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FTX、アセクシュアル。恋愛感情も肉体的接触も必要ない【後編】

FTX、アセクシュアル。恋愛感情も肉体的接触も必要ない【前編】はこちら

2018/08/27/Mon
Photo : Taku Katayama Text : Shoko Minamoto
島垣 悠 / Yu Shimagaki

1987年、東京都生まれ。両親と共に都内で3人暮らし。慶應義塾大学薬学を業後は、薬剤師として調剤薬局に勤務している。性自認はFTXでアセクシュアル。両親や友人、職場にはカミングアウト済み。

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INDEX
01 ミステリアスな小学生
02 男子と離れるために女子高へ
03 最初はレズビアンなんだと
04 猫みたいな女の子に恋を
05 つきあった先にセックスがあることが想像できない
==================(後編)========================
06 大学入学、そして新宿二丁目デビュー
07 レズビアンバーで知り合った女性と初体験
08 MTF女性との出会い、そして6年間の長い恋
09 悪魔のような女性に貢ぐ
10 バイセクシュアル→アセクシュアルへ

06大学入学、そして新宿二丁目デビュー

男の人とセックスしたいという感覚がわからない

薬学部に入学すると当然ながら男子もいて、女性6:男性4ぐらいの男女比率だった。

「さすがにその頃はもう男性を敵と思う感情や、苦手意識も収まっていて。それに、小学校の頃のように男性に対して無関心な状態に戻っていました」

当然、年ごろだから大学の女友だちたちは「この男性がカッコいい」「こんな男の人に抱かれたい」と、異性に対する話に花を咲かせていた。

「大学生になって周囲に男の人がいる状況になっても、やっぱりみんなの感情がよく理解できませんでした」

「男の人とセックスしたい、という感覚がわからないんです」

自分は女性だ、という意識がない

友人はいるけれど、コイバナになるとついていけない。

居場所がないような感覚になってしまうことも度々あった。

そんな思いに襲われると、興味のある研究を続ける学内の研究室に遊びに行ったりしていた。

「ある日、その研究室の飲み会に参加させてもらったことがあったんです」

「その場で男性の教授が、性的な話を私に振ったんですよね。すぐに『悪い、これってセクハラだよな』とおっしゃったんですけど・・・・・・」

「私には『自分が女性である』という感覚はないんです」

「それで、『教授と私の性別が同じでも、やっぱりセクハラって言うんですか?』 と言ったんです」

「そしたら、なにか誤解されてしまったのか、女性の先輩に『なんなの、その発言? 先生に失礼でしょ』と叱られてしまって」

正直に感じたことを口に出したつもりだった。

自分は自分のことを女だとは思っていない。だからといって、男だとも思っていない。

その感覚をわかってほしかったのだけれど・・・・・・。

「そんなことがあったので『あぁここにも居場所がないな』って、感じてしまったんです」

「そこから、新宿二丁目に通うようになりました」

二丁目のレズビアンバーへ

当時の性指向はレズビアン。

そして、性的な接触にまったく興味が持てないという自覚があった。

「初恋の女の子が男に汚されてしまった。高校時代のそんな思い出があるので、性的接触にはどうしても嫌悪感を覚えるようになってました」

「二丁目に通うことになった動機は『私と同じような人って、ほかにもいるのかな?』でした」

大学で馴染めないなら、場所を変えればいい。

自分のセクシュアリティについて、特に深い悩みを持っていたわけではない。

自分みたいな人が、ほかにもいるのかどうかに関心があった。

「もしもいるなら、会ってみたい。話をしてみたい。そんな風に思ってました」

最初の第一歩は二丁目のレズビアンバーだった。

07レズビアンバーで知り合った女性と初体験

人生で初めての交際

二丁目に通い出してすぐに、レズビアンバーで知り合った女性とつきあうことになる。

「気が合って、出会ってからすぐにつきあうことになったんですけれど。人生で初めての交際だったわりには、ちょっと印象が薄くって」

「価値観が違ったんですね、なのですぐに別れちゃったんです。肉体関係はありませんでした。彼女はしたがっていましたけど・・・・・・」

初めて付き合った彼女と別れてから、意識に少し変化が生まれた。

「さすがにこの先、まったく性的な体験がないのもマズいんじゃないかと考えたんです」

その思いから、またレズビアンバーに。
そこでナンパされた女性と、人生で初めての体験をする。

体目当てだろうとわかりつつ初体験を

「おそらく最初から体だけが目当ての人なんだろうな、ってわかってましたけど、私はそれでよかったんです」

「セックスをしてみて、いろんな発見がありました」

「もっとも強く感じたのは『人間も動物なんだ』ということかな。ここを触るとこういう反応があるのか、と実験や研究をしているような気持ちもありました」

