INTERVIEW
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将来のパートナーが男性か女性か、今は未だ限定したくない【前編】

クラスの女の子たちが男の子や芸能人の話をしていても、まったく興味が持てず、話に乗っていくことができなかった、という小林千賀子さん。他人から嫌われるのが怖いと、内向的に生きてきた小林さんが「自分の言葉でセクシュアリティを発信したい」と顔を上げてくれた。気持ちを変えたきっかけは、自分がXジェンダーだと気づいたことだった。

2018/08/30/Thu
Photo : Taku Katayama Text : Shintaro Makino
小林 千賀子 / Chikako Kobayashi

1994年、埼玉県生まれ。周囲から「もっと女の子らしくしたら」「あなたも結婚を考えたら」と言われるたびに違和感を感じてきた。将来は理解し合えるパートナーと一緒に暮らしたいが、相手が男性か女性か、今はまだ決めたくないと言う。それを決めることは、世界を狭めることだから。

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INDEX
01 大切にしていたポケモンの青い筆箱
02 人の群れに入るのが苦手だった
03 自分はバイセクシュアルかもしれない
04 初めてのおつき合いは不発に終わる
05 奮起して大学の編入試験にチャレンジ
==================(後編)========================
06 ファッションに現れる自分の性の居場所
07 今も打ち込める仕事を模索中
08 Xジェンダー。それが一番しっくりくるワード
09 行動力を発揮して新宿二丁目に
10 前向きなカムアウト。そして、その先に待つもの

