INTERVIEW
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私はクエスチョニング。自信を持って「わからない」と言えるから。【前編】

LGBTQの存在を知ったとき、自分を枠に当てはめようと必死だった。でも、クエスチョニングだとわかった途端、枠なんてどうでもよくなったと笑う桜さん。セクシュアリティで揺れている人に、自分みたいな人がいるんだよって知ってほしい。少しでも安心してもらいたい。そんな思いから、LGBTERに応募した。

2020/11/27/Fri
Photo : Rina Kawabata Text : Shinichi Hoshino
久保田 桜 / Sakura Kubota

1998年、宮城県生まれ。セクシュアリティはクエスチョニング。幼少期、両親の離婚により新潟県へ移住し、小学生時代はひいおばあちゃん、ひいおじいちゃんと過ごす。現在は東京で防火管理の仕事をしながら、ブラジル国籍の女性と一緒に住んでいる。近いうち、彼女を連れて新潟を訪れ、育ての親であるひいおばあちゃんにセクシュアルマイノリティであることを告げる予定だ。

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INDEX
01 夢だった消防の仕事
02 こういうのを「好き」って言うのかな
03 育ての親はひいおばあちゃん
04 おとなしいけど怒ると怖いキャラ
05 「好き」ってわからない
==================(後編)========================
06 恋愛というイベントは先のこと
07 絡まったモヤモヤは自分に向かった
08 私はストレートじゃない
09 クエスチョニングってそういうことか!
10 セクシュアリティで迷っている人に安心を

01夢だった消防の仕事

18歳で夢を叶える

保育園のときに抱いた将来の夢は、「消防」の仕事。
高校卒業と同時に、地域の消防団に入って夢を叶えた。

現在は防火管理の会社に就職し、仕事に精を出す日々だ。

「テナントさんがきちんと防災管理をできているかチェックする仕事です」

防火管理の業務は、建物の種類や面積、構造などによってルールが変わる。

消防法を中心に覚えることは山積みだ。

「入社してまだ3ヶ月なので、頭が破裂しそうです(笑)。もともと頭のできが悪いから、毎日が大変で・・・・・・(苦笑)」

だが、努力の甲斐あって防火管理者の資格を取得。

次は消防整備士の資格取得を目指し、日々勉強だ。

紅一点の消防団員

保育園のとき「仕事体験」の一環で消防団の人や消防署の人が保育園にやって来た。

そのなかに、一人だけ女性の消防団員がいた。

「制服をビシッと着こなしていて、背筋が伸びていて、とにかくかっこよかったんです」

絵本のなかの消防士は、決まって男の人だった。
だから、紅一点の女性に目を奪われた。

子どもながらに、固定概念を壊されたような体験になる。

「私も、ああいうふうになりたい」

その日から、消防の仕事が憧れになった。

受験失敗、即、消防団

高校を卒業したら、すぐに消防団に入りたかった。

ちょうど祖母が地域の消防団の部長をしていたので、「消防団に入りたいんだけど」とかけ合う。

だが、大学受験の時期だったので祖母の返事は条件付き。

「大学に落ちたらウチの団に入りなさい」

幸か不幸か、大学不合格が決まると同時に消防団への入団届が受理された。

「変なかたちで夢が叶いましたね(笑)」

消防団は火事が起きたとき、消防署が到着する前の消火活動をおこなうのが主な役割。

万が一のとき、人々の安全を守るのがミッションだ。

「消防団の仕事は、やりがいがあります。新しいことを覚えるのが苦手ですけど(苦笑)」

だが、入団して3年ほど経った今、だんだんと知識もついてきた。

「いまだに勉強中ですが、すごくいい経験ができていると思います」

02こういうのを「好き」って言うのかな

初めての交際、そして同棲

今の彼女は、二十歳のときに初めて付き合った人。

年齢は3つ上。ブラジル国籍のレズビアンだ。

二人の出会いは、思わぬ偶然が重なった。

初めて会ったのは、新宿二丁目のレズビアンバー。

二丁目は、以前からたまに訪れる場所だ。

「セクシュアリティについて不安定な状態だったとき、自分探しの旅みたいな感じで行き始めました」

その日は初めてのお店で、お客さんは常連さんばかり。

「場違い感もあったし、一杯飲んだらすぐに帰ろうと思ってました」

そのとき、彼女が入ってきて隣に座った。当たり障りのない話から、ある同人イベントの話に。

もしかして、あのイベント?
どこにいた?
西ホールのどのへん?
何時頃?