「テレビでよく観る動物の生殖行為とまったくおんなじだと思いましたね」

そのほかに感じたのは、セックスとはとにもかくにも面倒なもの、ということだった。

「ナンパされた彼女から、自慰行為のやり方を教えてもらいました」

「なんだ一人でもできるんじゃん! 一人でできるなら、それでいいじゃん!と(笑)」

「一人だとキスはできないかもしれないけど。でも、私にとってキスは口がべたべたして気持ち悪いものでしかありませんから。とくに必要じゃなくって」

「一人でできるのに、なぜわざわざ二人でやらないとダメなのかが理解できないんです。二人ですることの意義ってなんでしょう? 面倒なだけですよね」

実際に性体験をしてみると、今後特に必要なものではないな、と実感ができた。

セックスをするぐらいなら、互いの趣味の話や自分の考えや価値観を話すことに時間を割きたいと考えている。

08 MTFとの出会い、そして6年間の長い恋

出会いはインターネットの質問サイト

大学4年生から6年間、長く交際を続けた人がいる。

その人は、体は男性で心は女性。10歳年上のMTFだった。

「勉強で悩んだことがあったときに、インターネットの質問コーナーで回答を求めたことがあったんです」

「質問に回答してくれたのが、その彼女でした。とても親切な回答で、印象がよかったんです」

質問サイトでの出会いをきっかけに、個人的な会話を交わすように。

やがて彼女からMTFであるという自身のセクシュアリティを打ち明けられる。

「会ってみたいな、と思いました」

「実際に会ってみると、最初は彼女の男性そのまんまの見た目に少し戸惑いもあったんですけど」

男性に対する苦手意識を、すべて払拭できていたわけでもなかったからだ。

初対面の印象は、体のゴツい男の人

「でも、話してみると心がもうそれはそれは乙女で。とにかく可愛らしい人だったんです。話も合ったし、一緒にいるととても楽しかった」

それでもいざ「つきあおう」という話になったときは、男性の見た目がどうしても気になって悩んだりもした。

「でも乙女な心に強く惹かれて・・・・・・交際をスタートさせました」

「私は『お姉さま』と呼んでいました」

「向こうは会うたびに『可愛いね』と言ってくれて。すごく仲良しだったと思います」

遠距離だったため、お泊りデートも何度も重ねた。
ベッドにふたり並んで眠る。
ただそこに肉体的接触は一切なかった。

「彼女も自分の体を見られるのは嫌だったみたい」

「部屋で二人っきりになると彼女は女装になります。正直そんなに似合っているわけではないけれど、でも私にはそこも愛おしくって」

彼女の履いているスカートをスカートめくりしたりして、二人で遊んだ。

「話も合うし、楽しいし、この人となら結婚できるかもと考えていた時期もあったんですけれど・・・・・・」

「男になりたいの?」と嫌な顔をされて

ある日、彼女が自分の男性器を「こんなもの、いらないのに」と話したことがあった。

「すかさず私『じゃあ、私がつけていろんなことを試してみたい!』って言ったんです」

「すると、彼女はすごく嫌な顔で『もしかして男になりたいの?』と」

彼女が自分のことを女の子として見ているとは、一度も考えたことがなかった。

「でもそのとき初めて『この人は女の子としての私が好きなんだ』と感じてしまい・・・・・・。ちょっとムっとしてしまって」

「『男じゃ嫌なの?』『私、男にもなりたいんだけど』と言いました」

些細なことから生まれてしまった違和感。

その後、別れへの決定的な出来事になるまでに大きく膨らんでしまうことに。

「ある日、彼女の体に私の胸が偶然触れてしまったんですね」

「そのとき、彼女が『柔らかい』って言ったんです。最愛の彼女だったはずなのに、その言葉を聞いたときはすごく不愉快だった。気持ち悪いと感じてしまったんです」

「女として見られている、女の私を好きなんだという事実が受け入れられませんでした」

それ以降、どうしても以前のような感情を取り戻せなくなる。

自分から別れを切り出し、6年間の長い交際に終止符を打った。

09悪魔のような女性に貢ぐ

恋愛相談をしていた相手を好きに

MTFの彼女との恋愛ごとを、折に触れて相談していた友人がいた。

大学時代の同級生。
清楚でとても可愛くて、いつも真摯に話を聞いてくれる優しい女性。

別れを打ち明けた際に、ふと自分の口からこんな言葉が出た。

「あなたみたいな優しい人が彼女だったらいいのに、とポロっと。いったん口に出しちゃうと思いが溢れてきて・・・・・・」

「彼女になってください、と告白しました」

同級生の彼女は「同性から告白されるの初めてなんだけど、すごく嬉しい! いいよ、つきあおう」と即答してくれた。

「そこから交際が始まったんですけど・・・・・・」

彼女は悪魔のような女性だったと知ることになる。

金品を要求されて

付き合い始めるやいなや、金品の要求が始まった。

「あれ買って」「これ買って」はもちろん、電子マネーでお金そのものを要求されたことも。

「あざとい人だな、見た目と違って小悪魔だなと思ったんですけど、惚れた弱みで。ついつい貢いでしまったんです」

