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個性がないなんてありえない。私は私しかいない。【後編】

個性がないなんてありえない。私は私しかいない。【前編】はこちら

2017/08/03/Thu
Photo : Taku Katayama Text : Ryosuke Aritake
白川 ゆい / Yui Shirakawa

1986年、北海道生まれ。4人兄弟の長女として育つ。中学2年の時に初めて女性に恋心を抱くも、当時からBL作品を好み、LGBTの知識もあったため、「自分はレズビアンではなくバイセクシュアルかも」と認識する。高校卒業後は音楽の専門学校に進学。就職はアパレル関係の企業に勤めた後、8年間コールセンター業務に従事する。現在はカラーセラピストとして活動し始めたところ。

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INDEX
01 信頼して認め合える恋愛関係
02 好きなことを自由にさせてくれる家庭
03 選択基準は “自分がいいと思うもの”
04 思春期の苦しみと救い
05 初めて「好き」になった女の子
==================(後編)========================
06 初めての交際で知った光と影
07 男役であること、女役であること
08 “子ども” という夢のための選択
09 “人と違うこと” が誇り
10 頂上を目指すルートを探す旅

06初めての交際で知った光と影

秘密の彼女の存在

初めて女性とつきあったのは、高校2年生の時。

相手は同じクラスで、特に仲が良い女友達だった。

修学旅行のバス移動の時。

集合時間に遅れたグループがいたために、移動中の私語が禁止された。

その友達とは席が隣だったため、筆談で会話していた。

「どんな流れだったか覚えていないんですけど、その時に『実は、中学の時に女の子が好きになった』って話したんです」

「そうしたら、彼女が興味を持ち始めたんです」

彼女とはホテルの部屋も一緒だったため、急速に距離が近づいていった。

「結局その日の夜、修学旅行中に関係を持ってしまいました(笑)」

そのできごとをきっかけに、交際がスタートする。

しかし、周りには秘密にしていた。

「いままで通り、仲良い友達って感じで振る舞っていましたね」

「他の友達からは『2人はいつもセットだよね』って言われていました」

つきあい始めてからは、毎日がさらに楽しくなった。

重圧になってしまった恋人

高校卒業が近くなる頃、新たな趣味ができて、1人で没頭するようになっていった。

その状況を、彼女は寂しく感じていたようだった。

「彼女は『邪魔できない』って思ったのか、文句も言わずに見守ってくれていたんです」

「ただ、やっぱり相手をしてほしい気持ちもあったみたいで、無言のプレッシャーを発するようになっていきました」

小さい頃と変わらず、1人の世界に引きこもるタイプだったため、彼女の放つプレッシャーに窮屈さを感じてしまった。

何も言わずに不貞腐れるくらいなら、「構ってよ!」と訴えてほしかった。

しかし、彼女は健気に待っているだけだった。

「彼女に必要とされていないのではないか?」と感じ、趣味に没頭する時間が長くなっていった。

「互いのバランスを保たなければいけない恋愛関係に、面倒臭さを感じてしまったんです」

「高校卒業とともに別れることになりました」

07男役であること、女役であること

「男に生まれた方がよかったのかも」

女性とつきあうことで、気づいたことがあった。

恋人関係にある時、自分が男役を担うことが多かったのだ。

「女の子とつきあう場合、圧倒的に女役の子が多いので、男役の方がモテるんです」

「だから、自ずと男役になっていったところはあります」

「知り合いから『あなたはすごく男らしい』と言われることも、よくありました」

自分主導でグイグイ引っ張ってしまうところや、サプライズを仕掛ける側に回るところ。

自分でも、男性的ともいえる要素は多いように感じていた。

中学時代に男子からいじめられた経験も影響しているかもしれない。

「男の子と疎遠になったことで、思春期に女の子扱いされることがほとんどなかったんですよね」

「だから、20代前半くらいまで『私は男になった方がよかったんじゃないか』って思っていました」

恋人との未来を考えてしまう性分

恋人ができるたびに、将来のことまで考えていた。

「どんな始まり方であっても、つきあうに当たって別れる想定はないんですよ」

