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結婚してても、障害があっても。「FTMの自分」を諦めなくていい【後編】

結婚してても、障害があっても。「FTMの自分」を諦めなくていい【前編】はこちら

2020/01/04/Sat
Photo : Tomoki Suzuki Text : Sui Toya
佐藤 夏乃子 / Kanoko Sato

1989年、東京都生まれ。小中時代はいじめに遭い、高校で初めて共通の趣味を持つ仲間に出会う。大学を中退した後、専門学校に通い、24歳で結婚。その頃から鬱病やパーソナリティー障害に苦しみ始める。GIDの病院への紹介状を書いてもらえないまま、医師の指示もありXジェンダーとして過ごす。

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INDEX
01 漫画家とカメラマン
02 宝物はゴジラのフィギュア
03 噂
04 趣味の合う仲間
05 天国と地獄
==================(後編)========================
06 羽化
07 鬱のきざし
08 FTMのゲイなんじゃない?
09 Xジェンダーとして生きる
10 中身はこのままの自分でいい

06羽化

脱皮の季節

体は女性なのに、女の子らしくなれないのはなぜだろう。

性同一性障害という言葉は知っていたけれど、自分のことだとは思っていなかった。

「母からは、漫画の『IS(インターセクシャル)』みたいな子のことを、性同一性障害だといわれてたんです」

「染色体が異常じゃなければ性同一性障害じゃない、って」

周りの女の子は、化粧をしたり、スカートを上げたりして、どんどん色気づいていく。

しかし、メイクの話も恋愛の話も興味がなかった。

化粧っ気のない顔で過ごしていた高校3年生のとき、ギャルの友だちからこう言われた。

「自分が不細工だと思うなら、謙虚にいたいなら、化粧しなさい」

「素顔でいるっていうのは、自信がある人しかやっちゃいけないことなんだよ」

極論のような気もするが、確かにそうだ、と思った。

「外見に自信がなければ、化粧をしなきゃいけないんだと思って、遅ればせながら化粧を始めたんです」

「スカートも少しだけ短くしました。そうしたら、女の子たちの輪に入りやすくなったんですよね」

女性にならなきゃいけないんだ

高校卒業後は、美術系の大学に進学。

入学前に、髪の毛を染めたいと美容師に相談したところ、「カットモデルをやらない?」と誘われた。

冗談だと思い、「いいですよ、こんなんでも良ければ」と言ったら、トントン拍子にスケジュールが決まった。

「髪を染めて、きれいに化粧してもらって、写真も撮ってもらいました」

「その写真がポスターになったんですよ。評判がすごく良かったみたいで、全国に貼り出されたそうです」

化粧をしておしゃれをしたら、男性から言い寄られたり、女子の仲間に入れてもらえたりするようになった。

人生は急にイージーモードになる。

「そのときに、女性にならなきゃいけないんだ、って思ったんです」

「男性の体は羨ましいけど、現実を受け入れなきゃいけないんだ、って」

一目惚れ

せっかく入った大学は、1年足らずで中退した。

理由はいろいろあったが、一番は、高校時代の失恋のダメージが大きかったことだ。

父からは「大学を辞めるんだったら、働けよ」と言われた。

何をしようか考えていたところ、母からペットショップのアルバイトを紹介される。

「面接の翌日からアルバイトを始めたんですけど、同僚の中に、すごく好みの男の人がいたんです」

「その人を目の保養にして頑張ろうと思いましたね」

一目惚れをしたのは、7歳上の先輩。

仕事を頑張っているうちに仲良くなり、付き合うことになった。

「肩幅が広くて、体の線は細くて、フォルムがすごい格好いいなと思ったんです」

「いま思うと、憧れだった気もしますね。そういう体型になりたかったんです」

07鬱のきざし

アバター

20歳を越えてから、オンラインゲームを始めた。

「はじめにアバターを選ぶときは、喜び勇んで男を選びました」

