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Writer/Jitian

トランスジェンダーの成長描いた映画『トランジット・デイズ』が伝えたいこととは

トランスジェンダーの理解を広める活動を行っている団体「いろどりスマイル」が制作した、トランスジェンダー女性を主人公とする短編映画『トランジット・デイズ』。一般上映会が、2026年6月28日に開催されます。それに先立って、試写会にお邪魔しました。

河上リサ監督2作目の映画作品『トランジット・デイズ』

トランスジェンダーの「これまで」や「いま」。そして関わる人のおもい・・・・・・たくさんのメッセージが凝縮された映画です。

監督・河上リサさんのおもい

トランスジェンダー女性の表現者として、長らく活動を続けている河上リサさん。その河上さんが代表を務める団体「いどろりスマイル」が、2023年にトランスジェンダー女性をテーマに映画『鏡をのぞけば 〜押された背中〜』を制作。そこから3年を経て『トランジット・デイズ』は、2作目の作品です。

『トランジット・デイズ』で河上さんが特に重要視したことは、トランスジェンダーの家族とその日常のリアル、多様なトランスジェンダーの存在。

映画を観れば「トランスジェンダー」といっても多様なのだとわかると思います。

トランスジェンダーはみんな、生まれたときに割り当てられた性別とは「逆」を生きたい?
トランスジェンダーはみんな、治療や手術、性別移行を望んでいる?
トランスジェンダーの人生の「本気度」は、戸籍の性別変更で示される?

そして、トランスジェンダー当事者とその親や周りの人との関係も大切なテーマです。

トランスジェンダーの家族と一口にいっても、知識量も距離感も表現もそれぞれ異なります。

映画『トランジット・デイズ』では、自立した大人のトランスジェンダー当事者と、離れて暮らす家族の関係、友人たちとの交流がリアルに描かれています。

映画『トランジット・デイズ』あらすじ

トランスジェンダー女性の真由(まゆ)は、地方の実家から離れて、都内で男性と思われるパートナーと同棲中。しあわせな生活を送っています。

ある日、父親から突然の電話を受けた真由。祖母が危篤とのことで慌てて実家に帰りますが、祖母の容体は持ち直してひと安心。

家族それぞれとのやり取りから、重ねてきた時間、おもいが伝わってきます。

帰省中、実家の周辺では「長髪の不審者」が、夜な夜な辺りをうろついているという噂が流れていました。

その不審者は、真由を見るなり怒鳴りつけます・・・・・・。

真由が東京で新しい生活をはじめ、自分なりの人生を生きている間に、家族や友人もそれぞれの変化を迎えていました。

映画『トランジット・デイズ』は、トランスジェンダー当事者だからこそ抱える思い込みを見直すきっかけになる

ひとくくりに「トランスジェンダー」と言っても、その性的指向や性自認の中身は千差万別だと、頭ではわかっているのですが・・・・・・。

映画『トランジット・デイズ』のトランスジェンダー女性役には “あえて” シスジェンダー女性を起用

映画『トランジット・デイズ』の主人公役・真由を演じた加藤睦望さんは、実はシスジェンダー女性。

シスジェンダー女性がトランスジェンダー女性役を演じるにあたって、加藤さんから監督の河上さんや関係者に、脚本のひとつひとつの台詞に至るまで、たくさんの質疑応答が繰り広げられたとのこと。

試写会後のトークショーでこの話を聞いて「トランスジェンダー当事者の役者だったら、こうはならなかったかもしれない」と感じました。

シスジェンダーの多くが「LGBTQ当事者は自分の周りにはいない」と思っていますが、ノンバイナリーの当事者である私は、仕事やプライベートでトランスジェンダー当事者と話をする機会がとても多いです。

そのため、一人ひとりが抱えている悩みや経験が異なることは、頭では理解しているつもりです。

しかし、いわゆるトランスジェンダーあるあるなどについて「あなたの言っていることって、こういうことでしょう」と、型にはめて話を進めしまうときも、きっとあると思っています。

これは同じセクシュアリティであったり、当事者と交流をもっていたりする人が、陥りやすい傾向かもしれません。

加藤さんは、そういった「わかっているつもり」の感覚や経験がないからこそ、台本の内容を丁寧に確認したのだと思います。実際、加藤さんの演じる真由は、役者がシスジェンダー女性だということが気にならないほどの高い演技力でした!

散りばめられたトランスジェンダーのリアル

映画『トランジット・デイズ』では、トランスジェンダー当事者なら気づきやすい「トランスジェンダーの悩み」がたくさん散りばめられています。

たとえば映画冒頭、真由が祖母危篤の報を受けて、荷造りをする場面。万が一を考えて喪服を持っていこうとするのですが、その喪服はメンズスタイル。真由は喪服をあてがった自分の姿を鏡で見ながら、苦い表情を浮かべます。

トランスジェンダー当事者は、家族にはカミングアウトしていたとしても、親族にまでカミングアウトを広げていないことは少なくありません。しかも、大人になるにつれて親族と顔を合わせる機会は減っていくことが多いですよね。

そういったなかで、現在生活する性別に合わせた喪服にするか、変更前の性別に合わせるべきか悩む・・・・・・トランスジェンダー当事者の生きづらさを表現したリアルなシーンのひとつです。

