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教員でゲイ。当事者の僕だから目指せる、子どもが輝ける社会。【前編】

男だけど男が好きだ。イジメが怖くて、友達や親、先生にも言えなかった本心。しかし悩みの日々や決意のカミングアウトを経て、恋愛の楽しさを知り、幼いころからの憧れ、教職にも就けた。夢が叶って思う、ゲイである僕が教師として社会にできることは何か、と。”シゲ先生” が再び人生の一歩を踏み出す、その理由を探ってみたい。

2016/10/23/Sun
Photo : Taku Katayama  Text : Koji Okano
鈴木 茂義 / Shigeyoshi Suzuki

1978年、茨城県生まれ。大学の教育学部で障がい児教育を専攻したのち、東京都の小学校教員に。今年3月、足立区の小学校で自らが担任する6年生のクラスを送り出して、自らも卒業、職を辞した。今は東京都区立小学校の情緒障害等通級指導学級で発達障がいの児童を担当する。教員として、セクシュアルマイノリティとして、LGBT当事者以外の子どもへの啓発活動の必要性を感じ、そこを軸に児童のキャリア教育の可能性も探りたいと考えている。

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INDEX
01 どうしてこんな両親なのか
02 男の子も女の子も好き
03 将来につながる先生との出会い
04 友情と恋愛感情の狭間で
05 男同士で、どう愛し合えばいい
==================(後編)========================
06 旅立ちのカミングアウト
07 憧れの小学校教員になって
08 やっと掴んだ愛の手触り
09 知らぬ間に家族はひとつになっていた
10 教員として、僕だからできることを

01どうしてこんな両親なのか

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憧れのお兄ちゃん

すでに小学校1年生の頃には、自分は周りとは違う、ゲイかもしれないという思いを胸に秘めていた。

「近所の年上のお兄ちゃんのことが好きで、行くところ行くところ、付いて行っていました。とにかく近づきたいから、身体が密着するくらい、そばに寄ってしまうんです」

「そのお兄ちゃんは『くっ付くなよ!!』と、いつも嫌がっていました。でもくっ付くのを絶対にやめなかったんです(笑)」

「まだゲイ、という言葉は知らなかったけれど、周りの男の子とは違うんだろうな、という自覚はありました」

自分は4人兄弟の一番上だった。実際にはいない兄を求める気持ちが、初恋を生んだのかもしれない。

「けれども小さい頃の最大の関心事は、我が家が抱える貧困の問題でした。4人の子供を抱えているのに、父がほとんど、家庭にお金を入れてくれなかったんです」

「今月の給食費を払えるかどうかも心配で、とても初恋に浸っている余裕はありませんでした」

親を交換してほしい

父は地元のレストラン(ゴルフ場)でコックとして働いていた。

怠けることなく、きちんと毎日勤める人ではあったが、無類の酒好きで、給料も手取りの半分しか家には入れてくれなかった。

「うちは4人兄弟。2つ下の妹、3つ下の弟、5つ下の妹がいました。父が家に入れるお金だけではとてもやっていけないので、僕が小学校に上がる頃から、母はスナックでホステスの仕事をするようになりました。ママのサポートで、お酒を作るような業務です」

父は酒好きで夜も家にほとんどいないうえ、亭主関白なところもあって、家事を担う母を労うこともなかった。

「兄弟の中で年長の僕に、いつも母は父の愚痴をこぼしていました。家にお金を入れてくれない、感謝の言葉もかけてくれない、と言いながら。離婚してやると言うのも、聞いたことがあります」

そんな母も、家庭での不満、仕事の苦労もあってか、大酒を飲んで仕事から帰ってくるようになった。

またストレス発散で、パチンコにものめり込んでしまった。

「元々、お金がない家なのに、両親とも、どんどん経済観念が崩壊していきました。子どもの将来のために貯金をするなんて考えが、一切できない親なんです」

「酒飲むな、ちゃんとして、給食費を払ってくれ。泣きじゃくりながら、主張しました。毎日、毎月、この繰り返しなんです。本当に困った親だ、交換して欲しいって、いつも心から思っていました」

02男の子も女の子も好き

母は危険物?

