INTERVIEW

女性と男性の狭間で見つけた“私”という性【後編】

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2015/12/11/Fri
Photo : Mayumi Suzuki Text : Masaki Sugiyama
関本 愛子 / Aiko Sekimoto

1974年、東京都生まれ。理容専門学校を卒業後、実家の理髪店「イドヤ」で働き、父が亡くなった7年前に家業を継ぐ。バイセクシュアル、レズビアン、FTM、そしてXジェンダーと、様々なセクシュアリティを変遷してきた。その体験を活かし、自身の店を〈LGBTフレンドリー床屋〉と銘打って、LGBTER向けに魅力的なヘアスタイリングを提案している。今後、〈ジェンダーリベラリスト愛太郎〉として、パフォーマンスや講演などの活動を広く展開する予定。

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INDEX
01 家族関係とセクシュアリティ
02 “女性スイッチ”が入ったけれど
03 レズビアンだと思えた喜び
04 自分探しで見つけたこと
05 レズビアンからFTMへ、そして
==================(後編)========================
06 すべてのセクシュアリティを受け入れる
07 人間は多面体
08 すべてをぶつけ、そして親に感謝した
09 子供の感性が人間の土台
10 さまざまな色が混ざり合う世界

06すべてのセクシュアリティを受け入れる

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あなたはあなたで大丈夫

生まれて初めて自分のセクシュアリティに困惑して、死ぬほど苦しんだという関本さん。ひたすら答えを求め続け、救いを求め続けた。自分と向き合う様々なセミナーに通い詰め、関連書籍も読み漁った。苦しくなる理由を探して、それを突き詰めて、答えを見つける。そうしないと生きていけないと思った。でも、掘り下げるほどに、その疑問は収拾がつかないほど混乱していく。この世から消えてしまいたい、そう思った。
そんな時、一人のヒーラーから言葉を掛けられたのだ。

「魂には男も女もない。あなたはあなたのままで大丈夫」

「その人は『あなたのセクシュアリティは、あなたの役割のためにあるんだから大丈夫よ』と言ってくれた。『両性具有の人たちの拠り所になる』んだって。私がセクシュアリティに自信が持てるように、後押ししてくれたんです」

この言葉を聞いて、ハッと気が付いた。家族のトラウマがあるからと、自分で勝手に悩んでいたけれど、それもひっくるめて、私だと思えばいいのではないか。

私は〈自分ジェンダー〉です

男性を好きになった自分、レズビアンを自認した自分、FTMだと思った自分。そして、それらのいずれでもないと悩んだ自分。それらを全部受容してやろう。それが私だと胸を張っていこう。

「悩んでいる時期は、自分は女性でも男性でもないと言ってた。だけど、今は自信を持って、女性でも男性でもあると言える。だから、自分をXジェンダーと称しています。でも、正確に言えば〈自分ジェンダー〉なんだよね。実は、誰もが皆〈自分ジェンダー〉だと思うんです。それに気が付いた私が、最先端なだけなんだろうなと(笑)」

そもそもジェンダーって何なんだろう? どんなジェンダーだろうと“一人の私”でいいじゃないか。それを皆に伝えるのが、私の使命なんだ。
そう思い至ったとき、〈ジェンダーリベラリスト愛太郎〉が誕生した。

07人間は多面体

複数のセクシュアリティを楽しもう

男性でも女性的な部分、女性でも男性的な一面はある。そのことを何となく感じることはあるだろう。

「普段意識していないだけで、セクシュアリティも含めて、人間って“多面体”でできてるんですよ。私は一通りやり尽したから、ここがFTM、ここがゲイ、ここがバイとか、いろんな面があることが自分でわかるんです」

多面性は誰しもある。会社で上司や部下に見せる面、親友と合ったときに見せる面、家族に見せる面。いろいろな“面”が、人にはある。それをちゃんと使い分けている。
ところが、セクシュアルに関することになると悩む。それは、セクシュアリティは一つという固定観念があるからではないか。関本さんも、以前は多面体を一つにまとめようして苦しんだが、そもそも無理なことなのだ。

「だったら、いろんな面を使って楽しんでいったほうがいいじゃない。私は男目線で“男の子可愛いな”とも思うから、FTMゲイという感覚だってある。実際には抱けないと思うけど、そういう感覚がカットに生かされるんです。ゲイ目線で、自分が男だったらそそられるような髪型もできるし、FTMに似合った髪型だってわかる。すべてのセクシュアリティを肯定して受け入れたから、いろんな面を楽しく使えるんですよ」

