INTERVIEW
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ひとりひとりが、安心して暮らせる社会をめざして【前編】

世の中の関心の高まりとともに、LGBTフレンドリー(アライ)を表明する企業が増えてきている。とくにLGBTの暮らしに直接関わる商品やサービス、たとえば携帯電話の通信料金の家族割引に同性パートナーを含めるなどが、次々と登場。生命保険業界でも、保険金受取人に同性パートナーを指定できるよう取り扱いを拡大するところが増えてきた。中村さんは、そのうちの1社で、同性パートナーの生命保険を社内で初めて担当した人。しかもそれは社命ではなく、自ら会社に働きかけたのだという。それは、なぜ? その理由には、やさしさと愛があふれていた。

2017/10/07/Sat
Photo : Mayumi Suzuki  Text : Yuko Suzuki
中村 隆敬 / Takanori Nakamura

1983年、神奈川県生まれ。中央大学商学部4年生の時、公認会計士の資格を取得。大学卒業後、監査法人勤務を経て生命保険会社に入社、ライフコンサルタントとして様々な家庭のコンサルティングを行っている。LGBTに向けライフプランに関するセミナーを開いたり、個人的にも相談に応じるほか、さまざまなイベントにも参画。2016年には「LGBT成人式@埼玉」で総合司会を務め、東京都西東京市でLGBT&Allyのコミュニティ団体「レインボーコミュティ西東京」を立ち上げた。

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INDEX
01 友だちから、突然の告白
02 力になりたい
03 人間、何でもあり!
04 誰にでも、自分の人生を生きる権利がある
05 天職に出会った
==================(後編)========================
06 あるレズビアンカップルの夢
07 一歩、でも大きく前進
08 自分の役目は ”通訳”
09 「体感すること」の重要性
10 マイノリティとマジョリティの二人三脚で

