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結婚してても、障害があっても。「FTMの自分」を諦めなくていい【前編】

「よく笑いますね」と、撮影中にカメラマンが声をかける。どんなにつらい話をしていても、佐藤夏乃子さんの顔は笑顔のまま。「笑顔でいることで、気持ちを整えている部分もあるのかな」と、カメラマンに返す佐藤さん。無意識のうちに「整える」ことが必要なほど、佐藤さんのこれまでの人生は、穏やかではなかった。今年30歳を迎えた佐藤さんに、自身の半生を振り返ってもらった。

2020/01/01/Wed
Photo : Tomoki Suzuki Text : Sui Toya
佐藤 夏乃子 / Kanoko Sato

1989年、東京都生まれ。小中時代はいじめに遭い、高校で初めて共通の趣味を持つ仲間に出会う。大学を中退した後、専門学校に通い、24歳で結婚。その頃から鬱病やパーソナリティー障害に苦しみ始める。GIDの病院への紹介状を書いてもらえないまま、医師の指示もありXジェンダーとして過ごす。

USERS LOVED LOVE IT! 10
INDEX
01 漫画家とカメラマン
02 宝物はゴジラのフィギュア
03 噂
04 趣味の合う仲間
05 天国と地獄
==================(後編)========================
06 羽化
07 鬱のきざし
08 FTMのゲイなんじゃない?
09 Xジェンダーとして生きる
10 中身はこのままの自分でいい

