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「10人きょうだいの大家族」と「セクシュアリティ」。2つの偏見を乗り越えて【後編】

「10人きょうだいの大家族」と「セクシュアリティ」。2つの偏見を乗り越えて【前編】はこちら

2021/08/21/Sat
Photo : Mayumi Suzuki Text : Shintaro Makino
木村 晴菜 / Haruna Kimura

1996年、茨城県生まれ。地元でも評判の大家族、10人きょうだいの7番目に生まれた。中学生のとき、男女の性差の意識に乗り遅れて不登校に。16歳で初めてトランスジェンダーを知り、自分もそうではないかという悩みが生まれた。女性との恋愛を重ねるうちに、迷いは確信へと変化。現在、パートナーと生活をともにし、結婚・子育てを視野に入れる。

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INDEX
01 地元では有名な大家族
02 理由は分からないけど、スカートよりズボン
03 何も考えていない、ヘンな子
04 周囲の雰囲気に乗り切れず不登校に
05 モヤモヤを感じて姉に相談
==================(後編)========================
06 ネットで知り合った人と初めての交際
07 出会ったFTMに対する印象は・・・
08 別れ話の決着は手切れ金
09 パートナーとの新しい生活
10 2つの偏見を乗り越える、明るい決意

06ネットで知り合った人と初めての交際

手探りの初恋

いつか消えると信じつつも、性の違和感はくすぶり続けた。

「女らしい格好をしてる自分が好きじゃないんです。嫌いとまではいわないけど、ちょっと許せない感じでした」

ひとりで鏡を見ながら、自分らしい格好を試行錯誤しながら探す。

「いくら髪を短くしても、女らしいベリーショートもあるじゃないですか。なるべくそうならないように、女らしい面が見えないように工夫しました」

初めての出会いは、ネットだ。

「地元は狭いから、噂になるのが嫌で、絶対にそれは避けようと思ってました。掲示板の相談から入って、いろいろと検索しているうちに、自然と出会いの場を探す掲示板にいきついて・・・・・・」

相手は大学進学を目指す3つ上、20歳の浪人生だった。仙台在住で遠距離だったこともあり、ほとんどがライン通話を介しての交際だった。

「今まで恋愛の経験が皆無だったんで、何もかもが新鮮でした。友だちとも家族とも違う相手と話しているのが不思議な感じで。私のことも気に入ってくれたみたいでした」

事前に「ボーイッシュで、男性になりたい気持ちがあるタイプ」と自分のことを紹介しておいた。

「その人は男性とつき合った経験はあるみたいでしたけど、女性とは初めてで、自分をバイさんだといってました」

交際が進むうちに、何度か会う機会もできた。

「喧嘩をしたときもどうしたらいいか分からないんですよ(苦笑)。ネットで調べても、男女の異性愛の悩み相談しか出てこないし。これは参考にならないぞって」

手探りの恋をしているうちに、相手のことを好きだという気持ちが深まっていく。

兄たちをみて男性に抱いた嫌悪感

自分の恋の対象は女の子であって男性ではない。女性との交際を続けるうちに、その「迷い」は「確信」に変わっていく。

「その気持ちの裏には、男性に対する嫌悪感もあったんです」

当時、嫌悪感を自分に抱かせた相手は、ふたりの兄だった。長男は、自分では家事を何も手伝わないのに、妹たちには「おい、あれをやれ、これをやれ」と指図するタイプ。それが嫌で、長男とは以前から折り合いが悪かった。

「お母さんがどっちかというと男性を “上げる” 考えだったんです。その影響があったんだと思います」

姉たちも「男だというだけで遊んでばっかりで偉そうにしてる」と、長男に対して同じ不満を抱いていた。

「次男は、私のことを『お前はブスだ。家の中で一番ブスだ』ってけなすんです。本当に嫌いでした」

早く家を出たいという気持ちは、兄たちから逃れたいという気持ちでもあった。

「高校を卒業してすぐに、お姉ちゃんが勤めていたスーパーの惣菜係の仕事をもらって、姉の家に居候しました。それで、女の子とつき合っていること、男になりたいことをカミングアウトしました」

次女は相手の話を否定しないで肯定するところから入るから、何でも相談することができた。

「女の人を好きでも、つき合ってもいいと認めてくれました。でも、将来、男の人とつき合えるかもしれないから、その可能性は潰さないほうがいいと思うよ、といってくれました」

