LGBTQ理解促進活動に取り組む大企業が近年急速に増えていることは、皆さん実感していると思います。全国カミングアウトデーに当たる2024年10月11日、コカ・コーラボトラーズジャパンとファミリーマートによる、LGBTQ+「アライ」メンバーによる協働イベント『アライの輪を広げるプロジェクト』が開催されました。今回は、その様子をお届けします。
コカ・コーラボトラーズジャパンとファミリーマートによる、LGBTQ+への取り組み
2社の事例は「LGBTQに関する取り組みで、具体的に何をすればいいのか?」と悩んでいる企業の参考になるはずです。
2019年から始まった、コカ・コーラボトラーズジャパンのLGBTQへの取り組み
まずは、両社が共同でアライの輪を広げるプロジェクトを始動させるに至るまでの、各社の取り組みを振り返りましょう。
コカ・コーラボトラーズジャパン(CCBJI)のLGBTQ理解促進の取り組みは、2019年から始まりました。CCBJIは人事の側面から、LGBTQ当事者のほか、性別や人種、国籍などに関係なく、だれもが働きやすい企業へ進化するために、活動に取り組んでいます。
社内研修に始まり、同性カップルや事実婚のカップルが法的な結婚をしているカップルと同等の社内待遇を受けられる制度を設けるなど、最初のうちはシステムを整備することに注力していました。
そこから、外部の有識者を招いた社内イベントを開催するなど、アライを増やす方向へシフト。2024年は、アライの輪を広めるために実際に動くことを目標としました。今回の協働イベントもその一環として開催されました。
なお、コカ・コーラシステム全体の取り組みにフォーカスすると、2022年に日本コカ・コーラ株式会社が「LGBTQ+アライのためのハンドブック」を公開しています。その内容のコンパクトさと充実度合いがとても素敵だったので、NOISE記事『コカ・コーラ「LGBTQ+アライのためのハンドブック」を活用しよう
』で紹介しています。ぜひご覧ください。
ファミリーマートはSDGsの観点からLGBTQへのアプローチ
ファミリーマートは、企業としてサステナビリティに対する取り組みのなかで、LGBTQ理解促進活動を行っています。
ファミリーマートとLGBTQを考えたときに、まず皆さんが思い出すものは、店頭で販売されているレインボーソックスではないでしょうか。私も、東京レインボープライドなどの際には必ず着用しているほか、普段使いもしているほどお気に入りです。
東京レインボープライドの開催期間やプライド月間など、期間限定商品として売るのではなく、通年商品であることも大きなポイントだと思います。
店舗では大々的に「LGBTアライ」を商品と一緒に掲げていないからこそ、アライを自認していない人も雑貨の一つとして目に入りやすいはず。LGBTQ当事者であることをカミングアウトしていないクローズドの人も買い求めやすいですよね。
社内に目を向ける大切さ
コカ・コーラボトラーズジャパン(CCBJI)とファミリーマートは、いわゆるBtoC(Business to Consumer)企業。企業向けの商品を提供するBtoB(Business to Business)ではなく、消費者向け(コンシューマー)の商品やサービスを提供することを主軸としています。
BtoC企業でLGBTQに対応した商品やサービスを提供することは、サステナビリティなイメージをアピールする目的。そして、消費者の目につきやすい商品やサービスのなかで、LGBTQアライだと示す目的があります。
こうした商品やサービスは、企業の利益となります。たとえば、ファミリーマートのレインボーソックスは「プライド月間にはこれだけ売り上げた」など、取り組みがどれほど会社の利益につながったか、数値で測れます。
利益と直結している取り組みは、社内でも理解されやすいでしょう。
しかし、社内でのLGBTQの理解促進といった取り組みの効果は、数字で表しづらいもの。
今回の取り組みは、前年からの活動の結果。
今年度は社内で明るい変化やポジティブな効果が見られた! ということもなのかもしれません。
社内での取り組みはやっぱり大切だと私は思います。
ダイバーシティやインクルージョンな企業であれば就職したい! と思うLGBTQ当事者は必ずいるはずですし、カミングアウトしていなくても心地よさを感じている社員もいるでしょう。
逆に、企業としてLGBTQに理解を示さないことで、優秀な人材がエントリーしない、新しい商品が生み出されない、といった数値に表れづらい機会損失が生じるかもしれません。
企業の考えかたは、商品やサービスにもにじみます。
両社のような大企業の取り組みがロールモデルとなって、少しずつでも社会全体に広まってほしいですね。
意外と難しい、LGBTQのシンボルを取り入れたデザイン
虹って、子どもっぽくなりがちですよね・・・・・・(笑)。
LGBTQアライの輪を広めるため、「本気」のデザインを考える
2023年から『多様性をちからに』をテーマに、コカ・コーラボトラーズジャパン(CCBJI)とファミリーマートは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)分野での協働を開始しました。
2年目となる2024年は、アライが自ら考えて行動することに主軸を置いています。今回の10月11日の両社共同社内イベントは、2025年6月のプライド月間で性の多様性への理解を深めるプロモーションを行うことを念頭に置いて、その際に使用するデザインをアライのメンバーで考えよう! というもの。
もちろん両社とも、LGBTQ理解促進活動のためのロゴやデザインはすでに制作済み。しかし、今回考えるデザインはコカ・コーラのボトルや、ファミチキといった主力商品のイメージは一切なし!
