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出会い系と精神の病に揺れた半生【後編】

出会い系と精神の病に揺れた半生【前編】はこちら

2019/05/21/Tue
Photo : Mayumi Suzuki  Text : Shintaro Makino
榎本 俊一 / Shunichi Enomoto

1984年、新潟県生まれ。小学校4年生のときに給食が原因で登校拒否に。中学2年生以降も登校することがあまりできなかった。引きこもりの状態でネットを見るうちにゲイの世界に興味を覚え、16歳で出会い系に足を踏み入れる。22歳で突然の錯乱、統合失調症と診断される。地域活動センターに通いながら、自立した生活を取り戻している。

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INDEX
01 一番仲が良かった、明るいお母さん
02 小4の登校拒否がつまずきの始まり
03 引きこもりが続いた中学の3年間
04 知らなかった世界への扉が開く
05 突然、目覚めたゲイへの興味と初体験
==================(後編)========================
06 ゲイを自認し、出会いを繰り返す
07 錯乱状態となり、精神病院に送られる
08 すべてを両親の前で吐き出した
09 初めてつき合ったイケメンの男
10 友だち、一人暮らし、そして、次のステップ

06ゲイを自認し、刹那的な出会いを繰り返す

弟へのカミングアウト

男性との関係に、たちまちのうちに魅了されたわけではなかった。

「むしろ、自己嫌悪を感じました」

心の底から自分を非難する声も聞こえた。しかし、次の出会いを求める欲望は抑え切れなかった。

「何度か繰り返すうちに、嫌悪感は消えていきました」

だんだん、欲望さえ満たせればいいと単純に思えるようになっていく。

「まだ若くてピチピチしていたので、掲示板に出せばすぐに反応がありました。そうするうちに、女性への興味がなくなっていって、男だけが対象になりました」

「彼女にも彼氏ができて・・・・・・。あまり会わなくなって、そのまま自然消滅しました」

自分は完全にゲイだ、と自認せざるを得なかった。

不安な気持ちを誰かに話したくなり、17歳のとき、弟にカミングアウトした。

受け入れてもらえるかと期待したが、「うえ〜、気持ちわる〜」と、顔をしかめられてしまった。

分かってもらえる相談相手は周囲にはいなかった。

自分の好みはイケメン

男性との出会いを繰り返していた。

今のように簡単に写真を交換できるわけではないので、自分のタイプではない人が現れることもある。

「実はイケメンが好みなんですよ。体型は気になりません(笑)」

好みでもない相手とでも関係をしていると、さすがに自分でも嫌になることがあった。

「迷ったり不安になったりしながら、なんとなく続けていました」

ほとんどが一度きりの関係だったが、特別な間柄になった相手もいた。

「会ってみないか、とチャットで誘われてゲーセンの前で待ち合わせをしたんですが、怖い感じの人で、マジで逃げようかと思いました」

周囲から様子をうかがいながら迷っていると、電話が鳴って「そこにいるんだろう」と詰め寄られた。

「逃げられないな、これは・・・・・・」と、観念した。

「不思議なもので、第一印象が悪かったその人とは、その後しばらく、会うことになりました」

07錯乱状態となり、精神病院に送られる

せっかく通い始めた定時制高校をドロップアウト

20歳になり、定時制高校に入学した。

このままでは、まともな就職もできない。実家にいれば楽だが、いつまでもこのままでいいのか、という疑問もあった。

「学校は楽しかったですね。バトミントン部に入って、久しぶりに運動もしました」

順調に思えた高校生活だったが、2年生に進級したとたんに、突然、やる気がなくなってしまった。

「原因は・・・・・・。何だったんでしょうね。自分でもよく分かりません」

「すべてが面倒になって、投げ出したくなってしまいました」

「どうするの? 学校、やめるの?」と、お母さんに聞かれ、「うん、やめようかな」と、答えた。

体から力が抜けたようで、何もやる気にならない。うつ状態に違いなかった。

「一度、精神科に行ってみる?」とお母さんに促されたが、「そこまではしなくていいよ」と、やんわりと断った。

突然、わけも分からず、全裸で走り回った

22歳のときだった。

「スーパーのアルバイトの面接を受けました。とてもよさそうな職場で、久しぶりにやる気がわいてきました」

それまでもコンビニや居酒屋でアルバイトの経験はあったが、どれも長続きはしなかった。せいぜい1週間も続けばいいほうだった。