01大切にしていたポケモンの青い筆箱

お姉さんとは正反対の性格

お父さん、お母さん、2歳年上のお姉さんの4人家族。

お父さんは小学校の教諭、お母さんは薬剤師。

「お母さんは口うるさいところはありますが、真面目でしっかりした人です」

「お父さんは心配性で、やさしいタイプ。私が進路で悩んだときも、応援してくれました」

「姉とはぬいぐるみやゲームでたまに遊んだりしていました。私とは、趣味や性格が真逆でしたね」

お姉さんとはあまり仲がいいほうではなかった。

「小さい頃は同じ子供部屋で育ちました。お姉ちゃんは、私に興味がないのか、あまり話しかけてこない人で。いつも距離があった感じですね」

「今も同じ家に住んでいますが、お互いに干渉しない関係です。話は普通にしますけど、二人で出かけたことは一度もありません(苦笑)」

見た目も性格も違う。

「お姉ちゃんは、ひらひらしたかわいい服が好きで、私とはまったく逆。見た目もかわいい感じで、K-POPが好きだったりします」

「性格や行動はお父さんに似ているのかな。お父さんも昔は親に迷惑をかけたみたいで(笑)。私はどちらかというとお母さん似ですね」

子供のころから赤よりも青が好きだった

埼玉で生まれ、小学1年生まで暮らした。

「埼玉では、お父さん側のおばあちゃんと一緒に住んでいました」

「この頃からあまり女の子の遊びとか興味がなくて、ポケモンとかウルトラマンとか、むしろ男の子が好むようなものに興味がありましたね」

小学校に入学してから、ポケモンの青い筆箱を大切にしていた。

「それを男子に『女のくせに青い筆箱かよ! お前、オトコオンナか!』ってからかわれたんです」

「女子なのに青が好きなのは恥ずかしい。とても傷つきましたね。私って男っぽいのかな、と初めて感じました」

でも、その筆箱はずっと使い続けた。

家族でディズニーランドに行ったときにも、同じような出来事があった。

「ディズニーランドは入り口で風船を渡してくれるんですけど、お母さんが勝手に赤い風船を取って『はい、千賀はこれね』って私にくれたんです」

「本当は青が欲しかったんですけど。でも、それも言えなくて、その日はずっと赤を持っていました」

スカートも嫌いだったが、頑張ってはいて、からかわれないようにした。
初めて気になる女の子に出会ったのも小学校1年生のときだった。

「小柄でかわいいタイプの女の子で、彼女を守ってあげたいという変な気持ちになったんです」

「幼かったから、あの気持ちが何だったのか分かりませんでしたけど、後から考えると、あの子のことが好きだったんだろうな、って思います」

小1で感じた、言葉で説明のできない不思議な気持ち。

「小動物を愛しいと思うのに似た感情だったのかもしれませんね」

02人の群れに入るのが苦手だった

アニメで出会ったテニスに打ち込む

その後、家族で東京に引っ越した。

「東京に来たら、青い筆箱を茶化されることもなかったし、男の子みたいな服を着ても何も言われませんでした」

「そのときに、東京ってすごいな、ここでは好きな格好をしていいんだって感激しました(笑)」

学校では人の群れに属さないタイプ。

「こっちのグループに顔を出して、あっちのグループとつき合って、とふらふらしている感じで。わいわい騒いでいる中に入るのが苦手でしたね」

集団に属するのが好きじゃない。

「それは今でも変わりませんね。リーダーシップを取りたいと思ったこともありませんでした」

小学校高学年になって「テニスの王子様」というアニメに出会う。

「自分でもテニスをしたくなって、5年生のときにテニススクールに通い始めました。中学校ではテニス部に入って、6年間、テニスを続けました」

「水泳や陸上は苦手でしたけど、球技系は比較的、好きでしたね。試合に勝ったときは、もちろんうれしいですし、いい球が打てたときの爽快感は最高でした」

当時のトッププレーヤーは、マルチナ・ヒンギス。とてもカッコよかった。

「あまり女子っぽくないんですけど、プロ選手の打ち方を真似したりしていました(笑)」

男の子に興味が持てなかった思春期

小学校卒業後、進学した先は私立の中高一貫校だった。

時折、一緒に練習をする高校生は大きく見えた。

「わっ、大人だ! という感じでした(笑)」

選手としても活躍。

「メンタルが強いほうではないので、緊張するシーンでは、『うわっ』って、自分に負けそうになることもありました。でも、テニスは一生懸命にやりました」

小学校、中学校でも男子に恋愛感情を抱くことはあまりなかった。

テニス部にはカッコいい先輩もいたと思うが・・・・・・。

「普段、地味な人でもテニスが上手だと急に輝く人っているんですよね」

「みんなは誰それがカッコいいとか、あの人が好き、なんていう話をしていましたが、私は男子を好きになることがありませんでしたね」

思春期、クラスでも男子のことが話題になる。

「芸能人で誰々がいいとか、盛り上がっても、私だけは誰も好きじゃない、って冷めて
ていました。好みの芸能人も全くいませんでしたし」

「たとえばジャニーズは見ていましたけれど、好きとか嫌いより、自分にあのファッションを取り入れることができないかな、あの髪型がいいな、という目線でした」

「カッコいい、キャーっていう感情は一切なかったです」

「友だちに好きな男の子の話を振られても、『タモリさんとか面白いよね(笑)』とか言って、はぐらかしていました」

03自分はバイセクシュアルかもしれない

1年上の先輩を意識

自分がバイセクシュアルではないか、と疑ったのは13歳のとき。

「中学に入学すると、上級生の人たちが部活の勧誘にくるんです。そのときに知り合った一年上の先輩が気になって」

「お姉さんみたいに優しく話しかけてくれたのがうれしかったですね。その人のことを意識するようになりました」

「もしかしたら、自分は “そうかもしれない” と薄々思っていたので、やっぱりそうなのかなぁと」

しかし、その先輩とも交流を深めたわけではなかった。

「廊下ですれ違ったときに挨拶をするとか、その程度でしたね。特に進展があったわけではありません」

「積極的になれない性格なんです」

ジャニーズよりも女性アイドルがいいと思った。

「AKBとか、モー娘とか、このメンバー、かわいいな、と。そういう感情はありました。でも、変だと思われるのが嫌で、友だちにそんな話をするわけにもいかなくて」

女の子らしい服装はできなかった。

「スカートは1枚も持っていませんでしたね」

「ただ、制服は仕方がないって諦めていました。だから、制服のスカートを履きたくないとは思いませんでした。制服マジックですね」

「むしろ制服を着たことで、中学生になったんだってうれしく思ってました」

体育の先生を好きになった

中高一貫校のため、そのまま高校に進学。

高1のとき、学級委員に任命された。

「自分で立候補したわけではないですよ。先生から一方的に任命されて」

学級委員は男女のペアだった。

「その男の子にも何も感じませんでしたね。『クラスの行事の下見に行かない?』と、誘われたりしましたけど、頑に断って」

「・・・・・・仕方ないですよね、全く興味が沸かないんですから」

高校2年からは特別進学クラスの理系に入った。成績は中の上くらい。

「体育の女の先生が、武道系のプロ選手だったんです。かっこよくて、逆に顔はかわいい感じで、体育の授業が楽しみになりました」

「目立って、先生に気に入られたいと張り切りましたね(笑)」

「プロ選手だから男っぽいかというとそうでもなくて、普段はおっとりした優しい人なんです。それが試合に出ると、ガラッと変わる。それもすごいなって」

学校の外で偶然、会ったことがある。

「私が住んでいる街で、ばったり会ったんです。何でここにいるんですか? ってドキドキしながら聞いたら、練習しているジムがあるって」

何だか、運命みたいなものを感じた。

初めて観た試合、そして再会

在学中は、先生を好きなことを誰にも話さなかった。

「学校は小さなコミュニティなので、変な噂を立てられるのが怖くて、誰にも言えませんでした」

「自分はけっこう真剣だったのかもしれませんね。卒業してから、ある友だちには打ち明けましたけど」

去年の2月、初めて試合を観る機会に恵まれた。

「しばらく海外でトレーニングをしていたらしいんですが、ツイッターで日本に戻って試合をしていることを知って、高校のときの友だちを誘って一緒に観に行きました」

「あれから5〜6年は経っているはずなのに、全然、変わっていませんでした。印象が色褪せていなくて、うれしくなりました!」

その後、再会を果たす。

試合の後、久しぶりに会って話をした。

「今度、ご飯にいこうねって誘ってもらいました。でも、もう結婚もして子供もいるので、好きだったときの感情とは別ですね」

「高校のときも、つき合っている人がいることは、なんとなく知っていました。まあ、幸せになってくれてよかったなって。昔の恋人に対する気持ちみたいですけど(笑)」

04初めてのおつき合いは不発に終わる

男の子はカモフラージュ?

