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Writer/まにょ

セクマイはLGBTだけじゃない、性愛感情を持たない「アセクシュアル」とは?

セクシュアルマイノリティの中でも、「レズビアン」「ゲイ」「バイセクシュアル」「トランスジェンダー」については、比較的広く知られています。しかし、「LGBT」以外のセクシュアリティについては、まだまだ認知度が低いのではないでしょうか。

今回は、セクシュアルマイノリティの中でもさらにマイノリティだと言われている、「Aセクシュアル(アセクシュアル)」について紹介したいと思います。「アセクシュアル」とはどういった性的指向なのか、当事者が抱える悩みはどのようなものなのか、具体的に説明していきましょう。

「アセクシュアル」とは?

広義において「恋愛感情や性的欲求を抱かない」と言われているアセクシュアル。「恋をするのは当たり前のこと」といった価値観の中で育ってきたシスジェンダー(体の性と心の性が一致している人)・ヘテロセクシュアル(異性愛者)の人からすれば、いったいどのような性的指向なのか、少し想像しにくいかもしれません。しかし、アセクシュアルの人口は、けっして少ない数ではないのです。

全人口の1パーセントが、他者に性愛感情を持たないアセクシュアル

日本語で「無性愛」を意味する「アセクシュアル」は、「Aセクシュアル(エーセクシュアル)」とも呼ばれています。また、略して「Aセク」と呼ばれることも。

この「無性愛」とはどういうことかというと、「他人に対して性愛感情を抱かない」状態を示します。

多くの人が、「恋愛は当たり前の感情」と考えている中で、こうしたアセクシュアルの存在は、かなり不思議なものにうつるのではないでしょうか。

しかし、英国デイリーメールが報じた、カナダのブローク大学教授の調査によると、全人口の約1パーセントがアセクシュアルなのだとか。100人に1人と考えると、自分の身近にもアセクシュアルの人がいてもおかしくはありません。人によっては、自身、または身の回りの誰かの顔が思い浮かぶかもしれません。

「アセクシュアル」と「ノンセクシュアル」の違いとは?

性愛感情を持たないアセクシュアルとしばしば混同されるのが、「ノンセクシュアル」という性的指向。このふたつはどう違うのでしょうか。

「ノンセク」とも呼ばれる「ノンセクシュアル」は、日本語では「非性愛」と呼ばれています。これは、他者に対して「性的欲求を抱かない」ということ。性的欲求は抱かなかったとしても、恋愛感情を抱くことはあるのが、アセクシュアルとの違いです。

つまり、「好きな人はいるけれど、体の関係になるのはちょっと・・・・・・」と考えるのがノンセクシュアル、「そもそも好きな人ができない」というのがアセクシュアルです。

◎広義 ノンセクシュアル(非性愛):他者に恋愛感情は抱くことがあるが、性的欲求は抱かない
◎広義 アセクシュアル(無性愛):他者に恋愛感情も性的欲求も抱かない

アセクシュアルが抱える悩み

全人口の1パーセントを占めると言われているアセクシュアルですが、セクシュアルマイノリティの中でもとりわけ世間の認知度が低いこともあって、まだまだ多くのモヤモヤを抱えています。アセクシュアルを取り巻くさまざまな悩みについて、具体的に見ていきましょう。

当事者に知識がなく、自認に至らないケース

アセクシュアルが抱える問題としては、周囲はもちろん、当事者自身もアセクシュアルに関する知識を持たない場合が多いことがひとつ。

L・G・B・Tの場合は比較的認知度が高いということで、「もしかして、自分はゲイなのでは?」といったように、自身の性的指向に気付きやすい部分もあるかと思います。しかし、アセクシュアルはまだまだその名が世に浸透していないことで、「自分はアセクシュアルだ」という気付きを得にくいのです。

きっと、自覚のないままに「自分は普通じゃないかもしれない、おかしいのかも」と思い悩むアセクシュアルも多いでしょう。筆者はこれまでに多くのLGBT当事者と対話する機会がありましたが、性自認に至る前の、「自分がいったい何者なのか自分でもわからない」といった状況が大きなストレスになっていたと、どの方も口々に話されていました。

また、直接話を聞いている限りはAセクシュアルの傾向がありつつも、本人にまったく自覚がないような人もチラホラ見受けられます。なおかつ、そういった人は、周囲から「ただの変った人」扱いされてしまうケースがほとんどなのがつらいところ・・・・・。

もちろん、当人がそうした状況をまったく気にしていなければ問題ないのですが、それで悩みを抱えているのであれば、「アセクシュアル」について知ることが、当人にとっても何かしらの救いになるのではないでしょうか。自分と同じような性的指向を持つ人が、この世にはたくさんいるということを、ぜひ知ってほしいと思います。

アセクシュアルだと確信が持てないケース

アセクシュアルは、誰かにドキドキするような恋愛感情を抱くことがなかったとしても、家族や友人、大切な人への好意や情などがないわけではありません。このことから、「Like」と「Love」の区別がなかなかつけられず、悩んでいるアセクシュアルも多いようです。そして、友だちや家族への好きが「Like」とは限らず、「Love」のニュアンスということもありえます。

