今月は伊藤正臣さんのマンガ『ふたりでおかしな休日を』(ヒーローズコミックス ふらっと)を紹介したいと思います。トシくんとゴンちゃんの素敵なゲイカップルの日常を覗いてみましょう。
『ふたりでおかしな休日を』のトシくんとゴンちゃん
自分のセクシュアリティに、ひとはいつ気づくのでしょうか。カッコいい同性の先輩に憧れて? 素敵な有名人を見て? あなたのセクシュアリティを自覚した「初めて」は何でしたか?
本題に入る前に・・・
筆者はマンガで自分のセクシュアリティを自覚しました。創作作品はいつも色々な可能性を示してくれます。「どんな鳥だって 想像力より高く飛ぶことはできないだろう」。この言葉は寺山修司が残した言葉です。フィクションはつらい現実を打破し、遠くの未来を描く力をくれます。その力はとても大事なものだと、考えています。
自分のセクシュアリティをひとに伝えるときにそっと差し出してみたい、セクシュアルマイノリティを題材にした、パワーに満ちた作品をこれから紹介していきたいと思います!
『ふたりでおかしな休日を』の主人公は交際4年目のカップル
このマンガの主人公は、とある不動産屋の店長を務める山村俊光(やまむら としみつ)。そんなスーツの似合うトシくんは、実は介護職員である椿坂権太(つばきざか ごんた)と同棲中です。
トシくんゴンちゃんのカップルは水曜日の、ふたりが同日にお休みの日、トシくんの手作りのお菓子に舌鼓を打ちながら、休日を過ごすのが恒例となっています。トシくんお手製のお菓子は、ゴンちゃんの身体を気にかけて、カロリーオフのお菓子ばかり。
マメでちょっと神経質なトシくん。大らかで細かいことは気にせず、たまに毒舌を吐いちゃうゴンちゃん。そんな彼らのお休みは、休日の見本とも言えるかもしれませんね。
『ふたりでおかしな休日を』の個性的な登場人物
トシくんゴンちゃんのカップルは、トシくんの職場のこずえさんや、ゴンちゃん行きつけの飲み屋さんのママをしているポロリンなど、個性的なキャラたちと、ぶつかったり、仲よく過ごしたりしています。
そんなふたりを眺めているだけで、気持ちが安らぐ・・・・・・と思いますが、せっかくの機会です。『ふたりでおかしな休日を』を深堀しちゃいましょう。
『ふたおか』を読んで、トシくんゴンちゃんカップルの日常を覗いて、美味しい休日を一緒に過ごしてみませんか。
ゴンちゃんの誕生日ケーキでゲイバレ??
嗚呼、カミングアウトできない苦悩
トシくんはカミングアウトには慎重派。「ゲイバレ」、つまりゲイである自分をばらしたくないと思っています(ゴンちゃんは職場でもカムアウト済みです)。
そんななか思わぬことが起こります。ふたりが付き合って初めてのイベント、ゴンちゃんの誕生日の出来事です。
ゴンちゃんの誕生日を明後日に控えたある日。トシくんは誕生日ケーキを予約すべく、ケーキ屋さんに電話をするも・・・・・・。2人分のケーキとローソクを31本、プレートの名前は権太、注文者は俺。これはカミングアウトではないか。トシくんはケーキの購入を断念せざるを得ない状態になりました。
しかし、「ケーキがないなら作ればいいじゃない」というトシくんの逆転の発想で、パウンドケーキを作ります。
ゴンちゃんは「これは愛っ、具現化された愛なのではっ!?」「味覚化された愛!!」「もう一生の思い出にする!!」と、トシくんお手製のパウンドケーキに感動しています。一生の思い出にする、と言われたら、キュンとしてしまいますよね。
ゲイカップルの日常とお菓子にまつわる話
まだ同性婚を認められていない日本。セクシュアルマイノリティにとって「一生を添い遂げる」というリアリティは、なかなか現実味を帯びないですよね。よりいっそう切ない気持ちにもさせられます。
手作りの誕生日ケーキに感動する健気なゴンちゃんの姿を見て、トシくんは「毎週でも作ってやるよ」と言います。お調子者でもあるゴンちゃん。「本当にぃ?」とうれしそうなトシくん。この誕生日ケーキのエピソードこそ、トシくんゴンちゃんカップルの本質が現れているとも言えますね。
「ゲイバレ」を気にしてお店のケーキが買えず、手作りのパウンドケーキを作ったトシくん。これぞ「塞翁が馬」ともいえる出来事ではないでしょうか?
