2021年5月20日、自民党本部にてLGBT法修正案の了承が見送られた後、24日に条件付きで了承されました。全国的にも取り上げられているこのニュースについて、党本部にて何が起きたのか改めて見ていきたいと思います。
LGBT修正案、なぜ見送られた?
今起きている差別より、「差別を許さない」と明記することで生まれるかもしれない “問題” の方が重視されてしまったことは、とてもショックでした。
「LGBT理解増進法」と「LGBT差別禁止法」
今回の問題について考える前に、これまで起きたことを簡単に整理しましょう。
LGBTに関する法案は、政治家たちの間で2018年から議論が行われてきました。2018年に野党合同で提出された法案が「LGBT差別禁止法」。それに対して、自民党が今国会で出した法案が「LGBT理解増進法」です。
両者は、名前は似ていますが、決定的な違いがあります。LGBT差別禁止法には「性的指向および性自認を理由とする差別は許されない」と明記されている一方、LGBT理解増進法には社会のLGBTへの理解を促そうというスタンスにとどまっているという点です。
LGBT理解増進法は、LGBTQへの差別を禁じていないことから、アクティビストやLGBTの関連団体から「毒にも薬にもならない」「どこまで理解が広まればいいのか明確ではないので、むしろ状況が悪化するのではないか」などと、かねてから指摘が挙がっていました。
個人的にも、今ある差別を防いでいくことが最も重要なことだと思うので、LGBT差別禁止法くらい実効性のある法案の早期成立を期待していました。ここで言う差別とは、例えば同性カップルが異性のカップルと比べて医療や保険、不動産などに関することで不利益をこうむったり、トランスジェンダーだというだけで就職で不利な状況に立たされたり、同性婚ができないことなどを指しています。
保守派からの反対
今回、自民党で法案の了承が一旦見送られた理由も、まさに「差別は許されない」という記述が問題になったためです。
与野党は、両者が持ち寄ったLGBT差別禁止法とLGBT理解増進法の内容を擦り合わせて、今回の法案を整えました。その中には基本理念として「差別は許されない」という記述が残っていました。しかし、この点について保守派から反対意見が多く出たため、法案の了承が見送られたというのです。
一体、差別を禁止することのどこに問題があるのでしょうか。
自民党本部で出た「差別発言」
まさに今回、自民党議員がトランスジェンダー女性について「ばかげたこと」と言ってしまうような差別意識を解消するために、LGBT差別禁止法を望んでいるのですが・・・・・・。
「道徳的にLGBTは認められない」
今回のニュースを見聞きして、特に耳を疑ったのは、法案に反対した自民党の保守派からストレートな差別発言が出ていることです。
LGBT差別禁止法を盾とした裁判が多く発生するのではないか、社会運動が活発化するのではないか。
LGBTは「種の保存」に背くので、道徳的に認められない。
トランスジェンダー女性が、心が女性だからと主張して女子トイレに入るなど、ばかげたことが起きている。
どれも、LGBTQ当事者であれば耳にタコができるほど聞いてきた “意見” だと思います。
自民党・簗和生衆議院議員の「種の保存」発言で傷付く人たち
特に簗和生衆議院議員の「種の保存」についての発言は、極めて大きな問題だと思います。同性カップルをはじめとするLGBTQ当事者だけでなく、子どもを授からない女性や生涯未婚の人、子どもを授からない選択をした異性カップル、病気などで子どもを授かれない人も含めて傷付ける発言とも取れるからです。
また、「種の保存」を理由にLGBT修正案に反対した人に対しては、日本においてトランスジェンダーが戸籍の性別を変更する要件に性別適合手術を受けていることや、未成年の子どもがいないことなどが義務付けられている現状についてどう考えているのか、気になるところです。
差別、偏見解消のための差別禁止法
上記のような発言は、昨年2020年9月に足立区議の「L(レズビアン)やG(ゲイ)ばかりになると足立区が滅びる」発言などと、根本的な考えは同じと考えていいでしょう。この発言が報道された当時、LGBTQ界隈だけでなく、あれだけ全国的に批判されたというのに、与党からまだこういう意見が多く出ているのか、と肩を落としました。
まさしく、そういう偏見をもとに今もどこかで行われているのであろう差別を解消するために「差別は許されない」と明記されたLGBT差別禁止法の制定を望んでいるのです。LGBTQを理解しない人が多くいる限り、LGBT理解増進法を盾に同性婚などの権利を認められない状態のまま放置されるのを懸念しているから、差別禁止法の方が良いと思っているのです。
まだLGBTQ当事者の意見や思い、実情が一部の政治家には伝わっていないのかなと思いました。
政治家が差別発言をするということ
政治家の差別意識、人権意識は政治に直結するので「想像力が足りない」では済まされない問題です。
政治家においては、想像力の問題ではない
果たして、これらの発言をした政治家は、自分の周りにはLGBTQ当事者がいないと本気で思っているのでしょうか? それとも、自分の周りの当事者にも向けて上記のような発言をしたのでしょうか? 特に後者であれば、正直に言って今後考え方を変えることは難しいでしょう。
