INTERVIEW

今に絶望しなくていい 世界は広いんだから【後編】

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2015/10/06/Tue
Photo : Mayumi Suzuki Text : Kei Yoshida
保井 啓志 / Yasui Hiroshi

1992年、千葉県生まれ。思春期から自分はゲイかもしれないと気付き始め、18歳で初めて親友にカミングアウトする。現在、東京大学大学院総合文化研究科にて、中東のセクシュアリティについて研究中。東大LGBTサークル「UT-topos」の2014年代表を務め、今でもメンバーとして活動に携わっている。

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INDEX
01 僕はオカマやオネエじゃない
02 親友にカミングアウトと告白を
03 あったのは、大学合格と死の二択
04 心の闇を照らしてくれたもの
05 一つひとつ、ハードルを越えて
==================(後編)========================
06 高まる自己肯定、広がる世界
07 サークル活動で見えたもの
08 パートナーと僕とのこれから
09 性的マイノリティと就職
10 今、人生の岐路に立つ

06高まる自己肯定、広がる世界

LGBTサークルへの参加

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大学1年の冬、今の保井さんにとって大きな意味をもつ出会いがあった。

同じ語学クラスのひとつ上の先輩。身体的には女性のパンセクシュアルで、女性と付き合っている。しかも、そのことをオープンにしている人だった。

その先輩との出会いから、LGBTサークル「UT-topos」に参加することになったのだ。

サークルの目的は、性的マイノリティが仲間に出会える場所をつくること。キャンパス内でのランチ会や合宿など、当事者が気軽に集まれるイベントを開催している。

「サークルのメンバーは、完全にオープンにしている人ばかりではないので、例えばイベント開催などの申請時に名前を出せる人は名前を出して、宣伝用のポスターをデザインできる人は作って、みんなできることをやっています。卒業生を合わせると、メンバーは300人を超え、インカレではないLGBTサークルのなかでは最大規模となっています」

セクシュアリティは個人の一部

ランチ会で話すことは、トランスジェンダーの人が抱える、親が理解してくれないという悩みをシェアするなど、セクシュアリティに関する話題も挙がるが、多くは大学での履修や授業のことなど世間話と恋愛話。メンバーにとって、セクシュアリティはあくまで個人の一部。大学があって、私生活があって、セクシュアリティがある。

生きていくうえでの、大事なことの何番目か。そんな、あたりまえのことなのだ。

その環境のなかで、保井さんの自己肯定も進んでいった。自殺まで考えていた受験当時に比べて、さまざまな人、いろんな価値観と出会い、一気に世界が広がったのだ。

世界を広げるツールとなったのが、「UT-topos」をはじめとするサークル活動。なかでも、他校との合同で行われた“合宿”は、とても意義のあるものだった。

多種多様なセクシュアリティが一堂に会し、寝食を共にする。それは、社会の縮図のようにも思える。その、ある意味シミュレーション的な合宿では、LGBTを取り巻く社会において起こりうる問題を浮き彫りにし、解決法を発見することとなった。

07サークル活動で見えたもの

クローゼットの人も安心して参加を

合宿を実施するにあたって、まず大切なのは、メンバーのプライバシー保護。参加者のリストが記録として出回らないように細心の注意を払い、カミングアウトしていない人には親への説明材料も用意する。サークル以外ではカミングアウトしていないクローゼットの人でも、安心して参加できるような配慮がなされた。

プライバシー保護をより強固にするため、宿は貸切に。しかも、活動内容が外部に漏れないようにサークル名は伏せて予約をした。

もっとも重要だったのが、セクシュアリティが大きく関わってくる、お風呂の問題。まずは男湯に入ってもOKな人、女湯に入ってもOKな人が入浴する。そして、申請者にはひとりだけで入れる時間も設けた。

トランスジェンダーの人からの、ひとり入浴の申請はやはり多かったが、セクシュアリティに関係なく、単純に大浴場が苦手な人だっている。いろんな人が平等に入浴できるようにと、時間制という解決法に至ったのだ。

