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一人でも多くのLGBTQ当事者が穏やかに過ごせるよう【後編】

一人でも多くのLGBTQ当事者が穏やかに過ごせるよう【前編】はこちら

2024/06/25/Tue
Photo : Miho Eguchi Text : Hikari Katano
八木 幸恵 / Yukie Yagi

1995年、東京都生まれ。小学生のうちから性別への違和感があったものの、中学校の制服をきっかけに女性の身体や社会的に割り当てられた性別を受け入れる。一時は音楽の世界で働くことを志したが、業界の厳しさに直面して方向転換し、2020年にジェンダーフリー脱毛サロン『こやぎ』を開業。

USERS LOVED LOVE IT! 2
INDEX
01 子どもながらに感じる理不尽さ
02 みんなのほうが上手いじゃん・・・
03 「オレ」を受け入れてくれた
04 自分のやりたい音楽
05 女性にドキドキ
==================(後編)========================
06 音楽業界を目指して
07 職場の人間関係にうんざり
08 やっぱり接客業が好き
09 Xジェンダーとの出会い
10 LGBTQ当事者もくつろげるサロン

06音楽業界を目指して

音響の裏方になろう

高校卒業後は、舞台音響の国家資格を取得できる専門職の大学に進学した。

「本当は専門学校に行ってすぐに音楽業界で働きたかったんですけど、親がどうしても4年制の大学に行ってくれって言うので、妥協してその大学にしました」

音楽業界に身を置きたいとは考えつつも、ギタリストとして生計を立てるつもりはなかった。

「自分より上手い人がたくさんいることはもうわかってたので、じゃあ裏方をやろうと思ったんです」

大学で軽音サークルに所属することは諦めた。

「当時流行ってたバンドをコピーしてるサークルが多かったんですけど、私が好きだったのは昔のバンドだったので、音楽のジャンルが合わなくて」

バンド活動に対するモチベーションの差も一因だった。

「やる気がなくて全然練習してこない人にはストレスが溜まる。でも、逆に本気すぎる人だとこっちが下手だって責められちゃう」

「技量やエネルギーがちょうど合うメンバーを探すのって、結構難しいんですよね」

ライブハウスから興味が高じて

サークル活動をしない代わりに、ライブハウスでアルバイトをして経験を積む。

「そこのライブハウスのお酒の種類が多くて、そこからお酒にも興味をもって、大学3年生からはバーでアルバイトを始めました」

バーに集まるお客さんとは、音楽や映画の趣味が合う人が多かった。

「お酒も覚えられて、お客さんと音楽や映画について語り合ったりして・・・・・・。バーの仕事は、天職だったなと思います」

07職場の人間関係にうんざり

進路変更

音楽業界で活躍する姿を夢見ていたが、いざ就職活動を始めると現実を無視できなくなった。

「ものすごい体力勝負の仕事なのに、初任給の手取りが10~15万円っていう世界だったんですよね。しかも、上が詰まってるから昇進できる見込みもなさそうで・・・・・・」

音楽系の大学に進むほど興味があったはずなのに、仕事の中身ではなくて、収入のことがどうしても気になってしまう。

実は、音楽業界での仕事は、本当にやりたかったことではないのか?
じゃあ、自分が本当にやりたいこととは一体何なのか?

「脱毛したい、って思ったんです」

脱毛サロンに勤めれば、社員は無料で脱毛できるだろう。

「普通なら数十万円もかかる脱毛が無料でできるなら、それだけで十分なのでは? って思って(笑)」

突然の方針転換は、父にも止められた。

「父には、毛なんて生えていてもいいじゃん! って言われました(笑)。でも、実際そのころの私は毎日剃るのが手間に感じてたし、就職先としてもいいところだと思ってたので、聞き入れませんでしたね」

大学卒業後、チェーン展開している大手エステサロンに新卒で就職した。

蓋を開けてみたら・・・

当初志望していた業界とはまったく異なるところに就職したが「絶対にいい職場」だと信じていた。

でも、実際に入社すると、その社風や社員の雰囲気が想定とあまりにもかけ離れていることに気付く。

「たとえば、会議のときには『お疲れ様です』じゃなくて、特別な言い方があったんですよ。なにそれ、気持ち悪! って(苦笑)」

新卒を順番にいじめ、陰で仕事をさぼる先輩社員の存在も苦しかった。

「同期みんなでマネージャーにかけあったんですけど、その先輩の営業成績がめちゃくちゃよかったからか『私はさぼってるところを見たことがないから』って取り合ってくれなくて・・・・・・」

