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生きるって大変だし、つらい。でも楽しいことがあって、ここにいるだけで素晴らしい【後編】

生きるって大変だし、つらい。でも楽しいことがあって、ここにいるだけで素晴らしい【前編】はこちら

2020/04/25/Sat
Photo : Tomoki Suzuki Text : Rio Homma
貝瀬 知邑 / Shiou Kaise

1991年、新潟県生まれ。小学校6年生の頃に女の子を好きになったことがきっかけで、自分の性別について考え始める。学生時代は体調不良に悩まされながらも、大好きなファッションとクリーニング屋さんでのアルバイトとの出会いにより、少しずつ回復。現在はファッションコーディネートなどを載せたブログの運営や、心理学の勉強に勤しむ毎日を送っている。宝くじや競馬も好きで、とても多趣味。

USERS LOVED LOVE IT! 33
INDEX
01 “ファッション” という魔法
02 優しい母、怖い父、正反対の兄
03 一人称は自然と「僕」だった
04 体調不良で学校を休みがちに
05 ゆらぐ性別。自分は何者なのか
==================(後編)========================
06 女性らしいファッションに違和感
07 運命を変えたクリーニング屋
08 FTMでパンセクシュアルという自認
09 ありのままで生きていい
10 悩んでいる人に伝えたいこと

