INTERVIEW

生涯のパートナーと これからも【後編】

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2016/02/12/Fri
Photo : Mayumi Suzuki Text : Kei Yoshida
八木 亨 / Toru Yagi

1979年、埼玉県生まれ。11歳のとき、同級生の男の子を好きになったことから、ゲイとバイセクシュアル間を揺れ動く。大学3年生のときに友だちにバイであるとカミングアウトする。大学卒業後にカナダへ留学し、帰国後、自分はやはりゲイだと確信し、親しい間柄ではオープンな人生を歩み始める。現在はIT系コンサルティング会社に勤めつつ、ひと回り上のパートナーと可愛い犬と一緒に都内で暮らしている。

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INDEX
01 男も女もどっちも好きな自分が好き
02 フツーっぽい思春期を経て
03 ゲイの扉を開けたり閉めたり
04 修羅場を超えて、カナダへ
05 仕事と家族とカミングアウト
==================(後編)========================
06 パートナーとの12年間
07 共通の趣味をもつこと
08 恋愛の安定は、心の安定
09 ゲイカップルの同棲事情
10 ふたりでのんびりと過ごしたい

06パートナーとの12年間

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リラックスした自然な関係

八木さんは現在、パートナーと愛犬と同棲中だ。

パートナーの男性は12歳年上のジャーナリスト。しかし、お互いがお互いにしっくりと馴染んで、歳の差をまったく感じさせないリラックスした自然な関係だ。

それもそのはず、彼とはもう12年以上ものお付き合いになるのだ。

「二丁目のバーで知り合ったんです。僕は他のバーで飲んでいたんですが、友だちから『すっごいイケメンがいるから、ちょっと来て』って電話があって。行ってみたら、それが彼で……ってことはなく、ストレートのイケメンがいたんです。で、僕の友だちがすっごい酔ってて、イケメンの連れの女性に絡んでいて、たまたま居合わせた彼が『失礼だよ』ってたしなめて。僕は『すみません、この人酔っ払っているんです〜』って謝って。そんなきっかけで連絡先を交換して、僕から彼をご飯に誘ったんです」

気づいたら10年経ってたね

何度かデートを重ね、交際がスタートし、いつしか一緒に住みだした。

「付き合ったのが2003年の8月3日だから、もう12年以上。10年目のときも、気づいたら10年経ってたねって感じで。思えば、長い付き合いですね」

ゲイの恋愛は長続きしない。そんな風に言われることがある。その理由として、同性のカップルでは子孫を残すことができず、関係をつなぎとめる“かすがい”がないから、結婚というゴールを目指せないから……などが挙げられることもある。

しかし、八木さんカップルにとっては、そんな通説もどこ吹く風。心をしっかり通わせあい、強い絆で結ばれている。

07共通の趣味をもつこと

アガる “旅ラン” !

都心に暮らすふたりの休日は、映画を観に行ったり、ランチに出掛けたりと、基本的に近所で過ごすことが多い。なかでも長く続けていることのひとつに、“一緒に走る” ということがある。

「2010年の横浜マラソンに出場してから、チャリティのランイベントにちょくちょく参加するようになって。でも、大会前の走り込みなんて、ぜんぜん楽しくないんですよ〜(笑)。ただただ走るだけ。つまんないです。でも、旅行で海外に行くときは、必ずシューズを持って行って、朝ふたりで走るんです。これはモチベーションが上がりますね」

旅行先で楽しむランニング、いわゆる “旅ラン”。

知らない土地であってもスマートフォンがあれば迷うこともないし、何より走りながら観光を楽しめるとあって、ハマッているランナーも多いのだ。

「ニューヨークでセントラルパークを走ってると『僕たち、ニューヨーカーみたいだね!』なんて楽しくなっちゃったりします。その街に住んでいる気分になれるんですよね。ほんと、東京で走っているときは全然なのに、そのときだけアガります!」

