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今に絶望しなくていい 世界は広いんだから【前編】

研究者としての道に進むか、就職するか。保井啓志さんは今、社会との関わり方について、大きな選択を迫られている。自分のセクシュアリティをオープンにしておきたいと思いながらも、これから飛び込んでいくかもしれない社会が、オープンである自分を受け入れてくれるかどうかは分からない。今、まさに揺らぐ時期だ。だからこそ、保井さんの言葉は脈打つように生々しいものだった。

2015/10/02/Fri
Photo : Mayumi Suzuki Text : Kei Yoshida
保井 啓志 / Yasui Hiroshi

1992年、千葉県生まれ。思春期から自分はゲイかもしれないと気付き始め、18歳で初めて親友にカミングアウトする。現在、東京大学大学院総合文化研究科にて、中東のセクシュアリティについて研究中。東大LGBTサークル「UT-topos」の2014年代表を務め、今でもメンバーとして活動に携わっている。

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INDEX
01 僕はオカマやオネエじゃない
02 親友にカミングアウトと告白を
03 あったのは、大学合格と死の二択
04 心の闇を照らしてくれたもの
05 一つひとつ、ハードルを越えて
==================(後編)========================
06 高まる自己肯定、広がる世界
07 サークル活動で見えたもの
08 パートナーと僕とのこれから
09 性的マイノリティと就職
10 今、人生の岐路に立つ

01僕はオカマやオネエじゃない

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男の子に興味があるのは、おかしい?

小学校、中学校、高校・・・・・・、ずっとバスケに夢中だった。ふたりいる姉も、お母さんも、お父さん以外はみんなバスケをやっていた。

脇目も振らず、バスケを優先。あとは学生の本分である勉強に集中。恋愛は二の次で。

でも本当は、恋愛に向き合うのが不安だった。だって、なんだか自分は周りと違うから。

「中学生のとき、一緒にいるとドキドキするのは女の子ではなく男の子でした。はじめは、みんな言わないだけでそういうもんだと思っていたんです。男の子も男の子に興味あるんだろうって。自分だけだとは思わなかったんです。でも周りを見ても、男の子同士で付き合っている人もいないし、徐々に、アレ? 男の子に興味がある僕はおかしい? って気づいて。じゃ、この感情は一時的なものなのかも、今、気になるのは男の子だけど、僕も付き合う相手は女の子なんだろうと思い込んでいました」

中学を卒業して高校への進学を考えたとき、男女別学か共学かを選ぶ必要があった。保井さんは、迷いなく共学を選んだ。今になって思うと、男子校は自分にとって“禁断の果実”のようなものであったと。食べてしまったら、もう戻れなくなる気がしていた。

彼女よりも親友と一緒にいたい

そのころは、はるな愛やKABA.ちゃんがテレビ番組を賑わせており、オカマやオネエという言葉も知っていた。そして、もしかしたら、自分もそっち側の人間なのかもしれないという不安もあった。将来、自分も女装をするんじゃないだろうか、どこかで笑われてしまうような存在になってしまうじゃないだろうか、と。

「そうなってしまったら、きっと親を悲しませることになる。男子校は気持ち悪い、絶対に共学がいい。それに僕は女の子と付き合うことだってできる。そうやって、不安を打ち消そうとしていました」

そして、高校生のとき、何人かの女性と付き合った。でも、長続きしない。彼女なら好きになれる、付き合っていけると思って、自分から告白した子もいたのに。

そんなある日、保井さんは女の子と付き合うことを諦めた。文化祭の準備で帰りが遅くなったとき、当時の彼女と一緒に帰る約束をしていたにもかかわらず、親友と一緒にいたくて、彼女との約束を破ってしまったのだ。

「ひどいことをしてしまいました・・・・・・。その彼女とも、結局2ヶ月くらいで別れてしまって。やっぱり、もう女の子とは付き合えないな、と。だって、僕は親友のことが好きだったんです」

