02 ドバイ在留中にノンバイナリーを自認
03 幼少期から感じていた周りとの違い
04 「ハーフ」であることへの葛藤
05 「頭のいい子」だった中学時代
==================(後編)========================
06 部活に人生を捧げた高校時代
07 アメリカのコンテンツで変化した「ルーツ」の捉え方
08 両親にカミングアウトできない理由
09 憧れのアメリカへの留学と、将来のこと
10 若い世代のクィアのリプレゼンテーションになりたい
06部活に人生を捧げた高校時代
勉強で一番を取るプレッシャーからの解放
中学生までは「頭がいい」と周囲から言われ続けていたし、他人より優れているという自負もあった。
しかし高校に進学すると、その考えががらりと変わる。
「高校は自由な校風だったけど、進学校で周りも偏差値の高い人ばっかりだったんです。それで自分が全然普通の人間だってことに気づきました(笑)」
「でもそこからは逆に、気楽に生きれるようになったんです」
「勉強で一番を取らなければならない」というプレッシャーから解放された結果、気持ちは軽くなった。
「高校生になったら、英語だけが得意科目になりました。アメリカのコンテンツを24時間吸収し続けてたら、自然に英語が身についたんです」
「でもそれも『ハーフだからでしょ?』みたいな感じで言われることもあって。いや、自力で覚えたんですけど? ってなりました(苦笑)」
一転、部活に打ち込む日々を送る
「中学ではどちらかというと頭のいい地味なタイプだったので、運動部に入ってる子たちへの憧れがあったんです」
「だから高校では部活に入ろうって決めてて、でも絶対にスポーツはできないし嫌だなって思ったんですけど、ダンス系ならできるんじゃない? って思って、応援団に入りました」
男子は学ラン、女子はチアの衣装を身にまとう応援団に所属し、勉強そっちのけで部活に打ち込む日々を送る。
「チアの衣装を着るけど、飛んだり跳ねたりするわけじゃなくてポンポン持って床で踊るような、本当に特殊なダンスをしてました」
「でもすごく厳しい部活で、めちゃくちゃ先輩たちのことが嫌いになりましたね(笑)」
後輩たちには嫌な思いをさせないために
ひとつ上の先輩たちは私たちの代への当たりが強く、練習ではとことんまでに完璧を求められた。
理不尽で無意味なルールも多く、ストレスも感じていた。
「手や足の角度が少しでも違ってたら『直して!』って言われて、こっちは後輩だから『はい』しか言うことができなくて・・・・・・」
「うちの学年全員先輩のことが嫌いで、本気で『早く引退しろ』って、思い続けてましたね(苦笑)」
当時はなぜか「辞める」という選択肢すら許されていない状況だった。
しかし先輩たちへの反骨心を元に、同期で結束するようになる。
「こんな部活はもうやめにしようって同期で言い合って、後輩たちには絶対に嫌な思いをさせないように、変な仕組みとか理不尽なルールとかも改革したんです」
「そのおかげでマシな部活に変えることができました。先輩と私たちより、私たちと後輩の方が良い関係を作れたと思います」
「同期との絆も、ものすごく強くなりました」
同期たちと一緒にいたい。みんなで楽しく部活に励みたい。ああ
そんな思いが強かったからこそ、先輩たちが引退するまで頑張れた。
「今でも同期のみんなとは定期的に会ってます。彼女たちに出会えたのは本当によかったですね」
07アメリカのコンテンツで変化した「ルーツ」の捉え方
アメリカのドラマや映画に影響を受けて
高校生のころから、NetflixやAmazonプライムを通してアメリカのドラマや映画に触れるようになる。
それらを楽しむうち、自分の「ルーツ」の捉え方が徐々に変化していった。
「アメリカのハイスクールものとか、本当にいろんな人種の子が出てくるんですけど、みんなそれぞれ自分に誇りを持ってるんですよ」
「黒人の子とかアジア系の子とか、みんな『私、かわいい!』みたいな感じで、同じ目標に向かってないし、自分だけの道を歩んでるのがすごい良いなって感じたんです」
各々のルーツを大切にし、それぞれの美しさを誇る登場人物たち。
そのスタイルに、深く感銘を受けた。