01友だちから、突然の告白

ある日、「ゲイなんだ」と告げられて

今から2年前の1月のこと。

学生時代の同級生で、卒業後も付き合いの続いている友人から、「相談がある」との連絡が入った。

彼からは数年前に「今度、友だちと会社を起こそうと思っている」という話を聞いていた。

その時、会計士の立場から少しだけお金のことについてアドバイスをしたことがあった。

「だから、いよいよ会社を立ち上げるんだな、と」

会社設立に際し、出資金や税務関係などはどうすればいいのか、具体的な話を彼は聞きたいのだろう。

そう思って、彼と会う約束をした場所に向かった。

「こういう活動を始めたんだ」

と、彼が差し出した名刺には、会社ではなく別の法人の名前が書かれている。

そして、彼はこう言った。

「実は、僕がゲイなんだ」

事実をすんなりと受け止めた

彼から出てきた言葉は自分が予想していたものとは違ったが、自分でも不思議なほど、驚くことは全くなかった。

ただ、意外ではあった。

「長年つきあっているけど、たとえば言葉遣いやしぐさが、他の友人たちとちょっと違うなとか、そんなふうに感じたことはありませんでした」

「何より高校時代、彼には彼女がいたんです」

「今考えれば、彼も高校生の頃はまだ、自分のセクシュアリティについてはっきりしないまま過ごしていたのかもしれません」

でも、本人が「ゲイなんだ」と言うのだから、そうなのだ。

「へー、そうなんだ」

その事実を、すんなり受け入れている自分がいた。

02力になりたい

初めてLGBTの実態を知る

「ゲイ」や「レズビアン」という言葉は知っていたが、自分の身近にいるとは想像もしなかった。

「LGBT」という言葉は初めて知った。

男だからといって女性を好きになるとは限らない、体の性と心の性が違うことがある。

それが理由で、好きな人と一緒にいることがむずかしかったり、社会的に過ごしにくかったり、生活に困っている人もいる・・・・・・。

「いろいろと彼から教えてもらって、ショックを受けました。LGBTの人たちはそんなに大変な思いをしているのかと」

「しかも、そのうちの一人が自分の友だち。目の前にいる彼なのだとわかったら、自分に何かできることがあれば力になりたいと思いました」

友人は、同じ境遇の仲間と一緒に「いつかみんなで安心して暮らせる世の中を作ろう」という思いで団体を立ち上げたのだという。

ただ、友人も含めメンバーは本業を持っているため、たとえば税務申告ひとつとってもままならない。

かといって、頼れる人もいない。

「どうしたものかと考えている時、僕の顔が浮かんだみたいです。中村だったら格安でやってくれるんじゃないか、って(笑)」

自分もメンバーの一員に

とはいえ、自分は今、会計士ではなくライフコンサルタントとして仕事をしている。

税務申告にしても直接関わることはできない。

ライフコンサルタントは、住宅ローンや子どもの教育資金、老後の年金、介護や相続といった、ありとあらゆる生活の相談に乗り、とくにお金については専門的にアドバイスをしたり解決を図るのが仕事なんだ・・・・・・と説明すると、友人の顔がパッと明るくなり、こう言った。

「それは、世の中のLGBTにとってもものすごく必要な情報で、役に立つ知識だと思う」

「もしよかったら、一緒に動いてもらえないかな」

自分の知識が役に立つなら。

大切な友人の力になれるなら。

「もちろん、よろこんで」

その場で、自分も活動に協力することに決めた。

03人間、何でもあり!

家族の形は一つじゃない

友人にゲイであることを打ち明けられてもとくに驚かず、しかも、その場で彼らの活動に協力することにしたのはなぜなのか、と考えてみた。

もともと自分は、よくも悪くも「人間、何でもあり」と思っている。

「もともとといってもまあ、30年近く生きてきてそうなったわけですけど(笑)」

「・・・・・・と考えると、自分の生い立ちというか、育った環境が影響しているのかもしれません」

両親とも秋田県の農家の出身で、小学生の頃まで夏休みになると家族で秋田に帰っていた。

「父親も母親もきょうだいがたくさんいるので、おじいちゃんおばあちゃんやおじさんおばさん、そして子どもの僕にはよくわからなかったけれど親戚らしい人たちもいっぱいいて(笑)」