01漫画家とカメラマン

母の好み、父の好み

子どもの頃、紙とクレヨンは一番の遊び道具。

母が漫画家で、自分も将来は絵を描く仕事に就くのだと思っていた。

漫画雑誌の売れ行きが良い時代で、割と裕福な家庭だったと思う。

一人娘だったから、母には女の子らしい服ばかり着せられる。
スカートをよく履かされたが、足がスースーして心もとない。
タイツは足がチクチクして不快だった。

「スカートを履くとまくりあげるから、母には嫌がられてました」

「大人しくしなさい、っていつも怒られてましたね」

母とは逆で、父は活発な子に育ってほしかったようだ。

「父は、スポーティーで機能的な服が好きだったんです。そういう服を着せてもらえるとうれしかったですね」

母にはリボンのついたパンプスを履かされるけど、父はスニーカーを履かせてくれる。

「アディダスのスニーカーを、父とおそろいで履くのが好きでした」

お母さんは楽しそう

父はカメラマン。

しかし、自分が生まれて間もなく、スタジオでの仕事をやめてきてしまった。

フリーのカメラマンを名乗っていたが、仕事はほとんどない。月に一度働けばいいほうだった。

「母は頑張って連載をこなしながら、家事も子育ても一手に引き受けてました」

「でも、構ってもらえる比率は、母1に対して父が9」

「どうしても、父に懐いちゃう部分がありましたね」

「母はそれが嫌だったみたいです」

アシスタントさんとおしゃべりしながら絵を描いている母の姿は、とても楽しそうに見えた。

その一方で、父は仕事から帰ってくるとぐったりしている。

だから子どもの頃、母は楽しい仕事をしていて、父はつらい仕事をしているのだと思っていた。

「お母さんは絵を描いていて楽しそうだよね」

3、4歳の頃、娘に言われた何気ないひと言を、母はいまだに根に持っている。

「その言葉にすごく傷ついたっていう話を、大人になってから聞かされました」

「いまでも、たまに言われますね(笑)」

02宝物はゴジラのフィギュア

敵役をやりたい

子どもの頃、周りの女の子たちはセーラームーンに夢中だった。
女の子が数人集まると、必ずセーラームーンごっこが始まる。

「好きなキャラを聞かれたら、マーキュリーって答えてました」

「でも、別にマーキュリーになりたいわけじゃなかったんです。いつも妖魔役に立候補してましたね」

怪獣のぬいぐるみやフィギュアが好きだった。

「親戚のおじさんが、特撮ものが好きで、ゴジラやジュウレンジャーを見せてくれたんです」

「ゴジラのぬいぐるみやフィギュアを集めてて、暗闇で光るフィギュアは宝物でした」

スカートとタイツ

小学校に入学すると、すぐにいじめられた。

周りの子よりも背が高くて目立ったから、ターゲットになりやすかったのか。

「入学式で、かわいらしいスカートとタイツを履かされたんです。そうしたら、女の子と男の子にワーって囲まれました」

「『お前、男のくせになんでスカート履いてるんだよ』『オカマだ、オカマ』って」

いじめっ子グループの中心にいた女の子が、わざわざ家まで来ることもあった。

「朝、家まで迎えに来たその子に、悪口を浴びせられながら登校するんです」

「もうスカートを履きたくないって母に話したら、履かなくていいって言ってもらえました」

小学2年生のときにその女の子が転校し、ひどいいじめは終わった。

次第に、かっこよく振る舞いたいと思うようになる。

「集合写真で、みんなはかわいく写ろうと笑顔をつくってるのに、自分は斜に構えてレンズをにらみつけてたんです(笑)」

「そういう行動が、男女どっちから見ても異質なものに映っちゃったみたい」

男女どちらの仲間にも入れてもらえなかった。

中学受験

5年生のときに、父から「受験しないか?」と言われた。

受験という言葉を知らなかったため、「受験すると何があるの?」と聞くと、父は「いい学校に入れるよ」という。

決して成績がいいほうではなかった。テストは70点取れれば万々歳。

しかし、近所の中学校には入りたくなかったから、受験することを決める。

「母は、女子美術大学の付属中学校に行かせたかったみたいです」

「偏差値もそれほど高くないし、絵を描くのが好きなら女子美がいいっていう話だったんですけど・・・・・・」

「父からは、偏差値の高い学校を目指しなさいって言われました」

1年間、死にものぐるいで勉強し、私立の女子校に合格した。

03噂

父への恐怖心

父は、何を教えるときも厳しい人だった。

口で伝えるのではなく、手を上げる。中学受験が近づくにつれて、叩かれる回数は増えていった。

いよいよ受験が間近に迫り、ラストスパートをかける時期。

父と勉強していたときに、ふいに声が出なくなった。

「誰も助けが来ない状態で、部屋に2人でいたら、おかしくなっちゃったんです」

「その様子を見て、父が我に返ったみたいな瞬間があって・・・・・・」

「抱きしめながら『ごめんね』って謝ってくれました。それを境に、叩かれることはなくなりましたね」

不穏な空気

私立の女子校に入学し、しばらくは穏やかな毎日を送っていた。

不穏な空気が流れ始めたのは、1年生の夏休み前。

「文化祭に力を入れている学校で、夏休みも準備のために、学校に行かなきゃいけなかったんです」

「でも、父がいろいろな塾の夏期講習に申し込んでて、スケジュールがパツパツだったんですよ」

グループのリーダーを決めるとき、「塾があるからリーダーにはなれない」と同じグループの子に言った。

結局、名前だけのリーダーで良いとされ、引き受けることになる。

