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自分がXジェンダーでクエスチョニングと知った時は、安心感2割、不安8割だった。【後編】

自分がXジェンダーでクエスチョニングと知った時は、安心感2割、不安8割だった。【前編】はこちら

2018/11/15/Thu
Photo : Mayumi Suzuki Text : Ryosuke Aritake
伊藤 りえ / Rie Ito

1994年、東京都生まれ。性自認はFTX(不定性)、性指向はクエスチョニング。3姉妹の末っ子として生まれ、両親に厳しく育てられる。小学生で始めたトロンボーンは、現在も継続。大学在学時、1年間台湾に留学し、中国語の習得に励む。2018年3月に大学を卒業し、4月から人材派遣会社に勤務。

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INDEX
01 厳しく大事に育てられた幼少期
02 環境がもたらした性格の変化
03 初めて打ち込めたもの=トロンボーン
04 “人の意見を聞くこと” を学んだ部活
05 思い描いた理想は中性的な存在
==================(後編)========================
06 新しく見つけた熱中できるもの
07 初めて抱いた恋心と苦悩
08 「クエスチョニング」という言葉の衝撃
09 会社を変えていきたいという思い
10 知らない世界を知ることが1つの財産

06新しく見つけた熱中できるもの

使命感から選んだ道

大学進学は、当たり前の進路として考えていた。

「両親も大学に行かせたがってたし、姉2人も通っていたので、自然と目指していました」

「親が薦めていた大学が、初めて指定校推薦の枠を設けたので、そこに決めました」

学科と志望理由を考えていた時、尖閣諸島問題のニュースを見かけた。

「日中関係を改善していくためには、中国語が必要だと思ったんです」

「そして、誰かがやらなきゃいけないなら私がやろう、って勝手に使命感を持ちました(笑)」

進学を決めた大学は、中国語教育に力を入れていた。

講師から「伊藤さんは中国語に向いてる」と言われた。

「中国語って発音が大事なので、音感がある人に適性があるそうなんです」

「自分を楽器にして、口で演奏するみたいな感覚で、のめり込みましたね」

いち早く上達したかった中国語

とにかく中国語を勉強したかった。

「1年生のうちは必修の授業が多くて、中国語の授業が少なかったんです」

「当時、オーケストラの部活にも入っていたんですけど、勉強のために休みました」

授業の前後や休み時間など、すき間を見つけては、自主的に中国語を学んだ。

世界共通の中国語能力試験HSKを受けて、高得点を取りたかった。

「授業以外でも勉強して、誰よりも早く結果を残したかったです」

「もちろん最初は相手が何を言ってるかわからないし、発音も難しくて、辛かったです」

「でも、徐々にしゃべれるようになって、意思疎通が取れると、楽しくて仕方なかった」

辛い期間を乗り越え、得られる楽しさにハマった。

中国語をもっと流ちょうに話せるようになりたいと思った。

07初めて抱いた恋心と苦悩

体にフィットする服

大学3年次に、1年間の台湾留学を控えていた。

「大学に入ってからもずっと髪は短くて、メンズの服ばかり着てたんです」

「でも、台湾に行ったらひと月に一度は髪を切れないから、伸ばして切り揃えていこうと考えました」

2年の夏頃から、髪を伸ばし始めた。

徐々に髪が伸びてくると、レディースの服を着てみようと思うようになった。

「女性の服の方が体にフィットするし、髪も伸びて、見た目の違和感がなかったです」

「自分の好みは関係なく、客観的に見て、男装の時よりしっくりきましたね」

中高時代の友だちと買い物に行き、似合う服を選んでもらった。

高校生の頃のように、無理をしている感覚はなかった。

「一時期スカートとか女性らしい柄物とか、買い込んでました」

「自分をマネキンに見立てて女装する感覚で、楽しんでいましたね」

一方で、人から女性として扱われることには抵抗があった。

「男性から席を譲られるのは、気持ち悪かったです(苦笑)」

「私は女の子に席を譲るタイプなので、違和感がありましたね」

気づかずうちに芽生えた感情

当時、頻繁に2人で遊びに出かけるほど、仲のいい男友だちがいた。

性別を超えた友情を築いていた。

「スカートやショートパンツをはくようになったら、私の中身も女性らしくなったのかもしれません」

「いままで友だちとして接していたその子に、好意を抱いてしまったんです」

2人きりで遊ぶうちに、彼を好きになっている自分がいた。

しかし、思いを伝えるつもりはなかった。

「友だちの関係が心地良かったし、気づいたら相手に彼女ができていたので」

「この出来事で私自身、見た目が変われば、中身も変わることを知りました」

「レズビアンなんじゃない?」

台湾に留学して、衝撃を受けたことがある。

セクシュアリティに対して開放的な国柄か、同性のカップルが腕を組んで街を歩いていた。