みんなで田んぼで蛙をとったり、畑で採れた野菜をささっと水で洗ってそのまま食べたり。

自分が暮らしている場所では体験できない、そんなことが楽しくて、秋田の人たちと一緒に過ごすのが大好きだった。

そのうち、父親はもともと違う家で末っ子として生まれ、すぐに「中村家」に養子に出されたのだと知る。

「僕が幼すぎて『養子に出される』のがどういうことなのか、わかっていなかったこともありますが(笑)、そういう家族の形もあるんだなあと受け止めただけでした」

実際、みんないい人たちでとても仲がよかったから、父親がもとは「中村」ではなかったと聞いても、「へー、そうなんだ」としか思わなかったのだ。

家族でも、生き方はいろいろ

父親や母親だけでなく自分自身も姉が1人、妹が3人と、同世代の友人にくらべると、きょうだいが多い。

そのため、両親はお金に苦労をしていた。

父は大工、母は看護師という仕事を持っていたので、食べるのに困るということはなかった。

とは言え、子どもが5人もいれば、両親が毎日まじめに働いても家計はギリギリ。

きょうだいのうち大学に進んだのは、自分と妹1人だけ。

「姉はコミュニケーションが少々苦手、ほかの2人の妹のうち1人は高校を卒業してすぐに結婚をしたりと、まあ、いろいろなことがありまして」

基本的には家族の仲はよかった。

子どもながらに、両親が自分たちのために一生懸命働いてくれていると感じていたからだろう。

父親も母親もしつけは厳しかったが、親の考えを一方的に子どもに押しつけることはなかった。

自分は子どもの中で唯一の男の子だが、「男らしくしなさい」と言われたことは記憶にない。

父親に「俺の後を継いで大工になれ」と言われたこともない。

「忙しくてかまっていられない、というのが本当のところかもしれません(笑)」

おかげで、大人たちが常識だと思い込んでいる固定観念や偏見のようなものを植えつけられることもなく、気がつけば「人間、何でもありだなあ」と思うようになっていた。

04誰にでも、自分の人生を生きる権利がある

自分らしく生きるために重要な、お金のこと

団体の活動で初めて行ったのがLGBT向けのセミナーだ。

LGBTであることなどがきっかけで、職を得られなかったり、夢をあきらめなければいけなかったり、生活に困っている人も少なくないと聞いた。

だが、LGBTにも「自分の人生を生きる」権利がある。

現状、乗り越えなければいけないハードルがあるかもしれないが、自分はどう生きたいか具体的にライフプランを立ててみる。

そのために必要なことを一つ一つクリアしていけばきっと、自分が望む人生を送れるはずだ。

「だから、まずはライフプランを立てましょう、という内容のセミナーを開いたんです」

とくにお金については、よりよい情報と知識を伝えたかった。

「自分らしく生きるためにも『お金に困らないこと』は大切ですから」

「第二の中村家」をつくりたくない

お金の苦労は身にしみている。

高校生の頃、苦しい家計の支えになればと簿記の勉強を始めた。

「クラスメートたちは、英検や漢検の勉強をしていたんですけどね。でも、母親が忙しい時間をぬって毎日家計簿をつけている」

「それを自分が代わりにやってあげられたらいいな、と思ったんです」

高校3年生で簿記3級、商業簿記2級の資格を取得。大学も、簿記を選択して受験できるところを探した。

大学に進むと、簿記の資格を活かし公認会計士の資格取得を目指す。

努力のかいがあって、大学4年生の時に公認会計士の試験に合格した。

「とはいえ、まだ自分でお金を稼ぐことはできないので、家計を助けるまでにはいきませんでした」

それどころか、自分の大学進学でお金がかかったことで、妹の一人は大学受験をあきらめた。

「本人はそんなふうには言っていません。でも、彼女は家計を気にして大学進学を前向きに考えられなかった、と僕は思っているんです」

「やりたいことがあって目標もあるのに、お金がないからとあきらめてしまうのは、本人がかわいそうなだけでなく、社会的にも大きな損失だと思うんです」

自分らしく生きるためには、翻って社会に貢献するためにも、やはりお金は必要なのだ。

05天職に出会った

ライフコンサルタントという仕事

大学卒業後は監査法人に就職し、公認会計士の仕事に就いた。

もちろん、その仕事にもやりがいを感じていたが、次第に、もっと個人の人生に関わる仕事がしたい、もっと目の前の人から「ありがとう」をもらえる仕事に就きたいと思う気持ちが強くなっていった。

「ひとりひとりが自分らしく生きていくために役立つような仕事がしたい」と。

そんなある日、仕事に向かうため地下鉄のホームで電車を待っていると、見知らぬ人に声をかけられた。

「優秀なビジネスマンの方と情報交換をさせて頂いています」

差し出された名刺には、大手生命保険会社の名前が記されていた。

あまりに突然のこと。

あやしい勧誘ではないか・・・・・・と思ったが、何か心に引っかかるものがあった。

聞けば、ライフコンサルタントとは単に生命保険を売るセールスマンではなく、お客さまの生涯にわたってその人の望む人生をサポートし続けるコンサルタントだという。

「それは、『個人の人生に関わり、その人の役に立つような仕事』を望んでいた自分にぴったりでした」

結婚直後だったが妻の理解も得られ、勤めていた会社を辞めて転職した。

数々のお客さまの人生に触れて

ライフコンサルタントとして働き、多くの個人と接して感じることは、当然ながら、誰一人として同じ人生を歩んではいないということだ。

実に、人間はいろいろ、生き方もさまざまなのだということを身をもって理解した。

「自分の中にあった『人間、何でもあり』の考えが確かになったのには、この仕事が関係しているかもしれません」

駅のホームで声をかけてくれた会社の人は、自分から何を感じ、何を見たのだろう。

それについては、いまだ明かされていない。

でも、人と関わるほどに「天職に出会った」という思いを強くする。

だからこそ、友人を始めさまざまな不安や悩みを抱えているLGBTの人たちの力になりたい。

そして、きっとなれるはずだと確信した。


<<<後編 2017/10/10/Tue>>>
INDEX

06 あるレズビアンカップルの夢
07 一歩、でも大きく前進
08 自分の役目は ”通訳”
09 「体感すること」の重要性
10 マイノリティとマジョリティの二人三脚で

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