私はレズビアンですが「推し」は女性だけではありません。男性の俳優やアーティストも好きです。しかし、こう胸を張っていえるようになったのは、ごく最近です。「レズビアンなのになぜ?」「男性も好きなの?」という周囲の反応に悩んだ時期もありました。
レズビアンの私が俳優を推して「男性も好きなんだね」といわれた過去
私はレズビアンで同性のパートナーと暮らしています。これまで好意を抱いた相手や交際した相手はすべて女性で、男性とお付き合いしたことはありません。そんな私が女性芸能人だけでなく男性芸能人も好きだと話すと「男性も好きなんだね」と受け取られ、自分の感覚と相手の理解のあいだに大きなズレを感じました。
レズビアンの私が推しの男性に抱く感情
私は学生時代から海外の映画や音楽が好きで、その流れで自然と海外の男性俳優や男性アーティストを推すようになりました。
とはいえ、その感情は恋愛とはまったく別のもので、彼らの演技力やステージでの表現、独特の雰囲気に惹かれる「鑑賞者としての好き」だと感じています。
作品を通してうかがえるプロとしての姿勢や美意識に触れると、自分もこうなれたらいいなという憧れが芽生えることもあります。
一方で、女性の俳優やアイドルに対しては、パフォーマンスへの尊敬だけでは説明できない強い感情が湧くことがありますが、それでも恋愛感情とは異なる次元の「好き」です。
私にとって推しは、恋愛対象とは別の場所にいる存在であり、性別によって単純に線引きできるものではないのです。(関連記事はこちらNOISE:レズビアンの私が友達にやきもちを焼く理由)
「男性も推しているレズビアン」の私に対する周囲の反応
女性だけでなく男性も推していると話すとき、周囲からの反応に戸惑いを覚えることがあります。
たとえば「あなたはレズビアンだから推しは女性だけかと思った」「あなたは厳密にいうとバイセクシュアルなんだね!?」といったリアクション。
こうした言葉から、私の「推しへの感情」が、他者には「恋愛」として映っているのだと気づきました。
男性の俳優やアーティストを推す理由を異性愛者の友人からたずねられたり、過去の恋人から「男性も好きなんだね」と拗ねたようにいわれたりすると、性的指向と推しの感情がひとつの軸でしか理解されていない現実を痛感しました。
こうした偏見や誤解が存在しているなかで、レズビアンが男性の俳優やアイドルを好きだと公言するハードルは高いのではないかと、個人的に感じています。また、同じ空気はレズビアンに限らず、ゲイのコミュニティにもあるでしょう。
推しの感情が恋愛とは別の場所にあること、そしてその多様性がまだ十分に理解されていないことを、最近になってあらためて実感しているところです。
レズビアンが男性を推す理由。恋愛ではない「推し」への感情
推しに対する感情は、人によってさまざま。レズビアンの場合、恋愛感情とは別の感情を抱くケースが多いと考えられます。推しへの「好き」の背景に、どんな感情があるのか。
憧れ・尊敬・かわいさなど、恋愛以外の「好き」

レズビアンが推しの男性に抱く感情の代表例として「憧れ」があげられます。
少年少女が仮面ライダーや戦隊ヒーローに、美少女戦士やプリンセスに憧れるように、俳優やアーティストの生き方、表現、佇まいに「こうなりたい」という気持ちが芽生える。
これは「自分対相手」という関係性を求める恋愛感情ではなく、自分の理想像に触れたときに生まれる「願望」に近い感情です。
憧れのほかに、推しの男性をわが子のようにかわいく思う人や「相手の成長や活躍を見守りたい」という気持ちを抱く人もいるでしょう。
こうした感情は、人によっては性的指向と地続きの場合もありますが、必ずしも恋愛へ直結するわけではありません。推しならではの特別な「好き」として確立していることは、往々にしてあるのです。
演技やパフォーマンスに惹かれる
俳優が役に入り込む瞬間の呼吸や視線の動き、身体の使い方、スクリーンのなかでの存在感。アーティストがステージで放つ熱量や、音楽に合わせて空気を変える一瞬の表情、声の響き。
レズビアンの私を含む多くのファンが心を奪われるのは、そうした「技術と表現の結晶」です。そこには、自分から相手との関係を求める気持ちはなく、芸術の美しさや完成度に対する純粋な感動があります。
そもそも演技や音楽は体験として楽しむもの。映画を鑑賞して「この役づくりすごいな」と思ったり、歌声に陶酔したりするのは、誰でも経験するごく普通のことです。
性的指向にかかわらず、こうした「芸」に魅了されたことがきっかけで推すようになった人は、きっと少なくないはずです。
関係性に魅力を感じる推し方
推しの男性に惹かれる理由は人それぞれですが「関係性そのもの」に心を動かされる人もいるようです。
私の周囲にも、男性アイドルを推しているレズビアンがいて、彼女はまさにそのタイプです。
彼女が語るのは、推しの男性本人だけでなく、同じグループのメンバー同士がみせる家族のような距離感や、親友のような信頼関係に萌えるということ。
ステージ上で支え合う姿や、裏側でふざけ合う空気感、長年一緒に活動してきたからこそ生まれる絆。そうした関係性を見守ること自体が、彼女にとって大きな喜びなのだといいます。
「このふたりの関係が好き」「このグループの空気感をずっと見ていたい」という気持ちは、恋愛とは別の場所で育まれる感情です。
誰かひとりを好きになるというより、彼らがつくり出す関係性の物語に心を寄せる。応援したい、見守りたいという気持ちが自然と湧いてくる。
そういう推し方をするレズビアンも確かに存在していて、推しの楽しみ方がいかに多様で豊かなものかを感じさせられます。
推しの男性に対して「恋愛感情」を抱くレズビアンもいる? 性的指向のスペクトラム
性的指向は固定されたものではなく、ゆるやかなスペクトラムのなかに存在する流動的なものです。そのため、レズビアンのなかには男性の推しに対して恋愛に近い気持ちを抱く人もいます。
推しは特別。レズビアンが例外的に男性に惹かれることも