「今度こそ、頑張るぞ、と気合を入れていました」

ところが、どうしたことか、バイトが決まった夜から、さっぱり眠れなくなってしまった。

そして・・・・・・。

「気がついたら、全裸になって、外を走り回っていたんです」

完全な錯乱状態だった。
すぐに警察に取り押さえられ、連行されて取り調べを受けた。

「そのまま、長岡の精神病院に送られました」

長年の間に溜まった精神的な鬱屈が、アルバイトが決まった緊張によって噴き出したのだろう。

お父さん、お母さん、弟が病院に駆けつけてくれた。

「家族の顔を見たら、少し落ち着きました」

しかし、家に連れて帰ってもらえるわけではなかった。

しばらく閉鎖病棟へ入院することが決まる。

08すべてを両親の前で吐き出した

告白することですっきりとした

入院中のカウンセリングでは、両親の前ですべてを吐露することになった。

「ネットで知り合った男性と会ったこと。その人たちと体の関係を持ったことなど、すべてを話しました」

想像できないほど辛い体験だったが、すべてを告白したことで、胸の中はすっきりと軽くなった。

「ああ、言えた。ほっとした、という感じでした」

お母さんにだけは、何が何でも隠し通すつもりだった。そんな硬い気持ちが知らないうちに、大きなプレッシャーになっていたのだろう。

「ふたりは、ぼくが話している間、じっと黙って聞いていました」

薬の効果とカウンセリングで、次第に落ち着きを取り戻した。

「初めのうちは辛かったですね。被害妄想や幻覚もありました」

3カ月の入院後、ようやく自宅に戻る許可が下りた。

統合失調症と病名がつく

家に帰ると、自分の部屋がきれいに整理整頓されていた。

「人に知られたくないことを日記に書いていたんですが、それもすべて読まれていました」

「バレた、完全にバレた。そんな絶望的な気持ちでした」

病状を考えれば仕方のないことだったのかもしれないが、両親の前で告白をしたとはいえ、部屋の中をすべて点検されたことは、大きなショックだった。

もうひとつ、ショックだったのは、入院中に病名がついたことだった。

「統合失調症と診断されました。病名がつくということは、精神障害者ということですからね」

「最初は受け入れられませんでした」

二度と後戻りできないレッテルのように感じたのだった。

地域活動支援センターで生活を取り戻す

退院してからもしばらくは、強い薬に頼っている状態だった。

「薬を飲まないと、まったく眠れませんでした」

薬を飲んで寝て、起きて食事をして、また薬を飲む。そんな生活が1年ほど続いた。

「症状が落ち着いてから、地域活動支援センターに通うことにしました」

センターでは、障害者の人たちと一緒にテープ張りなどの軽作業に従事した。

「2カ所目にお世話になった施設の人とはうまくやっていけました。居心地がよくて、頻繁に通うようになりました」

ある身体障害をもつ先輩が、「彼女、いないの?」と話しかけてくれた。

面倒だなと思いながらも、「ゲイなんですよ」と軽くカムアウトすると、「へえ、そうなの」と気安く受け入れてくれた。

「話しやすそうな人には、言ってしまった方が楽だな、と気がつきました」

それ以来、人間関係で悩むことはなくなっていく。

お母さんは、そんな姿を見て、言葉で励ますよりも温かく見守ってくれた。

「病気になって辛かったことを知っていますから、気を使ってくれたんでしょうね」

こうして寝たきりに近い状態から、徐々に立ち直っていった。

09初めてつき合ったイケメンの男

パンやそばを作る協同作業

地域活動支援センターでは、パンやそばを作る作業にも参加した。

「発達障害の人がパンをこねて、精神障害や身体障害の人がパンを焼く、というような協同作業でした」

できたパンは市役所の売店などに置いてもらうことが多かった。

「打ったそばを出張販売といって、ほかの施設に売りにいくこともありました」

成果が上がるとうれしいものだ。

「ほかの利用者の人たちと、一緒に仕事をするうちに気持ちも楽になりました。もらえるお金はちょっぴりですけどね(笑)」

周りの人たちにも支えられて、次第に普通の生活ができるまでになった。

デートをする相手ができた

病気で苦しんでいるときはそれどころではなかったが、日常生活が安定すると、再び掲示板やチャットが気になった。

「病気の絶望に中にいたときは、もう、どうでもいいや、と思っていたんですけどね」

以前のように出会い系に復帰。しばらくしてある男性に巡り合った。

「ぼくが26、7歳のときですね。その人は34歳で、好みのイケメンタイプでした」

独身でマンション住まい。
食事や映画など、今までに経験のないデートをする関係になった。

初めてつき合った人、といってもいい。

「彼のマンションにも泊まりにいきました。一緒にいて楽しかったですね」

