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好きなものを好きと伝えることは、自分の気持ちを大切にすること。【後編】

好きなものを好きと伝えることは、自分の気持ちを大切にすること。【前編】はこちら

2023/06/03/Sat
Photo : Yasuko Fujisawa Text : Kei Yoshida
野田 優里奈 / Yurina Noda

1990年、東京都生まれ。大学卒業後、電鉄系総合小売業へ入社。いくつかの業界を経験したのち、潜在意識に働きかけて悩みの解消を図る「ヒプノセラピー」のセラピストとなる。幼稚園の頃から気になる相手はいつも女の子だったが、女性だけでなく男性もFTMも恋愛対象であると気づき、自分はパンセクシュアルだと自覚する。

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INDEX
01 ひとりっ子に見られないように
02 女の子が気になる、ボーイッシュな子
03 レズビアン? バイセクシュアル?
04 能楽の “表現する楽しさ”
05 自由になるためのポールダンス
==================(後編)========================
06 結婚したことで離れていった友だちも
07 仕事のストレスからパニック障害に
08 ヒプノセラピーで悩みの根元を知る
09 婚姻関係は10年の有期契約
10 自分はこれが好き、と伝える練習を

06結婚したことで離れていった友だちも

異性との結婚は裏切り?

両親から自由になる少し前、大学3年生のときに近くの女子校に通っているFTMの高校生と半年ほど付き合っていた。

「その子は少し情緒が不安定で・・・・・・。喧嘩したりして怒らせてしまうと、物にあたったりするところがすごいイヤで」

「もう別れたいな、って思っていたときに夫と出会ったんです」

その出会いが後押しにもなり、別れ話に漕ぎ着けたが、相手は納得せず、自宅まで押しかけてきたり、学校の前で待ち伏せされたりすることもあった。

「でも、そりゃそうだよな・・・・・・とも思いました」

「別れ話をしたあとに、『彼氏ができた』とも伝えたんですが、その子からしたら、ストレートの男性に乗り換えられたって思っただろうし」

「すごく傷つけてしまいました」

バイセクシュアルやパンセクシュアルが受ける主な偏見のひとつに、「どうせ最終的にはストレートの異性のもとへ行くんだろう」と思われてしまうことがある。

そして「最終的にストレートの異性のもとへ行く」ことが、同性愛者に対しての裏切りのように受け止められることさえあるのだ。

「夫と出会って、結婚するってなったときに、二丁目で知り合ったゲイの友だちとか、レズビアンの友だちとか、私から離れていった子は少なからずいました」

「ストレートの異性と結婚する私を見たくなかったのかもしれないし、異性との付き合い自体に嫌悪感をもったのかもしれない」

「それでも結婚式に来てくれた友だちがいたから、それでいいや、と」

意外なほどのスピード入籍

夫と出会ったとき、「この人と結婚するんだ」と直感的に思った。

「実は私、子宮に問題があって、子どもができにくいと婦人科の先生に言われていたんです。そのことを夫に話したら、彼が大学4年生だった3月にプロポーズされて、じゃ、結婚しよう、ってなって」