困った家庭環境は、小学校の同級生にも知れ渡っていた。

父親は外面が良かったため、その点では問題なかったが、母親は仕事で飲んだ後、酔っぱらったまま子供会の集まりに行くことが多かったからだ。

「夏休みの登校班で、通学路の危険な場所について話し合ったとき、同級生が『シゲの母ちゃんが危険地帯!』と言って、からかい始めたんです。少し変わり者の僕の母は、子どもの目にも異様に映ったんでしょうね」

ご飯はきちんと食べさせてくれた。でも洗濯は、自分でせねばならなかった。

小学校も高学年になると、授業で使う教材費に修学旅行費の積立てと、必要なお金も増えてくる。

「両親を嫌だと思いながらも、やっぱり長男として、しっかりしなきゃという責任感もあって。でも家で利口に振る舞ったところで、お金は湧いてこない。だから親に頼むけど、ないお金は払えないと言われるし」

そんな時、いろいろ世話を焼いてくれたのが、学校の先生だった。
自分を取り巻く環境を察して、家庭訪問の時には親を叱ってくれたのだ。

ないないと言いながら、親がずっと教育にかかる費用を工面してくれたのは、この先生たちの存在が大きかった。

自分が教師になったのは、今まで出会ってきた先生への憧れが原点なのかもしれない。

天国と地獄

こじれた家庭環境は、当時の人格の形成にも影響を与えていたかもしれない。

「友達付き合いを構築するのが苦手でした。勉強は誰よりできたけど、運動はそこそこ。成績が良かったので、学級委員をやるようなタイプだった」

「でも、周りの男子から見たら、先生の前でいい子ぶってる奴に見えて、面白くなかったみたいで」

「小学生の時って、とにかく運動のできる子がヒエラルキーの最上階だったりするじゃないですか。そういう子たちと、とにかく友達になりたかった」

「『俺、ファミコン持ってるぜ』って、嘘をついたりして。持っていないものを持っているって言ってしまう、小さな嘘をつく子どもでした。でもすぐにバレて、友達にはなってもらえないんですけど」

小さな嘘を重ねるのは、自分の家庭が豊かではない、その事実を隠したかったからでもあった。

「小学校高学年の自分はヒエラルキーでいうと3軍、みそっかすでした。でも同じクラスのスポーツ万能の子が好きだったので、体育でサッカーをやるときには同じチームになれたらいいな、って常に切望していました」

一方で、6年生のとき、好きな女の子もできた。

黒髪と透き通るような白い肌が印象的な子で、家は開業医というお嬢様だった。

「体育の準備運動で前屈から後屈に移るとき、のけ反りながら目で彼女を探して、見つめていました。面と向かって見るわけにはいかないから。授業中も盗み見るように、彼女の横顔を眺めていました」

ある日、彼女の親友から「音楽準備室に来てって言ってる!」と呼び出しを受けた。

「わっ、告白されるのか!」と胸を高ぶらせ、向かってみると。

「『気持ち悪いから、ジロジロ私のこと見ないで』と言われました。まるで天国から地獄へ突き落とされたようでした」

こうして女性への初恋は終わりを告げた。

03将来につながる先生との出会い

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続くお金の悩み

中学生になった。

引き続き、家庭の問題が学校生活にも影を落とす。

「いつまで経っても、父の金遣いの荒さは治りませんでした。母もスナックで働いてはいるけれど、経済的になかなか安定しない。家族6人の生活費も必要ですが、住宅ローンも残っていました」

「この頃から、サラ金の取り立ての電話が頻繁に掛かってくるようになりました」

中学校の悩みも、毎月の給食費だ。それに修学旅行の積立金。加えて、高校受験を意識して、滑り止め校の受験費や、入学後の学費など、悩みは尽きなかった。

「卓球部に入ったんですけど、練習試合に行くための電車賃をどうやって母から出させるか、というのにも心を痛めました。機嫌のいいときに頼んで、貰うんですけど。もうどうしようもないときは、財布からこそっと抜いたこともあります」

反抗期に入ったので、きちんとしない両親に、なおさら強く更生を迫るようになった。

しかし一方で、妹や弟に心配をかけたくないと、大人然としようとしたこともある。

「両親が親らしくないから、僕が家の中で、お父さんみたいな存在でした」

教師になろう

苦悩の中学時代。

手を差し伸べてくれたのは、やはり先生だった。

「小学校は1学年1クラスしかなかったんですけど、中学は1学年7クラスになって。そこでも勉強の成績はトップクラス。家庭環境は大変だったけど、その自信で己を奮い立たせて、毎日を過ごしていました」

「教師の言うこともよく聞く、いわゆる優等生タイプだったので、先生も可愛がってくれました。僕の家庭のことも、ひどく心配してくれて」

そのなかに若い理科の先生がいた。

まだ教師になり立てで正義心が強く、元気でやんちゃな雰囲気もあり、女子バスケ部の顧問でもあった。

「家庭の悩みを持ち出したら、親身に心配してくれて。それならうちの実家から学校に通え、と言われました。もちろんそれは叶いませんでたけど、言われた時はドキドキしました」

