私は神奈川県横浜市在住のレズビアンで、2023年に同性パートナーとパートナーシップ宣誓をしました。今回は、横浜市パートナーシップ宣誓制度の概要や手続きに必要なもの、また当日の流れや職員の方の雰囲気などを、リアルな感想とともに紹介します。
私たち同性カップルが利用した、横浜市パートナーシップ宣誓制度について
パートナーシップ制度とは、自治体が同性カップルに対して、結婚に相当する関係であることを証明し、両者に対して証明書を発行する制度です。事実婚の異性カップルも利用できる場合もあります。現在、日本では500近くの自治体でパートナーシップ制度が施行されており、導入件数は年々増えつつあります。
横浜市パートナーシップ宣誓の組数は500組以上
横浜市は「横浜市人権施策基本指針」の理念にもとづき、性的少数者や事実婚の方をはじめ、さまざまな事情で婚姻の届出をせず、あるいはできず、悩みや生きづらさを抱えている市民を対象に、2019年12月から「横浜市パートナーシップ宣誓制度」を実施しています。
横浜市のホームページによると、2025年2月時点で市内のパートナーシップ宣誓の組数は507組にのぼるといいます。神奈川県では全33市町村でパートナーシップ宣誓制度が導入されていますが、そのなかでもトップクラスの数字です。
横浜市パートナーシップ宣誓制度の要件・必要書類、手続きの流れ
横浜市パートナーシップ宣誓の要件は、以下の通りです。このすべての項目に該当する性的少数者や事実婚のカップルが対象になります。
【宣誓の要件】 *引用元:横浜市パートナーシップ宣誓制度
・成年に達していること
・横浜市民であること。または一方の方が市民で、他方の方が転入を予定(3か月以内)していること
・婚姻していないこと
・宣誓者以外の方とパートナーシップ関係がないこと
・近親者などでないこと
宣誓に必要な書類は、以下のとおりです。カップル二人分の書類を用意しましょう。
【宣誓に必要な書類】 *引用元:横浜市パートナーシップ宣誓制度
1. 現住所を確認する書類(住民票の写しまたは住民票記載事項証明書)
2. 現に婚姻していないことを証明する書類(戸籍抄本等/外国籍の方は大使館等が発行する独身証明書や婚姻要件具備証明書等 及びその日本語訳(翻訳者を明記))
3. 本人確認ができる書類(運転免許証、マイナンバーカード、パスポート等)
※1、2は、3か月以内に発行されたものに限ります。 また、市庁舎での発行はできませんのでご注意ください。
※3は、有効期限があるものについては、有効期限内のものに限ります。
なお、このほかに市長が必要と認める書類の提出が必要になる場合があります。
宣誓の要綱を満たしていることを確認して、必要な書類を用意したら、オンラインもしくは対面で申請手続きを行います。
オンラインの場合は、カップルそれぞれが横浜市電子申請・届出システムに登録・ログインして、宣誓内容を登録し、必要書類の写真をアップロードします。
その後、申請内容や書類を確認した担当者から交付日決定の連絡が来て、当日に横浜市役所でパートナーシップ宣誓受領証と受領証明カード(申請時に希望した方)を受け取るという流れです。
私たちは対面で宣誓したので、対面での宣誓の流れは後でくわしく紹介します。
国内パートナーシップ制度の2つの型
日本のパートナーシップ制度は、主に条例型と要綱型の2つに分けられます。この2つの違いは制度を「条例で定めるのか・要綱で定めるのか」という点です。
◉条例型
パートナーシップ制度が条例にもとづくものとして、議会から承認を受けて運用されるので、制度として安定感があります。
全国で初めてパートナーシップ制度を導入した渋谷区は、この条例型です。渋谷区では必要な書類のなかに「任意後見契約公正証書」と「合意契約公正証書」がふくまれており、証明書が発行されます。渋谷区パートナーシップ制度が公的な力を持つ信頼性の高い制度となっています。
◉要綱型
地方公共団体の長の権限によって制定するもので、議会を通さずに比較的短期間で導入できます。
近年、導入されたパートナーシップ制度は要綱型が多く、横浜市もこの要綱型にあたり、宣誓受領書が発行されます。ただ、要綱型の場合、運用の自由度は高くなりますが、法的な効力はありません。
それでも、私たちは横浜市パートナーシップ宣誓制度を利用することを選びました。その理由を続けてくわしくお伝えします。
横浜市のパートナーシップ宣誓制度の当日、緊張からの意外な結果に?