翌月にはすぐ両家顔合わせを行った。

「でも、入籍して、やっぱり子どもができなかった、となるとお互いにつらいかもしれないから、入籍は子どもができてからにしましょうってことになったんです」

「そしたら翌月には子どもができて(笑)」

「あまりにも早くできたんで、まるで私が嘘をついたみたいになって。嘘じゃないです、婦人科の先生がそう言ったんです、って感じで(笑)」

結婚したのは就職して2年目のことだった。

07仕事のストレスからパニック障害に

出産後もバリバリ働きたくて

大学を卒業し、就職したのは電鉄系総合小売業の店舗。

「果物売り場を担当していたんですが、売上を上げて、さらに数字を伸ばすために工夫するのが楽しくて、やりがいを感じてました」

しかし産休と育休を取得して職場復帰すると、会社の規程上、以前のように働くことは難しかった。

「私は復帰後もフルに働きたかったんですが、時短勤務になってしまったうえに担当店舗も変わって、モチベーションがガクンと落ちてしまって」

「それでもまたやりがいを見つけようとは思ったんですが、やっぱりもっと “数字を追える仕事”、例えば営業職がやりたいと思うようになって、転職することに決めました」

そして人材系企業の営業職に就く。

入社時に、残業がなく、休みが確保されていると聞き、メリハリを効かせて勤務時間内に思い切り働けるのがいいと思った。

「でも働き出してみると、時間内に終わる仕事量ではなくて」

「上司は見て見ぬふり。そればかりか残業中に電気を消されることもありました。社長が社員を怒鳴りつけることも」

「それでも取引先は本当に優しいかたがたばかりで、せっかく転職したんだから頑張ろうとしていたんですが」

3カ月ほど経ったある日、ベッドから起き上がれなくなった。
なんとか病院へ行き、検査を受けるも原因は不明。

すがる思いで、気心の知れた整体師のもとへ行くと「がんばりすぎだよ。しっかり休んだほうがいい」と言われる。

「その言葉にめっちゃ泣きました・・・・・・」

マッサージを受けた翌日には歩けるようになり、再び出社したが、「不調の原因は仕事では」と、会社への不信感は募る一方だった。

「それで仕方なく、夫の転勤ということにして辞めました」

転職先でセクハラを受けて

しばらくポールダンスの仕事に戻った。

「水商売は好きなので、この先、自分の店をもつのもいいのかな、と思ってみたり、でもまだ26歳だったんで、もう一度、会社員として営業の仕事をやってみたいと思ってみたり」

「でも営業の仕事は前職のことがあったので、まだちょっと怖くて」

自分が本当にやりたいことはなにか。

そんな問いが浮かんできた。

悩みながらの転職活動の末に、営業アシスタントとして老舗の介護医療系企業に勤めることになる。

「その会社は、本当に社風が良くて、働きやすくて」

「先輩たちも優しくて、いい人ばかりだったんですが、担当していた営業チームのかたに胸を触られたりとか、セクハラを受けたんです」

「そのことを上司に言っても、人事に言っても、なにも解決されなくて」

そんな会社の “昔ながら” の社風に失望し、退職を決意する。

08ヒプノセラピーで悩みの根元を知る

両親のLINEはブロック

自分自身を見つめ直す日々が続いた。

そんななかで興味をもったのが心理療法。
そのひとつがヒプノセラピーだ。

初めて知ったのは大学で、心理学に近い思想を学んでいるとき。

「あとになってインスタグラムでセラピストさんを見つけて、『あ、こういうのがあるんだ』って投稿を読んでて。それで実際に受けてみたんです」

「そしたら、私の悩みの根元が、セクハラや仕事ではなく親子関係にあることがわかったんです」

実は、子どもを産んで1年ほど経った頃から、実家からの電話は着信拒否にして、両親のLINEをブロックしていた。

「その頃、母は私のことを心配してくれてたんだと思うんですが、『連絡してあげてる』『手伝ってあげてる』っていうスタンスで接してくるのがイヤで・・・・・・私もホルモンバランスが崩れていたせいもあったし」

「父は、自分の思いどおりにならない孫に対してイライラしたりして。赤ちゃんだから仕方がないのに。私は、その様子を見るのもイヤで」

「なんか、すごい疲れてしまったんです」

「でも、両親とは夫が連絡を取り合ってくれています。そのおかげで、いまは両親ともご飯に行ったりもしますが、直接は連絡を取らないという距離感のままでいます。それがちょうどいいっていうか」

自分に “ちょうどいい” 解決方法を見つけることができたのは、ヒプノセラピーを受けたことがきっかけともいえる。

性の悩みも話しやすい

現在は自らセラピストとして、クライアントの悩みに向き合う。

「日々、やりがいを感じてます」

「セッションが終わったあとに『自殺しようと思っていたけど、死ぬことがバカらしくなった』とおっしゃったかたがいたり、『言いたいことが言えない』と訪ねてこられたかたの悩みの原因が、実は0歳の頃の出来事だとわかったり。いつも、やっていてよかったなって思います」

2022年は、性の悩みを専門としていた。

「プロフィールに、私がパンセクシュアルだと書いてたからか、セクシュアルマイノリティのかたからの問い合わせがとても多くて」

「需要があるならば、と性の悩みに特化してみたんです」

「私がパンセクシュアルで、結婚して子どもがいる、ってところで、セクシュアリティの悩みだったりとか、結婚してから性的指向が変わったとか、そういった悩みを話しやすいということはあるのかな、と思いました」

「今後は、またいろんな人に向けて対象を広げて、次はカウンセリングにも力を入れていきたいと思っています」

09婚姻関係は10年の有期契約

家族とも性についてオープンに

「私がパンセクシュアルだってことは、もちろん付き合う前から、夫にも伝えてあります。直前までトランスジェンダーの子と付き合ってたことも」

「出会って2日目、一緒にご飯を食べた帰りに、もともと新宿二丁目に行く予定だったので、『このあと二丁目に行くよ』って夫に言ったら、『オレも行きたい』ってなって(笑)」

「連れて行ったら、『優里奈がオトコ連れてきてる!』って、私のゲイの友だちに囲まれてました。そのあとすぐに私と恋愛関係になったのは、“吊り橋効果” だったのかもしれないですね(笑)」

