2024年11月からTOKYO MXで放送が始まっているドラマ『きみの継ぐ香りは』。主人公であるアラフォーの女性が、大学時代に恋をした女友達と15年ぶりに再会したことから始まる、女性同士の恋愛を描いた作品です。たまたま知る機会を得てドラマを視聴してみたところ、10代から20代にかけての甘酸っぱい記憶がよみがえってきました。
ドラマ『きみの継ぐ香りは』で思い出される、シス女性への恋心
いままで仕事でもプライベートでも、さまざまな同性愛者の方々のお話を聞いてきたノンバイナリーの私が言えることは、シスジェンダー・ヘテロセクシュアルの同性に恋しても、なかなか報われない・・・・・・。ということです。
まだまだ少ない女性同士の恋愛作品
おっさん同士の恋愛コメディー『おっさんずラブ』のシーズン1が2018年に放送されて大ヒットしてからというもの、いまや同性同士の恋愛を描く作品が “堂々と” 地上波で宣伝、放送されるようになりました。
私がセクシュアリティについて人知れず悩みながら10代を過ごしていた15年前には、到底考えられなかったことです。
しかしながら、女性同士の恋愛を描いた作品がテレビで放送されることは、男性同士の恋愛作品と比べると、まだまだ少ない気がします。
マンガ『作りたい女と食べたい女』をNHKがドラマ化し、2024年には続編も放送されたことは記憶に新しいですが、それ以外で話題になる作品が次々と登場しているイメージはありません。
男性同士・女性同士の恋愛作品数の差は、男性同士のほうが人気度が高い、といった「需要」の問題なのかもしれません。しかし個人的には、女性×同性愛というダブルマイノリティの影響が大きいのでは? と感じています。
そんなある日、ニュース番組は自分の住む地域・東京に根差しているTOKYO MXを主に見るというちょっとマイナーな選択をしている私は、同放送局で2024年11月から大人の女性同士の恋愛をテーマにしたドラマ『きみの継ぐ香りは』が放送されると知りました。
放送時間が短くサクッと見られそう、という気軽さも気に入り、試しに視聴しました。
ドラマ『きみの継ぐ香りは』あらすじ
まだ若かりしころ、主人公の女性・桜は、大学で知り合った友人・萌音(モネ)のことを恋愛的に好きになります。
しかし、萌音は若くして男性と結婚。
初恋の女性が、自分の見知らぬ男性と結婚したことにひどくショックを受けた桜は、バーでやけ酒を飲んでいるときに声をかけてきた男性と一夜を過ごし、妊娠。男児を出産して、未婚のシングルマザーとなりました。
時は流れて15年後、桜の息子が母親に初めて紹介した彼女は、なんと萌音の娘でした。
子どもたちの画策で、15年ぶりに再会した桜と萌音。子どもたちも含めた4人の関係性に、変化はおとずれるのでしょうか。
ノンバイナリーの私がドラマ『きみの継ぐ香りは』で思い出したこと
私がドラマ『きみの継ぐ香りは』にまず興味を持ったのは「若いころに好きだったけれど想いを伝えられなかった(同性の)友人が、自分の知らない男性と結婚する」という出来事を、私自身が経験していたからです。
私の場合は、高校1・2年生のときに好きだった女性の友人でした(私のジェンダーアイデンティティはノンバイナリーですが普段は女性として生活しているので、好きだった相手は実質的に同性です)。
友人が結婚した時点で、友人への気持ちは冷めていたので「新婦友人の一人として出席するだけ」と気軽に構えていました。しかし、友人の結婚当時はまだ20代半ば。高校生だったころの記憶は、30代を迎えた現在より生々しく残っていたのです。
ウェディングドレスに身を包んだ、かつての想い人。
そういえば、友人も萌音と同じくハグなどのスキンシップが多めで、いちいちドキドキしていたっけ。
カップルを祝福する新郎新婦の家族や親戚、私を含めた友人たち。そして誓いのキス・・・・・・。
初めて参加する結婚式、高校時代の「イツメン」のなかでその友人が最初に結婚したということもあったし、友人のことはもう好きではないはずだったのに、実際に結婚式に参列してみると、心のなかは言語化できないモヤモヤでいっぱいになっていたのです。
ドラマを見て、そんな気持ちを思い出しました(笑)。
『きみの継ぐ香りは』で描かれる、同性愛への抵抗感
20代であればなおさら、「異性愛者」つまり “普通” の人でありたい、と思う気持ちは否定できないなと思います。
察しのよいモネ
ドラマの展開が気になった私は、一足先に原作である同名の電子コミックを読みました。すると、意外なことが明かされていました。学生時代、モネ(コミック版ではカタカナ表記)は「桜が自分のことが好きらしい」と、すでに勘付いていたのです。
桜は、もともとは一匹狼タイプ・・・・・・なのに、校内でモネの姿を見かけるとうれしそうに笑ったり、手が触れただけで恥ずかしそうに赤面したりする様子から、桜は自分に好意を持っているのではないか? と察していたのです。
しかしモネは、そのことを桜には問いただしませんでした。それは、「自分は普通でいたい」という気持ちがあったから。