それは、体にメスを入れて性別を変えることを急ぐ必要はない、というアドバイスだった。

07出会ったFTMに対する印象は・・・

ふたり目のカノジョ

1年ほど姉のところに居候をしてから、19歳で実家に戻る。そして、すぐに地元で知り合った子とつき合うようになった。彼女は1つ下で、フィリピン人とのハーフだった。

「そのころには、自分は少年っぽいキャラクターだと確信してましたね。もう、なくならない、普通の女の子に戻ることはないと感ていました」

恋も2度目、それなりにつき合い方も分かってきた。カラオケにいったり、ちょっと変わったカフェを探してお茶をしにいったりした。

「でも、私が恥ずかしがり屋なんで、外で手を繋いで歩くことができないんですよ。逆に彼女は積極的にしたがるタイプでした」

一度、手を繋いで歩いていたら、すれ違ったギャルたちに「キモ!」っといわれたことがある。

「今、キモっていわれちゃったって思って、それからますます恥ずかしくなりました」

一緒に住もうかという話も出たが、自分の仕事がフリーターで安定しないため、話は先送りにされていった。

「自分が手術をして男になれば結婚できるんじゃないか、という気持ちが強くなりました。相手もそれに賛成してくれました」

出会ったFTMへの気持ち

自分はFTMか、という可能性を求めて、ネットを通じて盛んに情報収集をした。

「いろいろな人と話をして、いろんな意見を聞きました」

そんな中で引っかかることがあった。

「グループでビデオ通話をしているところに、FTMさんが入ってきたんです。何だか感じが悪い人で、私、その人に攻撃されたんです」

たまたまその人との相性が悪かっただけだと思うが、FTMを名乗る人に対する苦手意識が芽生えた。

「そのあと、実際にFTMさんに会ったこともあるんですけどね、あまり印象は変わりませんでした」

ちょうど真剣に悩んでいたときだったこともあり、自分も同じ雰囲気のFTMに変わるのは嫌だな、という気持ちが沸いてきた。

「ホルモン注射を打つと性格が変わっちゃうのかな、と疑ったこともありました。本当はいいFTMさんがいることを分かってたんですけど」

一番仲よくしている年子のお姉ちゃんにも「手術は人生を変える大きな決断だよ」と、暗に反対された。

「女でいることに嫌悪感があるわけでもないし、今のままでも問題なく生活できているので、とりあえず手術はやめることにしました」

08別れ話の決着は手切れ金

愛されている実感がない

2度目の恋愛は、一進一退の展開だった。

「一緒にいると楽しいんですけど、愛されている実感が感じられなかったんです。こうしてくれたら愛されている、と感じられるのに、何でそうしてくれないのかな、ともどかしい気持ちでした」

そもそも愛情が何なのか、自分で分かっていなかったのかもしれない。前進しない恋愛は、次第に苦痛になっていく。

「私のほうから、『別れてくれませんか』って、話を持ちかけるようになって、その度に険悪な雰囲気になっていたんですけど・・・・・・」

つき合いはずるずると2年半になっていた。

取っ組み合いの喧嘩

別れの場面は壮絶だった。

「取っ組み合いの喧嘩になって。私は非力なんで、腕力ではまったくかなわないんですよ。これじゃ、死んじゃうって本気で怖くなりました」

相手から「別れるんなら、今までのお金と時間を返してよ!」と迫られた。お金といっても、一緒にご飯を食べたり、プレゼントを贈り合ったりした代金だ。

「ひとつ上の姉に相談したら、そんなにもめるんだったら、お金を払って縁を切ったほうがいい、という意見でした」

もちろん納得はいかなかったが、そこまで相手が怒るということは、自分にも問題があったのだろう。諦めて、そう考えることにした。

「私が行くと喧嘩になるので、お姉ちゃんが代わりにお金を渡しにいってくれました」

結局、手切れ金を払って解決するという、そう像もしなかった幕切れとなった。

09パートナーとの新しい生活

初めての共同生活

コロナの蔓延が始まる3カ月ほど前、友だちと一緒に新宿の店に飲みにいったときのことだ。

「友だちの知り合いがたまたま同じ店に来ていて、その人がとてもきれいな人だったんです」

もともと面食いで、造形がきれいな人に引かれることが多い。俳優でいえば、城田優さんや浜辺美波さんの顔立ちが大好きだ。

「きれいですねって思わず声をかけたのがきっかけでした」

連絡先を交換し合い、自然につき合いが始まった。

「ほかの女性にはない、独特の雰囲気を持った人です。たまにクセが強いな、この人、と思うこともありますけど(笑)」

これまで男性としか交際したことがなく、女性とのつき合いは初めてということだった。

「彼女が栃木に住んでいたんで、どこかに部屋を借りて一緒に住もうということになりました」

彼女は医療従事者で、就活をすると埼玉にいい仕事が見つかった。

「私も、お母さんから、そろそろ一人暮らしをしたら、っていわれていたんです。だから、実家を出ることは自然な流れでした」

自分の就職口も見つけ、好きな人との共同生活が始まった。

カミングアウトは空振り

一緒に暮らすということは、お互いが実家に住んでのつき合いとは大きく異なる。

「喧嘩もよくします。でも、彼女が嫌な気持ちを引きずらないタイプなので助かっています。喧嘩の後、ひとりになりたくて寝室に入っても、すぐに続いて入ってくるんですよ。それで嫌な気持ちが収まっちゃうんです(笑)」

