私には、同性のパートナーがいる。一緒に暮らし始めてそろそろ3年になるけれど、未だに「パートナー」という呼び方がしっくりこないでいる。私のようなレズビアンや、そのほかのLGBTQ+の方は、「パートナー」以外にどのような呼称を使えばいいのだろうか。
「パートナー」呼びがカミングアウトになってしまう?
毎回言いよどんでしまう、「パートナーと暮らしています」という自己紹介
「一人暮らしなの? それとも、家族と住んでいるの?」
初対面の人に自己紹介をしたとき、この頃よく投げかけられる質問。
私の場合、生まれ故郷から少しだけ離れた県に住んでいるため、「どうして引っ越したの?」という形で質問されることもある。
毎度のことながら、どんなふうに答えたものか少しだけ迷ってしまう。
「パートナーと二人暮らしをしています」
「パートナーがこの県に住んでいたので、一緒に暮らすために引っ越しました」
迷いはしても、返す答えは毎回同じだ。
嘘をつかずに答えようと思ったら、結局同じ表現にたどり着いてしまう。
「パートナー」呼びが、レズビアンであることのカミングアウトになる?
たいていの場合は「ああ、そうなんだ」と話題が落ち着いていくのだけど、悩ましいのが「パートナー」呼びに引っ掛かりを覚える人がいるとき。
「パートナーって、つまり、恋人? 結婚はしてないの?」
これからぜひ仲良くなりたいと思う人には、「パートナーも女性なんです」と答えることもあるが、この手の質問で深掘りをしてくる人には、正直に言って私は「あまり自分のことを開示したくないな・・・」という気持ちがわいてきてしまう。
だから結局、「うーん、まあ、そうですねえ」などと曖昧な返答をしてお茶を濁すのだけど、ごくたまに、「パートナーって、もしかして女の人?」などとクリーンヒットな質問を重ねられてしまう。
そうなると、私としては「そうですね、女性です」と返すしかない。
自分がレズビアンであると、カミングアウトすること自体がいやなわけじゃないけれど、個人情報を開示したいと思える相手と、したくない相手がいるのも事実。
初対面であけすけな質問をしてくる人には、「もしかしたらほかの人に言いふらされるかも・・・・・・」「私に興味があるというより、誰にでもこんなふうに深掘りした質問をするのかな」とつい感じてしまう。
だから、できたら深掘りされないような無難な答えを返したいのだけど、恋人のことを「パートナー」と呼ぶ時点で、「自分がレズビアンであること」をほんの少しカミングアウトしているのかもしれない。
でも、だとすれば、私は恋人(パートナー)のことを他人に何と説明すればいいのだろう?
レズビアンの人たちは、パートナーのことを何と呼んでいるのか
レズビアンの知り合いはあまり多くないけれど、インターネットなどで「恋人(パートナー)のことを他人の前で何と呼んでいる人が多いか」、少し調べてみた。
カミングアウトしたくないレズビアンは、パートナーを「彼氏」と呼ぶ?
そもそも、職場やあまり親しくない知人の間では、自分がレズビアンであることを明かさないという人も多い。
そういう人たちは、パートナーを「彼氏」と呼び、「自分には男性の恋人がいる」という設定で話すことがあるらしい。
私自身、レズビアンであることを隠しているわけではないけれど、恋人を「パートナー」と表現するだけで「もしかしてレズビアン?」と思われることがあるのだから、自衛のために恋人の性別を偽って話すという人がいるのもうなずける。
また、私の母は、祖父母に私のパートナーの話をする際、必ず「彼氏」という言葉を使う。
母は、私が女性と交際していること自体は受け入れてくれたけれど、「祖父母にはさすがに理解してもらえないだろうし、かといっていつまでも独身だと心配させるだろうから、安心させるために『彼氏がいる』ってことにしておくね」ということらしい。
その気遣いは私も妥当だと思うのだけど、母や祖父母から、パートナーのことを「彼氏」と呼ばれるたび、複雑な思いが胸をよぎる。
悪いことをしているわけじゃないのに、親しい人の前で嘘をつきつづけるのはモヤモヤするし、「結婚はしないのか、ひ孫は生まれないのか」と質問してくる祖父母に対して、正直に話すことができないのも、心苦しい。
パートナーのことを「彼女」と呼ぶのは恥ずかしい?
