先月、デンマークとノルウェーにパートナーとふたりで3週間旅行してきました。旅のほとんどの時間を、2人のクィアな友人たちの家に泊めてもらって過ごし、少しだけ北欧のクィアたちの生活を垣間見た気がします。北欧はクィアフレンドリーだとよく言われますが、実際クィアたちはどんな生活をしているのか。どんなクィアスペースがあるのか。クィアカップルであるわたしたちにとって、北欧での3週間はどんなものだったのか。街はどういう雰囲気なのか。記憶の新しいうちにレポートしていきます!
デンマークで暮らすクィアたちの生活
ひとくちにクィアといっても、住む国や街に関わらず、さまざまな暮らし方をしている人たちがいます。ここでは、泊めてくれた友人たちの生活を例にとりながら、北欧でクィアたちがどんなふうに暮らしているのかレポートしていきます。まずは1週間滞在したデンマークから。
デンマークでのシェアハウス
わたしとパートナーは、デンマークの首都コペンハーゲンの近くに住んでいる友人の家に、まず1週間ほど泊めてもらいました。
泊めてくれた友人は、シスジェンダーのバイセクシュアル女性で、わたしが北欧に留学していた高校時代からの友人です。お互いに、セクシュアリティにまつわる悩みを共有しながら高校生活をおくっていたので、安心してパートナーと一緒に訪ねて行き、紹介することができました。
友人は、シェアハウスに住んでいます。彼女たちは、一軒家の2階部分、4部屋を6人でシェアしていました。休学中の人もいますが、ハウスメイト(シェアハウスをしている人たち)はみんな大学生です。それぞれバイトをして家賃や生活費を自分たちで払っているそうです。
クィアコミュニティ的なシェアハウス
シェアハウスには、わたしの友人以外にもクィアが数人いて、彼女自身も自分のセクシュアリティについてオープンにして暮らしているようでした。事前に友人からそう知らされていたので、わたしもより安心して滞在できました。
友人とは、シェアハウスのリビングで、クィアトークをして盛り上がりました。友人が女性とデートした話をしてくれたり、ポリアモリー(複数の人と同時に、それぞれが合意の上で恋愛関係を結ぶライフスタイル)を実践している共通の知り合いの話をしたり、わたしとパートナーが親しくなったきっかけを聞かれたり。
途中でハウスメイトのひとりが話に入ってきて、おすすめのクィアスペースを教えてくれたりもしました。
クィアたちも含めたさまざまな人たちが一緒に住んでいる、ひとつのクィアコミュニティ的なシェアハウスだなと感じました。そのおかげで、わたしとパートナーは、シェアハウスの中で、人目を気にすることなくクィアカップルとしてオープンにいられました。
日本での生活では、パートナーと一緒にいるとき、スキンシップをとったり、親しそうに話したりするのをためらうことがよくあります。周りの人たちがクィアフレンドリーか常に気にしているからです。
でも、北欧滞在中は「どう思われるか」「どう見られるか」などを心配せず、家にパートナーとふたりだけでいるときと同じくらい、リラックスして過ごせました。
デンマークのクィア事情
友人は、大学でも自分のセクシュアリティをオープンにしており、ほかのクィアたちと出会いやすいという話をしていました。実際に滞在中、友人が大学で新たに仲良くなったクィアな人を、わたしたちに紹介してくれたこともありました。
クィアとしての生活について話しているときも、セクシュアリティに関して悩んだり、差別を向けられてつらいという話は、友人から出ませんでした。
大半が、どんなデートをしたか、どんなクィアな友人がいるかという楽しい話ばかり。デンマークのコペンハーゲンやその周辺では、クィアとして生きていくことが、日本ほど難しくないような印象を受けました。
ノルウェーで暮らすクィアたちの生活
デンマークからノルウェー第2の都市・ベルゲンに移動し、2週間ほど滞在しました。そこでも、クィアな友人が快くわたしたちを迎えてくれました。かれらの生活を例にとりながら、ノルウェーのクィア事情の一端をレポートしていきます。
同棲中のノンバイナリーでクィアな友人

ノルウェーでわたしたちを泊めてくれた友人は、ノンバイナリーでパンセクシュアル。シスジェンダー男性のパートナーとふたりで1年ほど暮らしています。その友人も、わたしが北欧に留学していた高校生のころに、セクシュアリティについて何度も話してきた人のひとりです。
同棲しているパートナーとも今まで何度か会ったことがあります。でも、わたしのパートナーを実際に紹介するのは初めてだったので、わたしたちの訪問をとても楽しみにしてくれていました。
