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男にも女にもなれる、やっと見つけた私の居場所。【後編】

男にも女にもなれる、やっと見つけた私の居場所。【前編】はこちら

2018/10/25/Thu
Photo : Tomoki Suzuki Text : Kei Yoshida
若杉 凩 / Kogarashi Wakasugi

1998年、愛知県生まれ。幼い頃に自分の感覚が女の子よりも男の子に近いと気づき、さらに成長するにつれFTXであると自覚する。高校3年生の時に、講談社主催のオーディション「ミスiD 2017」の “わたしはこの星で生き残る賞” を獲得。その後、俳優として映画やMVなど映像作品を中心に活動している。

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INDEX
01 女の子でいなきゃダメなんだ
02 男の子になるための準備
03 カテゴライズされたくない
04 暗闇で一点を力なく見つめて
==================(後編)========================
05 居場所を求めてミスiDに
06 オナベキャラをつくれ
07 女性も男性も演じられる俳優
08 アセクシュアルかノンセクシュアルか
09 このままいけるところまで

05居場所を求めてミスiDに

FTXですが応募しても?

「ミスiDに応募した時のこと、あんまり覚えていないんです。応募理由も、ちゃんとあったわけではなくて、ネットの応募フォームに文字を打ち込んだ・・・・・・くらいのことで」