企業としては、LGBTQ理解促進活動を通してサービスや商品を改めてアピールできる絶好のチャンスのはず。商品イメージは必ず入るものと思っていたので驚きました。
利益追求を脇に置いて、アライの輪を増やすためのデザインを本気で考えるつもりなのですね。
LGBTQの象徴「レインボー」をデザインに取り入れることは難しい!
LGBTQアライの輪を広めるデザインを考えるとき、一番に思い浮かぶのは6色のレインボーフラッグ。
しかし、今回のイベントにスペシャルゲストとして招かれた女装パフォーマーのブルボンヌさんは、レインボーカラーをデザインに取り入れるのは難しい、と言います。
色数が6色と多く、原色も入っていて目立ちます。それに、虹を表すデザインはどうしても子どもっぽい印象を与えやすいのです。
ビジネスパーソンが普段使いできる雑貨に、レインボーフラッグをベースとしたデザインを取り入れるのは、私も難しそうな気がします。
LGBTQ当事者でも苦戦するだろうこの課題に、LGBTQアライの皆さんはどのようにチャレンジしたのでしょうか?
LGBTQアライを広めるためのデザインは、アイデア次第
イベントのなかでは “なるほど!” と唸るデザインが続々と登場しました。
LGBTQを表す色は「レインボー」だけではない
残念ながら、この記事ではデザイン案をお見せすることができませんが、今回提出されたデザイン案のなかからごく一部についてだけ、文章で紹介します。デザインに込めた想いなど、アイデアをシェアできればと思います。
今回のアイデアはブレインストーミングで、参加者が自由に意見を出し合いました。今後、検討されたデザインを意匠や商標の観点からも精査され、最終的に2025年6月のプライド月間プロモーションでお披露目されます。
▲ひび割れた卵で表現したデザイン
一人一人が活躍できる社会が誕生する直前であることを、ひび割れた卵で表現。卵のなかには、色とりどり、形もさまざまな図形が描かれ、多様な人々を表しています。
ブルボンヌさんはこのデザインについて、図形の色としてレインボーフラッグの6色以外も使われていることに着目しました。
レインボーフラッグの6色以外の色も使うことで、LGBTQを表すフラッグはレインボーだけではないことを知るきっかけになる、といいます。
「L・G・B・T」の4つのセクシュアリティしか知らない人は、さまざまなフラッグの存在を知らないかもしれませんよね。多様な色を通して「L・G・B・T」以外のセクシュアリティを知ってもらえる機会が生まれそうです。
一歩踏み出してアライになろう
「アライ」と聞くと「多様性に敏感な、意識高い系の人たちの話でしょ? 私はアライと名乗るほどではないかな」とハードルを感じる人もいるかもしれません。
たとえば、社内の研修会に毎回参加して、LGBTについての質問にすらすらと回答し、各地のレインボーパレードにも足を運んでいるような、アクティブなイメージでしょうか。
しかし、実際にそこまで行動できる人はほぼいないと言ってもいいでしょう。私でも難しいです(笑)。
⚫︎虹色の足跡をデザインに
積極的な活動は難しくても「困っている人のために一歩踏み出してみたい!」という気持ちを示すために、足跡をデザイン案に取り入れてみては? というアイデアもありました。
社員証の片隅に「LGBTQ当事者の社員、いいね!」という気持ちをちょこっと示すだけでも、それを見た当事者は「この人となら安心してコミュニケーションを取れそう」と安心感を抱けるはず。
LGBTQ当事者だけでなく、アライの多様性も表せるようなデザインを取り入れられるといいですよね。
形を “崩す” ことで多様性を表現
多様な人々の存在を、さまざまな形の図形や、ジグソーパズルのピースで示す案もあるなか、一見するとぐちゃぐちゃの「線」の集まりのようなデザインもありました。
◆不規則でカラフルな線で表現
このアイデアは、多様な世界を、色とりどりの線の集まりでできた雲で表現していました。あえてフリーハンドで線を描くことで、型にはまらない「多様性」を表わしたとのことです。
「LGBTQを表すデザイン」というと、かく言う私も、レインボーフラッグや虹、調和を表す円といった「型にはまった」ものに終始しがち。
最初に見たときは「これはなにを表しているのだろうか?」と疑問に感じましたが、説明を聞くと「なるほど、その手があったか!」とうなずけました。
それと同時に「多様な性」と言いながらデザイン案が型にはまっている自分に気づかされました。
再度書きますが、今回のイベントはコカ・コーラボトラーズジャパン(CCBJI)とファミリーマートの協働イベントです。
ですがコカ・コーラのボトルやファミチキなど、主力商品の図柄を使わず、両者企業の独自のイメージをまったく感じさせないデザイン案ばかりでした。
まさに今、来年の東京レインボープライドでフロートを出す準備を進めているなか、自分たちのフロートでどのような弾幕を掲げようか? と悩んでいる人にとって、今回紹介したアイディアはよい気づきになるのではないでしょうか。
誰もが自分らしく活躍できる世の中を願って行われる、2025年プライド月間のプロモーション。コカ・コーラボトラーズジャパン(CCBJI)とファミリーマートがどのようなデザインを披露してくれるのか、今から楽しみです。