昨年公開され、世界中で大ヒットのミュージカル映画『ウィキッド ふたりの魔女』がついに3月7日(金)から、日本で公開される。肌の色が違うことでハードな人生を送ってきた女子と、ハッピーしか味わってこなかった女子との友情と別れが描かれ、さらにさらに我々LGBTQが抱える問題も提示し、キラキラだけじゃない、なかなかに深い作品に仕上がっている。
映画『ウィキッド ふたりの魔女』は、『オズの魔法使い』の前日譚
前日譚(ぜんじつたん)とは、ある物語の前に起こる出来事を描いた作品をいう。映画『ウィキッド ふたりの魔女』は、名作『オズの魔法使い』に先行しているバックストーリーなのだ。
LGBTQ+のシンボルとなったレインボーフラッグは『オズの魔法使い』から?
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今も読み語り継がれる児童文学『オズの魔法使い』は、あまりにも有名だ。そして1939年に映画化されたジュディ・ガーランド主演の『オズの魔法使』は、名作映画として今も世界中のどこかで上映されていたり、配信されている(日本ではU-NEXTで視聴可能)。
そんな『オズの魔法使』で主人公のドロシーを演じたジュディ・ガーランドは、今作がきっかけで、のちにゲイのアイコンとなり、彼女によって歌われた『虹の彼方に』はスタンダードナンバーとして歌い継がれ、作中に登場した虹のイメージは、LGBT プライドの象徴にもなった。
『ウィキッド ふたりの魔女』は、ミュージカル『ウィキッド』の映画版
時を経て『オズの魔法使い』と映画『オズの魔法使』から着想を得たグレゴリー・マグワイヤは、1995年に西の悪い魔女、エルファバの人生を描いた伝記小説『Wicked: The Life and Times of the Wicked Witch of the West』(邦題『ウィキッド:誰も知らない、もう一つのオズの物語』)を発表し、話題になった。いわゆる『オズの魔法使い』よりもずっと前の、魔法と幻想の国・オズが舞台の物語である。
その小説を元に、ミュージカルとして製作されたのが、2003年にブロードウェイで開幕した『ウィキッド』だ。
ブロードウェイではいまだロングランが続き、イギリス、ドイツ、オランダ、オーストラリア、韓国、シンガポール、メキシコ、ブラジルと世界中でも上演され、現在日本では、劇団四季によって2025年7月まで大阪で公演されている。
そんなミュージカルが万を期して映画化された。すでに昨年公開済みのアメリカなどでは大ヒット。日本でも3月7日(金)より『ウィキッド ふたりの魔女』のタイトルで公開される。
今作はパート1、パート2と2部作に分かれており、今回公開されるのは舞台では第1幕目のパートだ。
ひと足先に試写で観賞したのだけれど、これが今の時代に沿った!? 多様性が凝縮された作品となっていた。
映画『ウィキッド ふたりの魔女』は、女性同士の友情を描いた物語
ミュージカル『ウィキッド』を映画化しただけでないのが、3月7日(金)から公開される『ウィキッド ふたりの魔女』なのだ。
映画『ウィキッド ふたりの魔女』あらすじ
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緑の肌を持って生まれたエルファバ。家族や周囲から疎まれ、孤独な人生を送ってきたが、妹のネッサローズのシズ大学進学のお共でやってきたことで生活は一変する。
偶然に魔法の力を発揮した彼女は、大学の魔法学の権威、マダム・モリブルに才能を見出され学生として迎え入れられる。
エルファバと同時に入学してきたのは、誰からも愛されてきた容姿端麗のお嬢様で人気者のグリンダ。そんな正反対の境遇で育ったふたりが、ひょんなことから同じ寮の部屋でルームメイトに。
最初は反発し合う犬猿の仲だったふたりが、お互いの本当の姿を知ることで徐々にかけがえのない友情を築いていくことに。
ある日、エルファバの実力が認められ、オズの大王との謁見に招待される。グリンダとともに大王が司るエメラルドシティに旅立つが、そこでオズに隠されていた “ある秘密” を知ることになった。
ふたりはそれぞれの使命に向かって違う運命を見出していく・・・・・・。
陰キャと陽キャ、大学カーストを歌と踊りで再現もしているミュージカル。
昭和・平成の少女漫画の世界が何気に踏襲されているとは!?
