INTERVIEW
等身大の「私」を、まだ出会っていない人たちへ届けませんか?
サイト登場者(エルジービーター)募集

ひとりひとりが、安心して暮らせる社会をめざして【後編】

ひとりひとりが、安心して暮らせる社会をめざして【前編】はこちら

2017/10/10/Tue
Photo : Mayumi Suzuki Text : Yuko Suzuki
中村 隆敬 / Takanori Nakamura

1983年、神奈川県生まれ。中央大学商学部4年生の時、公認会計士の資格を取得。大学卒業後、監査法人勤務を経て生命保険会社に入社、ライフコンサルタントとして様々な家庭のコンサルティングを行っている。LGBTに向けライフプランに関するセミナーを開いたり、個人的にも相談に応じるほか、さまざまなイベントにも参画。2016年には「LGBT成人式@埼玉」で総合司会を務め、東京都西東京市でLGBT&Allyのコミュニティ団体「レインボーコミュティ西東京」を立ち上げた。

USERS LOVED LOVE IT! 67
INDEX
01 友だちから、突然の告白
02 力になりたい
03 人間、何でもあり!
04 誰にでも、自分の人生を生きる権利がある
05 天職に出会った
==================(後編)========================
06 あるレズビアンカップルの夢
07 一歩、でも大きく前進
08 自分の役目は ”通訳”
09 「体感すること」の重要性
10 マイノリティとマジョリティの二人三脚で

06あるレズビアンカップルの夢

問題は、保険金の受取人

友人からカミングアウトを受け、LGBTに関わり始めたのが2015年の1月。

ライフプランのセミナーを開いたのはその数か月後のことだった。

セミナーに参加してくれたレズビアンのカップルから後日、「私たちは真剣に将来のことを考えたいので」と、個別相談の依頼を受けた。

「おふたりとは、住宅購入や子育て、お仕事を続けたいかどうか、教育資金の準備や老後の年金、介護など、いつものライフプランニングと何ら変わらないお話をしました」

その話を受け、普段と同じようにライフプランを立てた。
ふたりの望みを叶えるために必要なこと、お金の面、家族との関係、職場の環境、その他は・・・・・・という話をした。

「そのライフプランが守られるように、生命保険を活用することで万一の保障や資産形成ができます、とお話しました」

問題は、いざという時の保険金の受取人をどうするか。

壁は高かった

自分が勤務する会社では、その当時は保険金の受取人に「同性パートナーも認める」というルールはなかった。

「第三者受取については、異性カップルだとしても、社会状況の変化に応じて、婚約中の間柄ならいいとか、内縁関係でも条件を満たせばOKなど、受取人として認められる範囲が徐々に広がってきました」

世の中の流れの中で、同性パートナーについても保険金の受取人として認めるという動きが、他社ではすでに進み始めていた。

「それなら、うちでもぜひ、と本社に話を持っていったのです」

本社の反応は、可能性は否定しなかったものの「ルールがないので、むずかしい」。

壁は、想像以上に高かった。

07一歩、でも大きく前進

希望を捨てたくない

さて、どうしたものか。

考えている最中に、渋谷区が同性カップルに対して「パートナーシップ証明書」の発行を始め、認定カップル第1号が誕生した。

時代が求めている。

当社でも早くルールの変更をと訴えかけた。

会社からは以前に「周囲の動向を見て考える」という答えを受けていたので、すでにルールを変更し同性のパートナーでも死亡保険金を受け取れるようにした同業他社の例を調べ、伝えた。

争点は、受取人と被保険者の関係性をどうやって証明するかだった。

同居をしていてもただのルームメイトではなく、内縁関係のケースのように「結婚に相当する関係」である必要がある。

「それを証明するものが、渋谷区やそれに続いた世田谷区の発行するパートナーシップ証明書等の書面なのですが、おふたりはいずれの区にもお住まいではなかったんです」

でも、希望を捨てたくない。

あきらめなくて、よかった

何か替わりになりそうな物をお持ちですかと尋ねると、ふたりから「海外で受け取ったマリッジサーティフィケート(結婚証明書)を持っている」という話を聞いた。

「なんでも、おふたりのご両親ともに理解があって、けじめとして結婚式を挙げるようにと言われたのだそうです」

「ただ、日本では挙式をしても形だけで終わってしまうから、同性婚が合法化されたアメリカに渡ったと聞きました」
アメリカでは結婚に際し、「マリッジライセンス(結婚許可証)」が必要となる。

