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ずっと逃げてきた正体不明の違和感と、それに向き合った時に見えた「本当の自分」【前編】

クールビューティな見た目と、大阪出身らしいノリのよさのギャップが心地よい、漫画家の小西真冬さん。男性として結婚し、「中性的なものが好きな男」ということで自分を納得させようとしていたが、ある日プレイしたゲームがきっかけで、自分の本当の気持ちに気づいてしまう。女性として美しくなる努力、漫画家として腕を磨く努力を重ねてきたからこそ語れる「いま」の自分がいる。

2016/12/03/Sat
Photo : Taku Katayama  Text : Momoko Yajima
小西 真冬 / Mafuyu Konishi

1983年、大阪府出身。中学のヤンキー時代を経て、バンド活動で知り合った17歳年上の女性と20歳で結婚。22歳の時に自身が性同一性障害であることに気づき、2015年1月にタイで性別適合手術を受ける。セクシュアリティはMTFのバイセクシュアル。漫画家のアシスタントをしながら、2016年4月より『ヤングエースUP』(角川書店)にて『生まれる性別をまちがえた!』のウェブ連載をスタート。

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INDEX
01 子どもの頃からの夢、漫画家
02 ヤンキーデビューした中学時代
03 バンドでビジュアル系化粧と女装に目覚める
04 妻になる人との出会い
05 母の猛反対を押し切り駆け落ち同然で上京
==================(後編)========================
06 プロの漫画家の厳しさを知る
07 22歳の気づき
08 ホルモン治療で変化する身体
09 家族へのカムアウトと性別適合手術
10 手術後の心の変化

01子どもの頃からの夢、漫画家

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『幽遊白書』に憧れた小学生

子どもの頃からずっと、夢は「漫画家」になること。

当時の『週刊ジャンプ』黄金期を支えた人気連載と言えば『ドラゴンボール』、『スラムダンク』、そして『幽遊白書』だ。特に『幽遊白書』が大好きで、小学3年生の頃には漫画家になろうと決めた。

いま、願い叶って、漫画家としてウェブで連載を持っている。

テーマは、ずばり自分のセクシュアリティ。性別適合手術を受けた実体験を漫画で綴るコミックエッセイだ。

実は結婚して13年になる奥さんもいて、自身のセクシュアリティとしてはMTFのバイセクシュアルという認識でいる。

婚姻関係を続けるため、戸籍は女性に変更せず男性のままだ。

ここまで来るには紆余曲折あったし、決して平坦な道ではなかったけれど。でも、漫画というたくさんの人に読んでもらえるツールを使って、自分のような人間がいることを広く世間に知ってもらえるのなら、どんどん伝えていきたいと思っている。

女の子のような男の子

思い返せば小さな頃から、2つ上の兄とは欲しいものが違っていた。

いつでも持ち歩いていたのは、ぬいぐるみ。遊ぶのも幼なじみの近所の女の子とばかりだった。

しかし、小学校に上がったとたん、クラスの男の子から「お前、なに女と遊んでんだよ!」と笑われバカにされた。

「なんでこんなこと言われるんだろう。女の子と遊ぶ自分は変なのかな?と、初めて自分に疑問を持ったのが小学1年生の時。でもその頃は男のかっこうが嫌だとも思わなかったし、自分のことを男とも女とも意識したわけでもありませんでした」

見た目が女の子っぽい、というのは小学生の頃から言われていて、母親や親せきからもからかわれたりした。

「でも、明らかにバカにして言われるのは嫌だったけど、かわいいとか女の子っぽいと言われること自体は、嫌だと思ったことがないんです」

「むしろ少し嬉しかった。そんな自分はどこかおかしいのかなとか思い始めましたね」

しかし小学校も高学年になると、同級生から見た目を理由にいじめられるようになる。

「『お前、オカマっぽいな』って。小学生のいじめなんてくだらない理由なんですよ。でも本当に嫌だったのでことあるごとに対抗して、ある時ブチ切れてからは何も言われなくなりました」

仲のよい友だちもいたのでそこまで思い詰めることもなかったが、中学では思い切りその反動が出ることになる。

02ヤンキーデビューした中学時代

茶髪の入学式

「中学は他の小学校の生徒と合流するので、そこでまたいじめられるんじゃないかと思って、やるしかない。これはもう中学デビューしかないぞと(笑)」

ちょうど2つ年上の兄が最上級生として在校している。しかも兄は筋トレ好きで、中学生でガチムチ体型。中学でも一目置かれる存在だった。

そのおかげで中学に入る前から兄の同級生にかわいがられ、多少のやんちゃも許された。

中学の入学式は茶髪にして臨み、先輩からもらった変形の学生服でカラーを外し、ホックは開けて出席した。

「いじめられないよう、男らしくしなきゃっていうのが動機で、やけくそですよね(笑)」

クラスカーストでいえば一番上にいるような連中とつるんで悪さもしたが、自分が誰かをいじめるようなことはなく、学校の同窓生はほぼ全員友だちという状況で、女の子とも仲はよかった。