また現在、多くの懐疑的な意見が出ている中、政治では東京オリンピック・パラリンピックをこの夏に開催すべく進んでいます。そんな時期なのに、開催国の与党政治家の中にこんな差別発言をしてしまうような人権意識の低い人物が多くいる状況で、オリンピック・パラリンピックを開催して本当にいいのか? 差別について、一体今まで何を勉強してきたのか? そもそも勉強してこなかったのか? と、別の側面でも開催にまた不安を覚えてしまいました。
ショックを受けている人がいないか
個人的には、今回のニュースを受けて「自民党内には、2021年になってもそんなにLGBTQを差別したい人がたくさんいるんだね」と改めてがっかりはしましたが、精神的に傷付くことはそれほどありませんでした。
ただ、私が傷付かなかったのは、LGBTQや人権についてちょっとでも知識をもっている、同じ当事者の知人、友人もいるからです。つまり、そうではないLGBTQ当事者、特に子どもは、自分の存在が認められない、否定されたと感じ、ショックを受けている人もいるのではないかと思うのです。
今は、子どもでも大人でも、ただでさえコロナ禍で精神的に不安定な人が多いです。「種の保存」の重要性を主張して今回法案に反対した人には、今あなたの発言を聞いて命を絶つかどうか考えているかもしれない人がいる可能性について、あなたのおっしゃる「種の保存」の観点からどう思うのか、ぜひとも聞いてみたいものです。
差別発言は、簗和生衆議院議員と山谷えり子参議院議員だけか?
個人的には、今回、自民党本部で上記のような差別発言をした政治家が誰なのか知りたいと思っています。何も、やり玉に挙げて叩きのめしたいというわけではありません。そういう政治家には投票したくないからです。
一部では、簗和生衆議院議員が種の保存に背くとか、また山谷えり子参議院議員がトランスジェンダー女性について差別発言をしたことが報道されていますが、その二人だけではないはずです。
一方、今回の法案に賛成した自民党議員がいるなら、その政治家を応援したいのでぜひ名乗り出て欲しいです。
社会のよい面も見えた法案見送り
今回LGBT修正法案が見送られたことで、社会の良い側面、変化も見えました。
全国的なニュースになる
「差別は許されない」と基本方針に明記されたLGBT修正法案が問題視されたこと自体は、とても残念です。しかし、それでも社会が変わりつつあるのだなと改めて感じることもありました。
私がLGBT修正法案了承見送りのニュースを最初に見たのは20日夕方のテレビニュースで、速報として取り上げられたときでした。LGBTQに関するニュースを重要事項として認識し速報として報道していること。しかもその時点で、政治家の差別発言についても言及していること。世間の関心事として捉えられていることにまず感心しました。
10年前であれば「LGBT」という言葉もこれほど浸透していませんでした。地上波のニュース番組で取り上げられることもなかったのではないでしょうか。
また、自民党の政治家たちの発言に対する批判もSNSで多く上がり、「発言の撤回と謝罪」がTwitterのトレンド入りも果たしました。LGBTQ界隈だけでなく多くの人の目にニュースが触れられているのだと実感します。さすがSNSでの拡散力は侮れません。
アクティビストや団体、著名人などもすぐに動いています。報道のあったその日のうちに署名が立ち上がり、多くの人が賛同しています。
この時点で、自分たちの発言がLGBTQ当事者や国民とどれほどずれているか、自民党内の法案了承に反対した政治家たちも、少しは感じられたのではないかと思います。一人ひとりが声を上げるのはとてもちっぽけなように見えますが、それでもこうして大きな流れになっていくのを目の当たりにすると、決して無駄なことではないと思えます。
他にも好転しつつある状況
LGBT法案から話は少しずれますが、この法案が話題になる少し前にも同性カップルに関する報道がありました。海外で同性婚をした同性カップルの外国人が日本で居住する場合、外国人の同性パートナーに在留資格を認める方針で検討が進められているというのです。
もちろん、この方針転換の中身にもまだまだ問題はあります。認められる在留資格はワーキングホリデーと同じ類の「特定活動」であり、異性カップルと同じように配偶者として認められるわけではありません。こういったことを考えると、やはり日本でも一刻も早い同性婚の法制化が望まれますが、それでも今より状況が少しでもマシになるなら小さな前進だといえます。
自民党本部で一度了承を見送られたLGBT修正案は、2020年5月24日に再度審議され、何時間もの議論の末に、国会での議論を条件に何とか了承されました。最終的にはどのような内容の法案が成立するのか、そもそもLGBTQに関する法案が今国会で成立するのか否かも含めて見守っていきながら、無理せずに声を上げ続けていきたいです。
◆参考情報
・多様な性のあり方を認める社会どうつくる
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik21/2021-05-22/2021052204_01_1.html
・【独自】日本人との「同性婚」が海外で認められた外国人パートナーに在留資格…政府検討
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20210517-OYT1T50110/
・「いろんな副作用も」LGBT理解増進法案 自民部会で紛糾 了承見送り
https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4272640.html