「男のアバターなので、男性の服を着られるんです。着たい服がいっぱいあって、しこたま課金しましたね(笑)」

自分の服はそっちのけで、アバターを磨くことに全てを懸けた。

アバターがかっこよくなるにつれて、オンライン上で女性にモテるようになる。

「女性として生きてきたから、女性の扱い方がわかるんですよね」

「いろいろな人から告白されたけど、彼氏もいたし、全部断りました」

比較されることへのストレス

オンラインゲームを続けるうちに、ゲームに関わる仕事をしたいと思うようになった。

アルバイトをしてお金を貯め、22歳のときにゲーム関係の専門学校に入学。

クラスには、自分を含めて2人しか女の子がいなかった。絵を描けるのも、自分とその子の2人だけだった。

「その子は、お菓子とかお花とか、ふんわりした絵が得意なんです」

「自分は真逆で、格闘ゲームみたいなキャラクターを描くんですよ」

「クラスメートからは、格闘漫画の『刃牙』みたいな絵を描って言われてましたね(笑)」

グループ制作になると、「佐藤さんの絵は気持ち悪いから嫌だ」と言われた。

相対的に、もう一人の女の子が持ち上げられた。

納得がいかず、自分でも気づかないうちに、ストレスが溜まっていった。

籍を入れる

彼との関係は続いていて、結婚の話も出るようになった。

「ところが、23歳の終わり頃から、鬱の症状が出始めたんです」

「不眠気味になり、家の壁際でうずくまってる状態が続きました」

彼から「結婚しよう」と言われたが、結婚なんてできる気がしなかった。

働く気にもなれず、お金の面でいろいろ足を引っ張ってしまうのは嫌だった。

彼からは、それでもいいから結婚したいと言われた。

「気持ちが追いつかないまま籍を入れて、結婚式を挙げることになったんです」

彼のお母さんに紹介されたとき、ずっと娘が欲しかったと言われた。

結婚して、義理の娘になることを喜んでくれ、フリフリのエプロンをプレゼントされる。

「せっかくもらったから、一応、着るんですよ。その服エプロン自体はかわいいなって思うんですけど・・・・・・」

「自分が着ると、女装しているみたいな気持ちになっちゃうんです」

周りは似合うと言ってくれたが、違和感しかなかった。

08 FTMのゲイなんじゃない?

パートナーの理解

鬱状態は悪化するばかり。

好きな服装もできず、人間関係もうまくいかない。お金も稼げない。

「もう嫌だ、死にたい」と考えるようになった。

「精神科に行ったら、鬱と診断されて、たくさん薬を出されました」

「それを旦那さんに話したら、『元気がないだけでしょ?』って言われたんです」

動かないからダメなんだと、家事をたくさん任されるようになった。
しかし、そうしているうちに、動くことが難しくなってしまった。

「旦那さんも、おかしいと思って、いろいろ調べたみたいです」

「鬱の症状を調べて、やっと理解してくれました」

接する姿勢

鬱の治療のために、2年間病院に通った。

しかし、セカンドオピニオンを受けた病院で、パーソナリティー障害だと診断される。

情緒不安定性パーソナリティー障害とのことだった。

27歳のとき、就職支援をする会社で正社員として働き始めた。

その会社に入ったのは、「悪いところじゃなくて良いところを伸ばしていきましょう」という、上の人の考えに共感したからだ。

しかし、現場の雰囲気は違った。

「悪いところをどんどん指摘すべきだ、っていう姿勢だったんですよ」

そういう雰囲気を、利用者も察していたのかもしれない。

就活中の人との面談で、「佐藤さんと話したいんですけどダメですか?」という人が少なからずいた。

板挟み状態が耐えられず、1年経たずに仕事を辞めた。

FTMの確信

20代半ばから、イラストコミュニケーションサイトにイラストを投稿し始めた。

好きだったのは、漫画を投稿し、リレー漫画を続けていくという企画。

キャラクターを1人ずつ出し合い、そのキャラクターを主人公にして、それぞれ物語をつないでいく。

そこで知り合った友だちと、モチベーションや趣味嗜好の近さから意気投合し、いまでは親友と呼べる存在になっている。

「自分はいつも、男性キャラクターしか出したことがなかったんです」