「他の応募者の方のように、こういう役者になりたいとか、こんな作品に出たいっていう目標もありませんでした」

「流れに身を任せていた感じです」

ただただ居場所を求めていた。

居場所を求めてさまよって、たどり着いた先にあったのが「ミスiD」だったのだ。

「普通のミスコンではなくて、いろんな個性をもつ女の子が集まっていたので、ここなら私の居場所もあるかもしれないと思ったんです」

高校3年生になって、唯一の安全地帯だった部活も引退した。

学校にも家にも居場所がなく、アルバイトも辞めたタイミングだった。

「本当に、周りが見えなくなってました」

しかし、「ミスiD」は女の子のためのコンテスト。「男の子になりたい」と言っている自分が応募してもいいのだろうか。

そこで審査担当者に向けて、一文を追記した。

「FTXなのですが、見た目は一応女の子なので応募してもいいものかとても迷いましたが、今回思い切って応募させて頂きました」

しかし、そのフォームに書いた内容はすべて、一般に向けて公開されてしまうことになっていたのだ。

“ファッションLGBT” と詰られ

「ネットで公開されたのを知って、『あ、自分終わった』と思いました」

「でも同時に、『もう、オープンにしていくしかないや』とも思いました」

開き直るきっかけになった反面、それはSNSでの中傷のネタにもなった。

「高校入学当時は女の子の格好をしていたのに、急に男の子の格好をしてきて、こいつは “ファッションLGBT” だ」と。

精神科に通うほどに追い詰められていた上に、セクシュアリティについてもLGBTのフリをしているだけだと詰られる。

高校生活はますます苦痛なものになった。

「ギリギリまで頑張ってたんですけど、これ以上頑張って学校に行ったら、私は死んでしまうって思って・・・・・・10月で退学しました」

そんななか、「ミスiD」の “わたしはこの星で生き残る賞” を獲得。

コンテストで知り合った女性から、東京の芸能事務所にスカウトされた。

その頃には地元での進学が決まっていたが、鬱屈とした現在の環境を大きく変えたくて、東京へ行くことを決意。

まだ見ぬ新しい世界、芸能界へと飛び込んだ。

06オナベキャラをつくれ

FTXであることは理解されず

住む場所も着るものも用意する、と事務所に言われて上京してみた。

しかし、実際は想像とはまるで違った。

住む場所として用意されたのはビジネスホテル。

FTXだと伝えてあるのに衣装として与えられたのはスカートとヒールだった。

「毎日マネージャーさんが迎えに来て、レッスンに行って、オーディションを受けて、夜は芸能関係者に会うことになったり」

外出も制限され、女の子の格好を強いられた。

たまり兼ねて、ある時、所属事務所の社長に言った。

「私は言いたいことを言いたいし、着たい服を着たい」

FTXであることを理解してもらえていると思って事務所に入った。

しかし、返ってきたのはとても理解してもらえているとは思えない答えだった。

そこで、父親に話したのと同じように、LGBTについて一つひとつ説明してみたのだが、一向に理解してもらえなかった。

「なんで男の人になりたいの? オナベキャラでやっていきたいなら、ちゃんとキャラをつくってよ、と言われました」

「私は、オナベキャラというキャラづくりをしたいのではなく、一人の人間として扱われたいんです、と伝えたんですが、分かってもらえなくて」

自分らしく生きる難しさ

芸能界でやっていくためには、セクシュアリティもキャラクラターとしてつくっていかなければならないのか・・・・・・。

「人前に出る仕事をしながら、自分らしく生きることの難しさを知りました」

失望の末、事務所を辞め、名古屋へと戻った。

しかし、事務所を辞めた直後に受けた映画のオーディションに合格し、再び東京へと戻った。

友だちの家に居候しながら撮影に参加した。

その現場で、現在のマネージャーと知り合うことができたのだ。

「本格的に芸能活動をスタートさせようと東京で暮らし始めたんですが、そこでふと自分が元気になっていることに気づいたんです。高校生の頃は、死にたいと思うほど落ちていたのに」

「あの時、高校を退学して、上京して、無理矢理にでも環境を変えたのがよかったのかも」

「学校と実家、苦しんでいた二つの原因を一気に取り払ったから」

高校のクラスメイトのなかには、「あいつは逃げた」と言う人もいる。

「でも、逃げるが勝ちでしょう! って思います」

07女性も男性も演じられる俳優

19歳で12歳の役も

「現在所属している事務所のマネージャーさんは、すごくいい人で、セクシュアリティのこともいろいろと気を遣ってくれます」

ある時、髪の毛は長い方が仕事の幅も広がるので伸ばしてみないか、とマネージャーから提案があった。

気は進まなかったが、仕事だから仕方ないかと思っている、と答えた。

「そしたら、その日の夜中にマネージャーさんからLINEが来て『さっきはデリカシーのないことを言ってごめんなさい。君の考えを変えろとも言わないし、無理に髪を伸ばせとも言わないから』って」