06女性らしいファッションに違和感

服はあるのに、着たい服がない

「ギャル系とか女の子っぽいファッションをしていた時も楽しかったし、着ることによって自分に自信を持てたんですけど、恰好も少しずつ変化していって」

10代後半になると、MOREなど大人の女性向け雑誌を読むようになる。
しかし、女性らしい恰好をして鏡に立つ度、嫌だなという気持ちが沸き上がってきた。

「それでも服は好きだったし、女の人の華やかなファッションを見るのも大好きだった。けれど、なぜか自分が着ると強烈な違和感があったんです」

「服があるのに、着たい服がない! 私の探してる服じゃないものばっかりだな、と」

その時はどうすればいいのかがよくわからなかった。しかし、19歳くらいの頃、マニッシュな恰好が流行った時に、気付いた。

“好き” の感覚が気付かせてくれた

「スーツみたいなセットアップを着た時に、すっごく安心感というか “これすごい好き” みたいな感覚があって」

「その後にメンズのスーツで小さいのを着てみたら、レディースよりメンズの方がカッコイイ! と思うようになりました」

それからは、ひたすらメンズのファッション雑誌や服を見るように。

「年齢的にも世間的にも、大人の女性になっていかなきゃだめだ、と思っていたけれど、自分に似合うと思える服を着たことで、その気持ちはひっくり返りました」

「まさか『男性の服』っていう選択肢があると考えてなくて」

「自分の身体が女だけど心が男っていうのもハッキリとわかっていなかったので、自分を女と思い込ませるためにも、女性らしい格好をしていました」

しかし社会に出るに備えて、自分の想いをそっと隠した部分もある。

「一人称は、“私” に変えました。社会に出た時に見た目が女で “俺” とか言うわけにはいかないから、男でも女でもビジネス上使える “私” に」

最初は違和感があった一人称も、いつしか普通になった。

07運命を変えたクリーニング屋

クリーニング師の国家資格を取るまでに

「高校を辞めて17歳の11月くらいから8年近く、地元の個人でやっているクリーニング屋さんにアルバイトで入って、その後フルタイムで働いていました」

「何かアルバイトしてみようかなと思ってる時に、たまたまお手伝いがほしかったみたいで、お店の方から声をかけてくれたんです」

「そこで服の生地のこととか洗濯の仕方とか、いろんなことを教わりました」

「本当に救われたし、自分もすごく成長できました。このバイト期間がなかったら、あの頃の私はどうなってたんだろう、ってくらい」

社長はすごく面白い人だ。

「おしゃべり上手だし、クリーニング師としての技術がすごいんです」

「特に着物の染み抜きが上手で、県外からわざわざ、しみ抜きを依頼するお客さんもいるほど」

奥さんもおしゃべりが大好きな楽しい人だ。私と服の話をしている時が一番楽しいと言ってくれていたのが、すごく嬉しかった。

「クリーニング屋の皆さんが本当に、育ててくれたみたいな感じです」

「最初は中の仕事だったので、出来上がってきたものの検品とか梱包とかそういうのをやっていました」

奥さんが色々話を聞いてくれて、一緒にしゃべっているだけで楽しかった。
服が大好きだから、服の生地に触っているだけで落ち着いた。

「最後、何か形に残してからやめたいなって思って、クリーニング師の国家資格試験を受けさせてもらいました。なんとか1回で資格を取ることができました!」

今まで履歴書に書く資格は、運転免許くらいしかなかったが、そこに“クリーニング師の国家資格”が追加された。

第2の実家での8年間

「クリーニング屋での約8年間は私の中ですごく大きい。第2の実家みたいなところです」

仕事を始めたばかりの頃は、本当に何もできなかった。接客をするのも電話をするのも怖かった。

けれど、どうにかして貢献したかった。

「ある時、いつも通っていたセレクトショップに行ったら、人手不足になる時だけバイトに来ませんかと誘ってもらったんです。その時初めてショップ店員を体験しました」

それまでは接客もできなかったが実際にお店に立ってみると、なんとなくできる気がした。

「ぎこちなくはあったんですけど、自分がおすすめしたものとか着こなし方とかお客さんが気に入って、買ってくれる人がたくさんいて」

そして自信をつけて、クリーニング屋に戻った。

戻ってからは接客もやらせてくださいとお願いし、それからは少しずつ、出来ることが増えていった。

目についたできることは全部自分でやれるようになる。

アルバイトを始めた頃には、想像もできない変化だった。
自分でも着実に成長をしていると感じられた。

08 FTMでパンセクシュアルという自認

FTM? パンセクシュアル? かもしれない

「今まで恋した人は、7人くらい。男女比は半々くらいです」

自分がセクシュアルマイノリティ当事者であるという考えが確信に変わったのは21歳の時だ。

「男の人と付き合い、初めて身体の関係を持ったんですけど、とても抵抗があったんです」

「その時のパートナーに初めて正直に自分のことを話して、自分の心は男なんだって自覚しました」

17、8歳くらいになると、セクシュアルマイノリティについての用語もより多く知るようになった。

もしかしたら、自分はこれにあてはまるのかもしれない・・・・・・。

「パンセクシュアル自体はそんなに困ることじゃないかな、むしろどっちでも付き合えるし、と思いました」

「それ自体は気にしなかったんですけど、自分が心の中では男だと思っていると気づいた時は、どうしたものかなって」

執拗に女性らしさを求められたり、女であることをあまりにも意識されるとつらくなってしまうからだ。

「男と思え、って言われても難しいかもしれないけれど、もし男だと思ってもらった上で付き合ってくれたら、それは一番嬉しいです」

家族へのカミングアウト、友人へのカミングアウト

「家族に話してはあります。自分の心が男だって自覚した時くらいに、母親にまず伝えました」