自分のセクシュアリティをオープンにされているレズビアンの方や、レズビアン同士で話しているような場面では、パートナーを「彼女」と呼ぶのが主流なようだ。
確かに「パートナー」という呼び方は、カジュアルな場面で使うにはちょっと堅苦しい。
かといって、「恋人」と呼ぶのはロマンチックすぎて、なんだか気恥ずかしい。
ただ、個人的な感覚だけれど、「彼女」という呼び方には、若さや軽やかさ、「まだ公的な関係(ふうふ)ではないけれど、現在お付き合いしている人」といったニュアンスがふくまれているように思えてしまう。
私は、今のパートナーと生涯を共にするつもりでいる。
3年間一緒に生活してきて、恋人よりもむしろ家族に近いような、安心感と親密さを兼ね備えた関係性になってきていると感じている。
だからこそ、私にとってパートナーを「彼女」と呼ぶことは、少し違和感を伴う。
本当は、結婚した男女がお互いを呼ぶときの「うちの妻・奥さん/夫・旦那が〜」という言い回しが、ちょっとうらやましい。
恋人以上に安心感のある、家族に近い存在であること。それを過不足なく相手に伝えられて、かつ、カジュアルな雰囲気を壊さない表現ができることは、やっぱりいいことだなあ、と思ってしまうのだ。
「パートナー」以外に、日本語にあったら嬉しい恋人の呼び方
どこかビジネスっぽさが漂い、堅苦しい印象を与えかねない「パートナー」という呼称以外に、もっと気軽に使いやすい呼び方があればいいのに・・・・・・と、つい思ってしまう。
「パートナー」以外に、「レズビアンの恋人」にふさわしい呼び方はあるか?
日本語だと、「パートナー」「恋人」「彼女」以外の呼び方は、たいてい少し堅苦しい。たとえば、「配偶者」「伴侶」「連れ合い」など。
私のパートナーは、私のことをたまに「連れ」「相方」と呼ぶこともあって、それも悪くはないのだけど、照れ隠しでわざとそっけなく呼んでいるみたいで、自分が使うのはモジモジしてしまう。
ごく浅い関係性の人に、自分がレズビアンであるとあえて明かしたくはないとき―たとえば、美容室でスタイリストさんに質問されたときなど―は、パートナーを「同居人」と呼ぶこともある。
一緒に暮らしているのだし、嘘ではないからやましい気持ちは起こらない。
「同じ家に暮らしている同性の人」という意味で、「ルームシェアか何かなのかな?」と自由に解釈してもらえて、深掘りされにくいのもありがたい。
ただ、自分とパートナーの関係を簡潔に、過不足なく説明しようと思ったら、どうしても「恋人」「彼女」「パートナー」といった呼び方に戻ってきてしまう。
日本語にあったら嬉しい「パートナー」の新しい呼び方
日本語以外で、私が個人的にいいな、と思う呼び方は「ステディ(steady)」だ。
「パートナー」よりも堅苦しくなく、「ガールフレンド」ほど軽くもない。「安定した、決まった関係性の恋人」というニュアンスがあって、自分とパートナーの関係性を表す言葉としては、かなり近い意味をもっているように思う。
「パートナー」という呼び方も決して嫌いではないのだけど、やはりその言葉自体がカミングアウトの原因になったり、詮索を受けたりする可能性があるのであれば、もっとラフでカジュアルな印象の呼び方が広まればいいのにな、と考えてしまう。
英語圏の「ステディ」に近い表現が、日本語でも広まってはくれないだろうか、と思う今日この頃である。
レズビアンである私が、「パートナー」と共に生きていくなかで
たとえ、レズビアンカップルが婚姻関係を結べたとしても
小説やエッセイを読んでいて、レズビアンのカップルがお互いのことを「妻」「奥さん」と呼び合う、という描写に出会うことが何度かあった。
日本では婚姻関係にはなれないけど、海外では国によって同性婚も可能で、日本に住んでいても実質は「ふうふ」のようなものだから・・・・・・という理由で、「妻」「奥さん」と呼び合う人たちが、実際にいるそうだ。
一度、パートナーに「奥さんって呼び合うのはどう?」「いやだったら、旦那さんでもいいけど」と冗談交じりに言ってみたら、「照れちゃうから」と却下されてしまった。
確かに、自分で提案しておいてなんだけれど、パートナーのことを「妻」「奥さん(あるいは旦那さん)」と呼ぶというイメージはわいてこない。
たとえ日本での同性婚が可能になって、私がパートナーと婚姻関係を結んだとしても、パートナーは私にとって「人生を共にする人」「恋人であり、家族であり、これからの一生を共に過ごしていく相棒」のような存在であって、そこに「妻」という役割を当てはめるのはしっくりこない。
「パートナー」という呼び方が当たり前の世の中であれば
じゃあ、やっぱり私の恋人を呼ぶのに一番ふさわしい表現って、「パートナー」なんだろうか。
もしかしたら、「パートナー」という言葉自体に問題があるわけじゃなくて、その言葉を使う人にLGBTQ+の人が多いという偏見、結婚をせずに他人と一緒に暮らしているのが「ふつうではない」という世間の思い込みのほうに、課題があるのかもしれない。
「パートナー」という呼称について考えてきた結果、私が辿り着いた結論はそこだった。
たとえLGBTQ+でなくても、結婚していない人と同居していても変ではないし、恋人ではない、ビジネス上の相棒や友人とパートナーシップを結ぶのもよくあることだ。
相手の性別や相手との関係性は人によってさまざま。そして、あらゆる人が、手を取り合って生きていくための相手のことを「パートナー」と呼ぶ。
そんな世の中になれば、「パートナー」という呼称を使うことへの抵抗もなくなるのかもしれないな、と思った。