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Writer/佐藤恵美

恋心はゼロ、でも勝率は100%? アロマンティックが乙女ゲーの「心理戦」にハマった理由

夏になると思い出します。恋愛シミュレーションゲームに寝食を忘れてのめり込んでいた、日々を。恋愛感情がわからないアロマンティックなわたしが、なぜ恋を育むゲームに熱中していたのか。きっかけは、毎日見ていたインターネットの掲示板でした。

アロマンティック、電車に揺られて恋愛を買いに行く

社会人2年目の20歳の夏、どうしても手に入れたいゲームがありました。恋愛にはこれっぽっちも興味がなかったのに、インターネットでの評判を知りどうしてもほしくなった『アンジェリーク』という恋愛シミュレーション。でも、地元のショップには新品も中古も売っていませんでした。

恋愛しらずな二十歳のころ

周りが恋に目覚める10代のはじめ。もやもやしたまま過ごし、20代に突入しても、相変わらず恋愛というものに興味もなく、そんな自分はどこかおかしいんだろうなと思っていました。

誰かを好きになるとか、付き合うとか、そういった話は完全に他人事。漫画やアニメで知識としては知っているものの「みんな本当にそんな気持ちになるの? 眉唾ものなんですけど」と冷めた目で眺めていたんです。

20歳の時点で恋愛の経験はゼロ。もちろんしたいとも思わない。

だけど世のなかは恋愛が絡むエンタメであふれていて、ちょっと居心地が悪いなと感じることもありました。周りの人たちが恋バナで盛り上がっている横で「へえ~」とうなずきながら、頭のなかでは「帰ってゲームしたいなぁ」と考えていました。

今考えると、もうちょっと相手に寄り添って話を聴いてもよかったかもしれません。だって人が恋を語るときって、たいてい共感がほしいんじゃないかなって気がするので。

さて、わたしにとって恋愛とはファンタジーでした。存在するらしいけれど、自分の日常には関係がないもの。実体を感じられないけれど、なんとなく「あるんだろうな、そんな世界が」と思えるもの。

恋愛リアリティ番組なんかも、ちょっと異次元かなって気がしていました(関連記事はこちらNOISE:「恋愛したい」がわからない。アロマンティックは恋愛リアリティ番組を楽しめたのか。

「恋しらず」な20歳のわたしが、いつも見ていたインターネットの掲示板であるゲームの存在を知ることになります。それが恋愛シミュレーションゲームの元祖とも言える『アンジェリーク』でした。

ある夏の日、電車に乗って

掲示板で見かけたそのゲームは、どうやら女性の主人公(プレイヤー)がイケメンたちと交流しながら宇宙の女王を目指すという内容らしい。推理モノやロールプレイングをたしなんできたわたしにとって未知のジャンルでしたが、妙に興味を惹かれました。

「これは絶対に面白いやつだ」というゲーマーの勘が働いたんです。

さっそく近所のゲームショップを回ってみたのですが、どこに行っても売っていません。田舎なので、そもそもショップ自体が少なかったんです。

当時はまだネット通販なんて便利なものは普及していませんでしたから、ほしければ自分の足で探すしかありませんでした。手に入らないと思ったら、ますますほしくなってしまうもの。あきらめきれないわたしは、隣の県にあるゲームショップを目指すことにしたのです。

電車に揺られながら「在庫確認の電話をしてから行くべきだった・・・・・・」と悔やんだのを覚えています。

うだるような暑さのなか、目的地の駅からショップまで何分かかったでしょうか。汗でメイクは落ち、髪の毛もじっとり湿り気を帯びていました。

幸いにも中古品が置いてあって、帰りの足取りは軽やか。汗だくで自宅に戻ったときの達成感といったらありませんでした。翌日は仕事でしたが、そんなことは関係ありません。

「新しいゲームは即プレイする」が信条でした。

アロマンティックなわたしが魅了された采配の面白さ

いざプレイしてみると、わたしはすぐに『アンジェリーク』の世界観に引き込まれました。

恋愛感情を抱かないアロマンティックなわたしがどうしてそこまで夢中になれたのか。それはシミュレーション特有の「采配」が面白かったからです。

『アンジェリーク』は、イケメンを落とすだけのゲームじゃありません。宇宙のなかのとある大陸を育成しながらライバルと競い、同時に守護聖と呼ばれる9人の魅力的な男性キャラクターたちと関係を築いていく、キラキラしている割に骨太なシミュレーションゲームでした。

自分の一手によって、相手の反応が変わり、大陸の発展度やキャラクターの未来までガラリと変わる。自分の采配で盤面をコントロールする楽しさが、アロマンティックなわたしのゲーム魂に火をつけました。

画面のなかの守護聖たちが甘いセリフをささやいてくれても、わたしはときめきません。

でも「この選択肢なら相手の好感度が上がるし、大陸を育成するには有利。しかもほかのキャラクターも好感度を上げやすくなる」など、ロジックを解き明かしていく過程がたまらなく快感だったのです。

キャラクターの心理を読むプロセスは恋の駆け引きか

恋愛シミュレーションゲームの場合、キャラクターとのやり取りに魅力を感じる人が圧倒的に多いと思います。わたしの場合は常に「最短で全キャラ制覇するには」を考えていました。ほかにもクリアしたいゲームはたくさん。ゲーマーは忙しいのです。

甘ったるいセリフに薄く笑う

ゲームを始めてまず驚いたのは、守護聖たちの甘い言動の数々でした。画面越しに情熱的な言葉をささやく彼らに対し「へえ、そんなこと言っちゃうんだ」と、わたしは薄く笑っていました。