「LGBTの人がいて、暮らしていることを、初めて生で見た瞬間でした」

「一番びっくりしたのは、電車の中で男性同士のカップルがキスをしていたことですね」

LGBTという言葉は知っていた。

抵抗はなかったが、自分とは関係のない世界だと思っていた。

台湾で仲良くなった友だちとコイバナをした時、「恋人ができたことがない」と話した。

「私は『リードされるより、相手をかわいがりたい』って言ったんです」

「友だちに、さらっと『伊藤さんってレズビアンなんじゃない?』って言われました」

友だちは一切偏見なく、ごく普通のこととして言っていた。

「ほかの女の子たちとは違うよな、って薄々感じてはいたんです」

「私は男性を一般的な恋愛観で見ていないのかな、ってそこで初めて悩みました」

08 「クエスチョニング」という言葉の衝撃

初めて疑った自分の性別

留学期間が終わり、帰国した。

就職活動に向けて、髪は伸ばし続けることを決めていた。

「髪を伸ばしていくうちに、鏡を見ることが嫌になってきちゃったんです」

「鏡に映っているのは私じゃない、こんな見た目の人知らない・・・・・・って」

再び外見と中身のギャップに苦しみ始めた頃、Twitterで1つの画像を見かけた。

「フォロワーさんのリツイートで、SOGIに関するツイートが流れてきたんです」

「そのツイートには、自分の性指向と性自認の診断法を記した画像が載っていました」

自分自身を知るため、診断しようと思った。

最初の質問は「自分は男か女か、疑ったことがある?」。

「男と女の二択しかないと思って生きてきたから、疑っていいことをその時に知ったんです」

「私はどっちなんだろう、って初めて自分の性別を疑いました」

「そこから自分が何者かわからなくなって、情緒不安定になってしまったんです」

白黒はっきりさせたい性格だから、あやふやな自分に対して嫌悪感を抱いた。

部屋に引きこもりかけたが、1人でますます深みにはまることを恐れた。

重い体を無理やり動かし、民間吹奏楽団の練習に出るようにした。

「人と他愛のない話しているだけで、気持ちがラクになりました」

「でも、その時抱いていた不安は、親にも友だちにも話さなかったです」

偶然知った「クエスチョニング」「Xジェンダー」

自分が何者かわからないまま、就職活動が始まったが、無事に内定をもらうことができた。

「就活のためだけに髪を伸ばしていたので、内定が出た2日後にばっさり切りました」

「髪を短くしたら心がラクになって、精神的にも安定していきましたね」

そこからは自身のセクシュアリティに捉われすぎず、日々過ごすことができた。

2017年11月、ネットサーフィンをしていると「クエスチョニング」というワードが目に留まった。

その記事を読むと、「自分の性指向や性自認がわからない人」と定義づけられていた。

「自分の性指向がよくわからないから、私はこれじゃないかな? って思いました」

さらに調べていくと、「Xジェンダー」というワードに行き着いた。

「不定性」という欄に「状況と環境の変化によって、性自認が揺れていること」と書かれていた。

「『見た目の違和感のなさを優先してスカートをはく人もいる』と明文化されていて、私は不定性かもって思いました」

「ただ、自分がLGBT当事者であることの衝撃が、強すぎました」

自分が何者か知れた安心感が2割、これからの人生への不安が8割を占めていた。

自分がいてもいい場所

偶然、自分が何者であるか知ってしまったため、処理しきれなかった。

1人で悩んでいてはダメだと思い、ネットでLGBT相談窓口を探した。

「安心したかったから、すぐに行動に移しました」

初めて訪れたLGBT関連の集まりで、「私はXジェンダーの不定性です」と自己紹介した。

「人に言えた爽快感が2割ありつつ、もう後に戻れないぞって気持ちが8割でしたね」

しかし、自分がいられるテリトリーがあるんだ、という安心感もあった。

さまざまな団体を訪れ、受け入れてもらえる度に、少しずつ自分を認められるようになる。

「安心感と不安の割合が3:7、4:6って徐々に変化していきました」

09会社を変えていきたいという思い

スカート強制の規則

内定をもらい、就職が決まっていた企業には、驚くような規則があった。

内定式・入社式・配属発表の日、女性社員はスカートスーツで出席すること。

「スカート強制で、髪形も規定のものがあるんです」

「“女性は女性らしく、男性は男性らしく” って考えが色濃い会社ですね」

「正直、内定辞退するか、すごく迷いました」

スカートをはけないわけではないが、強制されることに違和感を覚えた。

しかし、自分の性指向や性自認を自覚した頃には、既に内定者アルバイトが始まっていた。

「社員の方々には良くしてもらっていたので、ここで退くのは違うんじゃないかなって」

内定者アルバイトで仲良くなった同期の男性と、食事に行った時、こう聞かれた。

「りえちゃんは、この会社に入って何がしたい?」

その頃、特に将来のビジョンは描いていなかった。

ふと口から出たのは「LGBTの支援がしたい」。