10人いたはずの同期も、日を追うごとに目減りしていった。

「私も仕事を休みたいと思って、心療内科に行ったら適応障害の診断が下りたんです」

診断書をマネージャーに提示し、休職の相談をした。

「適応障害って調べてみたけど、だれでもなりそうな病気だね、って返されたんです・・・・・・」

マネージャーは「大丈夫だよ」と声をかけたかったのかもしれないが、その返答に不信感を拭えず、半年ほどで退職することになった。

08やっぱり接客業が好き

接客業って大変だけれど

脱毛サロンを退職後、人材派遣業者に登録し、事務職に就いた。

「初めて事務職を経験してみて、自分が思ってたより、接客業にストレスを感じてたんだなって思いました(苦笑)」

でも、事務職を続けているうちに、自分で脱毛サロンを開業したいという思いが芽生える。

理由は、自分自身がXジェンダー、パンセクシュアル当事者として感じた、脱毛サロンのシステムへの疑問だった。

「脱毛サロンって、基本的に女性限定、男性限定、と性別で分けられてるところが多くて。そうなると、トランスジェンダーの方が脱毛したいって思ったときに、どっちに行けばいいか分からないじゃないですか」

たとえば、MTF(トランスジェンダー女性)の場合、治療の有無や段階によって、女性限定サロンでは入店を断られる可能性がある。かといって男性サロンに通うことは苦痛になるはず。

性自認にかかわらず、だれもが気軽に通える脱毛サロンを自分で立ち上げたい。

ただ、脱毛の仕事をすると、かつて適応障害を発した過去の職場のトラウマも想起されてしまう。

「脱毛サロンを退職しましたけど、人間関係が嫌で辞めただけで、仕事自体は結構好きだったんです。売上もそれなりに立ててましたしね」

自分の好きなように仕事をしたいっていう思いもあったため、仕事に慣れていくうちにトラウマを乗り越えることができた。

「接客業ってたしかにストレスが溜まるけど、でも事務職ってつまらないな、ってほうが勝りましたね」

2020年に脱毛サロンを開業した。

新宿二丁目に繰り出す

開業して最初のうちは知人・友人が来てくれていたが、3カ月目に初めて赤字になった。

「でも、そんなに悲観的に考えてはいませんでした。いざとなったら店舗に住んで、自分で脱毛すればいいか! って(笑)」

とはいえ、芳しくない経営状況をこのまま放っておくわけにもいかない。サロンの認知度を広めようと、新宿二丁目に行ってみることに。

「二丁目のお店のオーナーさんから、FTM(トランスジェンダー男性)のライフスタイルマガジン『LapH(ラフ)』にお願いすればいいんじゃないってアドバイスをもらって、その雑誌に広告を出しました」

LapHへの広告掲載や地道な営業活動が功を奏し、お客さんが少しずつ増えていった。

「ほかにも、乙女塾の西原さつきさんやNAOさんがウチに来てくれて、乙女の生徒さんたちにお勧めしてくださっていて、本当にありがたいです」

二丁目での “売り込み” は、確実に成果を上げている。

09 Xジェンダーとの出会い

黒歴史

高校と大学に通っていた間、学校生活や趣味の面では充実していたが、実は恋愛では感情が不安定で落ち込んでいることが多かった。

「高校と大学の間に付き合ってた男性2人が、どっちも一緒にいると不安に感じるような人で・・・・・・」

1人目は、私がいる目の前で、ほかの女性を口説こうとした。

ライブハウスのアルバイトの先輩でもあった2人目は、「集客のため」と見え透いたウソをついて出会い系サイトを頻繁に利用。

「そのころの私は、自己肯定感がゼロだったんです」

私なんかと付き合ってくれる人は、この人しかいない。
浮気されるのは、私に魅力がないから・・・・・・と、本気で思い込んでいたのだ。

「2人目の人はマンガや映画が好きで、相手からマンガを借りたり、一緒に映画を見たりするのが楽しかったです。でも、今思えば友だち関係でよかったですね(苦笑)」

自信を取り戻し、闇から抜け出すには時間がかかった。

「友だちの1人が『1日だけでも、幸恵ちゃんの顔になりたい。そのくらいかわいい』って言ってくれたんです」

大切な友人が、自分のことを肯定してくれている。自分で自分を否定することは、その友人のことを否定することにもつながる。

「そう言われて、黒歴史を “卒業” し始めました」

周囲からの言葉によって、闇に光が差すことがある。

その経験をしたからこそ、ネガティブな気持ちを抱えて私のサロンにやって来る人を、少しでも元気づけたい。

「私の施術を受けることで、ポジティブになれるきっかけづくりができたらって思ってます」

イベントでXジェンダーを知る

現在は、性自認はXジェンダー、性的指向はパンセクシュアル、恋愛指向はデミロマンティックだと自認している。

「Xジェンダーという言葉は、レズビアン向けイベントのTIPSYに参加したときに知りました」

女性らしい自分の体つきも、”使える” ところがあると受け止めている。

「女性に近付きたいときには、女性の見た目のほうが警戒されない。男性からはこの見た目のほうがかわいがられる。性的指向が男女関係ない私にとっては、この身体は都合がいいんです」