「たとえばインド系の子だったら、アメリカに住んでいながらもインドの文化やインド人としてのアイデンティティを輝かせようとしているんです」
その姿が新鮮に映り、自然と自分自身にも反映させるようになる。
ルーツは恥じるものではなく、誇るもの
「登場人物たちの自信に溢れてる姿を見てたら、自分を嫌ってるほうがすごい時間の無駄だなって思い始めたんですよ」
「なんで私はわざわざ自分のルーツに恥を持って生きてるんだろう、って思うようになったんです」
ルーツは恥じるものなんかじゃなく、むしろ外に出していくものなんじゃないか。
人種も、言語も、宗教も、みんな違う。
だからこそ、それぞれの素晴らしさがある。
「みんな各々の道を進んでいるところを見て、少しずつ自分の美しさにも気づけるようになったんです」
アメリカのドラマや映画のキャラクターたちが持つ輝きを受け、次第にルーツへのコンプレックスが溶けていった。
08両親にカミングアウトできない理由
友だちへは積極的にカミングアウト
大学生になってセクシュアリティを自認したあと、友だちへはなんら抵抗なくカミングアウトできた。
「私はほぼすべての人にカミングアウトできてます。ありがたいことにマイナスな反応してきた人は、まったくと言っていいほどいなかったですね」
「たぶん私、友だちの選び方がうまいんだと思います。少しでも差別的な雰囲気を感じ取る人とは、もう友だちにならないようにしてるので(笑)」
脈絡なく言うことはないけれど、LGBTQが話題に上がったときは打ち明けるように努めている。
「言うこと自体が大事だと私は思ってて。たぶん日本の人って、LGBTQをオープンにしてる人に出会ったことない人も多いと思うんです」
「だからこそ私はその第一人者になろうって、その人が初めて出会うLGBTQの人になろうって思ってるんです」
この世の中で全員が全員、安全にカミングアウトできる状況にいるわけではない。
そのため、カミングアウトのハードルがあまり高くない私が、積極的に言うようにしていきたい。
「LGBTQの人は普通にいるんだよって、そのことが伝わればいいなって感じです」
両親にカミングアウトできないのは、気恥ずかしいから
友だちへのカミングアウトは比較的容易だが、一方でいまだ両親にはできていない。
「言ったら言ったでママもパパも気にしないと思うんですけど、言う機会がないんです」
「そもそも恋愛のこととか今付き合ってる人がいるとか、そういう話を1回もしたことがないので、わざわざカミングアウトするのが気恥ずかしいなって思いながら、ズルズルここまで来ました(笑)」
カミングアウトそのものに対する抵抗はないが、単純になんだか照れ臭い。
聞かれたら言うとは思うけど、話に上がらないうちはいいかなと考えていたら、タイミングを逃してしまった。
家族で打ち明けているのは大人びた妹だけ
弟はあまり喋らないタイプだが、妹は大人びているタイプゆえに、年齢差は大きいが仲は良い。
「妹は今中学2年生で14歳なんですけど、すごい大人びてて、同年代みたいな感じで話せる相手なんです」
上の子がいる下の子の典型的パターンというべきか、妹は年齢のわりに達観している。そのため、家族の中で妹だけにはカミングアウトしている。
「妹はアライなので、なんの苦労もなく言えました。家の中で話せる相手がいるのはよかったですね」
09憧れのアメリカへの留学と、将来のこと
自分を救ってくれた文化に触れてみたい
大学4年生の2022年9月からアメリカへ交換留学に行くことが決まった。
「1年間だけ、ワシントン州に行くことになりました」
ジェンダーやセクシュアリティの勉強をする予定だが、どちらかというと一度アメリカに住んでみたいという気持ちが強かった。
「やっぱりアメリカのコンテンツ、映画やドラマや音楽への憧れが昔からあったので。一番簡単に行ける方法が、大学の交換留学だったって感じですね」
自分を救い上げ、勇気づけてくれた文化に、生で触れてみたい。
そんな思いから、留学を決意する。
留学後の将来の目標
ソーシャルメディアが好きなため、留学を終えて大学を卒業した後はそれに携わることが現在の目標だ。
「今も学生をやりながら、アメリカ発祥のLGBT系女性とノンバイナリーの人々のマッチングアプリで翻訳者として働いてます」