人は変化していくもの

「人って変化、進化していくものだからね。セクシュアリティにしても、自分が持っている“面”の一つが出ているだけだと思います。そこにレズビアンだとかFTMだとか、後から言葉がついてくるだけだと気が付いた。昔の私がそうだったように、これが私の形、私の立場よって言いたいだけなの」

実際は、多面体の中で、その時々で必要なものが出ているだけなのだ。

「でも、どの面が表れても私には違いない。人は一日でいろんな面を見せるけど、セクシュアリティが変化するのも、不思議なことじゃない」

08すべてをぶつけ、そして親に感謝した

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20年遅れの反抗期

セクシュアリティからの解放は、同時に、深く関係していた家族に対するわだかまりも溶かしていった。そのために関本さんが選択した方法が、“遅れた反抗期”の実現だった。

「その時はもう、特に反抗する理由もなかったんだけど、過去の自分をリセットするために、ちゃんとやっとこうと思って。両親や弟に抱いたネガティブな感情は、そんな簡単なもんじゃないから死ぬまで残ると思う。だけど、自分が蓋をしてきたものだけは、全部表に出していきたかった」

お母さんに対して、これまでの鬱積した寂しさや辛さ、甘えたい気持ち、全てを遠慮なくぶつけていった。感情をぶつけるほどに、解放されていく自分を感じ取れた。

「反抗期をしたおかげで、ウチのお母さんが自分の母親で、本当によかったなと思えた。その分、お母さんは困らせたけど、悩んでいる姿や辛そうな姿を見て、“お母さん、有り難う”と思えたんです。鬱屈したままじゃ、感謝なんかできない。素の自分をぶつけることで、親からの本当の心の自立ができるし、逆に、ぶつけられて痛みを感じることで、やっと親が親になると思うんです。そこまでいって初めて親に感謝できる。上っ面の感謝なんてできないもん」

お父さんが大好きだった

亡くなったお父さんにも遅い反抗期を実行した。仏壇に向かって、子供の頃から抑えてきた寂しさや、見せて欲しかった愛情を伝えたのだ。

「不思議な話だけど、その答えがちゃんと返ってきている気がするんです。お父さんの写真も、見るたびに違う。自分の心象が投影されてるのかもしれないけど、笑っていたり、怒っていたり。振り返ってみれば、私の感情を抑えるという性格もお父さん譲り。近親憎悪的な反発があったんだろうけど、本当は、お父さんが好きだったんですよ。それに気付いたのも亡くなってからですよね」

“遅れた反抗期”を通して、行動すること、やりたいことをやることの大切さを一層感じることができた、と関本さんは言う。

09子供の感性が人間の土台

赤ちゃんになろうよ

悩めるLGBTERをサポートする方法の一つとして、関本さんが関心を持っていることがある。それは“遊び”だという。関本さんの言う“遊び”とは、自分を素直に表現すること。愛太郎というネーミングは、敬愛する芸術家・岡本太郎にちなんだ。岡本太郎のまるで子供のような自由奔放さこそが、人間にとって極めて大事なことなのだと話す。

「例えば、2歳位の子供って、そこらへんのもの食べちゃうとか、いきなり叫ぶとか、考えたり感じたことをそのままするでしょ。それに近いことを、私はすごくやりたいんでしょうね。でも、赤ちゃんの部分は誰にもあるはず。と言うよりも、実はその部分が人間の土台なんで、改めてその行程を踏んでいくことって大切なんじゃないかな。“大人はこうあるべき”なんて型にはまらないで、自分をそのままに出していく。だから、私はたまに自然と赤ちゃん言葉になったりするんですよ(笑)」

クスリはいらないかもしれない

関本さんの理容室では、夜はプライベートサロンのような形で、カットをしながらLGBTERの悩みを聞くという貸し切りコースを設けている。
そこで話を聞いていると、うつ病の薬を飲んでいるLGBTERが少なくないことを知った。

「親や世間の固定観念でおかしいと言われても、本当はおかしくも何ともないんですよ。もし、男でも網タイツやブラジャーを付けたいと思ってるなら、付ければいい。心がそう言ってるなら、やっちゃえばいいんです。私は、それを後押しする係。心を解放できたら、クスリもいらなくなるのではと思う」

ゆくゆくは髪を切らずに、純粋に話だけをするカウンセリング、セッションのようなコースも考えている。また、理髪店での活動だけではなく、〈ジェンダーリベラリスト愛太郎〉として、フェイスブックなどでの発信、講演会などを通じて、より広く自分の経験やアドバイスを語りかけていく。

「ヒゲ付けて男性の衣装着るとか、歌ったり踊ったり絵を描いたり、パフォーマンスもしていきたいですね。目立つことが好きだし、お金になるならないじゃなくて、セクシュアリティに悩んでる人に、私が今を楽しんでいる姿を見せたい。自分の好きなことをやってくことが大切だよということを、活動を通じてみんなとシェアしたいんです」

