INTERVIEW
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「心のストッパー」を外せば、誰もがもっと生きやすい社会になる。【前編】

爽やかな雰囲気で、立ち居振る舞いもスマートな山田祐希さん。誰からも好感を持たれるであろうナイスパーソンだと伝えると、分かりやすく恐縮する謙虚な人だ。「家族のことが大好きだ」と、こんなに真っ直ぐに言える人はそういない。「自分らしく生きる」ことを決めた山田さんの話は、家族への深い愛と、出会った人たちへの感謝にあふれていた。

2018/09/22/Sat
Photo : Tomoki Suzuki Text : Shinichi Hoshino
山田 祐希 / Yuki Yamada

1986年、神奈川県生まれ。両親、姉、兄と二人の姪っ子、5匹の猫と暮らす。18歳のときに男性の先輩を好きになったことで、自身がゲイであることを自認。大学卒業後は、機械系の商社で営業職として働いた後、マレーシアの航空会社を経て、現在は中南米の航空会社にて通訳の仕事に携わっている。同時に、「自分らしく生きること」を提言するため、メンズコスメブランドを立ち上げ、化粧品開発もおこなっている。

USERS LOVED LOVE IT! 55
INDEX
01 家族へのカミングアウトを前にして
02 女の子とチューしたいとは思わなかった
03 セクシュアリティに関するモヤモヤ
04 もしかしたらゲイかもしれない
05 ゲイになる恐怖、ゲイとして生きる不安
==================(後編)========================
06 ストレートに戻りたい
07 ゲイの世界に触れて
08 悩みは自分の恐怖心でしかない
09 家族には、ありのままの自分でいたいから
10 あの頃の自分に恥ずかしくない自分でありたい

01家族へのカミングアウトを前にして

家族あっての自分だから

「家族で、僕がゲイだと知っているのはお姉ちゃんだけです」

一緒に住んでいる両親と兄は知らないが、7月に打ち明けるつもりだ。

「7月の中旬くらいにカミングアウトしたいと思っています」

7月に何かの節目や記念日があるわけではない。

「僕の場合、期限を決めないとなかなか動けないので(笑)」

友だちが主催する「カミングアウト・ハグ」というレッスンを受けたのも、きっかけの一つになっている。

「カミングアウト・ハグは、LGBT当事者のカミングアウトがうまくいくようサポートするレッスンです」

「ちょうどレッスンを受けたばかりなので、あとは吐き出すだけですね」

「食事中とかに、もう今、話しちゃおうかなって思うときもあるんですけどね(笑)」

自分で決めた7月までは、グッと気持ちを抑えておくつもりだ。

カミングアウトするとき、大切にしたいことがある。

「なんでカミングアウトするのか? っていうことを、大切な人にきちんと伝えたいと思っています」

その根底には、家族への深い愛がある。

「僕、家族が大好きなんですよね」

「お母さんやお兄ちゃんと本当の関係性を築きたいから、ありのままの自分を知ってほしいなと」

「どんな自分であっても、僕は幸せなんだっていう気持ちもちゃんと伝えたいですね」

幼少期の家族の記憶

両親と、6つ上の姉と、3つ上の兄の5人家族で育った。

「お母さんはすごく明るい人です」

「心の底から笑うので、見ているこっちが幸せになるような人ですね」

「お父さんは家では寡黙だったけど、外では社交的というか」

「外面が良いといえば、そうかもしれません(笑)」

そんな両親に育てられて、影響を受けたと思うことがある。

「どういうふうに行動すれば、接する相手が心地いいと思えるのかを考えてみる。これは、親から学んだことかもしれません」

子どもの頃は、年の近い兄と遊ぶのが好きだった。

「車のおもちゃで、よく一緒に遊んでたのを覚えています」

兄が野球を始めたら、自分も野球を始める。
兄がテニスを始めたら、自分もテニスを始める。

「基本、お兄ちゃんの真似でしたね(笑)」

「小学校のときは、一緒に帰るためにお兄ちゃんが教室の前で待っててくれました」

「中学のときはテニス部だったんですが、その頃、家に帰ったらお兄ちゃんがテニスが上達するようにと、筋トレのメニューを用意していて、『これやるぞ!』って特訓が始まるんです(笑)」