「もともとは利用者だったんですけど、ある日『日本語バージョンをローンチしたいから英語を日本語に翻訳できる人を探してます』って表示がアプリ上に出てきて、それで応募しました」
その後、宣伝のためにアプリのSNSアカウントを開設することになり、Twitterの運営も担当するようになった。
「そのアプリは続けていくつもりですけど、副業程度だと思います」
そして留学が終わって卒業した後は、もう日本を出るつもりでいる。
日本での就職を考えていない理由
率直に言うと、日本がこの先変わるとは思えない。
「あんまり期待はしていないですね・・・・・・。だから正直、日本を出ていくことしか考えてないです」
「日本の人々は多様性を意識し始めていると思うんですけど、たぶん政権が変わらない限りは何も変わらないんじゃないかな・・・・・・」
政権が変わるためにはみんなが選挙に行かなければならないが、日本の投票率は低い。
「自分が生まれた国なので残念なんですけど、政治に対する当事者意識があまりないのが日本の国民ですよね。その意識が変わらない限り、無理かなって思ってます」
一方で、LGBTQ当事者に対し簡単に「日本を出ろ」とは言えない。
なぜなら各々で事情は異なるからだ。
「私はたぶん、言語や機会に恵まれているので・・・・・・。誰もが同じ条件を持っているわけではないことはもちろんわかっているから、一概には言えないです」
10若い世代のクィアのリプレゼンテーションになりたい
悩みの渦中にいる若い人たちへ
今まさにセクシュアリティなどで悩んでいる若い世代へ伝えたいのは、「あなたは何も変わらなくていい」ということだ。
「難しいかもしれないけど、自分は本当に間違ってないってことをわかってほしいです」
「あなたは何も変わる必要はないし、あなたがあなたらしくいることに文句を言ってくる人がいるのであれば、それはその人の問題であって、あなたが悩むことは何もないって、そう言いたいですね」
それに気づくことは、ともすればとても難しいかもしれない。
でも気づいたらきっと、今よりずっと楽になる。
若いクィアの親の世代へ伝えたいこと
若いクィアを支える親の世代には、もっと柔軟になってほしい。
「10代の子たちの親御さんの世代は、知識がないのはしょうがないと思うんですけど、知ろうとしてほしいですね」
「年齢を重ねるにつれて、自分が知らないものに対しては抵抗感が出るじゃないですか。でも知らないものが出てきても、怖がらずに一応知ろうと努力してみてください」
その世代にはLGBTQの人々がいなかったように感じるかもしれないが、言えなかっただけで確実に存在していたはずだ。
「やっと私たちの世代で言えるようになってきて、カムアウトできる人も増えてきたので、ぜひそれを妨害しないでほしいです」
新しいことを受け入れると、自分たちの価値観が否定されるように感じるかもしれない。
でも本当は、けっしてそうじゃない。
「私は自分が苦しんできたからこそ、下の世代には同じ思いをさせたくないって考える派なんです」
苦労や我慢を同じぶんだけ受け継がせたとて、何も解決はしない。
それを理解した上で、応援してほしい。
自分と似たリプレゼンテーションを探して
若い世代のクィアは、自分と似たようなリプレゼンテーションを見つけることが大事だと思う。
「でも日本語ではなかなか見つけられないのが難点だと思ってて・・・・・・」
「もしかしたら海外とかあんまり興味ない人もいるかもしれないけど、よかったら海外のアーティストや俳優、キャラクターで、自分と似たマイノリティ性を持つ人を探してみてほしいです」
自分と似たようなバックグラウンドを持つ人、好きになれる人。
そういう人を発見できたら、その人が自信を持って生きている姿を見るだけで、きっと励みになる。
「自分もこうやって胸張って生きていいんだって、なれるじゃないですか。でも見つけるのは難しいというのはわかっているので、私がその、クィアのリプレゼンテーションになりたいって思って、今生きてるんです」
かつて自分を嫌いだった時期もあった。
悩んだし、苦しんだし、ときには境遇を恨んだりもした。
でも、アメリカのコンテンツに登場するキャラクターを見て、自分を愛することを知った。
「今度は自分がそういう存在になりたいし、なっていくしかないですね」