これに、お金と書類を整えて役所に提出して取得したら、マリッジサーティフィケートを発行してもらえるのだ。

「それを持っているということは、ふたりの関係は少なくともその州では公に認められている。最終的に、この書類と住民票の合わせ技で本社からOKが出ました」

2015年11月、社内では初めてとなる同性パートナーを受取人に指定した契約が成立。申込みから約1か月が経っていた。

「あきらめずに粘ってよかったと、心から思いました」

08自分の役目は ”通訳”

LGBTの声なき声を伝えたい

生命保険は人の命とお金が関わるもの。そう簡単にはルールは変えられない。

だが、受取人のルール変更に時間がかかった理由は、それだけではない。

やはりLGBTに対する理解度の低さが大きな障害となっていたと思う。

「僕自身、友だちのカミングアウトがなければ、LGBTについて知る機会もなかったでしょう」

「たとえ知る機会に恵まれても、当事者の方と真剣に話しをして生の声を聴かなければ、その悩みや苦しみを理解することはできなかったと思います」

「僕は幸い、友だちを通して多くのLGBTの方々と接し、生の声に触れることができ、そのおかげで少しずつ理解が深まってきました」

そこで自分が、LGBTの人たちと、LGBTを理解していない人たちをつないでいこうと考えた。

「LGBTを知らない人、知っているけど理解できていない人に、僕を介して少しずつでも理解が広まればいい」

「それが僕の立場で果たせる役割だと思っているんです」

身近なところから少しずつ

その後、現在に至るまでの2年半、同性パートナーを受取人に指定する契約は何件か申込みがあったが、成立まで辿りつけた契約は自分が取り扱った3件のみらしい。

「成立にまで至らないのは、健康面の理由であったり、ご家族の理解が得られていなかったりという事情もありますが、私の所属する生命保険会社は同性パートナーの受取がOKだとあまり知られていないのでお申込み自体が多くはありません」

「セクシュアリティの話はとてもデリケートな問題なので、お客さまとしてはまったく知らない人にはなかなか相談できないのだと思います」

まずは会社全体としてセクシュアルマイノリティへの理解を深め、LGBTの人たちが相談しやすい土壌を作りたい。

現在、ライフコンサルタントの現場でセクシュアルマイノリティの問題に関わっている仲間が2人いる。

「3人で、今まさに社内で ”通訳” をしている真っ最中」

「社内のネットワークを活用して、あちこちの部署でセクシュアルマイノリティ関連の勉強会やミーティングの機会を持たせてもらっています」

09「体感すること」の重要性

自分を他者に置き換えてみると

今年4月に新任マネージャー向けに行われた研修では、人権ハラスメント研修の一環としてLGBTを取り上げ、自分がそこに講師として招かれた。

「1時間の研修の中で、一方的に僕から話をするだけでなく、二人一組でロールプレイングをしてもらったんです」

それは、自分がLGBTの当事者になったつもりで同級生にカミングアウトをする、というものだ。

「これは大きな手応えがありました」

「LGBTの気持ちになってカミングアウトをするという経験をしたら、『この人と二度と会えなくなるかもしれない』『嫌われたらどうしよう』といった、当事者の不安や恐怖や勇気が体感でき、ようやく一歩、LGBTの人たちとの間が縮まった気がすると」

参加者の多くから、「LGBTのことをわかっていた気になっていたけど、全然わかっていなかった」「LGBTも含めていろいろなマイノリティの方に接する上で大きな気づきを得られました」という声が寄せられた。

「LGBTのことを理解した上で、それでも自分は彼らと距離を置きたいというのなら、それは仕方がない」

「でも、理解しようとする前に拒絶するのはナシにしようよ、というのが僕の気持ちなんです」

「今、会社には約8000人の社員がいます。全員にすぐに理解をしてもらうのは無理でも、まずは所属支社の100人とか本社の○○部〇〇課の10人とかに理解をしてもらう」

「するとそこから派生して、いろいろなところで少しずつ理解が深まっていく・・・・・・ということを目指しています」

お客さまが、より心を開いてくれるように

LGBTの人々と関わるようになってから、お客さまに対する話し方や態度が変わったと、自分でも思う。

「もともと『何でもあり』の人間ですから(笑)、偏見を持たず決めつけず、できるだけ可能性を否定しないような言葉を選んで話すようにしていました」

「さらに今は、目の前の人がもしもLGBTであったとしても失礼のないような話し方をするようになりました」

以前から、「ご主人」「奥様」ではなく「パートナー」という言葉を使うようにしてきたが、それだけではなく「いろいろな家族の形があっていいと思っていますし、同性同士のカップルのお話をうかがうこともあるんですよ」と自分から話題にするように。