もともとジムに通って体づくりをしていたという八木さん。きっかけは、ギリシャのヌーディストビーチで脱げる体になりたい、という気持ちからだった。

「かなり絞って、納得できる体に仕上げて、実際にビーチへ行って、脱ぎました。脱いだんですが、ずっとうつぶせでした(笑)。やっぱり恥ずかしいもんですね」

毎年12月には女性の友だちとともに3人で那覇マラソンに出場している。現地にもラン仲間がいるので、大会後の打ち上げも含めて、ふたりともとても楽しみにしているという。(それでも、やはり練習は楽しくはないそうだが)

得意料理は角煮

そして、料理はふたりとも得意だ。平日夜は早く帰宅した方がつくっている。キッチンには寿司桶や圧力鍋など、ひととおりの調理道具が揃っている。

「僕たち、日本酒が大好きなんです。よくホームパーティをするんですが、みんなすごい飲むんで一升瓶がどんどん空きますよ。僕がつくるのは角煮とか、和食が中心ですね。カナダ仕込みのカリフォルニアロールも好評です」

走ること、料理、日本酒……、一緒に楽しめることが複数あることで、ふたりの絆もより太く固くなるのだろう。

08恋愛の安定は、心の安定

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思い悩むのが苦手

八木さんは、男の子を好きな自分に気づいた11歳から現在に至るまで、自分のセクシュアリティについて思い詰めたり、落ち込んだりした記憶がないという。

「うーん、あまり悩んだ覚えがないですね。たとえばオカマと言われていじめられたとしても、きっと僕は突っぱねられたと思うんです。そもそも、幸運なことに悪く言われることもなかったですし。人によっては、いじめられたことで深く傷ついて、自殺を考えてしまったりすることもあると聞きます。僕は、そんなタイプではないので。思い悩むのが苦手なんですよ。くよくよしてても仕方ない、寝ちゃおう!ってなっちゃう(笑)」

大学3年生のときに初めてカミングアウトするまで、自分のセクシュアリティについて誰かに打ち明け、相談することもなく過ごしてきた。

「男の子も女の子も好きな自分が、けっこう好きでした。なんて平和的な人間なんだろうって」。冗談めかして八木さんは言うが、自分を受け入れ、好きでいられたからこそ、誰かに救いを求めたくなるようなアイデンティティークライシスに陥ることがなかったのだろう。

付き合いの長いカップルばかり

さらには、初めて付き合った相手が生涯をともに過ごせるような人物だったことも、心の安定を支えているように思う。

そう、同棲中のパートナーは八木さんにとっての初めての同性のパートナーなのだ。

「パートナーと一緒に暮らしていると、不思議と交流関係もゲイカップルが多くなるんです。みなさん、付き合って10年くらいは普通ですよ。恋愛が長続きしないことで悩んでいるゲイの人も多いと聞きますが、僕の周りは付き合いの長いカップルばかりですね」

だからこそ、“気づいたら10年経ってた” と思うほど自然に、八木さんとパートナーは長い時間を共有できているのだろう。

09ゲイカップルの同棲事情

男性ふたりで住むのはお断り

同棲の始まりは、八木さんが「パートナーの家に転がり込んでから」とのこと。

しばらくそのままで暮らしていたが、犬も飼いたいし、もっと都心に住みたいし、と転居を考え始めた。そんなとき、知り合いのゲイカップルから住んでいるマンションに空きがあると聞き、不動産屋へ赴いた。

「それまでも何件か、男性ふたりで住むのはお断りって言われたんですが、なんと友人カップルから紹介されたマンションでも窓口で断られたんです。え、でもすでにゲイカップルが住んでるじゃないかって言えるはずもなくて。はじめはルームシェアがダメだと言われたので、いやいや僕たちはパートナーですって伝えても、やっぱりダメで。それでも諦めずに掛け合ってみたら、窓口の方が管理会社の本部に確認してくれて、やっとOKが出たんです。ダメって言われても引き下がらずに、交渉したほうがいいと思います。だって、断られる理由がないですもんね」