「実は私たちは、同じイベントですれ違っていたことがわかったんです」

同じ日、同じ時間、同じ場所にいたという偶然から、話はどんどん盛り上がる。
何件かはしごして、結局、終電まで一緒に過ごした。

後日連絡がきて再開し、2週間後くらいに告白された。

「好きって気持ちはわからなかったけど、付き合うことにしました」

「初めて会った人で、また会いたいなって思ったのは彼女が初めてだったので」

レズビアンとは思わない

とはいえ、告白されたのも初めてなら、付き合うのも初めてだ。

「ところで、何をすればいいんだろう? って(笑)」

“ 告白された 対処法 ”
“ 告白された どうする ”
“ 付き合う 初めて ”

ネットでひたすら調べたが、彼女の対応は想定外のものばかり。

「Yahoo! 知恵袋が全然役に立たないという・・・・・・(苦笑)」

現在、交際1年半になる。

今年に入ってから同棲をスタートした。

学生時代、ずっとわからなかった「好き」という感情が、少しずつわかってきた気がしている。

家に帰って「ただいま」と言えば、「おかえり」が帰ってくる。

「それがすごく嬉しくて、恋愛ってこういうものなんだなって」

気づいたら、ニヤニヤしている自分がいる。

結果的に、初めて付き合ったのは女性だった。
だが、自分がレズビアンだとは思わない。

「あなたはレズビアンですか? って聞かれて、はいそうです! って言える感じがしないんです」

以前、バイセクシュアルの女性向けのパーティーに参加したことがある。

「そこに行ったとき、完全に女性が好きって言える人間じゃないなって思いました」

男の人を好きになる可能性は? と聞かれたら、ゼロだと言い切る自信もない。

一方で、「あなたはクエスチョニングですか?」と聞かれれば、今は自信を持ってイエスと言える。

03育ての親はひいおばあちゃん

新潟でひいおばあちゃんに育てられる

生まれは宮城県だが、2歳のとき、両親の離婚をきっかけに新潟へ移住する。

新潟は母方の実家だったが、お母さんは出稼ぎのため東京に行くことに。それから、妹とひいおばあちゃん、ひいおじいちゃんとの暮らしが始まった。

親代わりになって幼い姉妹を育ててくれたのは、ひいおばあちゃんだった。

「食事中は肘をついて食べるなとか、テレビを見ながら食べるなとか、よく怒られてましたね」

「怒られて私がごねたりすると、なぜかひいおばあちゃんは黙って家を出ていくんです」

ひ孫に出ていけと言わず、自ら出ていくのは「作戦」だったのかもしれない。
ひいおばあちゃんが出ていって、一人取り残されるといつも不安な気持ちになった。

「それが嫌で、ごめんなさい!もうしません! って謝るんです(笑)」

ひいおばあちゃんは、「とにかくパワフルな人」。

今は離れて暮らしているが、ときどき電話がかかってくる。

「何してるんだ? ちゃんと飯食ってるか? 真面目に仕事してるか? って」

一気にまくしたてられ、電話越しにも圧倒される。

「いまだに、ひいおばあちゃんには勝てる気がしませんね(笑)」

今も昔も、絵を描くのが好き

保育園では、みんなで近所の広場で走り回ったり、木に登ったりして遊ぶ日々。
ちょっとがんばって丘を越えれば、海まで行くこともできた。

当時、忘れられない出来事がある。

隠れ鬼をしていたとき、跳び箱の中に隠れた。

鬼に見つかってしまい、跳び箱から出ようと立ち上がったそのとき・・・・・・

「跳び箱の屋根から出ていた釘が頭に刺さる」という大惨事に見舞われる。

頭から血が流れ落ちる。

「すごく痛かったですね(泣)」

「今でもたまに思い出すくらいトラウマになってます・・・・・・」

そんな「武勇伝」を持ってはいるが、決して腕白な子ではなく、どちらかと言えばおとなしい子だった。

好きだったのは、一人で絵を描く時間。

「保育園では、いつも自由帳に好きなものを描いていました」

犬や花、友だちがトランポリンを遊んでいる様子など、周りの人や物をとにかく描いた。

「新潟に帰ると昔の絵が出てきて、下手くそだなって思います(笑)」

今でも、絵を描くのが好きなのは変わっていない。

04おとなしいけど怒ると怖いキャラ

好きなテレビ番組は「水戸黄門」

小学校に入学してからは、多くの時間を家の中で過ごすようになる。

これといった理由はなかったが、運動するのが嫌になってほとんど外で遊ばなくなった。

「運動会のリレーの練習とか、泣きながら走ってたのを覚えてます」

学校にいるときも、一人で過ごす時間が増えた。

休み時間はひたすら本を読み、黙々と絵を描く。
本のなかでも図鑑が大好きだった。

「犬も猫も、虫も魚も、とにかくいろんな図鑑を借りてきて、ずっと読みあさってました」

片っ端から図鑑を見て、気に入ったものがあれば鉛筆で真似して描いた。

家にいるときはよくテレビを見ていたが、「芸能人を見てキャー!」という感じではない。

