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答えは自分の内側にしかない【前編】

清潔感のある装いで待ち合わせ場所へ現れた藤原直さん。快活でサービス精神旺盛。明るく将来の展望を語る姿からは、つい最近まで悩みを払拭できなかったということは微塵も感じられない。しかし、過去を紐解いていくうちに、感情を抑えきれずに思わず涙する場面も。性自認はもちろん、長年恋愛や仕事についても悩み続けた結果、ようやくFTMとしての自分を受け入れ、前向きに歩き出すに至った半生を語ってもらった。

2016/11/12/Sat
Photo : Taku Katayama  Text : Mana Kono
藤原 直 / Nao Fujiwara

1978年、大阪府生まれ。3人兄妹の長女として生まれるが、幼い頃から自身の性に疑問を抱きながら育つ。ワーキングホリデーでニュージーランドへの渡航を経験し、27歳の時に当時パートナーだった女性に初のカミングアウト。帰国後にGIDと診断され、2011年からホルモン治療をスタート。翌年、戸籍変更に至る。保育士や保険会社でのファイナンシャルプランナーの仕事を経て、2016年10月より独立。現在は、インターネットラジオ番組「ゆめのたねラジオ」でパーソナリティーを務めるほか、LGBT向けのライフビジョンコーチングも行うなど、フリーランスとして幅広く活動している。

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INDEX
01 幼い頃から抱いていた違和感
02 言いたいことが言えなかった
03 真面目ないい子を演じよう
04 恋愛にはまだまだ奥手
05 男と女、どっちなの?
==================(後編)========================
06 心機一転、ニュージーランドへ
07 恋人と家族へのカミングアウト
08 父からの意外なメッセージ
09 自分は自分でいいんだ
10 ようやく掴んだ明るい未来

01幼い頃から抱いていた違和感

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初恋は仲良しの女の子

実家は大阪。3人兄妹の真ん中、長女として生まれた。

幼い頃は、2つ年上でおとなしい性格の兄よりも男の子らしい、わんぱくな子どもだった。

かわいらしいピンク色の洋服やおままごと遊びは、なんだか苦手。

どうしてだろうか、そういったものにはモヤモヤとした感情を抱いてしまう。

「自分では男の子の着ているものや遊びの方がしっくりくるのに、なんでこっちにしなきゃいけないんだろう?と思っていたんです。でも、まだそれほど深く考えることはありませんでした」

幼稚園時代には、兄の真似をして立ちションにチャレンジしたこともある。だけど、何度やってもうまくいかなかった。

初恋は、幼稚園時代。

仲良しの女の子に対して、特別な感情が芽生えはじめる。

「初恋といっても、まだ当時は友達として好きなのか、異性として好きなのか、違いがわかりませんでした。それでも、この子に対する “好き” は、ほかの子に感じているものとは違うなというのはありましたね」

幼すぎて自覚できていなかった恋愛感情。

大好きな彼女に想いを伝えることもなかった。

かわいい服を着たくない

苦い思い出として残っているのは、入学式でスカートを履かせられたこと。

さらに、母がはりきって用意していたのは、ヒラヒラのレースがついた靴下だった。

「あまりにも嫌すぎて、入学式前日に靴下のレースを切ってしまったんです(笑)。切ってしまえば、これを履いていかなくてすむだろうと思って」

もちろん、翌日母親にしこたま怒られることに。

その上、別のヒラヒラ靴下を出され、結局それを履いて入学式へ向かった。赤いランドセルを背負うのも、とても嫌だった。

当時の髪型は、肩まであるストレートのおかっぱ。

本当はショートカットにしたかったのだけれど・・・・・・。

「自分の好きな服装や髪型を素直に言っていいものか、なんだか変に気にしてしまうところがありました」

かわいいもの好きの母からは、「スカートやピンクの洋服を着てほしい」と言われていた。

だから、本当はズボンを履きたかったけれど、百歩譲ってスカートと中間のキュロットで妥協することに。

「ここまではいいけどここから先は嫌だな、というような境界は、自分で感じていたと思います」

02言いたいことが言えなかった

自分の気持ちはバレちゃいけない

小学校3年生の時、家族で奈良に引っ越すことになる。

自分は女の子が好きなんだという悩みが大きくなっていったのも、ちょうどその頃だ。

同じクラスの女子たちは、恋愛トークに花を咲かせることが多くなってきた。だけど、「○○くんカッコイイよね」「クラスでは誰が好き?」という会話に、自分はうまく入っていけない。

