私はレズビアンとして恋活をしていた時期が短いため、そこまで多くのレズビアンの方とお会いしたことがない。ただ、短いなりに「相手に好かれたい」と思って活動していた当時、「レズビアン」と「ファッション」の関係は自分にとって重要な問題だった。
海外ドラマ『Lの世界』から見る「レズビアン」と「ファッション」の関係
「レズビアンらしいファッション」について考え始めたきっかけ
最初のきっかけは、海外ドラマシリーズ『Lの世界』を観たことだった。
自分がレズビアンかもしれないと気づいた学生の頃、何かセクシュアリティの理解を助けてくれるコンテンツはないかと探していて、『Lの世界』の存在を知った。
レンタルショップでDVDを借りてみたところ、初回放送が2004年の作品ということもあり少し古さは感じたけれど、レズビアン女性やその他のセクシュアリティの人びとが数多く登場し、恋愛や人生の悩みを吐露しあうストーリーはとても興味深かった。
ドラマ『Lの世界』はシーズン6にまでおよび、日々の忙しさにまぎれて途中で観つづけることを断念してしまったものの、レズビアンの当事者と実際に対面したことがほとんどなかった当時の私にとって、同シリーズはまさにバイブルのような存在だった。
その『Lの世界』シーズン1の作中で、「ある女性がレズビアンかどうかを見極めるためにはどうしたらいいか」という話題が出たのだ。
「レズビアンらしさ」をファッションで体現するドラマ『Lの世界』
ドラマ『Lの世界』で「レズビアンらしさ」として語られる条件は多数あったが、私の印象に残っているのは「ファッション」がどうやら重要らしい、という点だ。
片耳にピアスをしているかどうか、爪を短く切りそろえているかなど、一目見て「レズビアンかもしれない」と察せられる場合もあるのかもしれない。
しかし、ドラマ『Lの世界』では「(レズビアンの)女性から魅力的だと思われるファッション」が重要視されているようだった。
現に、大勢のレズビアンが恋に落ちているという設定の「シェーン」という登場人物は、胸元が大きくあいた服にアクセサリーをきらりと輝かせ、やや気だるげな立ち居振る舞いで女性たちに愛をささやいていた。
また、「自分はあまりレズビアンらしく見えないらしい」ということが気になった「ジェニー」という登場人物は、友人たちのアドバイスでロングヘアーをばっさりと切る。
ショートヘアーになったことで、少し中性的な雰囲気が出たジェニーは、街中で女性からの視線を感じ、「レズビアンとして魅力的に見えるようになったのだ」と喜ぶ。
これらの描写から、私は「レズビアンの女性から魅力的だと思われるためには、レズビアンとしてふさわしいファッションを学んだほうがいいのかもしれない」と思い込み、若干の焦りを感じた。
私がドラマ『Lの世界』のような「レズビアンらしいファッション」を諦めた理由
当時の私は、パーカーを着てデニムを履くことが多く、靴はほとんどスニーカーばかりで、ドラマ『Lの世界』に登場するような大人っぽい女性像からはほど遠かった。
かといって、スカートやヒールの高いパンプスに挑戦する勇気も出ず、またレズビアンの女性と出会えそうな場に行く機会もなかった。
第一、スカートは自分らしいと思えないし、ヒールの高いパンプスは足が痛くなる。
男性であればパーカーにデニム、スニーカーのスタイルもおかしくないのに・・・・・・と思い、自分が女性であることをわずらわしく感じる時期もあった。
知らず知らずのうちに、私は自分に「レズビアンとして魅力的なファッションをするべきなのだ」という呪縛をかけてしまっていたのだ。
やがて就職した私は、仕事に追われる中で、恋愛のこともファッションのこともすっかり忘れてしまった。
私が次に「レズビアン」と「ファッション」の関係性について考えたのは、恋活を始めようと決めた数年前のことだった。
ファッションに「レズビアンらしさ」は必要なのか
恋活をする中で知った「モテるレズビアン」像とは
レズビアンとして恋活を始めてから、私は「モテるレズビアン」について調べた。
インターネットで検索して得た情報なので確実性はあいまいだったけれど、複数のページで「ボーイッシュなファッションはレズビアン女性にモテない」「フェミニンなファッションのほうがモテる」という記述を目にする。
私はタカラヅカの男役さんが好きだったということもあり、ボーイッシュなスタイルの女性はとても素敵だと思っていたので、その情報はかなり衝撃的だった。
半信半疑のまま、慣れないスカートスタイルで女性とのデートに出掛けてみたものの、普段の服装が「フェミニン」ではなかったので似合っているとも思えず、しばらく自分のファッションに自信が持てなかった。
本当はスカートではなく、活動的なパンツスタイルが好きだったのに、インターネット上の情報に振り回されて、私のファッションは迷走していった。
次第に疲れた私は、恋活も休みがちになり、登録したマッチングアプリもやがて消してしまった。
私が「レズビアンらしいファッション」を脱した方法
私が恋活を再開したのは、ファッションへの苦手意識を少しずつ克服し始めた頃だった。
