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Writer/仲谷暢之

名匠ペドロ・アルモドバル監督最新作の映画『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』は、 “死を待つ者” “死に寄り添う者” について描いた静謐でロマンシスなメロドラマ。

明日1月31日(金)から公開される映画『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』。スペインを代表する映画監督ペドロ・アルモドバルの最新作だ。まもなく死を迎えようとする女性、そんな彼女に最期を看取って欲しいと言われた女性との短い日々を描いた物語である。ゲイのフィルターを通して、これまで様々な作品を発表してきた監督が老練の域で作り上げた最新作とは・・・・・・。

女性と同性愛者を描いてきたペドロ・アルモドバル映画監督が、次に目指すものとは?

成熟を超えた監督が見せる “女” という生き物

©2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
©El Deseo. Photo by Iglesias Más.

ペドロ・アルモドバルはスペインを代表する映画監督の一人だ。彼の作品を初めて見たのは『神経衰弱ぎりぎりの女たち』。

メキシコの歌手であり女優の、ローラ・ベルトランの曲「不幸な女」に乗せて、クラシックなファッション雑誌をコラージュした、シンプルながらもセンスあるオープニングタイトルが琴線に触れまくった。

さらに、キャラの際立った女性たちのエキセントリックな怪演が印象的な群像劇コメディだ。

そして、作中に漂う雰囲気、センスなどが、見ていて “あ、この監督はゲイだな” と直感した(結果、そうだった)個人的には思い出深い映画。それからは彼の新作が公開されたり、過去の作品が遅れて公開、ビデオやDVDリリースされれば、忘れずにチェックしてきた。

初期の作品にはキッチュさやポップさが溢れ、現在に至ってもアートに絞って観賞しても、引き込まれるような魅力が溢れている。

熟練が増すペドロ・アルモドバル映画監督の作品群はまるで・・・

監督ペドロ・アルモドバルは、第72回アカデミー外国語映画賞をはじめ、世界中の映画祭で数々の賞を受けた『オール・アバウト・マイ・マザー』で、女性たちの様々な深淵を描くことに成功した。

彼は、さらに自分なりの “女性” を描くことを追求。

続く第75回アカデミー賞脚本賞を受賞した『トーク・トゥ・ハー』、第59回カンヌ映画祭の脚本賞と女性出演者6人が女優賞を受賞した『ボルベール〈帰郷〉』は、“女性賛歌3部作” と称され、彼にとって重要な作品となった。

以後、公開される作品を見るたびに熟練が増し、まるで老練の歌舞伎女形の至芸を見ているような感覚に陥らせてくれている(艶笑喜劇「アイム・ソー・エキサイテッド!」のようなものも含めて)。

オスカー女優の競い合いとしても楽しめる映画『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』

ペドロ・アルモドバル監督の最新作が1月31日(金)から公開される映画『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』だ。

映画『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』のあらすじ


©2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
©El Deseo. Photo by Iglesias Más.

主演は、ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアというオスカー女優のふたり。若い頃、同じ雑誌社で働いていたマーサとイングリット。退社後は互いに忙殺される日々の中で何年も音信不通だった。

小説家になったイングリットはある日、知人からマーサが末期ガンであることを聞き、彼女の元を訪れる。空白の時間を埋めるが如く、連日、病室を訪ねてはいろんなことを語らっていた。

そんな中でマーサは、人の気配を感じながら最期を迎えたいと願い、“その日” が来るまで一緒にいて欲しいとイングリッドに頼む。悩んだ末に彼女も承諾。マーサが借りた森の中の家で共同生活を送るが・・・・・・。

ザ・ルーム・ネクスト・ドアは、なにを意味するのか?

まさに “女優” を体現

女が優れていると書いて “女優” と昔から言うけれど、今作のふたりは、まさにそれを体
現していた。

ロマンシスを漂わせつつも、関係性に絶妙な距離感を持って接する彼女たちのやりとりは、見事としか言いようがない。円熟味が増すとは、このことを言うんじゃないかと思う。

特に、ティルダ・スウィントンの “ある長セリフ” を受けるジュリアン・ムーアとのシーンは、思わず唸るほど。緊張と緩和が行き来するのだ。

もちろん、その演技を引き出したアルモドバル監督の演出もあってのことだけど、こういう場面を見せてもらえることは幸せだった。

ゲイの監督が今作で描くのは、死を迎える最期をどう過ごすか

映画『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』は感情を抑えたメロドラマ

©2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
©El Deseo. Photo by Iglesias Más.

記者から「この映画のジャンルは?」と聞かれ、ペドロ・アルモドバル監督は「最も近いとすれば、メロドラマになるだろう。ただし感傷的にならないよう、感情を抑えた作品にするように努めた」と答えた。

さらに「唯一望む未来か死であるというストーリー展開ゆえに、こうした抑えたアプローチが必要だった。心の機微を捉え、思慮深さをもって、死という普遍のテーマに臨んでいる」と、語っている。

そのエモーショナルさに女優たちが見事にこたえ、至極の演技を生み出し、監督のおもいは昇華されたと思う。

あらためて考えさせられた、同性愛者である自分の人生

今作でも監督からの同性愛者的要素は織り込まれている。出版社を辞め、戦場ジャーナリストとなったマーサと同行するカメラマンがゲイである。彼との間で語られた戦地でいることの緊張感が性欲を高め、そこにいる男とファックするという戦争とセックスの話はなかなかに興味深く、それはどこか死に直面しているマーサの感情とも被って見える。

さらに、ゲイで伝記作家のリットン・ストレイチーと、彼を複雑な気持ちで支えた画家のドーラ・キャリントンの関係性の引用があったりしたのも、主人公たちに対して深読みをしたくなる・・・・・・。

今作を見終わって、しみじみと考えた。

いつか自分も死を迎える。そんな時、その死に寄り添ってくれる人はいるだろうか。もちろんその反対も然りで、寄り添える相手はいるだろうか。

自分が同性愛者だからか、どうせ子孫も残さないんだし、迷惑さえかけなければいつ死んでもいいかなと、個人的にざっくり刹那な考えを持っていた。

でもこの映画は、多少なりともそんな考えを改めさせてくれた気がするのだ。特に、ジェイムズ・ジョイスの短編集『ダブリン市民』の「死せる人々」からの一文をマーサが話すシーンはその意味を汲み取りながら深く深く染み込んでくる。

人にとって “死” は、できれば考えたくない。とはいえ、年齢を重ねればおのずと向き合わなければいけない。

ペドロ・アルモドバル監督は、今作であなたならどうするか? を突きつけてくれた気がする。

 

■作品情報
『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』
・脚本・監督:ペドロ・アルモドバル
・出演:ティルダ・スウィントン、ジュリアン・ムーア、ジョン・タトゥーロほか
・配給:ワーナー・ブラザース映画

 

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