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Writer/Jitian

ノンバイナリー当事者が、戸籍上の性別を記載しないよう申し立てを。世間に理解されないノンバイナリー

2024年12月13日、50代のノンバイナリー当事者が、「長女」と記載された自身の戸籍について、「第一子」など性別にとらわれない記載に訂正するよう、京都家裁に申し立てを行いました。「ついに日本でも、戸籍の性別表記変更に向けて行動するノンバイナリー当事者が出てきたか!」と、ノンバイナリー当事者の一人として応援したい気持ちです。しかし、世間の風当たりは想像以上に厳しいものでした。

戸籍に記載される性別の情報

戸籍は、個人ではなく「家」つまり家族の情報ですので、影響範囲が広いのです。

戸籍の性別を性別適合手術なしで変更できるようになって

戸籍と性別変更にまつわる事情は、この1年ほどで様変わりしました。

2023年10月25日、トランスジェンダー当事者が戸籍の性別変更を申し立てる際に必要とされている「手術要件」のうち、生殖不能要件は違憲であると判決が下りました。詳しくはこちらのNOISE記事「戸籍性別変更時の要件に違憲判決。トランスジェンダーへの差別感情が強まる?」を参考にしてください。

これ以降、SRS(性別適合手術)を受けずに戸籍上の性別を変更した人が続々と現れています。2024年9月までに、少なくとも33人がSRSなしで変更したとのことです。

一方、今回のノンバイナリー当事者の申し立ては、戸籍から性別に関する情報を含まない表記に変更するというものです。

「戸籍の性別表記を、自分の望む表記に変える」という点では、これまでのトランスジェンダー当事者と同じかもしれません。ですが、必ず男女どちらかの性別表記がなされているものを削除してほしいという今回の申し立ては、これまでとは似て非なるものだ、と私は考えています。

ノンバイナリー当事者の申し立て内容

そもそも、戸籍に載っている性別に関する情報とは一体何があるのか、あらためて確認しましょう。

まず、子どもが生まれたら、身体的な性別に則って子どもの性別が記載された出生届が提出されます。これが戸籍にも反映されます。

そして注目すべきポイントは、戸籍は個々人の情報ではなく、家族の情報がまとめられたものだということ。つまり戸籍では、実父母との続柄も記載されるのです。たとえば私の場合は、身体的な性別は女性、かつ第一子なので「長女」と記載されます。

今回の申し立てでは、このような続柄から性別を削除することも含まれています。

「第三の性別」が受け入れられる世論形成はまだ先?

LGBTQ当事者を取り巻く日本の法整備は、加速度的に進んでいます。

同性婚訴訟を見ても、2024年12月13日の福岡高裁では、同性カップルが法的に結婚できない現状は、幸福追求権を保障した憲法13条などに反するとして、違憲判決が下りました。

ですが同性婚も、トランスジェンダーの性別変更も「男女」の枠内での話です。

「LGBT」はだれもが知る用語となりましたが「LGBT “Q”」はまだ知らない人が多いと思います。「トランスジェンダー」は知っていても「ノンバイナリー」「Xジェンダー」をも知っている人は、果たしてどれだけいるのでしょうか。

残念ですが、今回の申し立てはまだ受け入れられないのではないかな・・・・・・と私は考えています。

ノンバイナリーに抱く疑問

ノンバイナリーであることをカミングアウトしている人は、トランスジェンダー当事者よりさらに少ないと思うので「実態」が知られていないことは当然だと思います。

関心を持ってもらえていることはうれしい

今回の申し立てに対するコメントをX(旧Twitter)で見ていると、正直に言って大半は「アンチ」でしたが、素朴な疑問を抱いている人もちらほら見かけました。

ノンバイナリー当事者の一人として、同じくノンバイナリーやXジェンダー当事者と多く出会っている私としては、その疑問は当たり前のことでした。

しかし、そんな疑問の答えすら知られていない現状は、仕方ないと思います。シスジェンダーの人たちが、普段からオープンなノンバイナリー当事者と接することは、まずないと思われるからです。

私自身もそうですが、ノンバイナリー当事者は、性別違和を抱いたことのない人たちに「自分の感覚を理解してもらいたい」とはあまり思っていない、と考えられるからです。

「自分は男性なのに、女性として扱われる」ストレスなら、シスジェンダーの人も多少は想像できると思います。

一方、たとえば私の場合で言えば「ジェンダーアイデンティティが欠落している」という感覚がありますが、この感覚を他人が想像することが難しいと思っています。上手く説明する手立ても、未だに持ち合わせていません。

それなら最初から言わないで、女性として扱われても受け流して我慢していたほうがまだマシ、と考えてしまうのです。

ただ、素朴な疑問を感じたということは、興味を持っていることの表れだと思っています。せっかくなので(とても「自分はノンバイナリー代表だ」などとは口が裂けても言えませんが)、私の知っている範囲で答えられるものに勝手に答えたいと思います。