拭いきれない偏見も

同性同士で部屋を借りる場合、難航するケースはまだまだ多い。

第一に、ルームシェアがNGの物件が多いためである。ルームシェアでは、片方が出て行ってしまうと家賃の支払いが難しくなってしまい、契約解除となることを懸念してのことだ。

同性同士では、友人ではなくパートナーだとお互い認め合っていたとしても法律上は認められていないため、どうしてもルームシェアと見なされてしまい、断られてしまうことがあるのだ。

そして、渋谷区に続いて世田谷区でも同性パートナーシップに関する条例等が成立し、LGBTへの理解が進む現在においても、やはりまだ偏見は拭いきれてはいない。大家側が、他の入居者が嫌がるのではないかと心配することもあるのだ。

しかし、パートナーシップ証明書や互いを後見人とする公正証書などを提示すれば、ルームシェアがNGだからという理由で、同性同士の賃貸契約が断られることはないはずだ。そういった事例が今後さらに増えれば、同性カップルにとっての賃貸契約の困難は解消されていくだろう。

10ふたりでのんびりと過ごしたい

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大切なのは “ほうれんそう”

「最近では激しいのは減ったけど、たまに喧嘩もしますよ。でも、絶対に引きずらない。喧嘩しても寝たら忘れちゃう。それも長続きの秘訣ですかね(笑)」

最近の喧嘩の原因は、パートナーが食事中にパソコンに向かって仕事をすること。ジャーナリストという仕事柄、ときに24時間体制になってしまうのも仕方ないと理解していながらも、やはり、食事中くらいはゆっくりふたりで会話を楽しみたいのだ。

「あと、一緒に暮らすうえで大切なのは“ほうれんそう”。報告、連絡、相談の3つですね。残業で遅くなると分かった時点で連絡を入れたり、週末の予定を報告し合ったり。僕たちには犬もいるので、餌や散歩などを分担するためにも、なおさら大切なんですよ。それなのに、直前に『実は接待があって遅くなる、散歩よろしく』なんて言われて、こっちはこっちで残業してたりなんかすると、ちょっと切れちゃいますよね」

しかし、そうやって八木さんがプンプンと怒っている姿を想像すると、とても微笑ましい。

なんだかんだ言っても、12年も一緒にいるほど仲がよいのだ。

将来のことはフンワリと

最後に、これからのことを聞いた。

「将来は、ふたりでカフェとか、店をもちたいですね。かといって、資金を貯めているわけじゃないんですが。ふたりとも沖縄が大好きなので、向こうで家を買って……とかも考えています。カフェは、もちろん誰もが集えるオープンなカフェにしたい。あ、でも、彼はタバコが苦手なので、全席禁煙になっちゃうかも」

将来は一緒にカフェを。では、結婚については、どのように考えているのだろう。

「もしかしたら沖縄ではなく、海外に住むことになるかもしれないし、そこが同性婚を認めている国であれば、するかもしれないし。是が非でも結婚したいという感じでもないんです。正直言うと、主夫になりたいんですよ。って言ったら、彼も主夫になりたいそうで。生活費は、どうするんでしょうね(笑)。まぁ、将来のことはフンワリと、そんな風に考えています。だって、僕たちの環境が、今後どう変わっていくかも分かんないですから。フンワリでいいんですよ」

フンワリと軽やかに。しかし八木さんの手は、しっかりと確実に、パートナーの手を握っている。これからも、きっと。

あとがき
昔からの友人に会ったような笑顔で、迎え入れてくれた。「そんなに悩んだことがないから、話すことあるかなぁ(笑)」亨さんと話しをしていると、幸せの出どころに気づく。外からやっては来ない、内側からなのだと■「パートナーとして紹介してもらった時、すごくうれしかった」と。愛する人とだからこそ、「恋人」や「家族」と言うグループ名で他者から受け容れて欲しい時もある。亨さんの “うれしい” は、安らかな居場所を得たような想いだと感じた。(編集部)