真面目で堅物、そして過去からの経験から卑屈・自虐という文字を顔に描いたような陰キャのエルファバと、誰からも愛され、自己肯定、自己承認の塊である、パリピ陽キャ女子、グリンダとの出会い。
ふたりが部屋をシェアすることとなり、互いに意固地をこじらせた “イケズ” や、クラスメイトたちからの “小イケズ” 合戦。
さらにフィエロという、ペンペラペンの陽キャで、イケメンボンボン不良転校生男子が登場しての、エルファバとの最悪な出会いからのぅ「あんた! あの時の!」的な再会。
そのほか、イケメンに目のない策士グリンダが、偶然を装った出会いなど、それらのあるある既視感は、偶然にも昭和・平成の日本の少女漫画の擦り倒されたパターンだ。
いい意味でその時代を踏襲しているような、女性同士の友情が面白い。
LGBTQ+だけではない、多様性が大切にされた作品
実はこの映画、LGBTQ +が裏テーマとしてあるのだ!? さらに映画『ウィキッド ふたりの魔女』で興味深いのが、映画自体が多様性に取り組んでいること。
エルファバ役のシンシア・エリヴォは、LGBTQ+の支援活動も
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シンシア・エリヴォは、2022年に自らバイセクシュアルであるということをカミングアウト。昨年、LGBTQ+コミュニティ支援の活動を称えられ、LGBTセンターからシュレーダー賞を受賞している。
受賞スピーチの中でシンシア・エリヴォは語った。
ここで皆さんの前に立つにあたり、黒人で坊主頭で、ピアスをしたクィアとして私が言えるのは、エルファバの物語は、抑圧の中で個性や “他者性” を貫くことが、時にどんな意味を持つのかについての馴染みある物語となっています。
彼女にとってエルファバは、自身のこれまでの人生と重ねて演じた重要なキャラクターになっている。
LGBTQ+の人権活動に積極的な、グリンダ役のアリアナ・グランデ
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アリアナ・グランデは、兄がゲイということもあり、以前よりLGBTQ+の人権を保護する活動を行なっている。
2015年にアメリカ最高裁が同性婚を認める判決を下した直後には、インスタグラムでメッセージをアップし、その2日後に行われた『NYプライド』のオープニングにも登場した。
エルファバとグリンダを支える個性豊かなキャラクターたちも多様
●マダム・モリブル役のミシェル・ヨー
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アカデミー賞主演女優賞を受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』ではクィア女性を演じ、さらにクィアの娘を持つ母親も演じていた。
●プリンス・フィエロ役のジョナサン・ベイリー
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早くからゲイとしてカミングアウト済みだ。
●ファニー役のボーウェン・ヤン
カミングアウト済みのコメディアンでアジア系ゲイだ。グリンダの取り巻きのひとりである役柄のファニーは、ゲイのキャラクター。
テレビ番組『サタデー・ナイト・ライブ』でも異彩と毒を放っている(今年公開されたゲイのド下品ミュージカル映画『ディックス!ザ・ミュージカル』でもビッチで最高な神を演じている)。
●エルファバの妹、ネッサ・ローザ役のマリッサ・ボーディ
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役柄と同じく車椅子ユーザーで、そのために同じく車椅子ユーザーのコーディネーターを迎えた。
楽屋であるトレーラーハウスも彼女仕様に改造され、現場もスロープや昇降機などを設置。バリアフリーな環境で撮影が行われ、監督の意向で車椅子の使いやすさを視覚的に伝わるようにも配慮されたそう。
04多様性を認めないトランプ大統領は、映画『ウィキッド ふたりの魔女』を知るか?
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ミュージカル好きな人、そして今作でミュージカル『ウィキッド』を知るLGBTQ+の人々の琴線に触れること間違いなし。
舞台版の『ウィキッド』を見ている人なら、オーヴァーチュア(音楽でいう “序曲” のこと)を兼ねているオープニングから、「魔女が死んだ」と市民が讃える中、豪華に登場するグリンダの場面は、すでにたまらないはず。
さらに映画『ウィキッド ふたりの魔女』では、ダンスナンバーがアップデートされ、強力なアレンジと振り付けによって映画的ゴージャスさを堪能できるし、舞台版では時間の都合で深く描かれなかった部分もしっかりと補強されたことで、それぞれのキャラクターへの感情移入もバッチリ。
そしてミュージカル好きにはたまらな過ぎるサプライズキャストも登場。パート2へ続く重要なナンバー『Defying Gravity』で最高潮に。見終わればパート2の公開が待ち遠しくなるはず。
ちなみに映画『オズの魔法使』をまだ見ていない人は、『ウィキッド ふたりの魔女』の予習として、先に見ることをお勧めしたい。
そういえばアメリカ大統領就任演説で「今日から性別は男女の二つのみとする」と、多様性を認めないと大統領令に署名したトランプ氏は、今作を見たのだろうか。
ま、興味もないだろうな。
■作品情報
『ウィキッド ふたりの魔女』 公式サイトhttps://wicked-movie.jp/
・監督:ジョン・M・チュウ
・出演:シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデ、ジョナサン・ベイリー、イーサン・スレイター、マリッサ・ポーディ、ボーウェン・ヤン、ブロンウィン・ジェームズ、ピーター・ディングレイジ、ミシェル・ヨー、ジェフ・ゴールド・ブラムほか
・配給:東宝東和