再びダウンロードしたマッチングアプリで、ひとりの女性とデートの約束をすることができた私は、「デートの日に着物を着て行ってもいいですか?」と質問した。
ファッションの迷走期を経て、私が「レズビアンらしいファッション」の呪縛から抜け出すきっかけになったのは、着物を着るという趣味を見つけたことだった。
洋服だと、フェミニンな印象を受けるスカートやリボンなどは苦手に感じていたのだけど、着物は平気だった。
同じ「フェミニンさ=女性らしさ」でも、着物の場合は体のラインが強調されることもなく、また幼さよりも大人っぽさ、可愛らしさよりも優雅さや個性が際立つスタイリングが多く、より自分の好みに合いやすかったのかもしれない。
「ぜひ着物姿を見てみたい」という返事をもらった私は、洋服なら選ばなかったような赤やピンクの小物を合わせ、自分なりに「魅力的だ」と思える着物のコーディネートを一生懸命考えた。
そしてデート当日、お相手に「着物姿、大人っぽくて素敵だね」と言ってもらったことで、「私は自分が好きな服を着ていいんだ」と自信がついた。
「自分らしいファッション」を模索する中で気づいたこと
レズビアンのパートナーができて起こった心境の変化
レズビアンとして恋活をしていた時期には、スカートスタイルに対して消極的だった私も、パートナーとお付き合いを始めてからは、進んでスカートを購入するようになった。
ただひたすら、パートナーに「可愛いね」と言ってもらいたかったのだ。
お付き合いをする前は「自分らしいファッションを選ぼう、そしてそれを受け入れてくれる人と付き合おう」と心に決めていたのに、いざ付き合い始めるとパートナーの感想がどうしても気になってしまった。
はじめのうちはそれも楽しかったけれど、やっぱりスカートを履くとどこかそわそわしてしまって、「なんだか自分らしくない」と感じるようになっていった。
だんだんスカートを履く頻度は減り、今では1年に数回程度しかスカートを履くことはない。
ボーイッシュなパートナーの服をおさがりでもらうことも増え、私のファッションはまたしても「フェミニン」から遠ざかっていった。
それでも、パートナーは着物を着て会った日と同じように、私のファッションを褒めてくれる。
私は「スカートを履いたほうがいいのかもしれない」という、自ら作り出した新たな呪縛からも、少しずつ逃れることができるようになってきた。
ファッションスタイリストの方と話して発見した、新たな「自分らしさ」
つい先日、とあるファッションスタイリストの方とお会いする機会があった。
「自分らしいファッション」に興味が出てきた私は、ファッションについての悩みをプロに相談してみたいと思い、スタイリストの方が主催する講座に参加したのだ。
講座中は質疑応答を繰り返し、とても充実した有意義な時間を過ごすことができたが、終わった後でふと気がついた。
「私、自分がレズビアンであることを全然話さなかったな」と。
もしかしたら質疑応答の中でそういう話が出るかもしれないと思い、スタイリストの方には事前に自分のセクシュアリティについてお伝えしてあった。
しかし、ファッションについて夢中で話し合っている間、「自分がレズビアンであること」「フェミニンな、女性らしい服を着ること」という話題は、私の頭には全く浮かんでこなかった。
それどころか、自分がレズビアンであるという事実すら、講座の間は忘れてしまっているほどだった。
「私はもう、レズビアンらしいファッションを選ばなければいけないとは、全然思っていないんだな」
そう気づいて、晴れ晴れとした気持ちになった。
ようやく、学生時代からうっすらと続いていた思い込みから解放された気がした。
レズビアンである私たちがより自由にファッションを楽しむために
現在もお付き合いが続いているパートナーから、「確かにボーイッシュなレズビアンはモテにくいと思う」と聞いたことがある。
レズビアンバーでのイベントやオフ会などがあっても、連絡先を交換し合うのは主にフェミニンなスタイルの女性たち同士で、ボーイッシュなファッションの自分は相手にされることが少なかった、と。
でも、現在のファッションは多様化が進んでいる。
レズビアンであるか否かに関わらず、ボーイッシュなファッションや中性的なファッションを好む女性も多いし、「レディース/メンズ」というジャンル分けをしない、ユニセックスなブランドも現れている。
もしかしたら、「レズビアンにモテるファッション」というのも時代と共に変わっていくのかもしれないな、と私は思う。
もちろん、「モテる、モテない」にかかわらず、誰もが自分らしいファッションを選べばいいのだけど、「レズビアンとして魅力的なファッションこそが、自分らしいファッションなのだ」という人もきっといるだろう。
そして、かつての私自身のように「レズビアンらしいファッションをしなければ」と焦ってしまう人もいるはずだ。
そういう人も、より広い選択肢から「自分らしいファッション」を選べるように、レズビアンとファッションの関係性も少しずつ変わっていけばうれしい。