「あるとき、その子も男性キャラクターを描いて、リレー漫画を続けたらボーイズラブになってしまったんですよ」

「2人ともBLには全く興味がなかったんですけど、やってみたら楽しかったんです」

感想を話していたとき、この子になら、失恋した彼女の話をしても大丈夫かもしれないと思った。

「自分が女であることに、すごく違和感を覚えるんだよね」
「男性のことも好きになれるし、バイセクシュアルなのかな?」

なるべく重い雰囲気にならないように相談してみた。

返ってきたのは、「男性自認のゲイなんじゃないの?」というひと言だった。

「それだ! って腑に落ちたんですよ。今までの違和感は絶対にそれだ、って確信したんです」

09 Xジェンダーとして生きる

自分のセクシュアリティがわからない

パーソナリティー障害と診断された病院で、「もしかしたら自分は男性かもしれない」と話した。

しかし、医師には「ただの変身願望だから、それは違います」と言われた。

後に知ったことだが、パーソナリティー障害や解離性同一性障害などの精神疾患がある場合、性同一性障害の診断は慎重に行われる。

本来のジェンダー・アイデンティティの否認や、性別適合手術の希求が、精神疾患によって引き起こされる場合もあるからだ。

「嫌なことを、ただ性別になすりつけているだけ」
「とりあえず、Xジェンダーとして好きな姿で過ごしてみなさい」

医師にそう言われ、ジェンダークリニックへの紹介状を書いてもらえなかった。

パーソナリティー障害は、思考が偏ってしまう精神疾患だ。

パーソナリティー障害の治療のためにも、はっきり決めずに中間でいたほうがいいと提案をしてくれたのだと、今はわかる。

「Xジェンダーってどういう生き方をしてるんだろう?」と気になった。

「ネットで検索していたときに出会ったのが、LGBTERのサイトでした」

「Xジェンダーの方のインタビュー記事を読みました。でも、なんかしっくりこなくて・・・・・・」

「自分とは違うなと思って、FTMの方の記事を読んだら、すごく共感できたんです」

セクシュアリティについて調べ始めてから、スカートを履けなくなった。

男性ものの服を着るようになった自分を見て、夫は不満そうな顔をしていたが、しぶしぶOKしてくれた。

自殺未遂

このままいけば、誰にも迷惑をかけず、性別も変えることなく生きていける。

Xジェンダーでいたほうがいい。そう思い込むようにして、1年間を過ごした。

しかし、心は悲鳴を上げていた。

気分の落ち込みが激しくなり、あっという間に死の誘いにのみ込まれた。

「自殺未遂を繰り返して、失敗して回を重ねるごとに、やり方が過激になっていったんです」

「本当に死のうと思ってたけど、どれも上手くいきませんでした」

4回目のとき、首に刃物を当てて切った。

傷が深く、医師には「あと少しで死ぬところだった」と言われたが、やっぱり死ねなかった。

「ちょろちょろ血は出るんですけど、これはもう死ねないって、途中でわかっちゃったんです」

「首から血を流した状態で絆創膏を探しているところを、旦那さんに見つかりました」

朝になってから病院に行き、首を縫ってもらった。

縫合手術をしてくれた医師から、かかりつけの精神科の医師に連絡がいき、しばらく入院することになる。

Xジェンダーでは生きられない

鬱やパーソナリティー障害の症状が落ち着いてきたのは、ごく最近だ。

自殺未遂で入院した後、カウンセリングを受け始め、それをきっかけに少しずつ回復していった。

「カウンセリングで、嫌なものは嫌って言って大丈夫、って言われたんです」

「旦那さんに嫌われそうで言えなかったことも、言葉にするようになりました」

症状が良くなってきた頃に、新しいアルバイトを始めた。

ミックスバーのボーイの仕事だ。

「いままで、トランスジェンダーの方に1度も会ったことがなかったんです」

「でも、バーとかに何度も遊びに行くと、お金がかかるじゃないですか」

「それなら、働きながらその世界を知ろうと思って、ミックスバーに体験入店したんです」

体験入店するには、スーツが必要だった。

「女性もののスーツを着た自分を想像したときに、心の底から嫌だと思って・・・・・・」

「結局、メンズスーツを買いました」