結局は人それぞれ、ということにはなりますが・・・

最初は、トランスジェンダー当事者全般によく投げかけられるトイレ問題。「申立人はどのトイレを使っているのだろうか?」というコメントを見かけました。

申立人がお手洗いの際にどのように対処しているかは存じ上げませんが、ノンバイナリー当事者がどのトイレを使用するかは、その人や環境次第だと思います。

たとえば、性別移行治療を受けており、ぱっと見では「男か女か分からない」人は、なるべく外のトイレを使うことを我慢したり、なるべくどこでもトイレを使うようにしたりしていると思います。これは性別移行治療中のトランスジェンダー当事者全般に当てはまるでしょう。

なお、私は身体の性別に従って女性トイレを使用しています。性別移行治療を受けていないこと、性表現も比較的女性寄りで、男性に見間違えられることがないためです(生まれつき地声がかなり低く喉仏も出ているので、トランスジェンダー女性だと間違われたことは何度かありますが)。

それに、ぱっと見は女性に見えるのに、常に女性トイレではなくだれでもトイレを使うことは、実質的に「自分は女性ではない」と世間に公表しているようなものです。これは、性別を問わずだれでも使える「オールジェンダートイレ」が公共空間内に設置された際にも議論になったことですよね。

スポーツのノンバイナリー枠

スポーツにおける性別の区分けについても、「ノンバイナリー」が議論されています。

「今後はスポーツ大会に、ノンバイナリーの出場枠ができるのだろうか?」というコメントです。

実は、出場選手の性別を問わない「ノンバイナリー枠」を設けている大会は、欧米だけでなく日本でもすでに存在します。

たとえば、あの有名な東京マラソンは、2025年大会からノンバイナリー枠を設けると公表しています。ほかにも探してみると、ノンバイナリー枠のある市民マラソンは実はここ1、2年で増加傾向にあることが分かります。

ただ、この問題はまだ議論の余地がありそうです。アスリートとしてトップを目指そうとすると、性別による区分けは当然クリアしていることが、現時点では必須条件だからです。

性別を問わないとなると、正式な記録として残らないことも考えられます。ノンバイナリー枠で出場した場合、身体的に女性の選手は、記録が相対的に不利になるかもしれません。

スポーツと性別については、パリオリンピックの際に取り上げたNOISE記事「パリオリンピックから考える、多様な性とスポーツ~パラリンピックのクラス分けを参考に ~」も参考にしてください。

ノンバイナリーは「お気持ち」?

X(旧Twitter)での「アンチ」コメントを見れば見るほど「これからもクローズドでいよう・・・・・・」という想いが強くなるばかりです。

理解されないノンバイナリー

今回の申し立てを記事にするにあたって、このニュースが世間からどのように受け止められているのかを知るために、Xを根気強く読み続けましたが、トランスジェンダー当事者やLGBTQ活動家以外の99.9%は否定的だった、と言っていいと思います。

たとえば、「トランスジェンダーはお気持ち」だと、広義のトランスジェンダー全体を、根本から否定している人たち。この人たちはノンバイナリーだけでなく、性別違和の感覚を抱くことそのものを否定しているので、話し合う余地がないだろうな・・・・・・というのが正直な感想です。

ノンバイナリー当事者も人間です

ジェンダーアイデンティティがないという感覚を持つ人を「人間、ひいては生物ですらないのでは?」と考える人たちもいました・・・・・・。

「性別ではなく ”人” として見てほしい」というトランスジェンダー当事者、ノンバイナリー当事者とは、何人も会ってきました。ですが、機械など、無機物的に扱われたいという人は、少なくとも私は知りません。

こういった人たちも、ノンバイナリー当事者を完全に見下しているというか、そもそも同じ人間として認めていないので、はっきり言って私はコミュニケーションを取りたくないです・・・・・・。

それでも、少しでも伝えたい

前にも書いた通り、私自身、シスジェンダーの人たちに自分の性別違和を理解してもらうのは無理だろう、と諦めてきました。

ですが、今回の申し立てを受けて「なんで身体的な性別にそこまで嫌悪感を抱くのだろうか?」と関心を持ってくれている人が、0.1%くらいは存在するらしい・・・・・・ということも、Xのポストを通して感じました。

こういった疑問を持ってくれている人がいることに、私はうれしく思っています。それと同時に、大人になって性別違和に付随する精神的なストレスが落ち着いている今だからこそ、あらためて向き合う価値のある質問だ、と思いました。

そこで、次回は鈴木信平さんの名著『男であれず、女になれない』の力を借りながら、私個人のノンバイナリー当事者としての性別違和について、勝手ながら語ります。

■参考情報
「ノンバイナリー」の当事者 戸籍の記載訂正求め 家裁申し立て(NHK)
ただ、人として平等に―― 性別欄「三つ目の選択肢を」 家裁に変更申し立てへ(朝日新聞)
手術せずに性別変更、33人 生殖能力要件、違憲判断から1年(共同通信)
同性婚訴訟、高裁で3連続「違憲」判決の衝撃 司法の流れ固まった?(毎日新聞)
東京マラソン ランナーのカテゴリー 「ノンバイナリー」追加へ(NHK)

 

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