また特に、過去に恋人がいたことがある場合、仮にアセクシュアルという言葉を知っていたとしても、「自分は本当にアセクシュアルなのだろうか?」と、はっきりと自認するのが難しいようです。

「今、たまたま好きな人がいないだけで、もしかしたら今後はいい人が現れるかもしれない」と思ったり、「異性に恋ができないだけで、もしかしたら自分はレズビアン(ゲイ)なのかも?」と誤認してしまうこともあるでしょう。

そのため、本人がアセクシュアルについて知識を持っていたとしても、自認に至るまでには、少し時間がかかるようです。

潜在的アセクシュアルと周囲との関係性

自分がアセクシュアルだと気づいていない当事者を、ここでは「潜在的アセクシュアル」と呼ぶことにします。こうした潜在的アセクシュアルの場合、周囲に思わぬ影響を及ぼしてしまうこともあります。

たとえば、筆者は以前、潜在的アセクシュアルと思しき男性とお付き合いをしていたことがありました。しかし、付き合っているのに、彼からまったく好意を感じられずに、とても苦しい思いをしていたのです。結局、関係は長続きせず、彼とはすぐ別れることに・・・・・・。

彼は、その後付き合った別の女性とも、やはりすぐに破局してしまったのだとか。彼が本当にアセクシュアルだったかどうかはわかりませんが、もしアセクシュアルの当事者が自身のセクシュアリティを自覚せず恋愛関係に発展してしまった場合、本人はもちろん、周囲の人々も苦しむケースが十分ありうるのです。

この場合、本人はもちろんのこと、周囲も「アセクシュアル」という存在を知ることで、救われる場合も多いのではないでしょうか。筆者自身、彼と別れてしばらくの間はずっとモヤモヤとした思いを抱えていましたが、ある時偶然「アセクシュアル」という言葉を知り、パッと視界が開けたような気持ちになりました。彼がアセクシュアルだと考えたら、当時は「なんで?どうして?」と感じていた行動のすべてに、合点がいったのです。

周囲の無理解

仮に当事者本人に自覚があったとしても、まわりになかなか理解されないという点も、やはり大きな問題でしょう。L・G・B・Tの4つのセクシュアリティですら、しっかりと理解していない人がまだまだ多いのですから、アセクシュアルはなおさらです。

たとえば、男女ともに、小さい頃から「誰が好き?」といった恋バナに花を咲かせる機会は多いでしょう。特に女性であれば、恋バナを通してコミュニケーションを取ることも多いですよね。アセクシュアルはそうした輪に入れなかったり、居心地の悪さを感じているものの、けっして周囲も悪気があるわけではないのが厄介なところ・・・・・・。

また、ある程度年を重ねてからは、周囲に「どうして恋人を作らないの?早く作りなよ」といったおせっかいを言われることも多くなります。

「まだ、本当に好きな人と出会ってないだけだよ」「恋愛を知らないなんて、かわいそう」と優しさも込めて言われたり。こんななぐさめも、アセクシュアルにとっては違和感や苦痛になることがあります。

アセクシュアルに限った話ではありませんが、「異性の恋人がいることが当たり前」といった価値観が主流となっている社会では、それに属さない人々は肩身の狭い思いを強いられることになるのです。

まずは「知る」ことから始めよう

シスジェンダー・ヘテロセクシュアルの人たちへ

性愛感情を持つシスジェンダー・ヘテロセクシュアルの人からすれば、アセクシュアルがどういった考え方をするのか、最初からすべて理解しようと思ってもなかなか難しいところもあるでしょう。

ですが、それでもまずは「知る」ことが、とても大切なのだと思います。アセクシュアルとはどういった性的指向なのかを知り、機会があれば実際に当事者に会って話を聞いてみることで、きっと少しずつ彼らに対する理解が深まっていくはずです。

筆者自身、ストレートということもあり、アセクシュアルという存在は知りつつも、「恋愛感情がないってどういう気分だろう?」と不思議に感じていたこともありました。しかし、実際にアセクシュアルの当事者に会い、彼らの歩んできた人生や悩み、現在抱えている想いを聞いたことで、「好き」がないこともあるし、いろいろな「好き」があるんだと、理解がグッと深まったような気がしたのです。

「もしかしたら、自分はアセクシュアルかもしれない」という人へ

また、もしかしたら読者の中には、「自分自身がアセクシュアルなのかもしれない」と考えている人もいるかもしれません。そうした方の場合、自分の立ち位置があやふやな状態で、とても不安に感じているでしょう。しかし、まだ迷いがあるのであれば、ひとまず「クエスチョニング」としていてもいいし、曖昧なまま何かを名乗らなくてもいいかもしれません。

そして、自身がアセクシュアルかもしれないとカミングアウトをするより、まずは周囲に、アセクシュアルという概念を知ってもらうよう、働きかけてみるのもいいかもしれません。

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