LGBTのパワーバランス

いろんな人が平等に。それは、何も合宿での事柄に限ったことではない。サークル内では常にそうあるように目指しているのだという。しかし、サークル内のセクシュアリティ比率は圧倒的にゲイが多い。そうなると、自然とゲイの発言力が大きくなってしまう。まるで、ストレートの社会において、男性の発言力が大きくなるのと同じように。

「そうしたくはないんです。何よりも、僕がサークルに参加するきっかけとなったのは、体が女性のパンセクシュアルの人だったので。ゲイの力が強くなりすぎると、他のセクシュアリティは参加しにくい雰囲気になってしまう。かといって、いわゆるゲイだけで盛り上がる“ゲイノリ”をするなって言ったら、サークル自体の存在意義自体が薄れてしまう。せめて、ゲイばかりだと参加しにくいと思っている人や“ゲイノリ”を嫌がる人もいるということを分かってほしいんです。あとはメンバーの善意に任せたいと思います」

特に男子生徒の比率が多い大学内のサークルでは、どうしても男性の比率、つまりゲイの比率が高くなってしまう。そのパワーバランスもまた、サークルの今後の課題なのだと保井さんは言う。

08パートナーと僕とのこれから

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志を共にする相手

ところで保井さんには大切なパートナーがいる。インカレのLGBTサークルのイベントで知り合った同い年の大学生だ。

「2年生のときに参加したイベントで、席が向かいになったんです。確か、そのサークルで初めて参加したイベントだったので、誰とも話せてなかった人見知りな僕に、彼が優しく話しかけてくれたんです。なんて、いい人なんだろう、とすごくうれしかったのを覚えています。でも、1年半の間は普通に友だちでした。お互いに別のパートナーがいる時期もあったんですよ」

彼はサークル以外でもLGBTに関する活動のために奔走している人物。志を共にする相手として意識するようになり、そのひたむきな姿に惹かれていったのだという。

「僕自身が思うように活動できていなかったり、あまりオープンにしていなかったりして、一歩踏み出せていなかった時期、一生懸命に活動に励む彼の姿はかっこよくて・・・・・・憧れました。もともと波長が合うと思っていたし、共通の友だち数人で旅行に行ったりする仲ではあったんです。LGBTの活動でも、同じ方向を向いていますし、なんかこう、寄り添うような感じというか。で、僕が前のパートナーと別れたあと、しばらく冷却期間をおいてから、お付き合いすることになりました」

ゆくゆくは一緒に住みたい

友だちとして1年半、パートナーとして1年半。すでに、親にも紹介しているという間柄のふたり。将来のことも見据えつつ、一緒に住むことを考えているという。

「まだ、お互いに学生なので、スグにとはいかないんですが、ゆくゆくは。まず、うちの親が一人暮らしをさせてくれないんで、そこから説得しないと。あとは、やっぱり、先に就活を乗り越えないといけないんですけどね」

保井さんは今、大学院の1年生。来年には就活、つまり就職活動がスタートする。「UT-topos」では、そのLGBTの就活をサポートするイベントも計画中だ。

09性的マイノリティと就職

人生を大きく左右する一大事

「LGBTサークル『UT-topos』は仲間と出会うための場所なので、みんな、仲間だったり恋人だったりを見つけるために来ているんです。それは大切なことだと思んですが、もっと大切なこともあります。学生にとっては、人生を大きく左右する就職が、まずとても大切なことのひとつだと思います」

LGBTが求職するにあたって、生じる問題はいくつもある。トランスジェンダーの人は面接でどんな格好をするのか、ゲイの人はどのようなライフプランを描くのか。自分と社会との関係を築くための、就活という一大事は、大切だからこそ学生に重くのしかかる。

残念なことに日本の企業は、まだLGBTへの理解は浅い。理解が浅いゆえ、差別など不当な扱いを受ける可能性も否定できない。ストレートの学生よりもきっと、LGBTの抱える就活への悩みは深刻であり、不安は尽きないのだ。