昔からずっと仲が良く、今も変わらぬ「お兄ちゃん子」だ。

02女の子とチューしたいとは思わなかった

デートは決まってダイエーで

初恋は小学校6年生のとき。

「僕から告白して、同じクラスの女の子と付き合いました」

「お姉ちゃんやお兄ちゃんがいたので、感性はおませさんだったと思います」

「ただ、付き合うって言っても、ニケツして近所のダイエーに行くくらいでしたけど(笑)」

中学1年のときも、2年のときも女の子と付き合った。

「中学でも、やっぱりデートはダイエーでしたね(笑)」

「行く場所がそこしかないので、安定のダイエーです(笑)」

「帰り道で手をつないだり、アイスを食べたりしてました」

付き合っていた子の共通点は、「一緒にいて楽しい子」。

「話が楽しくて、自分を笑かしてくれるような子が好きでしたね」

当時は、女の子との恋愛に何の抵抗もなかった。

「楽しかったから、普通に一緒にいたいなって思ってました」

「けど、チューしたいとかは、全然思わなかったですね」

軟式テニスに打ち込んだ中・高時代

中学では軟式テニス部に入り、部長を務める。

自ら立候補して部長になったが、部長ならではの悩みもあった。

「どうすれば強いチームを作れるのか? どうすれば部活がまとまるのか? っていう葛藤はいつもありました」

先輩の代から強い部活だったので、「自分たちの代でも勝たないと」というプレッシャーがあった。

責任感から部員には厳しく接したので、反感を買うことも多かった。

「『先生は言ってないのに、何でお前が言うんだよ』っていう反発はありましたね」

兄の影響で始めたテニスだったが、自分自身もテニスに熱中した。

「お兄ちゃんに対してライバル意識みたいなのは、ありませんでした」

「お兄ちゃんのほうが、全然うまかったですしね(笑)」

「ただ、お兄ちゃんが試合を見に来てくれて、褒められるのはすごくうれしかったです」

高校でも大好きなテニスを続けたかったが、軟式テニス部がなかったのでバレー部に入った。

2年になるタイミングで、軟式テニスで有名な先生が転勤してくることに。

すぐにその先生に会いに行き、「一緒に軟式テニス部を作りたいです!」と訴えた。

「『お前ひとりじゃ無理だから、メンバー集めてこい』って言われました」

翌日から毎朝、ユニフォームを着てラケットを持って校門に立ち、後輩の勧誘を始める。

人数の問題で部活動としては成立しなかったが、同好会としては認められた。

「テニスに対する情熱を先生に受け入れてもらって、嬉しかったですね」

やりたかった軟式テニスを続けられることになった。
しかし、順風満帆にはいかない。

意見の食い違いから分裂が起き、部長として孤立した。

「でも、先生はいつも僕を支持してくれました」

先生の奥さんも、よくテニスの応援に来てくれた。

後に、セクシュアリティの悩みを打ち明けることになる人だ。

「先生夫婦は僕の恩師。今でも手紙を送り合ったりして交流は続いています」

03セクシュアリティに関するモヤモヤ

昼休みパンツ事件

高校1年のはじめ、中学から同じクラスだった女の子と付き合い始めた。

付き合って1週間くらい経ったとき、“ある事件” が起きる。

昼休みに一緒に地下室に行って、お弁当を食べることになった。

お互い、正面に向き合って体育座りをした。

「そのとき、思いっきりその子のパンツが見えたんです」

「そしたら、なんか急に寒気がして、お弁当を食べる気もなくなって・・・・・・(苦笑)」

こんなとき、年頃の男子ならドキドキするのが普通かもしれない。

「でも僕は、気持ち悪いって思っちゃったんですよね」

「そう思った自分にびっくりしました」

この感覚は何なんだろう・・・・・というモヤモヤが生まれた。

だが、当時はまだ、男性が好きだという気持ちはない。

それからすぐに、「友だちに戻りたい」と言って彼女と別れた。

AVよりも “チンコ触り” が好きだった

男子高校生が数人集まれば、当然、異性の話にもなる。

だが、周囲の友だちほど女性には興味が持てない。

「好きな芸能人を聞かれたら、いつも矢田亜希子って言ってました(笑)」

「答えられないのが嫌だったから、あらかじめ用意してたんです」

「好きなAV女優だって言えましたよ(笑)」

「興味があったわけじゃないけど、一応調べて、この人にしようって決めてました」

AV女優を調べているときだっただろうか、偶然、男性同士のAVを目にしたことがある。

「こんなのがあるんだって、すごいびっくりしましたね・・・・・・」

「怖いもの見たさっていうか、見ちゃいけないけど見たいっていう気持ちはありました」

「今思えば、あのときにはもう男性に興味があったんだと思います」

もっと遡ると、小学校6年生のときにも思い当たるフシがある。

「いつも、ある男の子とふざけて ”チンコ触り” をしてたんです(笑)」

「それがすごく楽しくて、すごく喜んでた自分を覚えています」

高校時代も、クラスの友だちとはいつも冗談を言いながらふざけあっていた。

「僕は小学校のときと同じノリで、高校生になってもふざけて触りにいってたんですよ」

「でも、気づいたらまわりの友だちは誰もやってない(笑)」

「『もう、そんなのいい加減やめろよ』って、よく言われてましたね(笑)」

04もしかしたらゲイかもしれない

高3ではじめて男性を好きになる

高校3年のとき、はじめて特定の男性に好意を持つ。

