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トランスジェンダーだと自覚し、「親に悪い」という想いを乗り越えて。【後編】

トランスジェンダーだと自覚し、「親に悪い」という想いを乗り越えて。【前編】はこちら

2019/07/19/Fri
Photo : Taku Katayama Text : Kei Yoshida
松本 友生 / Yuki Matsumoto

1987年、兵庫県生まれ。中学生の頃に同級生の女の子に惹かれて以来、自分が女性であることに違和感を抱え続ける。大学生のときに留学したニューヨークで、ゲイである友人ができ、LGBTの存在を知る。その後、自分はトランスジェンダーFTMであると自覚し、葛藤を乗り越えて性別適合手術を終え、戸籍を変更した。

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INDEX
01 三人兄妹の真ん中っ子の長女
02 悩みは「女の子が好きだということ」
03 ブラジャーなんか着けたくない
04 ニューヨークで知ったLGBTの存在
05 レズビアン? トランスジェンダー?
==================(後編)========================
06 自分が “なりたい姿” に出会えた
07 性別適合手術は「親に悪い」
08 戸籍を変えて、ホッとした
09 恋人との未来のために
10 誰かの人生を幸せにしたい

06自分が “なりたい姿” に出会えた

やっぱり一緒にいたい

大学を卒業し、語学力を活かせるゲストハウスに就職した。

仕事には就いたが、これからどうやって生きていけばいいのか。

その悩みは、付き合っている彼女との未来にも大きく関わっている。

「付き合う前に、もしも結婚して子どもがほしいって考えてるんやったら、僕らふたりでは子どもはできひんから、どうしていくか、一緒に調べながら考えていかなあかん・・・・・・って、話し合いました」

「よく話し合ってから付き合って、1年くらい経った頃に、もう一度、これからどうしていこうって話し合ったんです」

「本当に子どもがほしいんやったら、ずっと一緒にはいられへんかな・・・・・・、そんなことも話しました」

「でも、やっぱり一緒にいたいねってなって、そのためにはどうすればいいか考えるために、お互いにやりたいことを書き出してみたんです」

書き出してみたことのなかに、共通のものがあったら、実現できるように一緒にがんばろうと思った。

「結婚」は、ふたりに共通していた。
これから一緒に考えていく大切なことだ。

トランジェンダーの知り合いに会う

「僕は、『自分のことを知りたい』というのを入れてたんです」

「28歳になっても、自分というものが分からないままで」

「女性が好きなのは間違いないけれど、自分の性別が分からへん」

「どっちでもいいやって思ってたけど、どっちでもいいでは社会的にはしんどいなって・・・・・・」

ちょうど兄が結婚し、妹も結婚を考えているというタイミングだった。

社会のなかの自分の存在を改めて考えてみた。

「このままでは、前の彼女みたいに結婚できひんから別れることになるかもしれへん」

「でも、どうしたらいいのか、分からなくて」

「いろんなことが見えなくなって、漠然と怖くなって、自分がひとりぼっちになった気がしました」

そんなとき、彼女の知り合いに性別適合手術をしたトランスジェンダーの人がいると聞いた。

「周りにそんな人がいるって聞いて、ぜひ会いたいと思いました」

すぐ彼女に、実際に会う段取りを組んでもらった。

「あ、これ、なりたい姿や・・・・・・」

「会った途端に、めっちゃかっこいいって、この人が、自分がなりたい姿なんやって、スッと心に入ってきました」

「いるやん、身近にいるやん・・・・・・ってうれしかった」

性別適合手術なんて考えられへん。

そんな気持ちが、変わろうとしていた。

07性別適合手術は「親に悪い」

身近な経験者が言うなら・・・・・・

心の性別に身体の性別を一致させるには、手術するほかない。
でも、自分には手術するという考えはなかった。

「せっかく健康な身体に産んでもらったのに、手術してまで性別を一致させるなんて、親に悪い・・・・・・」

その考えは、ずっと強く、心のなかにあった。

しかし、別のトランスジェンダーFTMの人に話を聞いたり、講演会に参加したりするなかで、少しずつ考えが変わってきた。

手術をするんなら、まずはカウンセリングを受けなくちゃいけない。
カウンセリングを受けるなら、ここの病院がいい。
手術は、この病院がいい。

さまざまな人から話をきくにつれ、 “自分がなすべきこと” が具体的に浮かび上がってきた。

「自分で注射を入手してホルモン治療をする人もいるけど、ちゃんと病院に行ったほうがいいって教えてくれる人もいて」

「それやったら、親も安心するかなって思いました」

「自分も分からんことだらけやし、自分ひとりで動くってのは頭になくて」

「身近で経験している人が言うなら、ちゃんと病院に行ってみようかなと」

そこでようやく、両親に治療について相談してみることにした。

自分が決めた人生を自分が生きる

「FTMの人が紹介されている雑誌を見せて、こういう人がいて、こういう風になりたい、そのためにはカウンセリングに行って、診断を受けて、手術しなあかんって、説明しました」