桜が自分に向けている感情は「普通」ではない。このまま桜と一緒にいると自分まで「普通」ではなくなってしまうのではないか・・・・・・。そう考えて、モネは若くして男性と結婚する道を選んだのです。
ただし、モネの考えはあくまで心の内側に留められていることがポイントです。同性愛を否定するようなことを公言したり、桜のことをアウティングしていたとすればもっての外ですが、そのようなことをモネはしていません。
同性愛を普通ではないと思ったり、嫌悪感を抱いたりすることは止められません。
まして20代という若さであれば、「普通」でいたいという気持ちがより強いのも仕方ないと思うと、電子コミック『きみの継ぐ香りは』を読んで、私はモネを否定する気持ちにはなれませんでした。
「抵抗感」が炎上
ドラマ放送直前、ドラマ公式X(旧Twitter)アカウントが発表した、大人となった萌音を演じる加藤ローサさんの以下のキャストコメントを巡って「炎上」が発生しました。
お話を頂いた時は、ほんの少しだけ抵抗があった私ですが、台本と原作を読んでいくうちに新しい私になるような、、、そんな感覚がありました。
この加藤さんの「抵抗感」が、同性愛を巡る作品に出演することに対する差別意識に近しい感覚なのではないか? と問題視されたのです。
しかし、このコメントは「役者として演じきれるかどうか不安だ」という意図だった、と同アカウントが後日釈明しました。実際、加藤さんはプライベートで結婚してから仕事を長らく控えた後、徐々に復帰し、今回はかねてより苦手意識のあった俳優業で主演に挑戦したとのこと。
女性同士の恋愛を主軸にした作品であること、加藤さんの演じる萌音も若いときには同性愛に嫌悪感とも呼べるような感覚を抱いていたことから、制作側は誤解のないように伝える意識を養ってほしいな、と感じました。
子どものいる大人として、同性愛に相対する姿勢
起伏の激しい作品を望んでいる人にとっては、もしかしたら物足りないと感じられるかもしれません。
いい意味で、波がない
ドラマの最終回に先んじて原作である電子コミックを読み終えましたが、ネタバレを避けながらも結論から言うと、『きみの継ぐ香りは』には、恋愛のドロドロした要素やスリリングで予測不可能な展開はありませんでした。
誤解を恐れずに言えば、派手さのない作品です。ですが「これがお互いに家庭を持った大人同士が落ち着く、リアルで理性的な関係性だよな」と、作品に好感を持ちました。
たしかに、桜はシングルマザーで、子どももある程度手が離れてきている年代。新しい恋愛をする道は残っています。しかし、モネは結婚した男性とまだ夫婦同士ですし、家庭も円満そうです。
そのような家庭を壊してまで築く恋愛関係は、実際の生活ではあまり現実味がないと思います。実際、数年前には同性間の不倫にも損害賠償請求を認める判決が下った民事裁判の例もあります。
私自身も30代になり、周囲は法的に結婚する異性カップルや、一緒に生活する同性カップルも多いです。人生の転換期を迎える年齢だからこそ、現実的な結末となった原作を、納得感をもって読み終えられました。
同性愛を「普通のこと」として扱う
私がドラマ『きみの継ぐ香りは』を知ったきっかけは、ドラマ放送当日でした。普段視聴しているTOKYO MXの各ニュース番組で、桜役の星野真里さんと、萌音役の加藤ローサさんが番宣に回っていたのです。
そのなかで、あらすじ紹介をする場面が印象に残りました。単に「萌音が桜の初恋相手である」とだけ説明されたのです。
ニュースを流し見していた私は「うん? 女性役が女性役の初恋相手? ということはレズビアン? 百合作品か?」と作品紹介に注目しました。
ですが、本作品に対して「レズビアンの~」「女性同士の恋愛が~」といった説明は、結局一度もなされませんでした。アナウンサーやコメンテーターも「同性愛の作品なんですね」などと言わなかったのです。
作品にレッテル貼りをしないで、あらすじをそのまま受け入れているニュース出演者たちが印象に残り、ドラマを視聴することに決めました。
ドラマ『きみの継ぐ香りは』は、現在TOKYO MXで金曜21:25から放送中です。TVerで見逃し配信もされています。
(そのほかの配信プラットフォームでは現在視聴できないようですが、過去のTOKYO MXで放送されたドラマは大体放送後に配信されているようなので、こちらも配信されるはず・・・・・・と期待しています)
成人女性たちによる、リアルだけれど淡い恋愛作品を晩秋の夜長に楽しみたい方は、ドラマや原作マンガをチェックしてはいかがでしょうか。
■作品情報
電子コミック・ドラマ『きみの継ぐ香りは』
電子コミック:原作・小川まるに 各コミック配信サービスにて発売中
ドラマ:星野真里・加藤ローサW主演 TOKYO MXにて毎週金曜21:25より放送
■参考情報
・女性同士の恋を描く新ドラマ、発言釈明も批判の声止まず。「トゲが痛かった」「スタッフ全体の意識の問題」(All Aboutニュース)
・加藤ローサ、俳優業休止の理由「物理的に無理だった」 尊敬する夫の行動力とメンタル(ENCOUNT)