「男性はまったく恋愛対象ではないなということに、気づきはじめていました」

当時流行っていたアイドルグループ「光GENJI」も、どこがかっこいいのか全然わからない。それでも、どうにかしてまわりに合わせなくちゃ。変に思われてしまわないように。

「『クラスで誰が好き?』と聞かれたら、とりあえずスポーツが得意でモテそうな男の子の名前を言って、光GENJIだったら諸星くんが好きと言うことにしていて。自分の中で、そういう質問に対する答えを用意していたんです」

「本当のところは好きな女の子がいたんですけど、それを言ってはいけない、バレちゃダメだという空気が自分の中にありました」

女友達は多かったけれど、みんなが恋愛トークになると、自分はこっそりどこかへ逃げてしまう・・・・・・。

そんな行動を繰り返して、どうにか場をしのぐ日々。

変化する体への抵抗

小学校高学年になると、体の違和感も大きくなってくる。

少しずつ膨らんでくる胸が嫌で仕方がない。下着は極力スポーツブラを選んだ。

「母は、そこでもまたヒラヒラの下着を買ってきたんですけどね。なんでこんなのを買ってくるんだ! っていう(笑)」

そろそろ洋服も自分で選ばせてほしい。

だけど結局、高校生になるまで、世話焼きな母が買ってきた洋服を着ることとなった。

「男っぽい服がほしいと思っていても、それを言うには勇気が必要で。母にはなかなか言うことができませんでした」

03真面目ないい子を演じよう

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兄の登校拒否

中学生の頃、2つ上の兄が登校拒否になってしまう。

それまで父は、子育ては母に任せっきりで、あまり口出しをしなかった。それが、母に対して「お前の育て方が悪かったんじゃないか」と愚痴を言うようになったのだ。

どうしてお父さんはお兄ちゃんのことを何もしなくて、お母さんばかりが忙しそうにしているんだろう?

父に対する不信感が、徐々に募っていく。

「そういう姿を見ていたので、成人してからも父との関係があまり良くなくて。今となっては、父も単身赴任をしていたり、仕事で忙しい時期だったというのもわかるんですけどね」

兄のひきこもりは、その後10年間続くこととなる。

「兄がそんな状態だったから、自分は親に迷惑をかけてはいけないと考える、大人びた子どもになっていきました」

心と体に違和感があり、落ち込むことがなかったわけではない。それでも、自分はしっかりしなくちゃ。

母に迷惑をかけないように。

男の子を見るのがつらい

中学は地元の共学で、公立にしてはめずらしく私服校だった。

いつも兄の服を借りていたから、見た目は完全にボーイッシュな女の子。

男ものの服を着て、自分の好きな格好をしている。だけど、心の中のモヤモヤはさらに大きくなっていくばかり。

「学校の男子とはよく遊んでいました。でも、その頃から声変わりや体格の変化が出てきたので、それを見るのがつらくなってきたんです」

体が大きくなっていく男子の姿を見ると、うらやましい気持ちで胸がはちきれそうになる。

「自分の気になる女の子が『好き』って言ってるのも、やっぱりそういう男の子なんです。なんで自分は男の子じゃないんだろうって、ずっと思ってました」

中高時代は、四六時中、自分の性別のことを考え続けていた。

私はどうしてこんな体に生まれてしまったんだろう・・・・・・。

「当時はLGBTの知識もほとんどなかったから、自分が何者か得体が知れなくて。すごく混乱してました。なんで生まれてきてしまったんだろうって、自分を責めることもたくさんありました。もう、すごくつらかったですね」

「友達と楽しいことをしていても、どこかで『これは本当の自分じゃない』と感じていました。自分にもまわりにも嘘をついているのがしんどかった。だから、自分の感情は極力抑制していました」

自分がほかの女の子と違うということが、バレてはいけない。

周囲に対しても、無難な良い子を演じるようになっていった。

04恋愛にはまだまだ奥手

保育士になりたい

男子の姿を見るのがつらかったから、高校は女子校を選んだ。

「共学だと、好きな女の子ができても、自分は恋愛対象として男子と同じ舞台にも立てない。それもつらかったんです」

ただし、ネガティブな理由だけではない。将来の夢もできた。

「その頃から、自分は子どもを生まないという確信があったんです。でも、子どもは好きだったので、子どもと関わる保育士という職業に興味を持つようになりました」

そうして、専門の短大まで進学しやすい高校を選んだのだ。

学校指定の制服は、ブレザーにスカート。

もちろんそれにも抵抗があったが、スカートの下にジャージを履くことで我慢していた。

友達以上恋人未満

高校時代はサッカー部で、キャプテンを務めていたこともある。

自慢じゃないが、ほかの女子生徒たちから黄色い歓声をあげられることも少なくはなかった。

「そんな時には、ニヤッとしていました(笑)」

だけど、自分に想いを寄せる彼女たちとは、決して距離を縮めてはいけない。そこから進展しようと考えるなんて、もってのほか!