「つきあうということは、この人と死ぬまで一緒にいるって考えてしまうところがあるんです」

「いずれは両親に挨拶に行くんだろうなって」

「結婚するためにはいつから同棲しよう」「遠距離ならこういう計画で会おう」と、2人の将来をきっちり考えてきた。

相手に「今の恋を楽しもう」という雰囲気を出されると、「なんで今だけなの?」と困惑した。

「そういう重たい考えでいると、かえって浮世の恋になっちゃうんですけど(苦笑)」

「必ずしも相手に展望があるわけではないって気づいたのは、かなり大人になってからでしたね」

女性としての本音

自分自身でも男性的な側面を認識する一方で、抱いていた思いがあった。

「生まれた時から女なので、本当は女性として扱ってほしかったんです」

恋人に扉を開けてもらう。それだけでよかった。

「高校の時の彼女が、健気な女の子然としたプレッシャーを浴びせてくることがイヤだったのも、本音との葛藤があったからかもしれません」

25歳の頃に彼女ができたが、好きでつきあったわけではなかった。

いつか彼女と結婚に近い形で暮らすのであれば、自分自身の気持ちを整理しなければいけないと思った。

08“子ども” という夢のための選択

結婚をするための男性との交際

男役として彼女とつきあっていくか、女性として扱われることを夢見るか。

葛藤しているタイミングで、男性からアプローチされた。

女性扱いされたい気持ちと同時に「子どもがほしい」という気持ちも強かったため、男性の誘いを受けることにした。

「この人を逃したら、二度と男の人とつきあえない予感がしたんです」

「これは一世一代のチャンスかもしれないって気持ちで、つきあうことを決めました」

しかし、その男性には家庭があり、不倫関係になることを知った。

それでも彼は「いずれ離婚する」と言ってくれた。

「子どもがほしい」という一心で、彼の言葉を信じ続けた。

「彼とはそりが合わなくて、何度となく別れ話が出ました」

「その度に『この人と別れたら、私はきっと結婚できないし子どもも産めないだろう』って思いがよぎったんです」

執着してくる彼に、「Yes」を出し続けてしまった。

利益よりも感覚を信じた決意

つきあい始めて4年半が経った頃、彼はようやく離婚した。

すぐにでも結婚できるものだと思っていた。

「彼はスーパー子煩悩な人だったので、子どもと離れ離れになったことで落ち込んでしまったんです」

「その寂しさを、私にぶつけてくるようになりました」

この頃には、結婚や子どもなどの夢を叶えてくれる、という利益のためだけにつきあっていた。

離婚を機に彼が家に転がり込んできていたが、ズルズルと関係を続けるわけにはいかないと思った。

「年内に結婚しないんだったら、家から出ていって」と結論を急いだ。

「彼はあっさり『それなら出ていく』って言ったんです」

「『出てくんかい!』って呆れちゃって、その勢いで追い出して関係が終わりました」

社会的に認められた婚姻を遂げ、自分の家庭を持ちたいという夢を手放す結果となった。

「男になりたかったわけではない」

彼との別れ話が現実味を帯びてきた頃、今のパートナーと出会った。

彼よりも彼女との方が、結婚や子どもへの明るい未来を思い描くことができた。

だから、彼とは未練を残すことなく別れることができたのだ。

彼とつきあう中では、女性扱いされてきた。

「男の人とつきあったことで、『やっぱり私は男になりたかったわけではなかった』って気づいたんです」

「そして、『女の子とつきあう時に、男役に徹しなければいけない』という縛られた概念から解き放たれた感覚もありました」

女性の恋人と、女性として恋愛することを、自分自身が認められるようになった。

だから、今は自然体で彼女と一緒にいられる。

09“人と違うこと” が誇り

自己紹介のためのラベル

女性のことも男性のことも好きになり、女性とも男性とも交際してきた。

今は女性とつきあっているが、男性がイヤになったわけではない。

「現実的につきあう子は女の子が多かったけど、愛でる対象は男の子が多いですね(笑)」

「女性アイドルの顔は覚えられないけど、男性アイドルはすぐに把握できる感じ」

初めて演劇部の彼女に恋心を抱いた時、自分が “レズビアン” だとは思わなかった。

「女の子にキュンとしたけど、BL作品も普通に読めたし、男の子も嫌いじゃなかったんです」

「早い段階で “バイセクシュアル” って言葉も知っていたから、私はそれなのかなって思っていましたね」

今は “パンセクシュアル” だと自認している。

「MTFの方も好きだし、FTMの方を見て『王子様だ!』って思う時もあります」