2023年の夏。紆余曲折あってようやく迎えたパートナーシップ宣誓の日。当日は私もパートナーも緊張していたのですが、結果的によい記念日になりました。
パートナーシップ宣誓制度に対する私たち同性カップルの考え方
(下記は2023年時点の情報となるので、現在とは異なる可能性があります)
現在、交際7年以上になる私たちですが、付き合って5年経つころになっても「パートナーシップ宣誓をするかどうか」を決められずにいました。法的な効力がないため、宣誓をしたところで何も変わらないと思っていたのです。
しかし、あるとき横浜市内で引っ越しをすることになり(このころはすでに横浜市民でした)、そこで “同性カップルの物件探しの難しさ” を痛感しました。
私たちがカップルであることを伝えても、伝えなくても、同性同士である私たちが仲介業者から紹介してもらえるのは「ルームシェア可」の物件で、「二人入居可」の物件はほとんど紹介されませんでした。
もちろん、これは不動産のオーナーや仲介業者、担当者によっても対応が違うと思うので、一概にはいえませんが、私たちの場合は物件の選択肢がかなり狭い状況でした。
こうしたなかで「私たちがカップル・家族として証明できれば、何か違っていたのかな」と思うようになり、パートナーシップ宣誓を考えるようになりました。
「ないよりはあった方がいいだろう」というモチベーションで宣誓に踏み切った、というのが正直なところです。私たちは“パートナーシップ宣誓=結婚のようなもの” とは捉えておらず、あくまで “制度を利用する” という捉え方でした。
横浜市パートナーシップ宣誓制度の当日、ドキドキで市役所へ
ワクワクした雰囲気ではなく「ちゃんと手続きできるかな」という不安で、当日を迎えました。
私たちがパートナーシップ宣誓をした2023年は、まだオンライン申請を導入していなかったので、対面で申請の手続きをしました。
横浜市では、パートナーシップ宣誓希望日の3か月前から予約ができます。「市民局人権課」あてに電話やメールで連絡をして、予約日になったら必要書類を持ってふたりで横浜市役所に行くという流れです。
当日ふたりで市役所に足を運んで、まず受付の方に「パートナーシップ宣誓の件で予約を入れた者ですが・・・・・・」と声をかけました。すると受付の方から「〇〇階に行って、そこでお待ちください」との返答があったので、市役所内のゲートを通るパスを受け取って指定の階へ向かいます。
指定のフロアに着くと、係の方にベンチに座って待っているよう促され、そこから15分ほど待ちました。
その後、また別のフロアへ移り、さらにベンチで10分ほど待機します。近くにはミーティングスペースのような場所があり、市役所の職員の方が打ち合わせをしている姿が見えました。もちろん、向こうからも私たちが目に入るでしょう。
パートナーは人目を気にするタイプなので、「早く呼ばれないかな」と落ち着かない様子でした。
担当職員と話した結果、意外な展開に
そわそわしながら待っていたところ、ようやっと名前が呼ばれて、会議室のような部屋に案内されました。部屋のなかには、私たちふたりと担当職員ふたりしかいません。
担当職員の方はとても丁寧に、パートナーシップ宣誓制度の主旨や受領証について説明してくださいました。
説明を聞いた後は、「パートナーシップ宣誓書」にそれぞれの名前を署名して提出します。そして私たちが持参した必要書類と、今しがた提出した宣誓書を職員の方が確認し、パートナーシップ宣誓書受領証の準備をします。受領証交付までの時間がかなり長く、30分~1時間ほど待ちました。