「その男の子は『いいじゃん、応援するよ』って言ってくれたんです」

「そのひと言もあって、入社することを決めました」

感動のレインボーパレード

働き始めて少し経った頃、東京レインボープライドの存在を知った。

「楽器をしているLGBT当事者の知り合いが、パレードに出るって教えてくれたんです」

「“みんな” で、ブラス!」という企画だ。

「私はトロンボーンを続けていて、参加者を募集しているなら出るしかないじゃん、って思い立ちました」

当日、初めて会う人たちと一緒に演奏しながら、渋谷の街を歩いた。

「沿道にいる人たちが楽しそうに盛り上がってくれて、一体感があって、感動しましたね」

「最初は顔を隠そうかと思ったけど、写真を撮ってもらえることもうれしくなりました(笑)」

当事者とバレる不安はあったが、それでもFacebookに写真を上げ、参加したことを周囲に報告した。

職場でのカミングアウト

後日、社内で、課題図書を読んだ感想文を書くという課題が出された。

「人事部の人しか読まないと思って、勇気を出して自分のことを書いたんです」

「当時、自分はアセクシュアルかもしれないと思っていたので、『アセクシュアルです』って書きました」

「『多様性を認めて、生きやすい社会を作っていきたい』みたいに締めたんです」

その感想文を、同期3人のグループで共有し、ディスカッションすることになった。

「まさか同期に読まれると思っていなかったから、焦りました(苦笑)」

仲の良かった2人とグループを組むことができた。

思い切って自分のセクシュアリティを打ち明けると、「全然OKだよ」「言ってくれてありがとう」と受け止めてくれた。

「今でもその2人は、辛いことを聞いてくれる貴重な存在です」

配属発表の日を目前に、スカートスーツに定められている理由を、人事部に聞きにいった。

人事部の先輩は「LGBTの観点からいっても、すぐ変えるべきだと思う」と意見を聞かせてくれた。

しかし、「会社のトップが考えを変えない限り、変更は難しい」とも教えてくれた。

「人事部の方の意見が聞けて、安心しました」

「管理部の人もちゃんと実情を理解しているから、変えていける土壌はある企業だって知れました」

人事部の先輩にも「私はLGBTの枠組みの中にいる1人なんです」と伝えた。

「いつでも相談してね」と、あたたかい言葉を返してくれた。

10知らない世界を知ることが1つの財産

LGBTの支援に向けて

自分はトロンボーンを吹く人でもあり、中国語を話す人でもある。

さまざまな顔を持つ中で、その1つがLGBT当事者。

「クエスチョニングやFTXは自分を表す言葉の1つで、そこまで重要じゃない、って今は思っています」

「だから、特別視されたいわけじゃないです」

「ただ、そう思うのは、Xジェンダーだからかもしれません」

FTXの自分は、やろうと思えば女性に擬態でき、スカートもはける。

しかし、FTMだったら、スカートを強制される環境は生きづらいだろう。

「私よりもっと辛い思いをして、社会に身を置いている人もいます」

「その人たちのためにも、環境を変えていくことは必要だと思っています」

「今は本気でLGBTの支援をしたいし、生半可な気持ちじゃできないことです」

勤めている企業は “社会貢献” の枠から外れなければ、好きなことをさせてくれる。

「LGBTの取り組みはまさに社会貢献だから、やってみよう、って考えています」

理解することと知ることは別物

「LGBTって枠組みがなくなる社会にしていきたいです」

「でも、みんなが知識を持っていないと、その社会は目指せないと思っています」

自分もLGBTの知識がなかったために、自分自身が何者かわからずに悩んだ。

さまざまなセクシュアリティの人がいるということを知らなければ、理解には至らない。

「受け入れるか受け入れないかは別として、身近にいると知ってもらうことが第一」

「そのために、私のことも少しずつ発信していけたらって考えています」

カミングアウトをして、もし相手が受け入れられなくても、それでいいと思う。

「私自身がセクシュアリティを自覚してショックを受けたから、戸惑う人の気持ちはわかります」

「知らない存在を前にして抵抗感を見せることは、当然の反応だと思うんです」

「でも、自分と違う人がいるって知っただけでも、1個の財産になりますよね」

「受け入れられなくてもいいから、そういう人がいるってことを頭の隅に置いておいて欲しいです」

自分も、自分自身を受け入れ始めたばかり。

だから、理解できる気持ちもたくさんある。

あとがき
よく動き、よく考えて、答えをもてるりえさん。「白黒はっきりつけたい(笑)」と言うけれど、それは世の中の正解というよりも、りえさん自身が導く、白でも黒でもない色。だから、迷いのプロセスも活力を感じた■社会人1年目。どんな毎日だろう? 置かれた場所で咲いても、咲く場所を選んでもいい。りえさんが経験している「働くということ」、うれしそうに伝えてくれた2着目の「お誂えスーツの着心地」、聞いてみたい。(編集部)

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