そんな夫が、結婚してから発した言葉に深く納得したことがある。

「LGBTQに理解があります、っていうのあるじゃん、あれって変だよね。誰だって別に理解されたくて生きてるわけじゃないでしょ、って」

「だから『理解がある』って言ってる人こそ、たぶん理解してないんじゃないかな、と。うん、確かに、と思いました」

8歳になった子どもは、テレビなどで「おかま」「おなべ」といった言葉を知ったらしく、たまに家族の会話で話題にあがることもある。

「あの人って “おかま” なんでしょ、ってニヤニヤしながら言うので、『おかまっておもしろいの?』って逆にきいてみたんですよ」

「そしたら『うーん?』って考えていて。考えられるんだったら、まだ良かったなって思って、『あの人は “人” だよね』って伝えました」

いろんなセクシュアリティがあって、みんなそれぞれ同じ “人” なのだ。

そのことを知ってほしくて、子どもが幼いときからレインボーパレードへ出かけたり、レズビアンの友だちと一緒に過ごしたりする。

家族とも、そんなふうにオープンに性について語り合う関係だ。

10年ごとに婚姻関係を見直す

「うちの夫婦、実は10年の有期契約なんですよ」

「結婚するときに、10年更新にしようって決めていて」

人も環境も、時とともに変わっていく。

この10年は夫婦として過ごしたほうが良くても、次の10年は別々に暮らしたほうが良いかもしれない。

だからこそ、10年ごとに関係を見直してみるのもいいんじゃないか。

「ちょうど来年が結婚10年目なんですが・・・・・・今回は一応、更新する方向で話しています(笑)」

「夫と、子どもと、家族でいるいまが居心地いいので」

「10年目には、家族で写真を撮ったり、結婚指輪を買い替えたり、なにかしたいな、と思っています」

10自分はこれが好き、と伝える練習を

女の人も好き、と伝えることができた

セクシュアルマイノリティである自分を受け入れられず、思い悩んでしまい、ときには死んでしまいたいとさえ考える人もいる。

「私は、ありがたいことに、自分のセクシュアリティをオープンにできなかったことがないんですよ。どこでも、誰にでも、言ってきました」

「働いていた会社でも、初めて会った友だちにも、パパ友やママ友にも『私は女の人のことも好き』って言えるんです」

自分はこうである、とオープンに伝えていくことは、ときに難しい。

しかし、小さなことから伝えることを始めていく価値はある。

「なんでもいいんです。『私はお肉が好き』って伝えた相手がお魚が好きだったら、お肉が好きな人とご飯に行けばいいんですよ」

「小さなことでいいから、好きなものを好きって伝えることを積み重ねて、練習していくことは、自分の気持ちを大切にするってことにつながるんじゃないかなって思います」

自分の気持ちを自由に伝えて

それでもどうしても伝えたくなければ伝えなければいいし、口に出して伝えるのが難しいならSNSで伝えてもいい。

「好きじゃなくて嫌いって伝えてもいいんです」

「それが私に対しての言葉でも、いいんです。私のことを嫌いな人でも、私は嫌いになれないんですよね。なんで、この人は私のことを嫌いなんだろうって、逆に知りたくなるというか(笑)」

もしも傷つけてくるような人がいればブロックすれば大丈夫。
きっと伝えられる場所はあるし、味方になってくれる人はいる。

「私は二丁目に行ったとき、すごい自由になれた気がしたし、こんなにいっぱいセクシュアルマイノリティの人がいるんだ、って心強かった」

「でも、二丁目に行けば誰でも救われるわけじゃなくて、二丁目にいて居心地悪い人もいるはず」

「場所でも人でも “合う合わない” はあるし、合わない人は離れていくし、合う人は残ってくれます。その残ってくれた人たちが、すごく大切!」

「まったく同じ悩みとか、境遇がすべて一緒の人はいないかもしれないけど、共通の悩みや近い境遇の人がきっと見つかると思うんですよ」

「だから、みんなもっともっと自分の気持ちを自由に伝えていっていいと思ってます。私は自由すぎて、わがままですけどね(笑)」

あとがき
終始笑顔で前を向いた話しぶり、それが優里奈さんだ。元気をもらうとは、まさにこういう感じ!の取材になった。人を好き嫌いの感情だけで二分しない。色分けしない優里奈さんから見える世界は、白であり、虹色でもあるかな■世の中だいぶ見通しがよくなった。人の考えも気持ちも知ってしまうから、発信には何かと尻込みするね。でも、自分の「好き」 をコミュニケーションの軸にしたら、楽しい。「好き」は人とつながるパワーを秘めてるよ。(編集部)

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