「でも、好きだったか、と聞かれると、多分そうだったんだろうなぁ、という感じです」

はっきりとパートナーと呼べる相手ではなかった。

そうこうするうちに、彼が故郷の宮崎に帰ることになってしまった。

関係が終わるときも、それほどの悲しさはなかった。

姉の励ましに助けられた

病気から立ち直る過程で助けてくれたのが、お姉ちゃんだった。

「その頃、最初に結婚した相手と離婚し、娘を連れて実家に戻っていました」

「お姉ちゃんは、ぼくがゲイであることを理解してくれました」

お母さんもお父さんも、真っ向から否定はしないが、受け入れてくれたとはいえなかった。

弟も既成事実として認めているだけだった。

「よく『大丈夫だよ』と、声をかけてくれました。それがとてもうれしかったですね」

面と向かっていうのが照れ臭いのか、隣の部屋にいてもラインのメッセージで励ましてくれることもあった。

「お姉ちゃんは、大きな存在でした。本当に感謝しています」

10友だち、一人暮らし、そして、次のステップ

ヘルパーの資格を取って活躍

地域支援センターに通いながら、27歳のときにホームヘルパーの資格を取った。

「センターの理事長に勧められて資格を取りました。訪問介護のヘルパーとして、障害者の家にいって、いろいろな手伝いや支援をするようになりました」

最初は不安だったが、慣れてくると打ち込めるようになった。

「利用者のつき添いで一緒に映画にいくこともありました。2年くらい続けましたね」

ところが、仕事ができるようになると、次第に忙しくなる。

「薬を飲むと眠くなるので、仕事があるときは薬を飲まずに働いていました」

だんだん、疲れが溜まるようになった。

医者に相談をすると、「それは無理をしすぎだ。やめた方がいい」とドクターストップがかかってしまった。

「しばらく休んで体調もよくなったので、春から元の施設長が立ち上げる保育所を手伝うことになりました」

経験を生かして、負担にならない範囲で頑張ろうと思っている。

ラインを通じて同じ境遇の友人ができた

最近、ラインを通じて、ふたりの友人と知り合うことができた。

「ふたりとも統合失調症でゲイなんです。一人は埼玉、もう一人は兵庫に住んでいます」

同じ悩みを持つ人とは、心を開いて情報を交換することができる。

「埼玉の人とは、何度か会ったことがあります。直接会って話をすると、人柄もよく分かるし、楽しいですね」

お姉ちゃんが再婚をして埼玉に住んでいる関係で、会う機会が作りやすいのだ。

「兵庫の友だちとは、まだ会ったことがありません。でも、今度ノートパソコンを譲ってくれるというので、近いうちに会うチャンスがあるかもしれません」

直接、会うことができれば、お互いに理解も深まるだろう。

「年を取ったら、シェアルームで一緒に暮らそうか、なんて三人で相談しています。まだ、だいぶ先のことですけどね(笑)」

快適な一人暮らし

4年ほど前から実家を出て、一人暮らしをしている。

「弟が離婚をして実家に戻ってきたので、部屋が足りなくなったんですよ。弟は、工場に勤めながら、パチンコに打ち込んでいます(笑)」

ちょうど支援センターからも、自立した生活をしたほうがいい、と勧められていたタイミングだった。

「実家から車で15分くらいのところにアパートを借りています。一人暮らしはなかなか快適です」

それまでは縁のなかった自炊もしている。

「料理って楽しいですね。圧力釜を買って、いろいろなメニューにチャレンジしています」

得意料理は青椒肉絲。中1と小2のふたりの姪っ子に作ってあげると、喜んでくれる。

「ママより美味しい! なんて、褒められることもありますよ(笑)」

何事も、褒められるとやる気が出るものだ。

今回、LGBTERに応募したのは、ツイッターで記事を見たからだ。

「統合失調症でゲイの人の記事が目に止まりました」

やはり、同じ境遇の人のことは気になる。

「新潟にもこういう人間がいることを知ってもらえたらと思っています。理解してくれる人が増えたら、本当に嬉しいですね」

記事が出ることで、自分を含めたみんなの勇気につながればいい。
それが願いでもある。

あとがき
過去になってないエピソードにも笑いが添えられた。俊一さんは憂いがなくて、朗らか。それは、メールのやり取りでも同じだ。交流していると、すっと力が抜ける■人生の目標を聞かれて困ることはないか? [やってみたいことを、ふんわり考えて行動してみる]。人生は長いのに、人はなぜ急いだり、焦ったりするのか? [あらゆるシーンにおいてゴールはあるし、何度でもスタートがある]。すこし楽になれる生き方。俊一さんから伝わり、感じたこと。(編集部)

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