「でも、次第に『佐藤さんは自分からリーダーに立候補したのに、何も仕事をしなかった』という話になってたんです」

その噂がほかのクラスにも広がり、所属していたバレー部の仲間からも無視されるようになった。

「3年間、ハブられ続けましたね」

「バレー部はやめて、教室でも1人で過ごすようになったんです」

「燃え尽き症候群みたいな感じになっちゃって、勉強が手につかなくなりました」

それでも学校に通い続けたのは、父の怒りを買うのが怖かったからだ。

04趣味の合う仲間

別の高校へ

本来ならば、高校にはエスカレーター式で進級できるはずだった。しかし、成績が悪すぎて、進級させてもらえなかった。

「校長室に呼び出されて、高校は別のところに行ってくださいと言われたんです」

「この学校から出られるなら何でもいいや、って。受験をして、別の私立の女子校に編入しました」

通っていた中学校よりうんと偏差値の低い学校で、テストの内容は驚くほど簡単だった。

「テストで90点台をバンバン取るようになったんです」

「中学校まで劣等生だったのに、高校では優等生になりました(笑)」

新しいグループ

1年生のとき隣に座った子が、たまたまスクールカーストの上位にいる子だった。

その子と仲良くなり、派手な子ばかりが集まるグループで過ごすようになる。

「もしかしたら、上手くやっていけるかもしれないという期待がありました」

「でも、化粧っ気のなさや、男っぽい言動から、あっという間にハブられるようになったんです」

仲間はずれになる前、グループ内で「佐藤さんハブらない?」というメールが回ったらしい。

それに対して、「佐藤さん悪い人じゃないよ。ハブるのかわいそう」と反論してくれた子が1人いた。

「化粧の得意な、ギャルっぽい子でした」

「反論した結果、自分より先に、彼女がハブられちゃったんです」

その子は、絵を描くのが好きだった。

グループから仲間はずれにされた後、その子に声をかけて、仲良くなる。
ほかにも、内気な感じの子たちに声をかけ、新しいグループができた。

「絵を描いたり、文章を書いたりするのが好きな子ばかりでした」

「みんなでリレー漫画を描いたりして、遊べるようになったんです」

友情? 愛情?

あるとき、ほかのクラスの女の子から声をかけられた。お互いに絵を描くのが好きで、すぐに仲良くなった。

「めちゃくちゃ絵の上手い子でした」

「特段美人というわけじゃないんですけど、笑顔がかわいくて」

「仲良くなってから、すごく好きになっちゃったんです」

彼女が誰かと話していると、嫉妬のような感情を覚える。

友だちなのに、なぜ焼きもちを焼かなきゃいけないんだろう、と思った。

「彼女と話してたときに、『一番の親友だよ』って言ってくれたんです」

「天にも昇るような気持ちで、彼女の隣を独占しました」

「宗教みたいな感じですね。彼女の言うことがすべて、って感じでした」

05天国と地獄

突然の宣告

自分にとって、彼女は恋愛対象。

しかし当時、彼女が自分をどう思っていたのかは、いまでもわからない。

「スキンシップの度合いがおかしくて。スカートをめくったり、太ももに絡み付いたり(笑)」

「きわどいスキンシップも、いつも笑って許してくれるんです」

彼女の家に泊まりに行ったときは、彼女に抱きついて寝た。

「2人でくっついて寝ている時間が至福でした」

高校生活が終わりに近づく頃、彼女と結婚することを真剣に考え始める。

将来、性転換をして結婚しようって言ったら、真に受けてくれるだろうか?

頭の中で妄想を繰り広げていた矢先、彼女から「あなたは友だちじゃない」と、唐突に告げられた。

「何がきっかけだったのか、全然わからないんです」

「ついこのあいだまで、他の子と話していると、その子が焼きもちを焼いて泣いたりしてたのに・・・・・・」

「束縛された挙げ句、『友だちじゃない』って言われて、ポンと放り出されたんです」

失恋の痛みは、その後、長く尾を引くことになる。

レズビアン? 性別を選べたら

小学生の頃から、口ぐせのように「男の子だったら良かったのに」と洩らしていた。

しかし、母からは「女の子の体なんだから、あなたは女の子でしょ」と言われ続けていた。

「中学生のときに、母から『IS(インターセクシャル)』っていう漫画を勧められたんです」

「性器を2種類持って生まれた女の子の話で、物心がついてから性別を選ぶんですよね」

「主人公は男性になることを選ぶけど、男の子を好きになって、葛藤するんです」

「それを読んだら、めちゃくちゃイライラしちゃって(笑)」

「自分で性を選べただけありがたく思え、って羨ましかったんですよね」

彼女を好きになったとき、自分はもしかしたらレズビアンなのかもしれないと思った。

しかし、中学生のときに、男の子が気になったこともあった。

自分の気持ちがわからない。

彼女への想いは友情だったと考え、自分の心に蓋をしておくことにした。

「ひどい目に遭ったけど、彼女のことはいまでもすごく好きなんです」

「もらった手紙は、いまだに捨てられません」


<<<後編 2020/01/04/Sat>>>
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06 羽化
07 鬱のきざし
08 FTMのゲイなんじゃない?
09 Xジェンダーとして生きる
10 中身はこのままの自分でいい

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