「以前、LGBTフレンドリーな外資系企業で働く卒業生の方から話を聞く機会がありました。それはそれで、とても参考になったのですが、僕はもっとリアルな、大多数の日本の企業での実情が知りたいと思ったんです」

LGBTがサバイブする方法

LGBTフレンドリーを掲げている企業は決して多くない。しかも、LGBTフレンドリーな企業だけを就職先として考えることは不可能だろう。

そうなると、必要なのは現場のナマの声。日本の社会でLGBTがサバイブするための方法を、学生たちは知りたいのだ。

「幸いなことに歴史あるサークルだということもあり、卒業生は大勢いらっしゃいます。アプローチしてみたら、先輩たちも学生に話したいことがたくさんあるとおっしゃってくださって。このパイプを活かして、大規模な“OBOGOX会”を開催したいと思っているんです」

サークルの卒業生といってもオープンにしている人だけではなく、直属の上司だけに伝えている人、就職時にトランスジェンダーだと伝えている人、クローゼットの人など様々だ。

彼らのナマの声は、これから就職活動を始める学生たちにとっての道標となるだろう。

10今、人生の岐路に立つ

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就職と研究、どっちに進む?

就職という道に進もうと思う反面、セクシュアリティの研究を続けたい気持ちもある。保井さんは今、まさに人生の大きな岐路に立とうとしているのだ。

「研究をしていると、自分にもできることがあるんじゃないかと思うんです。僕が当事者としてオープンにしているからこそできる研究もあると。逆に、セクシュアリティ研究という学問に携わっているからこそ、自分がオープンでいられるということもあると思います」

一方、就職を考えたときには、やはり不安が次々と浮上する。

「まず、勤務地の問題。海外で働きたいんですが、海外赴任のある会社で赴任先を選べなかった場合、同性愛禁止の国に行くことになったらどうしようとか。パートナーとのことを考えたら、東京で就職したほうがいいんじゃないかとも思います。そして、カミングアウトについても悩むところです。もうオープンにしているので、就職時にカミングアウトしてもいいんですが、新入社員で『僕のセクシュアリティを認めてください』と申し出るのも気が引けます。それは会社での実績を積んでからですね、きっと」

子どもたちのロールモデルに

しかし、それでも就職したいという気持ちは強くある。それは、親を安心させたいとか、生活するためにといった目的とは、別の理由があるのだ。

「子どもたちにとってのロールモデルになりたいんです。僕自身の原体験として、自殺を考えたこともあったので。こういう生き方もあるんだよって、呈示できるんじゃないかと思っています。だったら、LGBTの活動や研究に注力するよりも、セクシュアリティに関係なく一般企業で働いて、成功しているところを見せたい。だから就職したいんです。ほんと、今、研究者としての道と就職という道、ふたつがせめぎ合っている状態ですね」

不安は、未知のものと対面するから生じるもの。未知の、まったく新しい世界に飛び込むからこそ生じるもの。保井さんの目の前には、新しい世界へと続く、真っさらな道があるのだ。

「視野を狭めないように意識しながらも、LGBTのうちのひとりであるという自認(アイデンティティ)は持ち続けたい」

その道が、どこに続くのかは、まだ誰にも分からない。ただ、これからを担う彼らこそが、LGBTを取り巻く環境をより望ましい方向へと導いていくに違いない。

あとがき
再会してもまだ遠慮がちな、でもとても安定した優しい口調の啓志さん。その大らかさに取材の場も和んだ。啓志さんの物語は、登場人物名も時期も明確だった。 考えてみれば、たった数年前、ついこの間の出来事なのだ■「性的マイノリティーの悩みは一人から始まる」と。一人ではない今だからこそ伝えてもらえたと、 噛みしめた。[サイトLGBTER]が "一人きりだ " と不安な時を過ごすLGBTERの、温かい何かになればとまた強く思う。(編集部より)