推しの男性に対して、レズビアンが「例外的に惹かれる」。この感覚は、決して珍しいものではありません。
推しへの感情と恋愛感情ははっきりと切り分けられる人もいれば、そうではなくグラデーションになっている人もいます。
また、性的指向は固定された直線ではなく、ゆるやかなスペクトラムとして捉えられています。推しという特別な存在がきっかけとなって、スペクトラムに微細な変化が生まれることもあるでしょう。
たとえば、俳優やアーティストの演技、声、佇まいに触れたとき、説明のつかないときめきを覚える。
推しへの特別な親しみや愛着が、例外的な感情へ発展する。
普段は女性にしか恋愛感情を抱かないけれど「この人だけは特別」と感じる。
実際に、そんな話を友人や知人から聞いたことがあります。
こうした推しへの感情は、恋愛と呼ぶほど強いものではないかもしれないし、単なる憧れや尊敬と混ざり合った複雑な感情かもしれません。その気持ちを「性的指向の揺らぎ」と捉える人もいるでしょう。
しかし、私はその揺らぎを否定する必要はないと思っています。性的指向という広いスペクトラムのなかで起こる自然な現象として、その感覚を受け止めていいと感じています。
「女性性の表象」が好きなレズビアンが男性を推しているパターン
レズビアンが推しである男性の「女性性の表象」に惹かれるという人もいます。
推しの男性そのものに恋愛感情を抱くというより、その男性がまとう「女性的な要素」に心を動かされるケースです。
髪の長い男性や、フェミニンな雰囲気をまとう男性、女装姿の男性など、彼らの仕草や衣装、たたずまいのなかに、自分が好きな「女性性の美しさ」を見出しているのです。
また、中性的な魅力を持つ男性に惹かれるレズビアンも少なくありません。中性的な雰囲気の俳優やアイドルの独特なオーラに心が引き寄せられる人もいます。
こうした「女性性の表象」に惹かれる感覚は、性的指向とは別軸の美意識や感性に根ざしていると私は考えています。
レズビアンが、一般的に「女性的」といわれる仕草や柔らかい雰囲気、しなやかな動きに美しさを感じることは自然なことです。そして、それが芸術のなかで男性の身体をまとって表現されていることもあるでしょう。
つまりこの場合は「男性が好き」というより「自分の好きな女性性の表現がそこにあるから惹かれる」という構造です。
その意味で、レズビアンが男性を推すという現象は、自分の「美」の対象がたまたま男性の姿を借りて現れているだけで、推し方のひとつとしてごく自然に成立しているのだと思います。(関連記事はこちらNOISE:ひと目ぼれが多い私はフレイロマンティック? デミロマンティックの友人と話して気づいたこと)
フィクトセクシュアルで男性キャラクターが好きな人もいる
現実の人物ではなく、漫画やアニメなどのフィクションのキャラクターに恋愛感情や強い好意を抱く性的指向を「フィクトセクシュアル」といいます。
私の友人にもフィクトセクシュアルの女性が数人いますが、そのなかには現実世界では女性にしか恋愛感情を抱かない一方で、二次元の男性キャラクターに惹かれるという、2つの軸を持つ人もいます。
アニメや漫画、ゲームの男性キャラクターは、現実の男性とはまったく別の存在として描かれます。
中性的なデザインや繊細な感情表現、物語のなかでみせる成長や葛藤。こうしたキャラクターの美しさや人格に惹かれる人は、レズビアンのなかでも少なくありません。
この場合の「好き」は性的指向の揺らぎではなく、二次元もしくはフィクションという別のレイヤーで心が動いているだけだと私は考えています。(関連記事はこちらNOISE:「レズビアン=男性嫌い」は本当?)
レズビアンが男性を推すことはおかしくない

レズビアンが男性を推すことは、決しておかしいことではありません。しかし、男性を推していると話すと、誤解や偏見をぶつけられることもあります。
推しへの気持ちは恋愛とは別なのに、周囲からは恋愛感情だと受け取られてしまったり、「性的指向は一貫していなければならない」という空気のなかで、男性を推していることが「レズビアンらしくない」とジャッジされたりすることもあります。
推しへの感情は人によってさまざまで、性的指向はもっとゆるやかであるはずです。好きの形が複雑だったり、いくつかの感情が重なっていたりするのは、とても自然なこと。
レズビアンが男性を推すことは矛盾ではありません。感性が豊かだからこそ生まれる自然な気持ちだと私は思っています。どうか自分の「好き」を大切にしてほしいと願っています。
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