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躊躇した時期もあったけど、今は胸を張って「夫がFTMだ」って言える。【後編】

躊躇した時期もあったけど、今は胸を張って「夫がFTMだ」って言える。【前編】はこちら

2017/11/07/Tue
Photo : Taku Katayama Text : Ryosuke Aritake
清水 彩香 / Ayaka Shimizu

1993年、沖縄県生まれ。地元の高校を卒業後、岐阜の大学に進学し、ソフトボールに熱中。大学1年の時に部活の先輩の紹介で、現在のパートナーと出会う。大学を中退した1年半後、千葉で同棲を始め、2015年に入籍。最近は、夫婦で関東近郊の中学や高校に赴き、LGBTに関する講演活動を行っている。

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INDEX
01 土台を作った学生時代の経験
02 “最初で最後の人” との出会い
03 夫婦になるための第一歩
04 “パートナーの名字” になるために必要なこと
==================(後編)========================
05 人に言えない関係とカミングアウト
06 “FTMと結婚する” という現実
07 胸を張って生きていける関係
08 悩んだ過去があるから未来に希望を抱ける

05人に言えない関係とカミングアウト

葛藤した日帰り手術

2011年、彼は柔道選手を引退してすぐ、乳房切除手術を行った。

「FTMの人が胸オペ(乳房切除手術)をした時に、麻酔が効きすぎて亡くなったというニュースを見たばかりでした」

「だから、して欲しい気持ちと、して欲しくない気持ちが半々でした」

手術は、名古屋の病院にお願いした。

朝病院に向かって手術を行い、夕方に麻酔が切れてから、近くのビジネスホテルに泊まるスケジュール。

手術中は不安でじっとしていられず、意味もなく名古屋の地下街を歩き続けていた。

「術後、初めて弱々しい彼を見ました」

全身がむくみ、食欲もなくなり、歩くのも辛そうだった。

「うれしい気持ちとそこまでして欲しくない気持ちで、ごちゃごちゃしてしまいました」

「麻酔が効きすぎてしまって、なかなか動けなかったのも不安でした」

3日間、つきっきりで身の回りの世話をして、無事に手術を乗り越えることができた。

「本人はタンクトップを着て出かけられるようになって、うれしかったみたいです」

一緒に出かけられない不満

不安を抱きながらも、実は胸オペをして欲しい理由があった。

「胸オペをするまで、彼は外で私と一緒に歩くことを嫌がったんです」

当時、柔道のコーチを務めていた彼は、教え子の学生に彼女を見られることを危惧していた。

女性同士で同棲していることがバレれば、すぐに噂は広まり、教え子に悪影響が及ぶと考えていた。

「買い物に行く時も3歩下がってついていったし、車でも私は後部座席に乗っていました」

「私が早い時間帯に始まる仕事に就いて、家を出るタイミングもズラしていたほどだったんです」

その状況に耐えられず、頻繁にケンカをしていた。

「彼はその度にうやむやにするだけで、私もよく泣いていましたね」

「今思えば、彼もどうしたらいいかわからなかったんだと思います」

「でも、あの頃の私は、彼が性別や世間の視線に縛られているとしか思わなかったです」

カミングアウトで開けた環境

ただ、別れるという選択肢はなかった。

寂しい思いをさせていることの償いとして、彼はゲーム好きの自分のためにゲーム機を買ってきてくれた。

「我慢させていることを理解して、気が紛れることを考えてくれたんです」

「寂しい思いが大きかったけど、彼のやさしいところに慰められる部分もありました」

ホルモン注射の投与を始めてから、彼の外見がどんどん男性的に変化していった。

姿が変わったことで自信を持ち、職場の先輩にカミングアウトしてくれた。

そこから、少しずつ「彼女」として紹介してもらえるようになっていった。

「職場の方に受け入れてもらえて、彼の恩師の先生にもご飯に誘っていただくようになりました」

「彼は、周りの環境に恵まれていたんだな、って思いましたね」

06“FTMと結婚する” という現実

2人らしい笑いと涙のプロポーズ

両親との関係の修復や、職場へのカミングアウトなど、さまざまな壁を乗り越えた頃。

2人で、東京ドイツ村に遊びに行った。