「見た目が変わっただけで、性格はなんにも変わってないんですよ。自分を守るためにグレたようなもので・・・・・・確かにつるんでバカやるのは楽しかったんですけどね」

「でも、あそこまで自分を殺して何してたんだろうな、っていうのもあるので(笑)、あの頃に戻りたいかと言えば戻りたくはないですね」

恋愛より、友だちや漫画

恋愛に関して思い出すと、中学の時は好きになるのは女の子だった。

小学生の頃は男女どちらもあった記憶がある。初恋は小学校1年生で相手は女の子。

しかし高学年の時には気になって目で追ってしまう男の子もいた。

高校時代は、男女両方を恋愛の対象として感じた。

中学2年の時に告白され、初めての彼女ができた。

だが硬派を気取っていた自分はあまり恋愛に熱心になれず、2か月で別れてしまう。他校の女子からアプローチを受けたり割とモテるほうではあったが、正直、恋愛はめんどうくさいという思いの方が強かった。

相変わらず絵は描き続けていて、小学校4年生から中学1年生までの4年間、市のコンクールで入賞した。

「それで自分には絵の才能があるって勘違いしちゃって(笑)。やっぱり漫画家になるぞ、という思いが強くなっていました」

誰にも見せなかったが漫画も描き始めた。

「『幽遊白書』の影響で完全にバトルものでしたね。いま見たら中2病全開で恥ずかしいやつ(笑)。ぜったいに人に見せられません」

03バンドでビジュアル系化粧と女装に目覚める

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楽しかった工業高校時代

高校は兄と同じ工業高校に進学する。

「成績はよかったのでもう少し上の高校も狙えたんですけど、漫画家になるぞ! 上京だ! 金だ! よし、就職だ! それなら工業高校だ! というノリで(笑)」

工業高校なら筋金入りのヤンキーがいるだろうと思い、なめられないよう髪の毛を緑色にして入学式に出たが、自分の学科、クラスには誰もヤンキーがいなかった。

「1人だけ鑑別所出てきた奴がいたけど、それ以外はみんな制服のホックを一番上まで留めてるような奴らで。それで、あ、やべぇと思って、ヤンキーやめました(笑)」

いじめられないようにヤンキーをやっていただけだったので、周囲が真面目であれば、その必要はなかった。

高校に入って初めて、友だちに漫画を見せるようになる。

そもそもおちょくりたい同級生を主人公にして描いたバトル漫画で、毎回、他のクラスメイトも登場させる。

登場人物には全員、変なあだ名をつけた。漫画は教室に貼り出され、大いにウケた。

「逆にこっちもバカにされ続けましたけどね。顔がこんなだから『なんかお前、顔からフェロモン出てる』と言われて、『フェロモンEYE』とかつけられて(笑)」

中学の頃に比べて自然体でいられた。

高校はもう一度行ってもいいと思うほど、楽しい思い出が残っている。

バンドを始めて女装と化粧を覚える

高校では同級生に誘われてバンドに加わる。

「ゲーセンのドラムマニアってゲームが流行ってて、それがすごいうまかったんですよ。それで、高校3年生の時に、文化祭でバンドやるからドラムやってみない?って言われて、本物のドラムを始めました」

思い切ってステージには女装して上がった。

「それまでも、たとえば中学の時に劇で姫役を男がやるとなった時に、絶対似合うって言われたんですけど、『いや、やらねぇし。興味ねぇし』みたいに突っぱねてた。本当は興味津々だったのに(笑)。結局他の男子がやったんだけど、『絶対おれがやった方がキレイになるのに』って思ってました」

「高校でも2年生の時に罰ゲームで女装させられて、町でナンパされるってこともあったけど、嫌じゃなかった。やっぱり女の格好をすることへの興味はあって、その気持ちは高校でもどんどん強くなっていっていたんです」

バンドの練習やライブの時には必ず女装と化粧をした。

当時はビジュアル系バンドが全盛期。キレイ目の化粧や女装も、バンドをやっていると言えば受け入れてもらえた。

「初めての化粧はどうすればいいか分からなくて、オカンの借りて、しこたま付けたんですよ。リキッドファンデーションむにゅーって塗って、口紅もアイシャドウも塗ったらすんげぇ濃くて。完全にオカマメイクですよ(笑)」

