2024年4月20、21日に、東京レインボープライド2024が開催されました。19日は残念ながら強風で中止となってしまいましたが、逆風を受けてもなお、参加人数など、どの数字を見ても過去最大規模。コロナ禍を経ても、LGBTQへの関心は途切れていないのだと改めて実感しました。一方、開催をめぐってはパレスチナ問題が影を落とす事態にもなりました。
東京レインボープライド2024の陰で
東京レインボープライド2024の「裏」では、パレスチナ問題やイスラエルのピンクウォッシュをめぐって、火花が飛び散っているかのようなやり取りがなされていました。
LGBTQがますます注目を集めていることを実感した、東京レインボープライド2024
私がはじめて東京レインボープライドに足を運んだときが、2015年のこと。2015年と言えば、全国で初めて渋谷区と世田谷区で同性パートナーシップ制度が導入された年です。
それ以降、同性パートナーシップ制度が全国で加速度的に開始されている様子と同じように、東京レインボープライドも毎年開催規模を拡大していることを、会場に足を運ぶたびに感じていました。
しかしながら、コロナ禍ではオンライン開催など、開催方法や規模を変更せざるを得ない年が何年か続きました。
そんな苦境を経て、日本で初めてプライドパレードが行われてから30年の節目である2024年の東京レインボープライド。
悪天候による1日目の中止をものともしないほどの盛況ぶりでした。主催団体の発表によれば、来場者数、プライドパレード参加者数も過去最大となったとのことです。
東京レインボープライド2024に送られた「質問状」
東京レインボープライド2024の華々しい大成功の裏で、実はそれまでの間、パレスチナ問題について主催者側は対応に追われていました。
東京レインボープライド開催当日も、会場には足を運びつつも、パレスチナ問題のことを考えると必ずしも諸手を挙げて喜べない、という人もいたようです。
東京レインボープライド2024そのものを取り上げるマスメディアはたくさんありましたが、東京レインボープライド2024とパレスチナ問題との関係について触れているメディアはなかなか見かけなかったので、この問題を知っている人はあまり多くないかもしれません。
とはいえ、現在パレスチナのガザ地区で起こっている紛争についてまったく知らない、という人はほとんどいないと思います。
次の章からは、そもそもパレスチナ問題、そしてイスラエルのピンクウォッシュとは何か? を含めて、今回の経緯をおさらいします。
パレスチナ問題とピンクウォッシュとは
恥ずかしながら、今回の質問状や東京レインボープライド側の告知を知るまでは、パレスチナ問題とLGBTQを結び付けて考えたことがありませんでした。
パレスチナ問題の経緯
まずは、本当に簡単ながらパレスチナ問題とは何か? をまず振り返りましょう。
イスラエル大使館によると、ユダヤ人は、古代史ではバビロン捕囚に代表されるように、苦難の歴史を歩んできていました。そんななか、1917年に、ユダヤ人とイギリスが、ユダヤ人の「先祖の土地」であるパレスチナにユダヤ人の「ナショナル・ホーム(民族的郷土)」を建設することを約束しました(バルフォア宣言)。
しかし、実はこのイギリスの外交は、ほかの協定などと矛盾するものでした。いわゆる三枚舌外交と呼ばれるものです。
1915年に、メッカの太守とイギリスは、第一次世界大戦でイギリスに協力することと引き換えに、第一次世界大戦終了後にアラブ人国家の建設を認める協定を結びました(フセイン・マクマホン協定)。一方で、1916年にはイギリス・フランス・ロシアの間で、第一次世界大戦後のオスマン帝国領を三国間で国際管理とすることを、秘密裏に定めた協定も結ばれていたのです(サイクス=ピコ協定)。
この矛盾や問題が明確に解決されないまま、1947年に国連総会で、パレスチナをユダヤ人とパレスチナ人(アラブ人)の国家に分割する、パレスチナ分割案が決議されました。そして1948年にイスラエルが建国されましたが、やはりアラブ人は反対しました。そうして起こったのが第1次中東戦争。それ以降、現在も対立が続いているのです。
イスラエルのピンクウォッシュ
複雑な歴史的経緯をはらんでいるパレスチナ問題ですが、ところでイスラエルはLGBTQフレンドリーを掲げています。
たとえば同性カップルの権利。ユダヤ教の教えに反するため、同性婚を全面的に法制化するには至っていないものの、海外で結婚した同性カップルは異性カップルと同等の権利を受けられます。
一方、イスラエルはパレスチナ自治区とされている場所に入植を続けたり、パレスチナ人の住む地域を壁で囲って生活を制限したりしています。現在進行形で起こっているハマスとの戦闘でも、イスラエルが多くのパレスチナの民間人も攻撃していることは、日本のニュースでも連日報道されていますよね。
このイスラエルによる国際法違反のような不都合な問題を、LGBTQフレンドリーをアピールして「覆い隠す」ことを「ピンクウォッシュ」と言います。
イスラエルのピンクウォッシュと東京レインボープライド2024
東京レインボープライド2024をめぐる、イスラエルのピンクウォッシュ「加担」
「フツーのLGBTをクィアするフェミニズムとレズビアン・アートの会」などの団体は、東京レインボープライドもイスラエルのピンクウォッシュに協働しているとして、2023年12月に公開質問状を東京レインボープライド側に送りました。
この質問状では、2013年から7年間、東京レインボープライドはイスラエル大使館から協賛を受けていたとし、東京レインボープライド2024においてもピンクウォッシュ企業との関連があるならば決別するよう要求していました。