実はその先生に恋をしていた。

ピチピチのジャージを履いていることが多かったので、ついつい股間にばかり、目がいってしまった。

よこしまな気持ちはさておき、将来、教師を目指そうという思いが確信に変わったのは、この頃だ。

この先生のような、子供おもいの教員になりたい、と。

04友情と恋愛感情の狭間で

なけなしの4万

「高校受験が近づいてくると、塾に行く同級生が増えてきます。成績は良かったので必要もなかったのですが、どうしても行きたかったんです」

「好きな男の子が通っていたから(笑)」

爽やかでカッコいい2人組。

彼らと、どうしても一緒に塾の夏期講習に行きたくて、親に4万円をせがんだ。

母は初めから相手にしてくれなかったが、珍しく頑なに主張するので、根負け。1万円を4枚、投げつけるように渡してくれた。

「夏期講習の間は、行き帰りの自転車で2人と話せるのが、本当に嬉しくて。そのうちのひとりのことが本当に好きだったんです。背は低いんですが運動部のキャプテンで、優しくて人望も厚くて、おまけに成績もいい」

「彼に彼女がいるのかどうかが同級生の間で話題になるくらい、もうヒエラルキーの頂点、超のつく人気者でした」

もうひとりの男の子は、のちにある同級生の女の子と付き合うことになる。

「実は当時、僕はその女の子のことも好きで。3回告白したけど、ダメでした。一時期、僕と彼と彼女は、友達公認の三角関係だったんです」

「彼女のことは好きだったけれど、やっぱり性的な魅力を感じるのは男性に対してでした。ゲイという言葉は、とんねるずの『保毛尾田保毛男』で知っていたけど、まだ自分がそれだとは確信していませんでしたね」

2人だけの秘密

夏期講習を境に、爽やかあでカッコよく成績もいい彼との仲はどんどん深まっていった。

「もちろん外見も素敵でしたが、彼は成績も頭も良かったので。高校受験の向こう側、将来の話もできるのがとても楽しかったです。人気者の彼と深い話ができるのは自分だけ、と優越感に浸っていました」

そして、彼から「好きな人がいる」と打ち明けられた。

「普通なら相手に嫉妬するところですが、打ち明けられたことが嬉しかったんです。これは僕と彼だけの秘密だって、そこでも得意げになってしまって」

「ただただ彼と親友になれたのが、嬉しかったんです」

のちに彼にも「彼女」ができるが、やはり燃えたぎるような嫉妬はなかった。

この頃はまだ、自らの性は揺らぎの期間なのかもしれなかった。

05男同士で、どう愛し合えばいい?

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初の特待生

高校は自分の希望ではなく、家の経済状況を考えて選んだ。

「県立高校の授業料を払うのも、今の両親にはしんどいんじゃないか、と思ったんです。自分の成績よりランクを落としてでも、私立高校の特待生を選びました。学費が一切かからない代わりに、大学進学で実績を残すのが条件でした」

「実は進学先の高校に、そういう制度はなかったんです。中学の先生が僕のことを心配して、高校側に相談してくれて叶ったことです」

自分が困った時には、いつも学校の先生が「シゲのことをなんとかしないと」と動いてくれた。

今もそのことに、心から感謝している。

高校入学と同時にアルバイトを始めた。

初めてもらった給料で買ったのは布団。

「まずは清潔な環境に身を置きたい。とにかく寝具くらいは取り替えて、きちんと生活をリセットしたいとと思いました」

楽しさと迷いと

「高校生になる頃には、母もスナックの仕事を辞めて、夜は家にいるようになりました。仲は悪いけど、両親が一緒に時間を過ごすことが多くなりました」

自分もバイトするようになって、自由に使えるお金ができた。

学校帰りに友達とゲームセンターに行ったり、お好み焼きを一緒に食べたり。
やっと手に入れることができた、学生らしい放課後だ。

「おまけに男子校だったんで、ウホウホでしたよ(笑)。といっても、ヤンキー高校と評判の学校だったので、あまり話の合う人はいませんでしたが」

しかし好きな男子が現れた。

おしゃれで爽やか、勉強もできる同級生だ。

「彼も成績が良くて、将来の話ができて楽しかったんです。おしゃれな人だったんで、休みの日に原宿に買い物にでも行けたら楽しかったんでしょうけど、当時はまだ土曜も学校があって。日曜は毎週、僕がラーメン屋でバイトをしていたので、遠出することは叶いませんでした」

土曜の午後に、よくお好み焼きを一緒に食べに行った。

しかし、好きだと思いを伝えることは、やはりできなかった。

「自分の恋愛感情が普通ではない、ということはもう分かっていました。だから彼や周りの反応が怖くて言えなかったんです」

男子校ならでは、休み時間にこっそり同級生からエロビデオが回ってきた。

家で再生して、巨乳の女優ではなく、筋肉質な男優の動きを凝視した。

一方、同級生に彼女ができた、童貞を喪失したという話を聞かされるたび、「女の子と交われるのが羨ましい」とも思った。

「ならば男同士なら、どう愛し合えばいいのだろう。そんなことも考えていました」

迷いの多かった高校生時代。

卒業のときは迫っていた。

 

<<<後編 2016/10/26/Wed>>>
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09 知らぬ間に家族はひとつになっていた
10 教員として、僕だからできることを

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