「母親は理解できない部分があったみたいで、じゃあなんで男の人と付き合うの? みたいな話になって・・・・・・」

両親はいまだにその話にあまり触れてこない。腫物に触るような感じだ。

信じたくない気持ちがあるのかもしれない。

「女の子に生まれたのだから、本当は普通の女の子として生きてほしい、という思いがあるんだろうな、と思います」

あからさまな否定はされなかったが、「そんなの勘違いだよ」と言われもした。

「長い間悩んできたことで、自分も口にするのに勇気がいったので、母にそう言われた時は、ちょっと傷付きました」

「でも、まあそうだよなって。少しずつわかってくれたらいいなって」

友人にも話した。

今はそういう話題があればオープンに話すようにしている。別に悪いことをしているわけでもないし、隠す必要もない。

「友だちに話した時、一番気持ちが楽になりましたね」

「どういう反応されるのかなって思ったんですけど、“私が私で変わらないんだったら別にいいんじゃない” って言ってくれて」

ありがたくて、涙が止まらなかった。

09ありのままで生きていい

あの頃の自分に言ってあげたい

「悩んでいた頃の自分には『何も恐れることないし、人の目なんか気にしなくていいよ』って言ってあげたいですね」

怖くても、動けばなんとかなる。

「やりたいことがあったら行動しなって」

「自分が男だとかなんだとか関係なく、やりたいことがあったらとりあえず動いてみなよって」

それでも怖いと言うなら。

「いきなり飛び込むのが怖くても、片足だけでも浸ってみない? と言いたい。そうすれば、ちょっと変わるかもしれないよ、って伝えてあげたいですね」

「周りの人にすごく支えられているな、っていうのは、今でも思います。周りの人のおかげで自分がいるって」

悩んでいる時、自分は一人だと思い込みがちだ。

しかし、周りを見渡すと、意外と沢山の人が自分のことを見守ってくれていることに気付く。

「チャーリーチャップリンの『うつむいていたら何も見つけられないよ』という言葉が好きです」

少し顔を上げただけでも、視界は広がるって思い出せるから。

心の中の性別は自由

「世間的には体が女性で心が男性だってなると、ホルモン注射や手術をする人が多いと思うんですけど、私は元々からだが弱くて、病院の先生からもおすすめされていないんです」

今のところ、治療を始めるつもりはない。

身体を壊してしまったら、せっかく性別を取り戻せても、一度だけの人生が台無しになってしまう。

体が女性のままでも、自分の心の中で、どう思うのかは自由だ。

「ありのままでいいから、自分はこういう人なんだと受け入れて、楽しいことや自分のやりたいことをやって生きていきたいです」

セクシュアルマイノリティに対して、“そういう人もいる” くらいの軽い気持ちで、世間でも当たり前になってくれたら嬉しい。

「身体の性別はつくりが違うから、どうしても分けられるのはしかたないなって思うんですけど、心の中までふたつの性別だけで縛られるのがすごくつらいです」

マイノリティも、マジョリティも、同じ目線で同じように考えられれば一番いいなと思う。

人間だということに、変わりはないのだから。

10悩んでいる人に伝えたいこと

誰かのちょっとした刺激になりたくて

2017年から、ファッションコーディネートやジェンダーのことを綴るブログを開設した。自分と同じように、服装に悩んでる人がいると思う。

「身体が女だと背が低かったりして、メンズ服を探してもなかなか合うのがないんです」

「自分が見つけたファッションを発信して、どこかの誰かが毎日ぴったりの服を着れたら、楽しくなるんじゃないかなって」

自分もファッションで明るくなれた。
だからこそ、見た目から入って内面が変わっていくのはありだと思う。

「もし悩んでいる人がいるなら、かっこいい恰好して自分に自信もって、悩まないで前向いて生きていってほしいです」

暇つぶしでも “なんだこいつ” でも、何でもいい。
好きになってもらわなくてもいい。

刺激があると、誰かの何かが少し変わるかもしれない。そんな刺激になりたくて、ブログを続けている。

「何もすることがなくて悩んでいると、色んなことを考えて思いつめちゃうと思うので、気軽に訪問してもらったら嬉しいです」

自分のことを責めなくていい

「生きてるだけでもすごいことだから、自分のことは責めなくていいし、今、そこにいるだけですばらしいことだから、悩まなくていいと思うんです」

ゆっくり休んだっていいし、何もかもきちんとする必要なんてない。
自分が男だと思っているからって、男らしく恰好つけなきゃいけない、そんなこともない。

「そのままの自分でいいし、かっこわるかったって、弱音を吐いたっていいんです。自分のように、ありのままで生きる選択肢もあるから、そんなに悩まずに、自分を一番大切にしてほしい」

今悩んでいる人に伝えたいことが山ほどある。

「あなたは一人じゃないよ」
「あなた自身のことを褒めてあげてね」

今つらくて大変だとしたら、今そこにいるだけで自分を褒めてほしい。

「生きるのは、大変だしつらい。だけど楽しいこともあるよ」

あとがき
魔法をかけてくれたファッション、クリーニング屋さんからもらった自信。知邑さんは、自分と向き合うようにゆっくりと話す。その瞳は、はかなく透明だった■[悩み]という言葉を知る頃にはもう、その中身は複雑だ。上手くいかなことほど、原因があって結果があると考える。でも、原因なんてわからないことも■春からずっと、頼りない毎日が続く。知邑さんと一緒に、大切な人と一緒に、チャーリー・チャップリンの言葉を味わおうーーー You’ll never find a rainbow if you’re looking down. (編集部)

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