「すると、お客さまがLGBT当事者でなくても、ふっと心を開いてくださることがあるんです」

ある人は、自分の生命保険について相談に乗ってほしいということだったが、そのうちに「実は弟が障害を抱えている」と話しだした。

「よくよく聞くと、その方が本当に心配をしているのは自分のことではなく、離れた実家で暮らす弟さんや、弟さんを支えているお母様の暮らしのことだったんです」

単に、目の前の人のライフプランを考えればいいという気持ちでいたら、そういう話を聞き漏らしていたかもしれない。

つまり、社内の皆がLGBTに対する理解を深めれば、そうやってきめ細かいサービスを届けられることにつながるはずだ。

「そうすれば助けられる家庭がもっともっと増えて、みんなが安心して暮らせる社会の実現がぐっと近づくと思うんです」

10マイノリティとマジョリティの二人三脚で

当事者ではない自分ができること

実は、ずっと気にかかっていることがある。

当事者ではない自分がこうした活動をすることについて、当事者の人たちはどう思うのか。特に活動に関わり始めたころはそればかり気にしていた。

「何もわかっていないくせに、おまえになんか言われたくない。そう思われるんじゃないかと」

面と向かってそう言われたことはないが、単に自分の耳に届いていないだけなのかもしれない。

「ただ最近は、『当事者ではない人がこういう活動をしてくれているのは心強いです』『セクマイ同士じゃなくても普通に話せるのはうれしい』とよく言われるようになりました」

「そういう声を聞くと、僕が関わることにも意味があるんだと、励まされます」

LGBTが当たり前の社会になるために、はじめの一歩はマイノリティの人が踏み出す必要があるかもしれない。

でも、その後は、マジョリティにもできることはたくさんあると思っている。

社内で ”通訳” を務めることも、そのひとつだ。

「マイノリティの人が前に出て傷ついてしまうなら、そこを僕は護ってあげたいし、マイノリティの人の話に聞く耳を持たない人がいたら、僕が代わりに話しに行きます」

「ただ、本音のところでは、マイノリティの人でなければわからない、僕には語れないところがあるでしょう」

だから、LGBTの人たちと二人三脚で進めていきたい。

地元でも活動をスタート

友人とその仲間、そして会社と活動の場を広げてきたが、1年前からは地域での活動にも力を入れ始めた。

セミナーやイベントに参加すると、それぞれの地域で「LGBTの居場所づくり」をしている人たちに出会う。

悩みや迷いを打ち明けられず孤立しがちなLGBTが、何も気にすることなく語り合える交流の場があればいいのにと、自分も思っていた。

「ふと考えると、自分が暮らしている東京・西東京市にはそういう居場所がなかった」

「でもきっと、必要としている人はいる。ただ、当事者でもない自分がいきなり『居場所をつくります』と手を上げるのもなあと、考えあぐねていました」

当時、西東京市では「一人ひとりが自分らしく自立し、いきいきと個性と能力を発揮できる社会をめざして」男女平等推進センターを設置し、委員を募集していた。

「その委員に応募して採用されたので『これから西東京市でも自分ができることをしていきます』とネットで発信したら、それをたまたま地元の方が見つけてメールをくれたんです」

ほかにも仲間を集めて、計5人で「レインボーコミュニティ西東京」を立ち上げた。

まだ、座談会を数回開いただけだが、そうやって少しずつでも居場所の存在が知られていけばいい。

そのうち、ふらりと立ち寄ったような感じで参加してくれる人が出てくるかもしれない。

「そんなふうに、LGBTの人たちが構えず、気楽に話ができる場所をつくりたい。そしてひとりひとりが安心して暮らせる社会に近づけたらいいなと思うんです」

何でもあり、のコミュニティはきっと楽しい。そう思うからだ。

あとがき
まるで生まれ育った家に帰るような安心感。とても誠実だけど、それは親しみを感じる程よさ、絶妙なバランス感の中村さん。「ニュートラルなスタンスで色々な人と付き合いたい」という。ボトムアップ、トップダウン両方の大切さを知っている。異なる立場を理解することは昔から、今も息づいている■考えを詰めると思い浮かぶのは極親しい人・・・家族、友人、知人?? だけど、心を打ち明けて一緒に考えてくれる先が、外の世界にもあったらどうか。(編集部)

関連記事

array(1) { [0]=> int(5) }