ノルウェーで見たレインボーフラッグ
ベルゲンの中心街から少し離れたところにあるふたりの家に着くと、まず目にとまったのが玄関のドアに飾られたレインボーフラッグです。
かれらが住んでいたのは、40組くらいのカップルやファミリーが住んでいる集合住宅のようなところでした。
外から見える位置にレインボーフラッグが飾られている家は、わたしの友人の家以外にも数軒あり、クィアカップルであるわたしたちも、なんだか安心して生活できるような心地がしました。
ノンバイナリーとして使うthey/themプロナウン
友人のプロナウンはthey/themです。プロナウンとは、人が自分を呼ぶときに使ってほしい代名詞のこと。インスタグラムなどでも設定できます。
they/themは、英語でコミュニケーションをとるとき、ノンバイナリーやジェンダークィアなどがよく使うプロナウンです。彼(he/him)も彼女(she/her)もしっくりこない人にとって、ジェンダーがわからないthey/themのほうが居心地がよいことがあります。
その友人は、大学やバイト、インターン先など、普段の生活でもノンバイナリーであることをオープンにしており、they/themを周りの人に使ってもらっているそうです。
友人の見た目から、she/her(彼女)を勝手につかわれることもあるらしいですが、訂正するようにしていると言っていました。ノンバイナリーに対する周りの理解は、完璧とはいえず、悩むこともあるという話もしてくれました。
一方で、わたしの友人と同棲しているパートナーは、セクシュアリティに関してたくさんの対話を重ねてきたと言います。
パートナーである彼は、友人の第一の理解者であるという感じがしました。また、友人は、ノルウェーのクィア関連のNPOに関わって、積極的にクィアコミュニティに参加しており、クィアな知り合いが大勢います。
クィアであるカウンセラーが無料で面談をしてくれるサービスを受けていたこともあります。差別や無理解を周りから向けられることはあるけれど、パートナーやクィアフレンズ、カウンセラーなど、セーフティーネットがあるという印象を受けました。
デンマークとノルウェーのおすすめのクィアスペース
クィアにとって旅行の楽しみのひとつ。それは、クィアスペースを訪ねることです。旅行先のクィアたちの生き方を垣間見ることができるだけでなく、低予算な観光地としても訪ねやすい場所があったりします。クィア書店やアートショップ、バーなど、わたしたちが今回訪ねた北欧のクィアスペースの一部を紹介します。もし北欧に行ってみることがあったらぜひ訪ねてみてください!
デンマーク・コペンハーゲンのクィアブックカフェ「The Pond(ザ ポンド)」

ひとつめは、デンマークの首都コペンハーゲンの中心街すぐそばにあるクィア書店「The Pond」です。店の奥には、カフェも併設されていて、そこまで高くないコーヒーやお茶などを飲むことができます。
わたしとパートナーは金欠だったので、飲み物を注文することはせず、書店を1時間ほどうろちょろしていました。
書店の中には、有名なクィア関連の本がたくさん。ホラーやロマンス、アカデミックなど、ジャンルごとに本が並べられていて、とてもわかりやすかったです。
デンマーク語の本ばかりかと思いきや、半分くらいは英語の本で、デンマーク語のできないわたしたちでも充分立ち読みを楽しめました。カフェから聞こえてくる会話も英語で、インターナショナルな本屋さんという印象を受けました。
店内には、カフェのほかにも、ソファーや絵を描くスペースなどがあり、本を買わなくても、喋らなくても、誰かと来ても、ひとりで来ても、ゆったりとのんびり過ごせる場所になっていました。
また、ドアに貼ってあるポスターなどを見ると「The Pond」で、これから開催されるイベントがずらり。クィアたちが本を買うだけでなく、集っておしゃべりをしたり、話し合ったり、読書会をしたり。
地域に根づいたクィアスペースであるような感じがしました。カフェから聞こえてくる会話もずっと途切れず、盛り上がっているようでした。
ノルウェー・ベルゲンのクィアアートショップ「Hug Bryggen(ハグ ブリッゲン)」

ふたつめは、ノルウェーの第2の都市ベルゲンの観光地、ブリッゲンにあるクィアアートショップ「Hug Bryggen」です。外から見えるところにレインボーフラッグが飾られており、通りかかったらすぐにクィアフレンドリーだとわかります。
店内には、ローカルなクィアアーティストたちの作品がずらり。壁に飾るような大きな絵だけでなく、ステッカーやポストカード、しおりなど、小さくて普段使いができるようなものも、たくさん売っています。