もう、自分の気持ちを偽れないと思った。

夫や両親に、意を決して話した。

「1年間考えたけど、やっぱり男だと思う」
「Xジェンダーでは生きられない。ごめんなさい」

10中身はこのままの自分でいい

両親の反応

父と母には、別々に話すことにした。

父は最初、言っている意味が理解できなかったようだ。

「父はオンラインゲームが好きなんです」

「アバターにたとえて話したら、やっと『わかる』って言ってくれましたね(笑)」

小学生の頃からあった違和感も打ち明けた。

「運動会のリレーのとき、一気抜きして1位になったことがあるんです」

「そのとき、胸の大きな女の子にギュッと抱きしめられて、手汗をすごくかいて、硬直しちゃったんですよね」

その話をすると、父から「その反応は男だな」と言われた。

セクシュアリティの話をしたときに、一番怒るのは母だと思っていた。

しかし、「自分は男だと思う」と思い切って話したら、「昔から男の子になりたいって言ってたもんね」と言われた。

染色体に異常がなくても、性同一性障害と診断されることがあること。
今度、ジェンダークリニックに行ってみようと思っていること。

真剣に伝えると、母は怒らずに「わかった」と言ってくれた。

精神科のかかりつけ医にも、1年間考えた結果を伝えた。

「今までは、ジェンダークリニックへの紹介状を書いてくれなかったんです。でも、今回はすっと書いてもらえました」

「ようやく一歩進めるな、っていう感じです」

夫の反応

「やっぱり男だと思う」と伝えたとき、夫からは「ちょっと考えさせてくれないか」と言われた。

「見た目が変わっても、中身はやっぱり夏乃子のままだから。ここで、ハイさようなら、っていうのは悲しい」と。

その先の回答は、いまも聞けていない。
考えた末に、夫と別れるという決断をするかもしれない。

覚悟はしている。

「性器にはこだわっていないんです」

「できれば胸を取って男性ホルモンを打ちたいけど、下半身はこのままでもいい」

「胸を取って、男性ホルモンを打って、メンズ服を格好良く着こなせるようになるのが理想ですね」

「その状態でも受け入れてくれるなら、夫とはこの先も婚姻関係を続けていきたいと思ってます」

気づきのタイミング

トランスジェンダーの中には、思春期に違和感に気づく人も多い。

「早く気づきたかったという思いはありますね」

「違和感があったのに、放置してたから、気づくのが遅くなってしまったんです」

「友だちからは『お兄さんになるなら、いまのうちだよ』って言われてます」

「男性になれても、もう少し歳を取ったら、お兄さんの時期は逃しちゃいますから(笑)」

パーソナリティー障害のような精神疾患があり、性同一性障害の診断をなかなか受けられずに、苦しんでいる人もいるかもしれない。

しかし、本来の性を取り戻すことを、決して諦めないでほしい。
そして、勝手なルールで自分をしばらないでほしい。

「女だからとか、男だからとか、ルールにしばられると生きづらくなってしまいます」

「男だからマッチョにならなきゃいけないとか、『俺』って言わなきゃいけないとか、そんなルールは存在しません」

キラキラしている服が好きな男性もいれば、かっこいいものが好きな女性もいる。

ステレオタイプにしばられずに、自分がなりたい姿を目指すのが一番いい。

せっかく30年女性社会で生きてきたのだから、そこで学んだ感性を活かして柔軟に生きていきたい。

「いま目指しているのは、理想とする紳士の外見に近づくこと。でも、中身はこのままの自分でいいんじゃないかな、って思ってます」

あとがき
取材前に交わしたメールの印象通り、穏やかで謙虚な夏乃子さん。ずっと笑顔だった。過ぎた日にできることは、とらえ直すこと。自分も、誰かも傷つけないように・・・。もしかしたら笑顔が夏乃子さんを支えているのかもしれない■[こうあったらいいね!]にはまらないことが少なくないから、あれこれあきらめたくなるけど、必ず明日はくる。捨てられない記憶は、秘密の場所へ。そして、生きることだけは手放さずにいよう。(編集部)

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