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FTMにも色々なカタチがある。人の数だけあるストーリーに目を向けたい【前編】

少年らしさが残る、爽やかな笑顔が印象的な久川凌生さん。自身のセクシュアリティに気づいたのは20歳を過ぎてから。「自分と同じだ」と思えるLGBT当事者の声を求めて、ネット記事を読みあさったという。悩み続けた末に手に入れたのは、自分が心地いいと思える関係性。他人に寄りかからず、しかし固く結び合うことで強くなれることを、久川さんはもう知っている。

2021/01/09/Sat
Photo : Tomoki Suzuki Text : Sui Toya
久川 凌生 / Ryo Hisagawa

1994年、大阪府生まれ。愛称は「きゅうちゃん」。大学2年生のとき短期留学に行き、同じ留学生の女の子を好きになる。自分のセクシュアリティに悩み始め、帰国してからジェンダーの授業やセクシュアルマイノリティサークルに参加。多くのLGBT当事者と関わる中で、自分らしさを表現する大切さを知った。現在、教育関係の仕事をしている。「教えること」「発信すること」を軸に、悩んだ過去を活かせる仕事をしていきたいと考えている。

USERS LOVED LOVE IT! 4
INDEX
01 21歳の夏休み
02 男女の線引き
03 心と体の変化
04 理想の青春
05 かみ合わない親子関係
==================(後編)========================
06 大学生ってこんな感じ
07 FTMに一定の型はない
08 最悪の目覚め
09 人は人の希望になれる
10 誰かの明るい未来のために