02親友にカミングアウトと告白を

誰かに秘密を聞いてほしい

高校生のころに、“ゲイ”という言葉も知った。自分は、そうかもしれない。そんな不安を打ち消そうと、もがいていた日々。誰にも言えないことが、とても辛かった。

「このまま、残りの人生60年くらいを、誰にも言えない秘密を抱えたまま生きていくことを考えたとき、自分には絶対に無理だと思いました。誰かに聞いてほしい、誰かに言わなきゃ。そのときに思い当たったのが親友でした」

信頼している彼ならば、今まで誰にも言えなかった秘密を受け入れてくれるはず。そして「実は僕、ゲイなんだ」と伝えたとき、予想していた通りに親友は優しく聞いてくれた。

でも、もうひとつの秘密、彼への恋心は隠したままだった。

それでも、ゲイである自分を受け入れてくれた彼の存在で、どれだけ心が救われたことか。その喜びを噛み締めていたとき、なんと彼に好きな女の子が現れてしまった。

想いを伝える大切さ

絶望? 嫉妬? 羨望? なんだろう、この感情は。自分のセクシュアリティの悩みと彼への恋の悩みが混ざり合って、悶々としていたとき、彼から恋の相談を受ける。

「あいつに告白したいと思うんだけど、と。僕のことを信頼してくれているからこそ、僕に相談してくれたのだから、それは素直にうれしかったです。でも、心中はかなり複雑でした。そして、出てきた言葉は『俺に相談しないで、誰か他の友だちに相談してほしい』。相談されること自体が辛かったんです」

でも、彼はその言葉の理由が分からなかった。何故、親友に恋の相談をしてはいけないのか? そんな彼に、ついに保井さんは自分の気持ちを伝えたのだ。

「ごめん。俺、お前のこと、好きだわ。だから、悪いけど相談にはのれない。だけど……、だけど親友として言うなら……こんな自分だからこそ言えることは、想いを伝えることは大事だと思う」

自分の想いを伝えることが、いかに難しく、大事なことであるか。それは、ゲイである自分こそが強く感じていたこと。その言葉には保井さんの悲痛な想いがこもっていた。

「うれしいけど、応えられない」。しかし、それが彼の答えだった。予想はしていた。しょうがないと思うほかなかった。

18歳。彼は初めてのカミングアウトの相手であり、初めての失恋の相手となった。

誰にも言えなかった秘密を、親友にすべてカミングアウトすることができた喜びは確かにあった。しかし、心の闇はまだ完全には晴れていなかった。

「実は、受験をひとつの区切りにしようと思っていたんです。大学に受かったら、親にカミングアウトしよう。でも、落ちたら、死のうと(笑)」

保井さんは、乾いた笑いをもらした。

03あったのは、大学合格と死の二択

ひとりぼっちの苦しみ

心の闇。それは、ひとりぼっちである寂しさや不安から広がった。誰にも相談できない、誰にも理解されない、世界にひとりだけ、自分はひとりぼっちだ。

「高校生のころは、性的マイノリティに関する知識もなかったし、幼いからこそ偏狭だったんだと思います。親を悲しませるくらいなら、早めに死んでしまおうと思っていました。たとえカミングアウトした僕を親が受け入れてくれたとしても、将来は結婚して子どもを見せてあげることはできないし。小さなころから、なんとなくイメージしていた“親のためにしてあげたいこと”が自分にはできない。そのことが辛かったんです」

もしかしたら、大学合格は“親のためにしてあげたいこと”のひとつだったのかもしれない。それさえも叶えられないなら、死んでしまおう。そう、考えていたのだろう。

しかし幸いにも、大学受験の結果は見事合格。

「大学に受かったら、親にカミングアウトしよう」と決めていた保井さんは、抱えていた心の闇について、まずはお母さんに打ち明けた。

死ぬことを考えていた自分に

「実は、どんな風に話したのか覚えていないんです。もう、必死だったから。途中から僕も母も泣いてしまって。ただ、母は『結婚するだけが正しい道じゃないよ』と言ってくれました。しかも、『もしかして、あの子のことが好きなの?』なんて言うんです。あの子とは、もちろん親友のこと。母は偉大だなって改めて思いました」