彼が突然「車に忘れ物したから、取ってくる」と言い出した。

「『待ってて』って言われたんですけど、『一緒に行くよ』って付いていっちゃったんです」

「彼は車のトランクから、花束を取り出してきました」

「でも、頑張って花束を隠そうとしながら、園内に戻っていくんですよ(苦笑)」

「私も『もしや?』と思いつつ、笑いながら彼の後をついていきました(笑)」

日が暮れて薄暗くなったタイミングで、イルミネーションが輝くエリアに到着した。

グダグダな展開に顔を見合わせて笑い合いながら、花束を差し出した彼が言った。

「結婚してください」

言われた瞬間、涙があふれ出した。

「泣いてしまったので、彼が何を言っていたか覚えていないんです(笑)」

「その後、2人で泣きながら駐車場に戻ったことは覚えています」

「揃って泣いていたからか、通りかかった観光バスに乗っていた人たちに笑われました(苦笑)」

事態を動かした彼の本気

結婚の話はよくしていたが、「私は、本当に結婚できるのかな?」と思っていた。

「結婚はできなくても、事実婚みたいな形でいいかな、って思っていました」

「でも、彼は本気で『戸籍を変えたい』って言ってくれて、結婚を考えていてくれたんです」

いつも彼が必死に動いてくれて、自分は引っ張られることばかりだった。

「出会ってからずっと、男気があってしっかりしていて、頼りになりました」

「だから、彼の性別も気にならなかったし、そもそも考える暇もなかったかもしれないです」

最近、人からは「姉さん女房みたい」と言われることがある。

しかし、自分が主導権を握ろうとは考えていない。

「彼は、亭主関白なタイプなんです」

「何でも任せておけば、喜んでやってくれるので、助かっています(笑)」

「結局俺はいつも1人になる」

彼と一緒に人生を歩んでいこうと決めた、大きなきっかけがある。

同棲している頃、激しいケンカをしたことがあった。

別れ話に発展するほどのものだった。

「私が『別れる』って言った時に、彼がずっと隠していた過去の恋愛のことを話し始めたんです」

彼には自分とつき合う前に、3年間つき合っていた彼女がいた。

その彼女は、男性と浮気をした挙句、妊娠をして、彼の元を去っていったという。

「彼が『やっぱり普通の男の方に行っちゃうんだ。結局俺はいつも1人になる・・・・・・』って呟いたんです」

「その時に、私はこの人を1人にはできないな、って思いました」

それ以降、2人の間で別れ話が出たことはない。

07胸を張って生きていける関係

心に刺さった親友の言葉

自分自身は女性にアタックされることに抵抗はなく、パートナーがまだ男性戸籍でない段階で、家族にも打ち明けられた。

しかし、友だちにはなかなか言い出せなかった。

結婚が決まってから、「沖縄に行く時に紹介するから」とようやく中学からの親友に話すことができた。

「隠すつもりもなかったので、『女性から男性になった人とつき合ってる』って話したんです」

親友から「レズビアンだったんだ」「彼氏と彼女、どっちで見たらいいの?」と言われた。

嫌だったわけではないが、ショックだった。

彼を、女性として好きになったわけではなかったから。

親友に悪気はなかったはずだが、理解してもらうことは難しいのではないかと塞ぎ込みかけた。

「その時、沖縄のお母さんに『そんなことで悩んでんの!?』って言われたんです」

親友を知っている母は、「そうじゃないって話せば、理解してくれる友だちでしょ」と言ってくれた。

「1回で落ち込んでどうするの? これから先、いろんなことがいっぱいあるでしょ」と背中を押してくれた。

「お母さんの言葉がなかったら、『私はレズビアンなのかな・・・・・・』って悩んでいたかもしれないです」

「そこから、少しずつ他の友だちにも話せるようになりました」

「珍しくない」という気づき

結婚してから、夫婦でLGBTに関する講演活動を始めた。

その中で、感じていることがある。

「自分で思っているほど、私たち夫婦は変わっていないんだ、って感じています」

それまでは心のどこかで、自分たちは普通ではないと思っていた。

しかし、LGBT当事者と触れ合うことで、自分たちが決して珍しいわけではないことを知った。

「セクシュアルマイノリティの中には、私なんかよりもっとさまざまな経験をしてきた方がたくさんいるんですよね」

「それでも普通に生活している方ばかりで、私たちの悩みってちっぽけだったなって」