プレイして2日目には、すでに攻略の道筋が見えていました。漫画やアニメでいくつもの恋模様を見てきたわたしには、二次元のキャラクターがどういうときにどういう行動を起こすのかわかります。

キャラクターデザインが魅力的で、個性もはっきり分かれている攻略対象たち。それぞれの関係性や背景、現時点での好感度から、効率的な攻略ルートをプレイと同時進行で考えます。

好感度が高ければ高いほど、本来の目的である「大陸の育成」が進むのです。

これまでにも、好感度を上げていくゲームはプレイしたことがありました。敵を倒してレベルを上げるロールプレイングゲームとは違う、人間関係を主軸に据えた恋愛シミュレーションゲームはまた別の趣がありました。

サウンドノベルやシミュレーションにハマった

そもそも、わたしがこのゲームに惹かれた下地には、当時大ハマりしていたサウンドノベルやシミュレーションゲームの存在がありました。選択肢によって物語の展開がガラリと変わったり、自分の采配でキャラクターの運命が左右されたりするゲームが大好きだったのです。

相手の性格や価値観を考慮し、どんな言葉をかけるのが最適解なのか。どんな行動に出れば、バッドエンドを回避できるのか。当時わたしが感じていたゲームの醍醐味は「相手の心理を読むプロセス」だったように思います。

思い通りのエンディングへ導く快感に時間を忘れる

これだと思った選択肢を選び、狙っているキャラクターの好感度が上がったときの満足感といったらありません。

「こんなはずでは・・・・・・」と愕然とする場面も少しはありましたが、気分は完全に名軍師です。“恋する気持ち” なんてかわいいものはわからないけれど、これはゲームなんだから。攻略するものなんだから。わたしにクリアできないはずはないんです。

次の日が仕事でも休みでも知ったことではありません。時間を忘れて、画面のなかの心理戦に没頭する毎日が続いていきました。

アロマンティックでもエンタメの恋愛ならこんなに面白い

世のなかにはさまざまなタイプのアロマンティックがいますが、わたしの場合は「恋愛は完全なエンタメ」と割り切っていました。感情移入はまったくしませんでしたが、それでも楽しめてしまうなんて、ゲーム制作会社の方々ってすごいなあと今でも思っています。

「わたしに惚れさせてやる」。負けん気が火を噴いた

恋愛シミュレーションをプレイしているときのわたしのモチベーションは「このキャラクターをいかに陥落させるか」という負けん気でした。

「すぐに惚れさせてやる」と、コントローラーを握る手に力が入ります。

自分ではベストな選択肢だったのに相手を怒らせたり、ライバルに意中のキャラクターを奪われたりしましたが、攻略が難しければ難しいほど、ゲーマー魂に火がつくというもの。

相手の好みを計算しつくし、狙い通りの展開に持ち込む周りがリアルの恋愛に夢中になっているころ、わたしときたらずっと画面の向こう側に夢中でした。

当時は今ほどSNSの勢いがない、1990年代の終わり。同じゲームのプレイヤーと話せるのはインターネットの巨大掲示板くらいでした。

見ると、純粋に攻略対象のキャラクターにときめきながらプレイする人たちもいたようです。むしろ、わたしのようなタイプが少ないんだな、という印象でした。

「現実の人間関係だったら胃がもたれそうだけど、二次元だからこそ安心して見ていられるな」と感じていたのを覚えています。人には「ゲームじゃなくて実際に恋愛しないと。ほんとはしてみたいくせに。だからそんなゲーム買うんでしょ?」なんて言われたりしました。

オタクじゃない人にわたしの考えを熱く話したところで、わかってもらえない気がしたので「そうだね、そのうちね」とお茶を濁しましたが。

乙女ゲーから得られたアロマンティックの恋愛達成感

仕事終わりや休日の時間を費やし、すべての攻略対象キャラクターをクリアしたときの充実感。どんなゲームも、クリアの瞬間は「やり切った!」と勝利に酔います。

本来、もっと気楽に楽しむべきものなんです、エンタメなんてものは。でもわたし、この当時はかなりのオタクだったので。ハマったものは、とことん突き詰めないと気が済まなかったんですよね。

最初は「恋愛のゲーム・・・・・・そそられないな・・・・・・」と敬遠していたのですが、周りのオタクたちがこぞって絶賛しているのを見てプレイしたくなってしまって。ものの見事にハマりました。

この『アンジェリーク』がきっかけとなり、わたしはその後、数々の恋愛シミュレーションゲームに手を出すことになります。

アロマンティックだからといって、恋愛をテーマにしたエンタメを楽しめないわけではありません。たしかにキャラクターに感情移入はまったくできないのですが、誰だってすべてのエンタメに感情移入したりしないでしょう。

知らないことも楽しめる時代に

わたしはライターですが、別の仕事をしていたときに恋愛メインの小説を書いていたことがあります。

読まれやすいジャンルだからという下心もありましたが、思った以上に反響があり「みんな恋愛コンテンツが大好きなんだろうな」と驚いたものです。純粋にわたしの書いたものを好きになってくれた人も、いたとは思うのですが。

ゲームも然りで、ストーリーや世界観、キャラクターが魅力的なら、恋愛がわからないわたしみたいな人でも、恋愛シミュレーションにハマることはあると思うんですよね。リアルとエンタメとは別、というか。

わたしの楽しみ方は人と違うかもしれませんが、リアルでわからないものはコンテンツから学べる。

今ってそういう時代なんだな、と思ったりするのです。

 

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