ブリッゲン自体、アートショップがたくさん入っている建物群ですが、観光客向けの高いお土産が多いです。でも「Hug Bryggen」は、他のアートショップと比べて、わりと安めの小物のお土産が買える場所でもありました。
わたしたちもそこで、日本のクィアフレンズへのお土産としてステッカーなどをいくつか買いました。
ブリッゲンには「Hug Bryggen」のようにクィアアートショップとは掲げていないものの、レインボーフラッグを飾っているお店がほかにもいくつかあるので、こちらも機会があればぜひ行ってみてください。
ノルウェー・ベルゲンのクィアバーFincken(フィンケン)
最後は、ベルゲン唯一のクィアバー「Fincken」です。ベルゲン市内にある「Fincken」は、新宿二丁目でよく見るような、お酒を飲めて、おつまみがつまめるクィアバーです。ドラァグクイーンショーやクィズ大会などのイベントも、頻繁に開催しています。
お酒を注文するカウンターの奥に椅子やソファーがたくさん並んでいる場所があり、ドラァグショーを観たり、クィアなテレビ番組の配信パーティーをしたりする場所になっています。
2階はダンスフロアになっており、何をしたいかによってバーのどこにいるかを選べます。
壁にはクィアなアート作品がいくつか飾ってあり、内装もとてもかわいいバーでした。わたしたちは泊めてもらった友人とそのパートナーと、4人で行きました。
お酒を1杯注文し、配信パーティーに参加。そのあと4人で横並びの大きなソファーに座って数時間しゃべりこみました。店内が広いので、くつろげる場所が見つけやすく、長居しやすいバーでした。
あとから知ったのですが「Fincken」は、公式ウェブサイトで同性愛嫌悪や性差別だけでなく、障害者差別や人種差別、暴力、トランスジェンダー差別、外国人差別などに反対すると明確に言っています。なにか差別的なことを見聞きしたらスタッフに伝えてほしい、とも書いてありました。
残念ながら、クィアコミュニティの中でも、差別的なことを言われたりされたりすることがあります。
わたし自身、大学で参加したクィアコミュニティで人種差別的な発言を見聞きしたことで、足が遠のいたことがありました。そのため「Fincken」のように差別に反対する立場を明確にしているバーは、また安心して足を運べるな、と思いました。
クィアカップルとして北欧で過ごして・・・

ここまで、クィアやクィアカップルとして、北欧はわりと生活しやすいという話をしてきました。
実際、クィアスペースでなくてもレインボーフラッグを飾っている店や、クィアカップルに見える人たちが手をつないで歩いているところなどを、街中で見かけることはとても多かったです。
ただ、そもそも北欧は、白人の人口が多いため、クィアスペースにいる人たちの多くも白人です。友人がクィアフレンドリーだというベルゲンの教会に連れて行ってくれたときなどは、アジア人がわたしたちしかおらず、居場所がないような心地がしたこともありました。
また、レズビアンカップルに見えるパートナーとわたしが手をつないで街を歩いていると、じろじろ見られている気がするときもありました。
その理由がわたしたちがアジア人だからなのか、レズビアンカップルに見えるからなのか、観光客に見えるからなのか、アジア人のレズビアンカップルが少ないからなのかはわかりませんが・・・・・・。
今回の旅でわたしが見てきたものは、北欧のほんの一部分なので一般化はできません。それでもなんとなく、レインボーフラッグやオープンリークィアな友人たちに囲まれていると、普段日本で過ごしているときよりは、クィアとして、クィアカップルとして生きやすいような気もしていました。
クィアな友人たちが、クィアであることを毎日のようには悩まず生活しているのを見られたのも、とてもうれしい時間でした。
シェアハウスでの生活、パートナーとの同棲、クィアスペース多さなど、それぞれの面白さや楽しさも伝わってくるような旅でした。どこで誰と一緒にいても、クィアとしてのびのび生きられるような環境だったらいいのに、と改めて感じました。
タイや台湾など、クィアフレンドリーと言われることの多い他の国や地域にも行ってみたいなと思います。
■参考情報
・The Pond ウェブサイト https://www.thepondcph.com/
・Hug Bryggen Facebookページ https://www.facebook.com/HugBryggen/
・Fincken ウェブサイト https://www.fincken.no/