この記事でマンガ『ふたりでおかしな休日を』の2ページを引用させて頂きましたが、トシくんの作ったパウンドケーキの美味しそうなこと! 第1話の米粉とココナッツホイップクリームのロールケーキも美味しそうです。作者の伊藤正臣さんの高い画力がわかります。
切なさと美味しさと日常が入り混じる、まさしくトシくんゴンちゃんのゲイカップルの生活が伺い知れます。素敵で背伸びしないふたりの生活に憧れるカップルは多いのではないでしょうか。
『ふたりでおかしな休日を』の個性的なキャラたち
筆者は「LGBTフレンドリー」という言葉が、一種のセクシュアルマイノリティにとって、「鬼門」であることを想像していなかったです。「LGBTフレンドリー」はクローゼットの中にいるセクシュアルマイノリティにとっては、ある種の暴力性を自覚しなければいけない、と感じました。
LGBTフレンドリー推進のアライ候補生(?) こずえさん
「LGBTフレンドリー」が鬼門にーーそういう意味で、『ふたりでおかしな休日を』の第1話は衝撃的でした。
トシくんの同僚であるこずえさんは、LGBTに偏った知識があるちょっと困った女の子。男性ふたりが物件を見ていたら、「あのお客さん、ゲイじゃないですか?」とトシくんにこっそり言います。
それはダメです! こずえさん!! とマンガを片手に突っ込みたくなりましたが、ぐっとこらえました。
こずえさんは中途半端に知識があります。しかし、店長であるトシくんがゲイであることには気づかない・・・・・・。そのこずえさんの感性にはじゃっかんもどかしさを感じざるをえません。
そんなひやひやを感じさせるこずえさんですが、『ふたおか』の回を重ねるごとに、LGBTの知識だけではなく、セクシュアルマイノリティが抱える問題や、背景に気づきます。そんなこずえさんがアライ候補になる日は近い!? 正しい知識を身につけ、本当の意味での「LGBTフレンドリー」になってくれる日を願わずにはおれません。
ゲイバーのママ・ポロリン
ある日、ゴンちゃんはトシくんを引き連れ、ゲイバーの扉をたたきます・・・・・・。このお話の続きはマンガで読んでいただいて、このゲイバーのママ・ポロリンのキャラクターにちょっとだけ触れていきましょう。
ポロリンは、観光バー(例えば「新宿二丁目を体験したい!」という異性愛者向けのゲイバー等)のママではなく、昔気質のママ。根っからの毒舌キャラを発揮! ほかのお客さまからは「ママは素でゲスだから」と言わせる、筆者もぜったい隣に座りたくないキャラなのです。
そんなママにも悩みはあり、人生山あり谷ありで、トシくんゴンちゃんカップルはちょっとした事件に巻き込まれていくのです・・・・・・。この続きはぜひ、『ふたりでおかしな休日を』1巻を買って、読んで確かめてみてください! 面白い展開になっています。
『ふたりでおかしな休日を』で、あなたも「おかしい休日を」!
トシくんがゴンちゃんの健康を気遣って、美味しくヘルシーなお菓子を作る姿は、筆者も見習わなくてはなあ、と思っています。
『ふたりでおかしな休日を』は、お菓子マンガでもある
『ふたおか』は、レシピのワンポイントアドバイスもある丁寧なマンガです。
マンガを読むだけでお腹いっぱいな気分にもなりますが、やはりここは実食も大事! ということで、筆者も第9話に登場する「ブルーベリーとクリームチーズのスコーン」を作ってみました(写真がなくてごめんなさい)!
混ぜて焼くだけなのですが、「冷蔵庫で1晩水切りした300gの無脂肪ヨーグルト」が必要だったりと、手間がかかっているなあ、ゴンちゃんへの愛が詰まっているなあと実感しながら、薄力粉やおからパウダーをさっくり混ぜます。ブルーベリーと大きめに千切ったクリームチーズを入れて、オーブンで焼きます。
いざ実食! という前に、せっかくのスコーンですから、紅茶を淹れて優雅にいただくことにしました。やはり焼きたてのスコーンと紅茶はとても美味しいということがわかりました。チーズが柔らかくなっていて、食感も抜群です。
フランス風に紅茶にスコーンをつけても、とても美味しく頂けました。ブルーベリーとクリームチーズの相性はとても良いです。なにより小麦粉をおからパウダーに代えているので、おやつの罪悪感が減ります。
マンガ『ふたりでおかしな休日を』の各回には、レシピの一工夫やワンポイントアドバイスもあるので、お菓子作り初心者もハードルが低くなるのではないでしょうか。
食べ物を健康的に美味しく食べられるってそれだけで嬉しいことですし、筆者はひとりで食べましたが、一緒に食事をできる誰かがいたら、なお楽しい休日になりそうですね。
食欲と食事欲
これは筆者の持論なのですが、食欲と食事欲って違うものではないでしょうか?食欲を満たすだけならば、最低限の栄養素で成り立つ食事だけを取ればいいでしょう。
けれど、ひとはそれだけでは満足しません。食事欲とは筆者の造語ではありますが、ともに食事をしたい、お菓子を一緒に食べたいという欲望は、人間ならではの欲望だと思っています。
ガストロノミー(日本語に訳すと美食道)を提唱したフランスのブリア・サヴァランは「新しいご馳走の発見は、人類の幸福にとって、天体の発見以上のものがある」と書いています。まさしくトシくんの作ってくれた誕生日のケーキは、ゴンちゃんにとって大きな、天体の発見以上の意味を持っていますよね。それは愛の発見に近いものだと思います。
読者の皆さまにも、天体の発見以上の愛に満ちた、「おかしい休日」を過ごせますように、と作者の伊藤正臣さんが言っているような気がしてきます。『ふたりでおかしな休日を』であなたも「おかしい休日」を!
■ 今回ご紹介した本
『ふたりでおかしな休日を』 1巻
伊藤正臣 著
ヒーローズ