「本当に、いい人だなぁと思いました。でも、まだFTXがよく分かっていないみたいで(笑)」

「スカートを履くような役柄は嫌?」
「男の子とキスするシーンは大丈夫?」

マネージャーとして仕事を取ってくる上で、気になったことを細かく確認してくれるのだ。

「仕事だと割り切れるので、ぜんぜん大丈夫なのに(笑)。でも、その気遣いがありがたいです」

そのマネージャーのサポートもあり、現在は男性役も女性役も演じられる俳優として活動している。

「男性役といっても、少年役ですけどね。この前は小学生の役をやりました。みんな12歳くらいなのに、私だけ19歳で(笑)」

「しかも、みんな私より背が高くて。でも、この個性は仕事をする上で、むしろ得しているなって思っています」

俳優業は今しっかりやらないと

男性役も女性役も演じられるということは、作品のなかでは、どちらにもなれるということだ。

「作品のなかの私は、監督がつくった役柄だから、私だけど私じゃない」

「周りも私を役柄にある人物像として接してくれるし、セクシュアリティのことを気にしなくてもいいから、気がラク」

「男の子の役をしたら男の子として、女の子の役なら女の子として扱ってもらえるから、役に入っている間は何も不安じゃないんです」

「あぁ、私の居場所はここにあったんだ、と思いました」

俳優としての仕事は、今まさに波に乗ろうとしている時だ。

しかし、「18歳が旬」と言われる俳優業を続ける上で焦りがないわけではない。

「私は俳優を始めたのが18歳なので、今しっかりやっておかないと、今後はどうしようもないなと思っています」

「でも、ずっと一生、俳優として生きていくしかないとは思っていないんです。もともと絵を描くのは好きだし、文章を書く仕事も楽しいし」

「今は、先のことは考えず、過去のことも振り返らないように、目の前にある、やりたいと思うことをひたすらやっていくだけです」

08アセクシュアルかノンセクシュアルか

性欲がない

初めて恋人ができたのは、小学校6年生の時。
4年生からずっと同じクラスだった男の子だった。

「その頃はまだ携帯を持っていなかったんで、親の携帯を使ってメールのやりとりをしていました」

「でも、親は私たちが付き合っているのをあんまりよく思っていなかったみたいで」

「相手の男の子は、すごくいい子だったんですが、ちょっとヤンチャな子だったので、娘に何か影響があったらって親は心配していたんだと思います」

「それで結局、別れざるを得なくなってしまって・・・・・・」

「今思えば、ちゃんと恋愛感情をもって別れを惜しむことができたのは、その子だけだったのかも」

その後も何人かと付き合った。

相手は男性であることがほとんどだったが、女の子と付き合いかけたこともあった。

しかし、別れ際はいつも関係がこじれた。
こじれる原因の一つは、自分が性的な関係を望まないことだ。

「性欲がないんです」

「その行為に興味がないだけじゃなくて、付き合っていたら普通はするよね、っていう考え方自体が、もはや嫌なんです」

性的指向はノンセクシュアル

友だちに恋人ができたと報告すると、必ず「どこまでいったの?」と聞かれるのも嫌だ。

そうなると、もう恋愛自体が面倒になってくる。

「彼氏と一緒に歩いていると進んで車道側を歩いてくれるとか、お店に入るときはドアを開けて待っていてくれるとか・・・・・・」

「ありがたいし、いいなって思うんだけど、私にしてくれなくもいいよって思っちゃって」

「相手に対して、好きだと思う感情はあると思うんです。でも、できるだけ周りに迷惑をかけたくないから、彼氏も彼女もあんまりほしくない」

「性的な接触も、もしも相手が望むなら、相手を傷つけたくないから腹をくくってやろうとしますが、絶対に自分からはしたいとは思いません」

相手に恋愛感情をもったとしても性的欲求をもたない人を指すノンセクシュアル。

また、相手に対して恋愛感情も性的欲求ももたない人を指すのがアセクシュアル。

自分の性的指向はノンセクシュアルだと自覚している。

性自認はFTX。

恋愛対象はセクシュアリティを問わない。そして、将来的には手術を経て男性として生きたいと考えているのだ。

09このままいけるところまで

何も考えないように

「手術をするタイミングって本当に難しい。俳優の仕事は、やっぱり見た目も重要だし。副作用が気になって」

「今は、仕事の正念場だと思っているので、俳優業に集中します」

男性役も女性役も演じられるジェンダーレスな俳優としての寿命は、それほど長くないことも自覚している。

「他にもジェンダーレスな俳優さんはいますが、女性だと、背が高くてスラッとしている方が多いように思います」

「私のようにショートカットの童顔で、小・中学性の男の子役ができる人ってあんまりいないのかなって」

「でも、こんな感じでやっていけるのは、あと2年くらいだと思っています。22歳くらいまでは、このままでいけるとこまで頑張ります」

俳優を始めて、度々同じことをきかれる。「どんな役をやりたい?」という質問だ。

「やりたい役は、ないんですよね。いただいた役を一つずつやっていくだけなんで」

「高校生の頃はいろいろ考えすぎて、先のことが不安になって、死にたくなってしまっていたので・・・・・・」

「他の人ならプラスに考えられることも、私にはできなかった」

だったら、今後は何も考えないようにしようと思った。

時には流されることも必要。

ただただやりたいと思う事をやろう。

死にたいなんて思わない

流れに乗ってたどり着いた先の10年後は、山奥でのんびりしたい。

「滅多に人が来ないような雑貨屋さんとかやったりして。それで、誰かが来てくれたらご飯をつくってもてなしたいです(笑)」

「山奥で、誰にも邪魔されず、好きな時間に絵を描いたり、釣りをしたり・・・・・・、やってみたいですね」

現在は、俳優業以外にもやりたいことが増えた。

高校時代の唯一の安全地帯だったテニス部。選手としてではなく、マネージャーなど裏方としてスポーツに携わることが楽しかった。

「少し前までは自転車屋さんで働いていたんですよ。でも、なかなか自転車には触らせてもらえなくて。整備とか、やりたかったんですけどね」

「今は、スポーツ用品店でアルバイトをしています」

絵を描いたり、文章を書いたりすることも続けていきたい。そして、これからもきっと、やりたいことは増えていく。

男性として生きるというのも、やりたいことの一つだ。

「高校生の頃とは違って、今はぜんぜん死にたいなんて思わないけど、死ぬのなら、やりたい事を全部クリアしてからにしたいです」

「そう言っててめちゃくちゃ長生きするか、急に爆売れして早く死ぬか、どっちかだねって言われます(笑)」

「いずれにしても、やりきりたいですね。ひたすら頑張ります」

あとがき
スッとのびた手足、レンズの奥まで届くきれいな視線。一人称は「僕」ではなく「ぼく」が似合う凩さん。演じるお仕事がらか、インタビューも撮影中も現実味のない雰囲気。公私の境目はどこか? 答えのない想像をしてみた。深い魅力だ■凩さんは、先日20歳になったばかり。大人を、社会を、きっと静かにみているだろう。自分を一番頼りにしてほしい■世の中の視線をさえぎりながら、やわらかい光を均一に取り入れる、すりガラスみたいな人だった。(編集部)

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