この質問状は、あくまで丁寧な言葉遣いでありながらも、「・・・・・・TRPはピンクウォッシングに協働し続けました。このことは・・・・・・イスラエルによる暴虐・戦争犯罪に敢えて加担し、それを常態化させ加速させることにほかなりませんでした」と、東京レインボープライド側を強く非難していることが読み取れます。
東京レインボープライド側も抗議
公開質問状が掲載されてから数か月後の2024年3月15日、東京レインボープライドは「パレスチナ・イスラエルをめぐる現状に関するお問い合わせについて」を公開。
すべての戦争などに反対意思を表明するとともに「TRP2024には、現在お問い合わせを頂いている特定の企業や大使館からの協賛はございません」と発表しました。
その発表後もまた抗議を受けた東京レインボープライドは、半月後の3月30日、ピンクウォッシュ加担疑義について詳細な発表を行いました。このなかで「弊団体に対するこのような非常に厳しい言葉を使用しての指摘こそ、事実に反しており、遺憾にたえません」と、東京レインボープライド側も抗議の姿勢を鮮明に示しました。
東京レインボープライド2024開催の裏で、イスラエルのピンクウォッシュ協働に関わる熾烈なやり取りが行われていたのです。
差別に加担しないために必要な対話とブラッシュアップ
すべての差別を許さないという気持ちと、実際の言動は、必ずしも一致していないかもしれません。
東京レインボープライド2024の経緯をふり返って
今回の東京レインボープライド側の発表や公開質問状を読んで、規模が大きくなればなるほど、全方面において「クリーン」であることはますます難しくなるよな、と改めて感じました。
東京レインボープライド2024のウェブサイトトップページを下にスクロールすると、協賛企業のバナーが掲載されています。その数のなんと多いこと・・・・・・。
しかも、どの企業やブランドも有名なものばかりで、知らない企業を探すほうが苦労するほどです。このなかに掲載されている、Amazonやマクドナルド、Microsoftにコカ・コーラなどといった大規模な企業となると、紛争当事国に1mmも関わらないで営業するほうが難しいのではないでしょうか。
一方で、東京レインボープライド側の対応が後手に回っているようにも見えました。
質問状が公開された日が、2023年12月末頃。質問状では2024年1月18日までの回答を希望していましたが、団体側によれば、その翌日にあたる19日に「弊団体は基本的に個別のアンケートやお問い合わせに関しては、回答しておりませんのでご了承ください」と返信が来たとのこと。
それからもさらに批判が来たため、問い合わせについて最初に対外的に発表した日が、3月15日。返信から発表まで約2カ月、期間が開いています。
もちろん、すでに多数の協賛企業・団体とのやり取りが進んでいるなかで、それらの企業の経済活動をつぶさに精査すること。また、一点の曇りでもあるならば即座に手を切る、ということは簡単にはいかないから、発表までそれだけの時間を要したということは理解できます。
ですが、3月15日の発表内容はかなり簡潔なものだったので、それくらいの意思表明ならもう少し早くできたのでは? と感じざるを得ません。
対話が大事だけれど、それが難しい
東京レインボープライドが発表したように、私自身も「すべての個人、企業、組織及び国等が人権侵害に加担することはあってはならない」とは思っています。
しかし現実問題として、東京レインボープライドのようなイベント主催団体も、企業も、国家も、人間が根幹である限りは、差別を完全にゼロにすることは極めて難しいと思います。
いくら「差別はあってはならない」と強く思っていたところで、どうしても無自覚的な偏見は残るはずだからです。だからこそ「さっきの自分、偏った見方をしていたな」と常に振り返られるように客観的な視点を忘れないことと、知識や言動をアップデートし続けることが大事なのだと思います。
アップデートしてよりよい社会を実現するために、今回のイスラエルのピンクウォッシをめぐる団体と東京レインボープライドのやり取りという「対話」は、東京レインボープライドだけでなく、どの人にとっても大事な契機となったのではないでしょうか。
ただ、公開質問状や東京レインボープライドの発表内容を読んでいると、どちらも厳しい言葉での応酬となっていて、大変な労力を伴うコミュニケーションだったことがうかがえます。
対話が大事なことは理解しつつも、対話を意識的に実践することはやっぱり難しいものだなと、今回の事件を受けてひしひしと感じました。
この記事を読んでいる皆さんは、東京レインボープライドとイスラエルのピンクウォッシュの関係について、どのように感じたでしょうか?
■参考情報
・虹色があふれる中、黒い服で伝えたパレスチナへの連帯。それぞれの思い【東京レインボープライド2024】(ハフポスト)
・東京レインボープライド2024へのイスラエル大使館とBDS対象企業からの協賛についての公開質問状〜植民地主義と民族浄化・ジェノサイド共犯と決別するために〜(Feminism and Lesbian Art working group)
・TRP2024の開催を楽しみにされている皆さまをはじめ、当日に向け日夜準備を進めている関係者、スタッフ、ボランティアスタッフなど、関わるすべての皆さまへ(東京レインボープライド)
・[家族のかたち]<2>同性婚「抜け道」で権利…イスラエル(読売新聞)
・【イベントレポート】 「“性”と“生”の多様性」を祝福する祭典 「東京レインボープライド2024」開催。(PR TIMES)
・【解説】イスラエル・ガザ戦争 対立の歴史をさかのぼる(BBC NEWS JAPAN)
・イスラエルの歴史:年表(イスラエル大使館)