深刻な話になったときも、しっかりと話し合って改善しようという気持ちを共有できる。

「お母さんに『恋人』と紹介するつもりで、意を決して家に連れていったんですよ。直前にも、ちゃんと紹介したい大切な人と行きます、ってLINEを送ったんですけどね」

ところが、いざ、面と向かうと照れてしまい、「恋人です」といえなくなってしまった。

「お母さんの性格からしても、否定はしないと思うんです。今度、再チャレンジしなくちゃいけませんね」

これまでにも、前のカノジョを何度も家に連れていったから、気がついていると期待もしている。

「もし、否定されて口喧嘩になったとしても、時間が経てば認めてくれるはずです。お母さんは理解に時間がかかるタイプなんです」

相手の実家も2、3度、訪ねているが、そのときは「友だち」と紹介された。

「その後、彼女はお母さんにカミングアウトして、実は私が恋人だと話してくれたんです」

しかし、お母さんの反応はよくなかった。

「気持ち悪い、考え直したら、と拒否されたそうです。それからは、まだ会いにいっていません」

男性との交際にこだわる両親に、これから誠実な気持ちを伝えていきたい。

10 2つの偏見を乗り越える、明るい決意

小さな嘘を積み上げてきた

これまで、いろいろな偏見を受けてきた。

「大家族っていうだけで、偏見を持つ人がいるんですよ。何も悪いことをしていないのに、何だか後ろめたい気持ちになるのっておかしいですよね」

職場などで交わされる、「きょうだいは何人いるの?」という普通の会話にも過剰に反応してきた。

「弟がいます、とか、姉がいます、とか、何となくはぐらかしてきました。この人、危ないな、と思ったときは、一人っ子です、と嘘をついたこともあります」

母親からは、家のことはあまり人に話さないほうがいい、と教えられてきた。

「たまたまそういう家庭に生まれてきただけなのに、それを隠して生きていくはおかしいと、最近、思うようになりました」

セクシュアリティについても偏見を持たれてきた。

ホテルの仕事をしているときに女性用の制服を着ていたら、「あなたが着ているとオカマに見える」と支配人にいわれたこともあった。

「見た目がこんな感じなんで、女の子が好きなんでしょって、興味本位でいわれることもあるんです。そんなときは、違いますよ、と否定してきました」

でも、そんな嘘も必要ないんじゃないか、と思うようになる。
自分は女性を好きなだけ。なぜ、それを隠さなければいけないんだろう。

「この間、同僚の女の人に話したら、そうなんだ、って簡単に受け入れてくれたんです」

知り合いがLGBTERのインタビューを受けて、包み隠さず自分のことを出している姿をみて勇気をもらった。

「今日の取材で、今までいえなかった家族の話もしました。自己満足かもしれないけど、これが自分の意識を変えるきっかけになりそうな気がします」

結婚をして子どもを育てる

今後のパートナーとのつき合い方についても、前向きなビジョンを持っている。

「実は知らないで引っ越してきたんですけど、今の地域にはパートナーシップ制度があるんです。これを活用して、将来、結婚したいと考えています」

子どもについても、ふたりで相談している。

「ふたりとも子どもが好きなんです。絶対ではありませんけど、縁があれば養子でもいいし、育ててみたいという希望があります」

将来の生活のためには資格を取って、収入を安定させたい。

「IT系のプログラマーとか、技術情報に関する資格を考えています。ひとつずつ取って、いい仕事に就きたいですね」

一度、見送った手術についても改めて考えている。

「胸だけは手術をしようかな、と思っています。もう、男の人と結婚することはないと思うので(笑)」

大家族とセクシュアリティマイノリティという2つの偏見に耐えてきた。これからは、自分の心をオープンにして、堂々と生きていくのが目標だ。

あとがき
木村家のカレー&シチューの日、何気ない日常のひとコマ、愛着関係をきょうだいからも得られた環境は、ハルさんの穏やかさを育んだのだろうと想像したから、きょうだいの多さが偏見の対象となることに驚いた■多数側にいると、少数側の情報量が少なくなる。知らないと偏りやすいことを理解しておきたい。きょうだいの人数も、セクシュアリティも、血のつながりだって、どう思うかは、本人が感じること。ハルさんの笑顔が語った。(編集部)

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