「そしたら、『私らには分からへんけど、病院に行きたいんやったら、行ったほうがいいと思う』って」

「親には知識がなかったんで、その答えも仕方なかったと思う」

「じゃあ、まずは病院に行ってカウンセリングを受けて、本当に “そう” やったら、また相談しようってことになりました」

そして、カウンセリングを受け、1年後には性同一性障害の診断がおりた。

いよいよ治療に入る、となったとき、「親に悪い」という考えに、どう向かい合ったのか。

「手術しなくても健康な身体ではあるけれど、心は健康じゃない」

「そうなると、健康って一体なんなんやろうって思って・・・・・・」

「身体だけでなく、心も、社会的にも、自分が健康であることが一番いいんかなって思いました」

「親に悪いって気持ちはあるけれど、親は僕の人生を生きているわけではないし、親とか誰かが、こうあってほしいと考えた人生を生きて、本当に自分は幸せになれるんかなあって・・・・・・」

そう考えると、「親に悪い」という言葉が、手術をしないための言い訳のようにも思えてきた。

「自分がこうしたいと考えた人生を、自分で生きることのほうが、きっと幸せやと思えるし、僕が幸せやと思って生きているほうが、親もきっと幸せやと思ってくれるはず」

「そのほうが、きっと健康だと思いました」

そう手紙に書いて、両親に渡した。

両親は、「これから大変なこともあるやろうけど、あんたが選んだ道やったら、きっとうまくいくから、がんばれ」と応援してくれた。

「手術した今も、自分が幸せだっていうことを、両親に見せていけたらいいなって思ってます」

08戸籍を変えて、ホッとした

自分が分からなくて自信がもてない

高校の英語教師に憧れて、先生になろうと思った。
大学でも教職課程を選択し、教師になることを目指した。

しかし、留学のために休学したことから教職免許取得を断念。

帰国してからのぞんだ就職活動では、英会話スクールの入社試験を受け、採用が決まった。

教職免許はなくとも、英語を教えることは目標だったのだ。

「でも、その頃は、自分のセクシュアリティが分からなくて、自分にまったく自信がなかった」

「そんな自分が、子どもたちになにかを教えていいんかって・・・・・・怖くなってしまったんです」

「出勤初日に、家を出て途中まで向かったんですが、職場のある建物に入る事さえもできなくて」

早々に家に帰ってきた自分を見て、母は驚いていた。

「絶対怒られると思いました」

「大人やのに、仕事1日目に行けへんかったなんて・・・・・・」

しかし、母は怒らなかった。

「自分が本当にやりたいことが見つかるまで、いろいろ試してみたら」

そう言ってくれた。

新しい名前で新しい戸籍に

そうして見つかったのが、現在の職場であるゲストハウスだ。

海外客が多く、スタッフにも外国人がいて、オープンな雰囲気。

「女性として就職して、トランスジェンダーだってことも、特に伝えていませんでした」

「ただ、カウンセリングに行く前に、社長に話しました」

「社長は『将来のことを考えたら、行ったほうがいいかもね』って」

「スタッフは誰も、セクシュアリティのことに触れないし、トイレも男女一緒やし、すごく働きやすいですね」

そして、29歳になる2016年にカウンセリングをスタートし、2018年9月に性別適合手術を受けた。

現在は戸籍も変更し、男性として生活している。

「名前は家族に考えてもらいました」

「もともとの名前にあった “友” は残したくて、じゃあもう1文字はどうしようって、みんなで考えて」

「父が “生” がいいんちゃうか、かっこええやんって」

「友生と書いて、ユウキ」

「ええやん、これにしよって(笑)」

今現在の気持ちを言葉で表すとしたら「ホッとした」に尽きる。

「あー、なんか、やっと今、堂々と生きていけるなって・・・・・・」

「以前は、鏡で自分の身体を見るのも嫌やったから」

「その気持ちがなくなって、今はホッとしてます」

09恋人との未来のために

相手の親を説得できる未来

やっと今、堂々と生きている。

そう思えるようになったのは、性別適合手術を受け、戸籍を変更してから。

そのきっかけをくれたのは、現在の恋人だろう。

彼女が、トランスジェンダーの当事者を紹介してくれ、会うことができたからこそ、自分が何者であるかが、やっとイメージできたのだ。

「もう付き合って6年目です。同居してからは3年くらいですね」

「家は僕の名義で借りて、保証人は両親にお願いしました」