「服装もそれに合わせてレディースのものを着用してます。色は黒が多いですね」

自分の身体的性別を受け入れて活用するXジェンダーがいてもいいはずだ。

言い出しづらかった結婚報告

24歳のときに知り合ったアロマンティックの男性と、2022年に結婚した。

「ちょうど出会ったころの私も、デミロマンティックになってきてたころだったので、パートナーのセクシュアリティがちょうどよかったんです」

自分のサロンに通ってきてくれているお客さんのなかには、自分の望む相手と法的に結婚できない人もいる。そのことを考えると、自分の結婚を報告することは、最初のうちはためらわれた。

でも、そのお客さんの存在こそが、結婚を報告する契機ともなった。

「同性カップルのお客様に『結婚したことを公にするか悩んでいて・・・・・・』と話したとき、『めでたいことだから、隠さなくていいいのでは』って、言ってくれたんです」

言葉がすっと胸におちた。

その後、当時のパートナーとは別れたが、誰もが結婚報告を自然に公表することや、自分にとっての幸せを、ためらうことなく口にできたらいい。

10 LGBTQ当事者もくつろげるサロン

LGBTQ専用ではなく、ジェンダーフリーのサロン

サロンを開業してから丸3年が過ぎた。

「チェーン店も含めて、エステサロンの開業3年後の廃業率が90%と言われてるので、そう考えるとよく続けられてるなと思います」

ジェンダーフリーの脱毛サロンだからこそ大事にしていること、気を付けていることもいくつかある。

「お客様を決めつけないことですね。たとえば、見た目から『女性になりたいんだろうな』って勝手に想像しない、とかですね」

先入観を抱かないためにも、もちろん施術前のアンケートには性別欄を設けていない。

身体の状態についても、何も質問しないようにしている。

「トランスジェンダーのかたは、備考欄にジェンダーや治療の状況を書いてくださる方が多いですけどね」

お客さんのなかには、自分の身体をまだ受け入れられていない、不満がある人もいるだろう。

「どこに行くにも安心できない人もいるかもしれないけど、ここでは何も気にしないでいいですよ、って思ってサービスしてます」

18歳未満でも、保護者の方の同意書があれば来店可能だ。都度払いなので、アルバイトでお小遣いを貯めればチャレンジできる。

「10代のトランスジェンダーの方は、治療を始められてない人もいると思うので、脱毛することで身体への嫌悪感が少しでも下がるかもしれないですよね」

いつか予約でいっぱいに

脱毛以外にも、痩身効果を期待できるキャビテーションや、毛穴吸引などのフェイシャルエステなどのメニューもそろえている。

「顔のハリを出すフェイシャルエステの技術を応用して、バストアップを目指すサービスもあります」

開業当時に並行していた派遣での事務職を辞めた今でも、サロンの経営を維持できていることは喜ばしい。

でも、まだ予約満杯、というほど忙しいというわけでもない。

「予約でいっぱいになったら、スタッフを雇いたいです」

悩みを抱えて来店するお客さんには「起こった出来事と、そのとき自分が抱いた感情は、別々のものとして考えたほうがいい」とよく伝えている。

「そうしないと、なんでもネガティブに捉えるようになっちゃうから」

自分が精神的に不安定だった時期を長く過ごしてきたからこそ、そこから脱するのは一朝一夕にはいかないことも理解している。

「自分だけは自分の味方でいてあげてほしいですね」

脱毛・エステを通して、お客さんが顔を上げて前を向けるようになるように。そんなお手伝いを続けていきたい。

 

あとがき
向こうみずだったと思える行動が、自分の好きなことを発見する経験に。それはゆきえさん自身が “手放した ”からこそ、始められた今の事業でもある。いつもの考えかたも、続けていたなにかをやめることも・・・出会いより、別れのほうが転機になると思う。偶然はないから■約束の場所へ、小走りでたどり着いたゆきえさんの慌てように、人となりを感じた。内面は細部に宿る。たくさんのお客様との交流から、また新たな文脈へたどり着く。(編集部)

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