「『この性別の人だから恋しました』っていうことはないですね」

「好きになったら、性別は関係ないです」

ただ、セクシュアルを表現する言葉は、自分を紹介するためのラベルに過ぎないと思っている。

「出会った人に自分を説明しやすいように、パンセクシュアルを使っている感じです」

「どの言葉に自分を当てはめるか、悩んだ時期もありました」

「でも、一晩経って『どうでもいいや!』って思ったので、今はどこかに当てはめようとは思っていませんね」

「個性がないなんておかしい」

自身のセクシュアリティに対して、不安や悩みを抱えたこともない。

むしろ、小さい頃から人と違うことに誇りを持っていた。

「『人と違う』ってことを否定的に捉えられるのが、すごくイヤだったんですよね」

「『なんで普通になれないんだろう?』って思ったことも一切ないです」

なぜ、そう思ったのかはわからない。

ただ、「私は私しかいない」という意識が強かった。

「『個性がないなんてありえない』って思っているから、お揃いとかは苦手ですね」

「『人と違っていることが普通じゃん?』って思うんです」

名前の「ゆい」は「唯一無二」の「唯」が由来だと、両親から聞いたことがある。

名前に込められた両親の思い。

自分の思考に影響しているのかもしれない。

10頂上を目指すルートを探す旅

1からのスタート

今のパートナーとは、いずれ一緒に住みたいと考えている。

「彼女は一度も親元を離れたことがないんです」

「だから、『家を出たい』って話したら、彼女のお母さんが泣いてしまったらしくて」

彼女との同棲は、もう少し先となりそうだ。

自分自身もカラーセラピストとして独立したばかり。準備期間を設けようと考えている。

「一度実家に帰って、何もかも1からやり直そうって考えています」

「彼女と一緒に住むところを探しながら、彼女の手助けをできたらいいかなって」

将来的には、ダブルウエディングドレスで結婚式を挙げたい。

そして、里親になりたい。

「ゆくゆくはファミリーホームのようにしていきたいんです」

「今はまだ『いつスタートラインを書こうかな』って思い描いているところです」

「里親やファミリーホームの計画を進めるためのノウハウが全然ないので、これから何万回も転ぶと思うんですけど」

自分の生き方は “樹海にいる状態で、富士山の頂上が見えている” 感じ。

「進む道は全然わからないんだけど、ゴールはわかっているような感覚です」

「方角は合っているはずなのに、気づくと遠回りをしていたり(笑)」

ゴールを見据えることは、クセのようになっている。ゴールがないとやる気が出ないから。

胸に残っていた母の本音

母に自身のセクシュアリティを打ち明けたのは、23歳の時。

当時、遠距離でつきあっていた彼女との関係がこじれていた。

頻繁に彼女のところに行くため、家を空ける回数が増え、母親に「大丈夫?」と心配された。

「心配をかけたままなのは申し訳なかったので、『彼女がいて』って話したんです」

「母からは『あんたが自覚する前から、そうじゃないかなと思ってた』って言われました」

母親の洞察力に驚かされた。

しかしその直後、母がボソッと言った。

「そうじゃないといいなと思ってた・・・・・・」

「それが本音だろうなと思ったので、その後はしばらく何も言えなかったです」

つい最近、再び母に「彼女がいる」と告げた。

「その時は『人から何を言われても全然平気だけど、お父さんががっかりした顔だけは見たくない』って言っていました」

「だから、父へのカミングアウトは母に任せています」

父親が落ち込んで困るのは母親だから、母親のタイミングで伝えてもらいたい。

「父は常々子どものことを心配している人だけど、もしLGBTERの記事を読んだとしても『ふ~ん、そんなこと考えてるんだ』ってあっさりしていると思います(笑)」

それでもいつかはみんなに伝えた上で、パートナーと家庭を築いていきたい。

今はまだ遠くに見える頂上を目指して、一歩ずつ進んでいく。

あとがき
60歳位の方? と、生まれ年を見返したほど、重厚な日本語で綴られたゆいさんのエントリーメール。お会いしたゆいさんは聡明で、悩みを相談したくなってしまう人。それに気づくも、色々口にしたかな(苦笑)■ゆいさんが発する受容のフレーズ。相手に受けとめられたと感じたら、みんなきっと素直になれると思った。受け止める順番がまずは自分になれるように練習したい。そうなれば、互いの「わかってくれない!」は少し解消できるかな?(編集部)

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