言われることはなかったですね」

05男として接してほしかった

涙するほどうれしかった学ラン

小中学生の頃は、「みんなが自分のことを男だと思ってくれれば、すべてうまくいくのに」と思っていた。

男だったら、女子から「男の子と遊ぶなんて変だ」と言われなくなる。

男になりたかったというよりは、男として接してほしかった。

中学3年の文化祭。

所属していた生徒会では、男女の制服を入れ替えて着る企画が進行していた。

「ずっと着たいって言えなかった制服が着れることになって、すっごくうれしかったです」

「女子の制服が嫌ってことではなかったんですけど、学ランを着られることは特別な意味がありました」

「着た時に、これなら毎日着て通う! って思ったし、返したくなかったですもん」

「うれしすぎて、誰にも見られないようにこっそり泣きました」

学ランに合わせて、髪も短く切った。

文化祭中に職員室に行くと、後ろから歩いてきた教師に「男かと思ったよ」と言われた。

男子に見られたことに喜びを感じ、夢のような1日となった。

学ラン姿になれた文化祭の時だけは、いつも距離を置いている同級生たちも一緒に写真を撮ってくれた。

「男として生活している方が自然だなって思いましたね」

「細かいことが気にならないし、友だちもできるって希望を持ちました」

“普通” に過ごせた高校時代

高校に上がると、自分を取り巻く環境が一変した。

中学校が一緒だった同級生が減り、初めて友だちの輪の中に入ることができた。

「最初は、普通に話しかけてくれることにびっくりしました」

「それまで自分は、クラスメートから話しかけられなくて当たり前だったから、人として接してくれることが驚きでした」

小中学生の頃は、掃除の時に机を下げることさえ、人にバレないようにこっそりやっていた。

自分が机に触ったことで、「汚い」と言われたらと思うと怖かったから。

目立つことも避けたかったから。

高校でも同じようにこっそり机を下げた。

それを見ていたクラスメートから、「机下げてくれたんだ。ありがとう」と言われた。

想像していたものとは違うリアクションだった。

昼休みには「一緒にお昼食べよう」と誘われた。

「1人で食べるつもりだったから、誘ってくれることがうれしかったです」

「机をつけて友だちと一緒にお弁当を食べるシチュエーションって、すごく憧れていました」

女性であることを痛感したアルバイト

高校で友だちはできたが、それでも「男として接してほしい」と思うことは変わらなかった。

20歳の時、「お前は女だ」と人から強く言われることになる。

アルバイトで、キャラクターショーのスーツアクターを始めた。

「戦隊もののショーで、私は『ブルーがやりたい』ってそれとなく言ったんです」

しかし、男性の先輩から「女の子なのにブルーをやりたいという感覚は変だ」と言われた。

任された役は、女性キャラクターのピンク。

「男性は女性役をやっている人もいるのに、私は女性役しかできなくて残念でした」


<<<後編 2017/10/14/Sat>>>
INDEX

06 “Xジェンダー” と “アセクシュアル”
07 真意が伝わらない理由と伝える術
08 社会に出て強く感じた “性別違和”
09 性別を気にしなくなった理由
10 性別を超えた関係を築ける相手

関連記事

array(2) { [0]=> int(31) [1]=> int(42) }