そんな状態が3ヵ月ほど続いた頃、突然彼女と連絡が取れなくなる。

「心配していたらある日メールが来て。『私、結婚するの』と書いてありました」

「『結婚式に招待するから来てね』『スピーチもお願い、大学時代からの友だちでしょ?』とも」

「は?」とだけメールで返し、以降一切連絡を断った。

むろん結婚式には出席していない。

好きだから言うことを聞いてあげたかった

「恋は盲目」と言うけれど、いま振り返ってみればあの頃はまさにそんな状態だったと思う。

「大学時代からの友だちだったし、ずっと恋愛相談もしていたし。いい子だなと信頼し信じ切っていたんです」

告白したときは、彼女のセクシュアリティがどうであるか、気にしなかった。

「でも、あっちは、ちょっと遊んでみようという感覚だったのな。私が肉体的接触を求めないということは、知っていたわけですし」

「私はもし彼女が求めてきたら、たまになら肉体的な接触をしてもいいかなと思ってました」

苦しい体験だったけれど、この体験をきっかけにして新しい考えを持つことができた。

「『いい人』『わるい人』に性別なんて関係無いのかな、と考えられるようになったんです」

10バイセクシュアル→アセクシュアルへ

自分はバイセクシュアルなんだろう

それまではなんとなく恋愛を餌に相手を騙す、といえば男の人の専売特許かと思っていた。

しかし、信頼していた女性に騙されたことをきっかけに思考が変わった。

「女性の中にも悪い人間はいる。ならば、男性の中にも優しい人がいるんじゃないかな、と気持ちを切り替えたんです」

「貢ぐ恋愛が終わった直後に、婚活サイトに登録しました。対象は男性です」

この時点で、自分の性指向はレズビアンからバイセクシュアルに変化していた。

婚活サイトの自己紹介には「バイセクシュアルで性的なことが苦手」と登録。

すぐにひとりの男性から連絡がきて、会うことになった。

「『僕は肉体的なことはそんなに求めない』と書いてあったので安心して」

ところが、すぐにお互いの解釈に齟齬があることが判明する。

「“そんなに” と書いてあったので、私の解釈ではセックスは年に1度か2度でいいんだろうと思ってました」

「ところが話を聞いてみると『毎日とは言わないけど週に2、3度』が彼の “そんなに求めない” のペースだったんです」

とてもじゃないけど応えきれないと思った。

その彼とは交際3ヵ月で破局する。

「肉体関係はいりません」と書いてみるも

以降、プロフィールには「肉体関係はいりません」と書いた。

するとまた、それでもいいという男性が現れた。

「そこまで書いても見解の相違があったんですよ。『肉体関係必要なし』をその彼は挿入さえしなければいいんだろう、と思い込んでいたみたいで」

そのため、デートのあとに「挿入はなくてもいいけど、僕のことを気持ちよくして」とねだられる羽目に。

「肉体の接触そのものがダメなんだと説明して断ったら、音信不通となりました」

アセクシュアルでもノンセクシュアルでもどちらでもいい

ふとした拍子に見つけたLGBTの結婚相談所サイトを見ていたときのこと。

「セックスもスキンシップも必要ない、したくない。いわゆるアセクシュアルという人が、人口の1%いると載ってたんです」

「地道に婚活をしていれば、いつか自分と同じような人に会えるかもと思えるようになって、また婚活を継続しようと決めました」

次は「恋愛感情わからない。アセクシュアルかもしれません。スキンシップ一切いりません」とプロフィールに記入。

それを見て連絡してきてくれた現在の恋人とは、交際して3ヵ月目である。

「一回り年上の男性で、おそらくストレートだと思います」

「結婚には憧れるけど、深く干渉はされたくない。子どもはいてもいなくてもいい。そういう考え方だそうです」

「性自認や性指向がどうあれ、薬剤師として一生懸命頑張っているあなたが好きです、と言ってくれるんです」

恋愛感情や肉体関係はなしで、ただ話していて楽しい人と過ごしたい。

その願いが、いまのパートナーとは叶っているような気がする。

両親には「私は恋愛感情がわからないし、肉体的接触も必要ない。それをアセクシュアルって呼ぶんだよ」と説明している。

「LGBTERに自分が出ることで『ひとりじゃないんだ』『私(僕)みたいな人はほかにもいるんだよ』と、誰かの助けになればいいなと思ってます」

今後の目標は、いまの彼との友情婚。
もちろん大好きな薬剤師の仕事はなにがあっても一生続けていく。

「彼も応援してくれていますから」

あとがき
面会の日、島垣さんは神妙に控えるような印象だった。時間の経過とともに話の数が増える。テンポを上げながらも、伝わるこちらの感じ方を気遣うような丁寧さ■恋愛に限らず、自分の感覚や捉え方と異なる内容だと、相手のそれは頑なものと感じてしまう。でも、島垣さんはゆるやかだ。心の振りはばも、感じながら。「言葉は知っているけど意味はわからない、だけど否定するわけでもない」が、たしかにちょうどいい。(編集部)

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