あのとき、受験に失敗していたら。保井さんは、この世にはいなかったかもしれない。それほどまでに、孤独に支配された心の闇は濃く、晴れ難かった。

「本当に死ななくてよかったと思います。大学に行って、驚くほど世界が広がったんで。僕以外のたくさんのLGBTにも会えたし。もし浪人していたとしても、きっと新しい世界が広がっていたんだと思います。死ぬことを考えていた、あのころに自分に会えたら『世界は広いんだよ』って教えてあげたいです」

04心の闇を照らしてくれたもの

お母さんの次は、お姉さんに

お母さんへのカミングアウトを無事に終え、大学に通い始めた保井さん。すこしずつ自己肯定もできるようになって、今度は自分のセクシュアリティを隠している理由が分からなくなったくらいだった。

そこで、次にカミングアウトをしようと決めた相手は、ふたりいるお姉さん。就職活動を目の前にして、会社にゲイであることを言うか言わないかと考えたときに、会社には伝えていて、家族には言ってないのは、筋が通っていないと思ったのだ。

お姉さんの反応もあたたかいものだった。「コイツ、なんか真面目なこと言ってる〜(笑)」。そんな明るい態度が、保井さんの心をほぐしてくれた。

親友、お母さん、お姉さん・・・・・・近い存在の人にカミングアウトして、心の奥底にずっと隠してきた事実を打ち明け、受け入れてもらえたこと。それは確かに、自己自身を受け入れ、前へと進む力となった。

ひとりずつ、自分を受け入れてくれる人が増えていくたびに、心の闇が晴れていく。

「家族にカミングアウトをして、拒絶されるという不安はありませんでした。どこかで、親のことも姉のことも信じていたんだと思います。でも、父に話すときは、さすがに怖かったです。もう、お母さんとお姉ちゃんたちには言ったんだけど、と他の家族を味方につけてからカミングアウトしました」

05一つひとつ、ハードルを越えて

ゲイだと決めつけるのはよくない

家族は、自分にとって一番近い存在だからこそ、拒絶されることが怖くて、もっともカミングアウトしにくい相手だという人もいる。でも、保井さんは家族を信じていた。自分のセクシュアリティがどうであろうと、家族の愛は揺らがない。きっと受け入れてくれると。そして、お母さん、お姉さん、と話しやすい順に告白していった。

「父の教育方針は、『自分のことは自分で責任をとって、自分の好きなように生きろ』というものなんです。父自身も世界一周とかやってしまうような人で。なので、やはり、拒絶される心配はありませんでした。でも、他の家族に伝えたときよりも、できるだけ自分の考えをはっきり伝えるように心がけました」

やはり、お父さんも理解を示してくれた。しかし、こうも言った。

「将来どうなるかわからないから、今、自分がゲイだと決めつけるのはよくないんじゃないか」

この言葉には、お父さん自身が、息子がゲイであるという事実をにわかには受け入れられず、「気のせいであってほしい」という微かな願いが含まれていたのかもしれない。

「たぶん、変わらないと思うよ」と、保井さんは答えた。

その言葉には、息子がゲイであるという事実を受け入れてほしいという願いがこめられていた。

「今、思えば、いきなり受け入れるなんて無理な話だと思うんですが、僕がゲイであるという事実は変わらないだろうから。その事実のなかで、親を幸せにする方法を考えたいと思っています。もちろん、カミングアウトしなくても家族との関係を成立できたんじゃないかっていう人もいるかもしれない。でも、僕は、家族に嘘をつき続けるのは無理だったんです。今は、カミングアウトしてよかったと思っています」

後編INDEX
06 高まる自己肯定、広がる世界
07 サークル活動で見えたもの
08 パートナーと僕とのこれから
09 性的マイノリティと就職
10 今、人生の岐路に立つ

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