「でもちょっと嬉しかったんです」

04妻になる人との出会い

バンド活動と妻との出会い

高校を卒業して就職した先は、トラクターを作る工場。

厳しい寮生活に耐えながらもバンド活動は続けていた。

正社員だったのでふだんはもちろん化粧などせず、プライベートでバンドをする時だけ化粧と女装はしていった。

そんな折、バンドのメンバーを新たに募集することになった。ライブファンを増やす目的も兼ねて、メンバー募集の告知をインターネットの掲示板などに書き込んだ。

「『ギターを募集してます。もしくはX-JAPANやセックス・マシンガンズなどロック、ハードロックやメタルが好きな方、連絡ください』みたいな感じで」

そこでの返事のひとつに、「私もX-JAPAN好きです」という女性からの書き込みがあった。それから2か月ほどメールのやり取りを重ね、初めて会うことになる。

彼女は神奈川県に住んでいて、遠距離。

当時はユニバーサル・スタジオ・ジャパンができたばかり。彼女が行ってみたいと言うので一緒に行くことになった。

メールも電話も頻繁に交わしていたので、お互いの人となりはもう分かっている。とにかく話しも合うし、好きなものもほとんど同じで、「ああ、この人いいな」と感じていた。

プリクラも送り合い顔も確認済み。好みのタイプだった。

中性的な男性?

初デートの夜、付き合ってほしいと切り出した。自分から告白したのは初めてだった。

当時、自分は18歳。彼女は35歳。年齢差は17歳と大きかったが、まったく気にならなかった。

メールでやり取りをしていた時から、自分自身に感じる違和感は伝えていた。

「たぶん、ちょっと普通の男とは違うと思う」

しかし彼女は男くさい人よりも、バンドをやっている中性的な男性の方が好きだと言い、自分のことも理解してくれた。

19歳で寮を出ることになったのを機に、彼女を大阪に呼び寄せ、マンションを借りて一緒に暮らし始めた。

付き合っている時に永久脱毛もしたのだが、それに対しても「きれいな顔のバンドマンには必要だ。よし、全滅させてこい」といった感じで、一切否定しない人だった。

彼女はそんな調子だったが、自分の中の違和感は徐々に大きくなっていた。

「ためしに会社の同期に聞いてみたんです『女になってみたいとか思わねぇ?』って。そしたら全員、思わねぇし、って。『女装してみたいとかは?』『絶対しねぇし』みたいな(笑)」

「やっぱり自分がおかしいんだって思いましたね。高校ぐらいからずっとおかしいと思ってきたけど、だけどまさか自分の心が女だということには気づいていなかったから、違和感の理由も分からなかったんですよね」

彼女にも、「たぶんやけど、自分の中に女の部分があるんやと思う」と打ち明けたが、彼女はおそらくそれを「中性的なものが好きな男性」と捉えたようだ。

「彼女のその認識は、いまも変わってないと思います」

05母の猛反対を押し切り駆け落ち同然で上京

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漫画家になる夢を抱き上京を決意

大阪で同棲を始めてから1年が経ち、会社勤めは続いていたが、彼女がホームシックになり東京に帰りたいと言い出した。

それならと、自分も東京について行く決心を固める。

「漫画家になりたいという夢もあるし、貯めてたお金は一人暮らしするので全部使っちゃったけど、取りあえず行くか、って。若かったんで何にも考えてなかったんですよ(笑)」

父は反対しなかった。父の浮気により両親は中学生の時に離婚しており、そんな背景からか「おれは何も言えねえ。好きにしろ」と。

しかし母は大反対。

「仕事を辞める。17歳も年上の人と東京に出て行く。もう烈火のごとく怒っていました」

「あんたがひとりで、漫画家になりたいって夢を追うんやったら応援する。もしくは正社員でいながらその人と結婚したいと言うなら話し合う余地はある。だけど、そんなにいくつも突きつけられて、許すわけないだろう! みたいな感じで」

母の反対と、入籍と

最終的には彼女と母が直接話し合ったが、激しい言い争いになってしまい、平行線をたどる。

「オカンは『あんな人許しません! いますぐ別れなさい!』となってしまい、もう仕方ないので駆け落ちです。しばらく実家には帰りませんでした」

そんな調子で上京し、二十歳の時に籍を入れ、彼女の親族を呼んで会食をした。両親に結婚の報告だけは入れておいた。

「でも4年ぐらいしてから一人で実家に帰りました。その後、結婚してから10年経って、ようやくオカンが折れたんです。『あんたたちもそろそろ10年。もう認めるしかないわね』みたいな。『あんたたちの意思の方が強かったみたいね』って(笑)」

「それ以降、奥さんとも仲良くしてくれています」

 

<<<後編 2016/12/06/Tue>>>
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06 プロの漫画家の厳しさを知る
07 22歳の気づき
08 ホルモン治療で変化する身体
09 家族へのカムアウトと性別適合手術
10 手術後の心の変化

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