01 21歳の夏休み

好きなのかもしれない

大学2年生の夏、オーストラリアに短期留学した。

同じ語学学校に通っていた女の子と親しくなり、ご飯を食べたり、休日に観光に行ったりするようになった。

しかし次第に、その子が他の男の子と仲良く話す姿を見て、モヤモヤするようになる。

「その子のことが好きなのかもしれないと思って、どうしようって混乱しましたね」

ホームステイ先に帰り、すぐにネットで「同性を好きになること」と検索。

パソコンの画面には、ゲイやレズビアン、LGBTなどのワードが並んでいた。

「自分のことを女性だと思っていたから、レズビアンの説明を見たんです」

そこには「自分のことを女性と思っていて、女性を好きになる」と書かれていた。

「『自分のことを女性を思っていて』っていうところに、素直に頷けない自分がいて・・・・・・」

「トランスジェンダーの説明を見て、初めて、性別って選んでいいのかもしれないと思ったんです」

唯一の相談相手は日記帳

留学先だったため、相談できる人が周りにいなかった。

「そのとき、日記をつけてたんです。語学力アップのために、毎日のことを英語で書き残そうと思って」

「でも、その日から、語学力はどうでもよくなっちゃった(笑)。日記帳が、自分と対話するためのノートに変わりました。日本語でしたし」

大学生になり留学する前は、中高一貫の女子校に通っていたから、その6年間で、「あの2人、レズじゃない?」という噂を何度か耳にした。

異端ははじかれ、コソコソ話のネタになる。

「それを思い出して、自分も白い目で見られる存在になっちゃった、って焦りました」

念願だった留学先で、まさかこんなことに気づくとは・・・・・・。
人生の大きな転機だった。

02男女の線引き

忙しい放課後

小学生のときは、習い事で忙しかった。
ピアノや水泳、そろばん、英会話。剣道を習っていた時期もある。

中学受験のため、小4からは塾に通い始めた。

「それが当たり前だと思ってたから、放課後に友だちと遊ぶっていう考えがありませんでした」

勉強ができて、みずから学級委員長に立候補するなど、積極性もあった。

「スポーツが得意だったんです。それもあって、小学生のときは、男の子からけっこうモテてましたね(笑)」

「好きな男の子がいたし、その子にバレンタインチョコをあげたこともありました」

雨の日のできごと

小学校中学年になるまで、男女分け隔てなく仲良くしていた。

しかし、小4のとき、先生に怒られたことがきっかけで、男女の違いを意識し始めるようになる。

「雨の日に、男子数人と一緒に校舎の中で鬼ごっこをしてたんです」

「それが先生に見つかって、『校舎の中で走るのはダメ!』って怒られた後、自分だけさらに怒られたんですよ」

「『あなた、女の子なのになんで一緒に遊んでるの』って言われたことを覚えてます」

周りを見ると、女子は教室でおしゃべりなどをして過ごしている。
自分は女だから、そっちに入らないといけないのだと思った。

「それまで、男女関係なく友だちだと思ってたのに、急に線引きをされた気がしました」

それ以来、なるべく女子のグループに交じって過ごすようになった。

「鬼ごっことかドロケーとか、大勢で遊ぶことはあったけど、自分だけ男子の輪にピョンって入ることはなくなりました」

03心と体の変化

中間ポジション

中学受験に合格し、中高一貫の女子校に進学。
もともと水泳を習っていたこともあり、水泳部に入部する。

「水泳が特別好きだったわけじゃなくて、マイペースにこなせるスポーツが良かったんです」

「練習には行ってましたけど、真面目に参加してはいませんでしたね(笑)」

小学生のときとは違い、中学生になってからは、リーダー役を積極的に引き受けることがなくなった。

しかし、クラスの片隅でひっそりしているわけでもない。色々なグループに交じり、誰とでも話を合わせる。

「一匹狼ではなかったけど、どのグループにも馴染み切れない感じでした」

「特別に仲がいい、親友みたいな子もいなかったです」

母の渋い顔

小学6年間は、ずっと髪を伸ばしていた。

「美容室に行くと、お母さんが『こんな感じにしてください』って頼むんですよ」

「そういうことに興味がなかったから任せてたけど、中学校に入ってから、長いのは嫌だと思い始めました」

男っぽくなりすぎない、すっきりとした髪型を雑誌で探す。
ボブカットにしてもらい、襟足に風を感じながら、意気揚々と家に帰った。

しかし、母には「あんた、そんな短くして。伸ばしなさい」と渋い顔をされる。

私服は、暗めの色を好んで着ていた。スカートは履かない。

「服装に関しても、お母さんは良く思ってなかったみたいです」

「女の子らしい服を着てほしかったようで、スカートを勝手に買ってくることもありました」

大きい胸への嫌悪感

中学生になると、急に胸が膨らみ始めた。

「40人いるクラスの中でも、トップに入るくらい大きかったんです(苦笑)」

「友だちからは『大きくていいね』って言われるし、からかい半分に触られるんですよ」

「笑ってやり過ごしてたけど、内心では、大きくていいと思ったことなんて一度もないけど・・・・・・って、思ってました」

大きいサイズのブラジャーをつけると、余計に胸が目立つ。
それが気になって、なるべく小さいサイズのものを着けていた。

「あるとき、『サイズが合ってないから買いに行くよ』ってお母さんに言われて、嫌々ながら下着屋さんに行ったんです」

「胸を大事に思ってなかったから、自分としてはスポブラで十分だったんですよね・・・・・・」

04理想の青春

泡沫の日々

中高時代の記憶は薄い。

「私立だったから、みんな、住んでいる地域がバラバラだったんです」

「学校以外で友だちと一緒に時間を過ごすことは、ほとんどありませんでした」

授業と部活以外に、何をして過ごしていたのか覚えていない。
その場その場で、周りに合わせて生きていた。

恋愛にも興味がなかった。

「見た目がボーイッシュだったから、後輩からカッコいい! って言われることはありました」

「自分もカッコいい先輩に憧れてましたね」

「付き合いたいっていうより、もっと先輩にとって身近な存在になりたい、っていう感じでした」

近くて遠い校庭

通っていた学校は、女子校だったが、同じ校舎の中に男子校もある併学校だった。

「女子校の窓から男子校の校庭が見えるんです。体育の後に水遊びをしたり、楽しそうにサッカーをしてるのが目に入るんですよ」

「羨ましいなって思ってましたね」

友だちの中には、男子校の生徒と付き合っている子もいた。

「自転車に二人乗りして一緒に帰るとか、そんな青春を過ごしてみたかったなって、当時、憧れみたいな感覚はありました」

「その頃、理想の青春を過ごすには、男子である必要があったんですよね」

描いていたような恋愛経験はなかったが、それなりに楽しい学生生活を送った。

05かみ合ない親子関係

ギクシャクした関係

反抗期ということもあり、両親との仲はあまり良くなかった。

「お父さんは忙しくて、帰ってくるのが遅かったから、話す機会がほとんどなかったんです」

父は父なりに、娘に関わろうと精一杯だったのだと思う。

「たまに家にいるときは、用もないのに部屋に来て、『勉強どう?』って聞いてくるんです」

「いま振り返るとかわいそうだけど、『普段から関わってないお父さんに、なんでそんなこと言わなきゃあかんの?』って一蹴してました(苦笑)」

母からは、「今日は学校で何してきたの?」「誰と仲がいいの?」とよく聞かれた。

そのたびにうんざりした気持ちになり、「別に普通に過ごしてきたけど・・・・・・(フンっ)」とそっけない返事をする。

「もっと話してよ」と言われても、学校での出来事をつまびらかに語るのは嫌だった。

母との食い違い

高校卒業後は、1年間、浪人生活を送る。

「予備校に通う姿を見たお母さんからは、『もうちょっと女の子らしい格好をしたほうがいいと思う』って言われました。中学の頃から言われてたので、またかって感じでした」

「『大学に入ったら男の子との出会いもあるのに、いまのままじゃ彼氏なんてできないよ』とも言われましたね」

ある日、「大学に入ったらお化粧もするんだからね」と言われ、母からBBクリームを渡される。

母の気持ちを無下にできず、化粧にトライした時期もあったが、全く魅力を感じなかった。

「かわいく見せたい願望があるわけじゃないのに、なんで化粧をしないといけないんだろう、って思ってました」

「化粧をして楽しいとか、嬉しいとかいう感動はなくて、ただただ面倒くさい気持ちしか湧いてこなかったですね(苦笑)」

 

<<<後編 2021/01/13/Wed>>>

INDEX
06 大学生ってこんな感じ
07 FTMに一定の型はない
08 最悪の目覚め
09 人は人の希望になれる
10 誰かの明るい未来のために

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