相手は、あまり話したことのない2つ上の先輩だった。

「単純に、見た目がカッコよくて好きになりました」

先輩の姿を見かけるだけでドキドキした。

「それまで女性に対しても、ドキドキするような感情は抱いたことがなかったです」

初めての気持ちだった。

「これが恋なのかな?っ、ていうのは何となく感じてました」

自転車の色も、先輩と同じ色にしたかった。

「あずき色だったから、探すのが大変でしたけど(笑)」

「僕は同性愛者なんですか?」

先輩を好きになったとき、恋をしている心地よさの一方で、大きな不安に直面する。

なんで男性を好きになるんだろう、と思いネットの掲示板で質問した。

「僕は同性愛者なんですか?」

アンサーは、間もなく書き込まれた。

「そうです、あなたはゲイです」

ホモやオカマという言葉は知っていた。

男性同士のAVを見たこともあった。

だが、自分がゲイだとは思ってなかった。

掲示板ではっきり「ゲイ」だと言われ、本気で悩むようになった。

「こういう気持ちは潰さなきゃいけない」と言い聞かせた。

大丈夫だと言ってほしくて

掲示板の一件から、「自分は普通じゃない」と思うようになった。

精神的に不安定になり、人間性まで変わっていった。

「何に対してもすごく消極的になって、内にこもるようになっていきました」

動悸がして、朝起きるだけでつらい毎日。

このままだと自分が変になってしまうと思い、部活の先生の奥さんに相談した。

「僕、ちょっとおかしいかもしれません」

「女性より男性のほうが好きかもしれないんです・・・・・・」

「かもしれない」と言ったのは、自分で認めるのが怖かったからだ。

すると、先生の奥さんから「山ちゃんは、なんて言ってほしいの?」と聞かれた。

「否定して欲しい」と答えた。

「そしたら、奥さんは『思春期によくある現象だよ』って言ってくれました」

「僕の気持ちをはからって、そう言ってくれたんだと思います」

その後、先生にも相談した。

先生も否定することなく、うなずきながら話を聞いてくれた。

最初に先生夫婦に相談したのは、淡い期待があったからだ。

「いろんな生徒を見てきてるから、大丈夫だって言ってくれるかもしれないと思ってました」

もちろん、学校の友だちには相談できない。

「友だちに言ったら、関係が崩れて、学校に居場所がなくなるんじゃないかって・・・・・・」

「その怖さは、とても選べませんでした」

家族に相談するなど、到底考えられることではなかった。

05ゲイになる恐怖、ゲイとして生きる不安

自分がいちばん不孝者だ

先生夫婦に相談して、一時的には救われた。

しかし、自分のなかで根本的な解決に至っていないことは分かっている。

「同性愛かもしれないと思ったとき、いちばんつらかったのは家族のことです」

「家族を悲しませたくないっていう気持ちが、いちばん大きかったです」

小さい頃から、両親の期待に応えたいという思いがあった。

兄や姉は、よく親とケンカしていた。

「お兄ちゃんもお姉ちゃんも根はすごくやさしい人です」

「でも、中高生の頃は両親への反発が強いところもありましたね」

母が泣いている姿、父が怒鳴っている姿を何度も見てきた。

「だから僕は幼いながらに、両親を悲しませたくないし、自慢の子どもになりたいと思ってました」

でも、自分がゲイだとしたら・・・・・・。

結婚もできないし、子どもを持つこともできない。

「結果的に、親にとっていちばんの不孝者は自分なんだと・・・・・・」

そう認識したとき、今までにない絶望に襲われた。

ずっと自分を隠しながら生きていくのか

高校卒業後は予備校に通っていたが、勉強どころではない。

自分はどうしようもない人間だ。
男性を好きになってしまうこと自体、本当に罪なことだ。

「ずっと、そんなことを考えていました」

両親の子どもとして生まれてきたことに、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「いつも家族に対して、ごめんなさいって思ってました」

電車に乗ることもできなくなった。
マスクをしていないと外出できなかった。
誰にも顔を見られたくなかった。

予備校の授業中、突然パニックを起こし、走って教室を飛び出したこともある。

精神的に不安定な原因は、ゲイになる恐怖と、ゲイとして生きる不安だ。

当時は、ゲイの人は女装したり、オネエ言葉を使ったりするイメージを持っていた。

ゲイの人は、みんな女性になりたい人たちだと思っていた。

「だから、今自分はそうじゃないけど、いずれはそうなるんだ、っていう恐怖心がありました」

「自分がゲイだとしたら、どうやって生きていけばいいのか、っていう不安もありました」

ずっと自分を隠しながら、生きていかなければいけないのか。

幼い頃、兄と交わした約束が頭をよぎる。

「祐希、俺らは絶対、隠し事なしだからな」

「お兄ちゃんもね」

兄を裏切っている後ろめたさに、押しつぶされてしまいそうだった。


<<<後編 2018/09/24/Mon>>>
INDEX

06 ストレートに戻りたい
07 ゲイの世界に触れて
08 悩みは自分の恐怖心でしかない
09 家族には、ありのままの自分でいたいから
10 あの頃の自分に恥ずかしくない自分でありたい

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