「自分の中でのブレーキが、今考えるとすごく大きかったなと思います。女性は男性と付き合うものであって、女性同士はいくら好きでも付き合うものではない。私が好きなことで、相手に迷惑がかかってしまうんじゃないかとも思いましたし」

「すごくねじ曲がってましたね。自分を殺してました」

そうやって、どんな時でもまわりの空気を読むことが当たり前になっていく。

女子高生といえば、恋に忙しい時期。

まわりには他校の男子と付き合っている友達もいたけれど、自分はいつも「好きな人はいない」と言い張っていた。

「告白したら付き合えそうな雰囲気の女友達も何人かいました。けど、自己肯定感が低くて、『自分なんかに好かれちゃったら相手がかわいそう』っ思ってしまって。それで、逆に自分から離れていくような行動を取ってしまうこともありました」

自分の好意を相手に伝えることで、嫌われてしまうのが怖かった。

拒否されてしまうのが怖かった。

「友達以上恋人未満の仲だったのが、告白することでその関係が壊れてしまうんじゃないかって不安で。自分の気持ちを伝えたいというよりも、傷つきたくない気持ちの方が大きかったんだと思います」

05男と女、どっちなの?

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男性を好きになってみよう

短大に進学してからは、どうにかして男性を好きになってみようと努力した。

これまでとは打って変わってスカートを履いて、女の子らしい服装に身を包んだ。大人数を集めたコンパの幹事をしたことだってある。

「グイグイがんばってました。グイグイがんばるんですけど・・・・・・、無理。無理でした。あんだけやっても駄目だったらしょうがないっていうぐらい、がんばってましたね」

どれだけ努力してみても、男性と付き合うことには抵抗を覚えてしまう。

「それらしい流れになっても、付き合うことはありませんでした。『なんでこの人に時間使わないといけないんだろう?』って思ってしまって・・・・・・。相手にはすごく失礼ですよね」

そして、好きになるのはやっぱり女の子ばかり。

同じグループにいる親しい友人に恋してしまうのが、毎度のパターンだった。

「好きなタイプは、天然っぽくて雰囲気が優しい子。綺麗系よりもかわいい系が好きでしたね」

それなのに、好きな子が出来てもなかなか一歩を踏み出す勇気が出ない。

保育士として就職

短大を卒業して、夢だった保育士としての仕事をスタートさせる。

職場はとても働きやすい環境だった。

「自分の働きやすさを考えた時に、女子の制服がなくて、化粧を極力しなくていい職種が良かったんです。保育士は、基本的にはジャージなどのラフな格好で、すっぴんでも大丈夫でした」

仕事も充実していた。キャンプの企画をしたり、運動会の指導をしたり。職員同士でチームを組んで仕事をする時には、率先してまとめ役を引き受ける。

同僚からは、「元気な先生」と言われていた。

「私だけ、ほかの先生と遊び方が違うって言われて。ほかの女の先生はおままごととか、見守り型の遊びが多いんですけど、私は肩車をしたりして元気に一緒に遊んでいたので、『藤原先生ダイナミックね!』と言われることもありました(笑)」

「自分が子どもを生まないだろうと思っていたこともあって、子どもと関われる機会を楽しもうと思っていました。子どもはすごくかわいかったです」

家庭の問題で荒れているような園児もいたけれど、そんな子が徐々に変わっていく姿を見つめるのも、とてもうれしいものだった。

基本的に女性が多い職場ではあるが、男性の保育士も増えていた時期だったので、肩身がせまい思いをすることもほとんどなかった。

それでも、やっぱり職場でのカミングアウトはなかなか難しい。

「職場の同僚、園児、その親御さんで合計500人くらいの人たちに『私は男になります』とは、よう言わんわって思って」

しかし、子どもは素直な生きものだ。

「先生って、男と女どっちなの?」と純真なまなざしで聞かれることも少なくはなかった。

 

<<<後編 2016/11/14/Mon>>>
INDEX

06 心機一転、ニュージーランドへ
07 恋人と家族へのカミングアウト
08 父からの意外なメッセージ
09 自分は自分でいいんだ
10 ようやく掴んだ明るい未来

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