高校を卒業して、ある男子に告白された。

高3のクラスの仲間で食事をしたあとに、「ちょっと話がある」と誘い出されて、二人きりになったときだった。

「在学中からその子が私のことを好きだっていうのは、噂で聞いていたんですけど、はっきりと言われたのはそのときが初めてでした」

「正直、私は彼に興味がなかったんですけど、嫌いだったわけではないので、つき合うことにしました。そのうちにだんだん気持ちが変わってくるかもしれないと思ったし」

実は、卒業してからも体育の先生が忘れられなかった。

「とっても好きでしたね」

「先生のことが好きでレズだと思われるのも怖かったので、そのカモフラージュ的な意味もあって、オッケーをしたのかも(苦笑)」

「彼女」と呼ばれることに違和感を感じる

こうしてつき合いが始まったが、わずか1カ月で「もう無理」。

「まず、『彼女』と言われるのが嫌だったんです」

「ほかの友だちから『オレの彼女と言ってた』と聞いて、ちょっと待ってよ、彼女じゃないよって。第一、私は自分のことを女と思っていないのに・・・・・・」

「彼女」という女性を表す言葉で呼ばれると、自分の中で違和感がある。
それは今も強く感じていることだ。

1カ月の交際期間にデートらしいデートもしなかった。

「メールのやりとりはしましたけど。江ノ島に行こうと誘われたときも、何とかはぐらかしました。どこかに遊びにいくと、余計その気にさせてしまって悪い気がしたので」

「まあ、気が乗らなかったんですね(苦笑)」

「友だちだったら問題はないんですけど、それ以上の関係は考えられませんでした」

結局、電話で別れを告げた。

「勉強が忙しくなったから、付き合い続けるのは難しい」

相手にしてみれば、まったくの不発に終わった交際だった。

05奮起して大学の編入試験にチャレンジ

父親のバックアップがうれしかった

高校卒業後、東京経済大学コミュニケーション学部に進学した。

ところが、学生生活に張り合いはなかった。

「メディアやマスコミについて学んでいたんですが、だんだん興味がなくなってきて。授業ものんびり、まったりという感じでした」

「それで、これでいいのだろうか、と疑問を持ち始めたときに、ちょうど塾のアルバイトをきっかけに英語教育に興味を持ったんです」

高校の友だちから大学の編入制度について教えてもらったのも、その頃だった。

調べてみると、狭き門ながら自分にもチャンスがあることが分かった。

「このままじゃ嫌だ、と思っていたときだったので、頑張って挑戦することにしました。大学受験のときよりも何倍も勉強しましたね。編入のための予備校にも通いました」

父親は小学校の先生だった人。

実は他の仕事から転職して教員になった経歴を持つ。娘が進路を変えて学びたいという希望を十分に理解してくれた。

「やりたいことをやりなさい。お金の心配はする必要なない、と言ってくれました。とてもうれしかったですね。本当に感謝しています」

「友だちには編入を目指していることは話しませんでした。言ってしまって失敗するとカッコ悪いので、内緒にしていましたね」

女子大に入学。「女子しかいない!」

一生懸命に勉強した甲斐があり、見事、試験に合格。
合格者はほんの数名。

東京女子大学言語科学専攻3年生に編入することになった。

「合格発表はネットで見たんですけど、いろいろと大変だったことを思い出して、そのときはうれしくて泣きました」

今度は女子大。初めて女ばかりの社会に入る。

「最初は、『あれ、女子しかいない!』って、それは当たり前なんですけど、びっくりしましたね。変に緊張したのを覚えています」

「馴れてきたら、みんな授業を真面目に受けているし、居心地がよくなりました」

しかし、心がときめく人は現れなかった。

「かわいい子がいるなあ、と遠目に見たりはしていましたけど、恋愛的な気持ちはなかったですね」

授業にはきちんと出席した。

「授業もタダではないわけだし、先生も時間をかけて準備をしているんだろうから、無駄にしてはいけないな、と」


<<<後編 2018/09/01/Sat>>>
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06 ファッションに現れる自分の性の居場所
07 今も打ち込める仕事を模索中
08 Xジェンダー。それが一番しっくりくるワード
09 行動力を発揮して新宿二丁目に
10 前向きなカムアウト。そして、その先に待つもの

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