それから、確認宣誓書の写しとともに受領証と受領証カードを受け取ります。受領証カードの裏面に自分とパートナーの氏名、住所、生年月日、緊急連絡先を書いたら手続きは終了です。
手続きが終わった後、職員の方と少しだけ話す時間がありました。そこで思い切って、今回の手続きの待ち時間が長かったことや、対面での手続きだと職員にとっても手間がかかる旨、また人目が気になることなどを伝え「オンラインで申請できたらいいのですが・・・・・・」と提案してみました。
すると、職員の方が「そういった要望はこれまでにもたくさんありました」「こちらとしても前向きに導入を検討している」と答えてくださり、とても誠意を感じました。
そしてなんと、翌年の2024年4月に横浜市パートナーシップ宣誓制度でオンライン申請ができるようになったのです。もともとオンライン申請の需要があったからとはいえ、「遠慮せずに提案してみるものだな」とも思いました。
パートナーシップ宣誓後の心境、生活の変化は?
最後に、横浜市でパートナーシップ宣誓をしてからの心境や、その後の生活についてお伝えします。
同性カップルの生活に、ひとさじの安心感がプラス
私たちは、もともとパートナーシップ制度を結婚に代わるものだと捉えていなかったので、宣誓したからといって「ふたりの関係がさらにステップアップした」といった意識の変化はありませんでした。
法的な効力もないので、宣誓前と状況はあまり変わらないのですが、少しだけ日々の生活に安心感がプラスされたような気がします。
受領証やカードがあれば、何か手続きが必要なときにふたりの関係をたずねられた際、カップルであることを証明しやすくなります。自治体の要綱にもとづく制度ではありますが、「市長がカップルであることを認めた」ことは事実なので、不当な扱いを受けた際の盾にはなるはずと思っています。
パートナーシップ宣誓受領証・カードを使う機会はまだない
同性同士であるがゆえに物件選びの際に選択肢が少なく、「私たちがカップル・家族として証明できれば・・・・・・」と悩んだことがあると先述しました。実は、パートナーシップ宣誓後に無事、希望の物件に入居することができたのです。
ただ、たまたま二人入居可の物件の審査が通ったというだけで、パートナーシップ宣誓をしたから叶ったというわけではありません。契約の際も受領証やカードを見せることはありませんでした。
その後も、受領証やカードの出番はない状況が続いています。とはいえ、パートナーシップ宣誓をしたことがきっかけで、お互いに将来を考える機会が増えたように思います。
最近は、公正証書を作ろうという話もしました。お互いの未来について真剣に向き合うきっかけとして、みなさんもパートナーシップ制度の利用を検討してみてもよいのではないでしょうか。
同性カップルが結婚できる世の中に
パートナーシップ制度、公正証書、養子縁組など、同性カップルがパートナーとの生活を守るための一時的な措置はあります。しかし、私は自身とパートナーの関係を法的に認められたい・・・・・・つまり法律婚がしたいのです。
お互いに何かがあったときのために、そして “ふうふ” としてともに生きるために、いま私たちに必要なのは法律婚です。
同性カップルも法的に守られ、安心して生活を営めるよう、同性で結婚ができる世の中になってほしと切に願っています。
■参考情報
・横浜市ホームページ 「横浜市パートナーシップ宣誓制度」について オンライン申請を導入します
・横浜市ホームページ 横浜市パートナーシップ宣誓制度
・横浜市ホームページ 横浜市パートナーシップ宣誓制度 手続きガイドブック
・渋谷区ホームページ 渋谷区パートナーシップ証明
・国立国会図書館 地方公共団体のパートナーシップ認定制度