「でも、向こうの親には付き合っていることさえ言ってなくて」

自分の親は、相手の親を思って、同居する際には「言ったほうがいいんちゃう」と言っていた。

しかし、そのときは、今言っても、おそらく反対されると思った。

「ふたりのなかで、戸籍を変えて、相手の親を説得できるような未来が用意できるまで、言わないほうがいい」

「カウンセリングに通う前から、そう決めてたんです」

そして今、その準備が整った。

「先月、彼女がお母さんに『会ってほしい人がいる』って伝えたそうです」

「で、『会う前に言っとかなあかんことがある』って言ったら、あんまりいい反応ではなかったみたいで・・・・・・」

「実は、まだ会ってないんです」

知ってもらうための努力

彼女は、LGBTERに登場するトランスジェンダーFTMの記事を親に見せて、理解を深めてもらおうとしている。

「親が一番心配していることは、おそらく将来のこと」

「自然に子どもができる状況じゃないから、自分たちがどう考えているのか、ちゃんと説明できるようにならないと」

「自分たちも、子どもはほしいと思っています」

「理解してもらうには時間がかかるかもしれない」

「でも、まずは知ってもらわないと」

「これからも説明は続けていくつもりです」

目標としては、今年中に相手の親と会いたいと思っている。

その先には、「結婚」という未来を見ている。

さらにその先は、いつか彼女と一緒に宿を運営できたらいいなと思っている。

「宿じゃなくても、気軽に人が集まれるようなあたたかい場所を作れたらいいなと思っています」

10誰かの人生を幸せにしたい

先が見えないことに悩んだら

ずっと長い間、自分のことが分からず、自信をもてずにいた。
そのせいで、人前に立つ仕事を断念したこともあった。

でも今、堂々と生きている。

そんな自分が、これからを生きる人たちに伝えたいことは。

「未来を無理に見ようとしたら、分からなくなってしまうし、なにがやりたいのか、見えなくなることもある」

「そんなときは、今、自分の周りにあることや、一緒にいてくれる人を大事にしていたら、たぶんうまくいくと思う」

計画的に人生の歩んでいくことも大切だ。

でも、見えない未来に不安になりすぎることはない。

「もしも先が見えないことに悩んだら、自分が愛したいと思っている人に、自分が持っているものを与えていこうと思う」

焦ったり、不安になったりするよりも、大切なものを確実に守っていくことに努めよう。

「自分はそうしていこうと思っているし、もしも今、悩んでいる人がいたら、そういう風に考えられるといいなと思います」

「それで、いい未来につながったら、結果よかったなって思えるはず」

「僕が大切にしたいのは、パートナーと家族」

「パートナーと家族、周りにいる大切な人に、愛と平和を与えていきたいと思っています」

記事を読めば、経験に会える

今回、LGBTERのインタビューに応募したのは、「誰かの人生を幸せにしたい」という想いがあったから。

「まったく同じ人間がいないのと同様に、まったく同じ経験をした人もいないと思う」

「LGBTERには、いろんな経験が詰まっています」

「それを読んでもらうことで、必要なことを拾って、自分を知る材料になればいいなって」

自分が話した経験も、誰かが「この人はこう考えたけど、自分はこう考える」「もしかしたら自分はこうなのかも」といったように、自分について考えるヒントになるかもしれない。

「誰かが、自分自身を知るためのヒントになればいいなと思っています」

自分も、人と会ったり、記事を読んだりすることで、誰かの経験に触れ、自らを知り、性別適合手術に向けて一歩を踏み出すことができた。

「人と会うのが難しくても、記事を読めば、いろんな経験に会える。自分と同じような人も見つけられると思う」

「僕も、そうやって助けられたから、誰かのことも助けられるはず」

あとがき
取材のために京都から来て下さった友生さん。真っ白なTシャツがよく似合う。「健康って、心も身体も社会的にも健康であること」。友生さんの言葉に深く共感した■親御さんの悩みにも多い、性別違和の治療リスク。治療断固反対への問いかけのひとつ。[治療をしなかった場合、心の健康はどのように考えましょうか?]■親の願いは、我が子がしあわせと感じて生きること。自分が描く幸せと、カミングアウトや治療はどう関わるのか。ただひとつの答えはなさそうだ。(編集部)

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