「警察24時とかアンビリーバボーが好きで、よく妹とリモコン戦争をしてました」

「でも、いちばん好きだったのは水戸黄門です(笑)」

もちろん、学校で「昨日、水戸黄門見た?」とは友だちに聞けない。

渋い番組を好んだ一方で、子どもが見るアニメもチェックしていた。

「男子とはスーパー戦隊、女子とはプリキュアというように、話を合わせることはできました」

正反対の妹との変わった関係

妹とは、昔も今も仲良しだ。

小学校のときも、家ではいつも妹と遊んでいた。

「一緒にこたつに潜って、ひいおばあちゃんの足をくすぐったりしてましたね」

しかし、学校で会う妹は別人だ。

「妹が友だちと一緒にいるときに、私とすれ違っても他人のフリをするんです。家では話すけど、学校では絶対に話しかけないでね、っていう感じでした」

妹は昔から友だちが多く、活発なキャラクター。

「最新事情に敏感なパリピで、私より全然明るい子です。一方で、姉の私は友だちが少なく、いつも一人でいるような暗い子でした」

妹には妹のポジションがあったのかもしれない。

「学校では、私の存在を消したかったんでしょうね」

ルール無視で男子トイレへ突入

基本的には、おとなしい小学生だった。

一方で、周囲には「怒ると怖いタイプ」と映っていたかもしれない。
思い当たるフシがないわけではない。

「当時、ちょっとしたイジりがあって、男子に鉛筆を取られたりしてました」

普段は、鉛筆を取られても何とも思わなかった。

しかし、絵を描いているときに取られたときはカチンときて、全力で追いかけた。

「当時、男子トイレに逃げ込めば女子は入ってこれないっていう、謎の無敵ルールがあったじゃないですか」

鉛筆を持ってトイレに逃げ込んだ男子に、「返してほしかったら入ってこいよ」と挑発される。

「私はそのまま男子トイレに入っていって、もう絶対やるな! って取り返したんです」

その一件以来、「怒らせると怖い」というイメージがついて、イジりもなくなった。

「結果的に、一人で好きなことができるようになって良かったと思いましたけどね(笑)」

05 「好き」ってわからない

算数で挫折した優等生

低学年の頃の成績はいつも100点の優等生。

しかし、3年生で大きくつまずく。立ちはだかったのは、算数の「時計の問題」だ。

「何時何分に家を出て、後から出発した子が何分後に追い抜くでしょう? みたいなのです」

「なんで、わざわざ追い抜くんだよって(笑)」

そこから徐々に成績は下がり、円周率で観念した。

「もういいやって、あきらめました(苦笑)」

その後は、興味のある科目にしか目が向かなくなる。

いちばん好きだったのは図工だ。

「たまに2時間通しの制作時間があったんですが、そのときはやったー! って」

「図工室に一番乗りして、ずっと絵を描いてました」

市のコンクールで金賞や優秀賞をもらったこともある。ひいおばあちゃんは、そのたびに壁に絵を飾ってくれた。

お母さんがいないのが当たり前

通信簿は決まって「静かでおとなしい子」という評価。

お母さんと一緒に暮らしていないことを除けば、普通の小学生だった。
お母さんと会うのは、GWや夏休み、冬休みだけだったが、寂しいと思うことはなかった。

「親と一緒に行く遠足のとき、私の場合はひいおばあちゃんが来てました」

「でも、ひいおばあちゃんだから長距離は歩けないですよね。だから、ひいおばあちゃんはバスの中で待ってて、私は先生と一緒でした」

そんなとき、少しだけ他の子を「うらやましい」と思った。

「でも、昔からお母さんが近くにいないのが当たり前だったので、あまり気にすることはありませんでしたね」

恋バナに加われない自分

高学年にもなれば、まわりの女子は好きなアイドルの話に夢中だ。

「私は芸能に興味がなかったので、全然わからなかったんです」

みんなの話から、「たぶんこういうアイドルが人気なんだろうな」とアタリをつけた。

「私は松潤が気になるかなって、話を合わせてました」

修学旅行の夜は、もう少し突っ込んだトークになる。

「クラスで誰が好き? って話になるじゃないですか」

「まわりは 『◯◯くんが好き』 『◯◯くんが気になる』 って盛り上がるんですけど、、私は男子を好きだと思ったことはありません」

むしろ、多くの男子はうざい存在。

「桜ちゃんはどうなの? って聞かれたら、今のところいないかなって答えてました」

まわりでは、恋バナに花が咲く。

「でも、私は好きっていう感情がわかりませんでした」

<<<後編 2020/12/01/Tue>>>
INDEX

06 恋愛というイベントは先のこと
07 絡まったモヤモヤは自分に向かった
08 私はストレートじゃない
09 クエスチョニングってそういうことか!
10 セクシュアリティで迷っている人に安心を

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