好きになった人と結婚をした。

たまたま戸籍を変えるというステップが必要だっただけ。

「多くの当事者の方と知り合うことで、世界が変わりました」

今は胸を張って、「大切な人と結婚した」と話せる。

08悩んだ過去があるから未来に希望を抱ける

若い世代に発信していく意味

講演活動は、中学生や高校生に向けたものがほとんど。

LGBTを知らない子たちに向けて、夫婦で越えてきた悩みや問題を交えながら、基礎知識を伝えている。

「堅苦しく話しても伝わらないので、面白いエピソードを入れながら話しています」

「誰が誰を好きになってもいいってことを、伝えられるようにしたいです」

「若い子は伝えたことをそのまま吸収するので、話す内容には気をつけていますね」

夫がFTMだから、伝えられることがあると考えている。

治療を受けやすくなってきているからこそ、覚悟が必要であること。

「手術しなくても不安はない」「FTMで男性が好き」など、トランスジェンダーや性同一性障害にはさまざまな形があること。

「活動に正解はないですけど、私たちの実体験を含めて伝えていきたいと考えています」

自分のことを話すことで実るもの

活動を通して、引っかかっていることもある。

「昔の彼にも感じたことですが、何事も言わないと伝わらないと思うんです」

「色々な苦しい気持ちや言葉にはし難い思いがあるのだと思いますが、『理解してくれない相手が悪い』で片づけてしまうのは、違うんじゃないかな」

「まずは自分が話さないと、周りも耳を傾けてくれないですよね」

今、彼が人前で自分自身について話すようになったことは、大きな一歩だと考えている。

「わかってくれない人もいるけど、話を聞いてくれようとする人もたくさんいるんです」

その上で、すべてを理解してもらうことも難しいと実感している。

改めて親友に結婚することを報告した時に、こう言われた。

「私がFTMの人を好きになることはないと思う。でも、彩香が好きになった人が、たまたまFTMだってことは理解してる」

すべてを受け入れてもらえなくても、一部を理解してもらえるだけで十分ではないか。

セクシュアリティに関係なく、他人同士が完璧に理解し合うことは難しいから。

「彼からは『彩香の考えは厳しい』って言われることもあります」

「だけど、自分の意見を発信し、自ら歩み寄ることで、物事は動き出すと思っています」

親になるという目標

今、夫婦で共通の夢を抱いている。

2人で子どもを育てたい。

「彼が友だちの子どもと遊んでいる姿を見た時に、きっといいパパになるな、って思ったんです」

つき合っていた頃から、子どものことは気にかかっていた。

子どもの話をすれば、彼を悩ませてしまうと思った。

自分が子連れだったら、彼に気を使わせずに済んだのではないか、と考えたこともあった。

最近、いいパパになりそう、と感じたことを伝えた。

「彼は『彩香が話さないから聞けなかったけど、俺は子どもが欲しい』と言ってくれたんです」

「お互いに気遣っていたんですね。彼のひと言で、心のモヤモヤが晴れました」

世の中には「子どもができないと分かって結婚して、なぜ欲しがるんだ」という批判的な意見もある。

なかなか踏み出せない自分もいた。

そんな時にも背中を押してくれたのは、やはり母だった。

「お母さんが言ってくれたんです。『人の意見を気にしてたら、ストレートのカップルでも子どもなんて産めないよ』って」

精子の提供方法は検討している段階だが、いつか子どもを産みたい。

彼にパパになってもらいたい。

そして、遠い将来には、夫婦で小さいけど賑やかなお店を開きたい。

「性的マイノリティに限らず、誰でもコミュニケーションが取れるようなお店にしたいです」

「今はやりたいことがいっぱいあるし、将来を前向きに考えた方が楽しいですよね」

あとがき
母性と24歳のフレッシュな感性があふれる彩香さん。すごい包容力!!それは、ご両親から受け取り続けたもの。そして、厳しさのある投げかけも、見限らない愛情もたすきのようにみんなに渡してきた■ご主人をほめると、素直に「そうなんですよね ^_^」と受け容れる。活動で感じる整理がつきづらい感情も教えてくれた。「大丈夫!大丈夫!」と伝えると、彩香さんは少し心配そうな笑顔で「はい」と答える。愛する人に預けながら、自分の心も頼りにして歩こう!(編集部)

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