10さまざまな色が混ざり合う世界

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荒川にある小さな地球

関本さんには現在、一緒に暮らすパートナーがいるが、将来を尋ねると、「一緒にいる、それで幸せ。それが大事だからね、制度的なものは気にならない」との答えが返ってきた。だから、渋谷区や世田谷区で今年成立した、パートナーシップに関する条例にも、あまり関心を持っていないという。

「人権を掲げて、どうこうしようというのは好きじゃないんですよ。対立するよりも、LGBTERとそうでない人たちが知り合って、互いの考えを共有したり仲良くなることが、セクシュアルマイノリティが認識される近道じゃないかと思うんです」

「イドヤ」では、可能な限りその機会を提供しようと考えている。だからこそ、〈LGBTフレンドリー床屋〉として旗揚げした後も、それに特化しない。今でも、年齢もセクシュアルも問わない“近所の床屋”であり続けているのだ。

「マッチョなゲイカップルが来て、その隣では頭の固いおじいちゃんがカットしてる(笑)。カップルがちょっと口喧嘩になって、オネエ言葉使うのを聞いて、おじいちゃんは怪訝な顔しながらも、関心を持ったりするわけですよ。で、その隣には小学生がいて、ゲイカップルの馴れ初めの話を聞いているの。前は結婚してて、相方を連れて行ったら奥さんがビックリしてとか、そんな際どい話を聞いてるんだよ、小学生が(笑)。でも、私は止めないの。いろんなことを自然のままにしておく。そういう場なんですよ」

地元に根差した床屋だけに、営業に影響があるのではと心配になってしまうが、「同性愛とかが嫌いな人は、来なくなっちゃうと思うけど、それはそれでいいの。来てくれたお客さん同士が仲良くなって、繋がっていって、自然と偏見がなくなっていけばいい。それが私のスタンス」と意に介さない。

そしてセクシュアリティに留まらず、国籍、宗教、思想、趣味等々、ありとあらゆる面で、多様性のある場にしたいと思っている。

「認知症のおじいちゃんとウチのお母さんが、カットしながら一緒に懐メロを歌い始める。間にごく普通の女の子を挟んで、もう一人の地味な人が、実はマニアックで変態的なイベントを主催している、結構な有名人だったりする。『強烈やなぁ、今日は』とか思いながらカットしてる、Xジェンダーの私もいる。すごい世界でしょ。全部があるというか、まさにカオス(笑)。この小さなヘアサロンは世界の縮図。小さな地球ですよ」

そう、それが世界の真の姿なのだ。

セクシュアリティの悩みは卒業

「外に出れば、仲良くなったホームレスのオッサンから、ある時は「兄さん」と呼ばれ、かと思うと「奥さん」と呼ばれる時もある。どっちなんだかわからないみたい(笑)。その時々で、私から色んな色が出てるから、いろんな声のかけられ方をするんだろうね。その色は、服装や身に着けてるもので全然違って見えることもある。どう見えるかは相手の自由。私は私で、その日の気分でブラジャーを付けたり、トランクスを履いたりする。昔はそれがおかしいと思ってたけど、要は“今日はどの靴下履こうか”というのと一緒でしょ。そういう世界の中で、私はありのままに生きる。それが私だって思えるようになったんです」

セクシュアリティがどうこう、あるべき姿がどうこうなんて、もう考えるのはやめた。それが「関本愛子」であり、「愛太郎」であることには間違いないのだから。

去年書いたという店の紹介文には、店名に込められた想いとして、こんな一文が記されている。

ったんまってすらぐ店』

「後付けなんですけどね」と笑う関本さん。しかし、そこにはしっかりと、自身の方向性が示されている。「さまざまな色を持つ人々が出会って、混ざり合って、溶け合える店。みんなが家族みたいな、みんなの実家みたいな店にできればいい」。

家族観、あるいはセクシュアリティの相克を乗り越えた今、関本さんは人間や世界をありのままに見つめる視座を手にした。それを多くの人に感じてもらうために、着実に歩みを進めている。

あとがき
愛子さんの対局にあるものーー それは「一回だけで決めようとする緊張感」かもしれない。そうは、ないだろうと分かっていても、できるだけ楽に、傷も付かず手に入れられるモノを求めてしまう■愛子さんは違った。重ねてこそ、遊びや緩やかさが出るのだと、たくさんのエピソードの中で伝えてくれた■どこまでも、隣りにいるお姉さんだった。明日は、お兄さんかもしれない。向けてくれた笑顔に、明日も愛子さんの街を訪れたくなる。(編集部)