映画『トランジット・デイズ』の描かれていない部分を、自分と重ねてみる

実は『トランジット・デイズ』は、元々大長編になっていた脚本を最大限に削ぎ落して、今回の約40分という短編にまとめ上げたとのこと。

あれもこれも伝えたいと思うと、ついついストーリーが長くなることや、そこから削ぎ落して絞っていく大変さは、ライターとしてよくわかります・・・・・・。

たとえば、元の脚本では、真由が東京に上京してからこれまで、どのように過ごしてきたのかを描いた「上京編」があったとのこと。

真由は、一見すると上京前と現在で、まるっきり別人になってしまったようには見えません。しかし、映画を観ると外見も中身も確実に変化していることがわかります。

皆さんは、たとえばこの10年ほどで、どのくらい変わったでしょうか。

私は、学生時代と現在を比べると、LGBTQに対する知識が各段に増えました。LGBTQ当事者とのつながりも、顔や名前を見知っている知人・友人はゼロでしたが、今では定期的に会う友人が何人もいます。

LGBTQ当事者を取り巻く環境も、言わずもがな、この10年で様変わりしましたよね。

真由が上京してから現在の姿になるまで、どんなことがあったのだろう? と、映画で直接的に描かれていない部分を想像しながら『トランジット・デイズ』を観ると、また違った感想を抱くかもしれません。

映画『トランジット・デイズ』から考える、多様なトランスジェンダーの存在

設定やストーリーに気を配るだけではない、映像作品ならではの表現方法に心を動かされました!

映画『トランジット・デイズ』の配役

前出のとおり、映画『トランジット・デイズ』で主人公・真由を演じた加藤睦望さんは、シスジェンダー女性です。

シネコンで全国上映されるメジャーな作品の場合は、俳優の知名度などからシスジェンダー(と思われる)俳優がトランスジェンダー役を演じることは珍しくありません。しかし、トランスジェンダー女性が監督を務めている作品で、なぜ? と感じる人が多いことでしょう。

これについて、河上さんをはじめとする「いろどりスマイル」の皆さんは「多くの人が、実際に生活しているトランスジェンダー当事者に気づいていないことが、ほとんどであることを表現したかった」と話していました。

たしかに、性別適合手術を受けて戸籍の性別を変更したら、社会に溶け込んでトランスジェンダーであることを隠す、いわゆる「埋没」しているトランスジェンダー当事者は少なくありません。

特にトランスジェンダー女性の場合は、なおさら・・・・・・昨今のトランスジェンダーに対するバッシングを見ていたら、周りには言い出しにくいでしょう。

しかしながら『トランジット・デイズ』にトランスジェンダー当事者が一人も登場していないわけではありません。実は、顔の映るエキストラとしてトランスジェンダー当事者が何名か出演しています。

私も映画を観ているなかで「この人はそうかな?」と何人か思いましたが、おそらく全員は把握できていないでしょう。

LGBTQについてライターとして文字で発信している身としては、身近にいるはずのトランスジェンダー当事者の存在をこのような配役で表現できるのは、映画ならではの手法だな! と膝を打ちました。

「トランスジェンダーは遠い存在で、自分の周りにいるはずがない」と思っている人ほど『トランジット・デイズ』の創意工夫に驚くはずです。

トランスジェンダー当事者の家族に届いてほしい映画『トランジット・デイズ』

監督の河上さんが『トランジット・デイズ』を制作しようと思ったきっかけは「トランスジェンダーをテーマにした作品で、トランスジェンダー当事者の親や家族を描いている作品が少ない」と言われたことでした。

令和の現代、トランスジェンダー当事者同士はSNSなどで簡単につながれるようになりました。しかし、当事者のコミュニティに比べると、当事者の親といった「周囲の人」のコミュニティはまだあまり育っていないとのこと。

『トランジット・デイズ』の真由と家族の関係は、極めて良好というわけでも、絶縁状態で回復は絶望的、というわけでもありません。

父親と母親で、理解や受け入れの具合は異なるように感じましたが、子どもをおもう気持ちに差はないのだと、私は見受けました。自身の子どもや親族にトランスジェンダー当事者がいる人にとって『トランジット・デイズ』には、考えさせられるシーンがたくさん詰まっています。

映画『トランジット・デイズ』は、6月28日に江東区内で上映会を実施予定です。また、LGBTQ当事者団体や学校、企業などでの鑑賞会に向けて、DVDを貸し出すことも可能とのこと。

真由やさまざまなトランスジェンダーが周りの人たちと関わるなかで、立ち止まり成長する物語を、ぜひ多くの人に観ていただき、対話のきっかけにしてほしいなと思いました。

あなたの周りには、だれがいますか?

映画『トランジット・デイズ』は、トランスジェンダーに出会ったことがないという人も、よく知っているという人にも、新たな発見がきっとあります。

 

■作品情報
映画『トランジット・デイズ』
公式サイト:https://www.transit-days.irodorismile.org/
監督・脚本:河上リサ
映像監督・編集:陣鎌道夫
出演:加藤睦望、小日向春平、金沢涼恵、柴田公彦、小林武親、結城駿、佐藤音色、森下亮
制作・著作:いろどりスマイル
©️irodorismile

 

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