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LGBTの仲間たちに出会えて、初めて心の居場所が見つかった【後編】

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2020/02/29/Sat
Photo : Taku Katayama Text : Koharu Dosaka
田中 史緒里 / Shiori Tanaka

1994年、福岡県生まれ。小学生で両親の離婚を経験し、2歳歳上の姉とともに父のもとへ。小5のときにいじめに遭い、「人に嫌われること」を極端に恐れるようになる。中学・高校と人目を気にして過ごしたが、上京してLGBTの仲間たちと出会ったことで心境が変化し、自分らしく生きられるように。2019年、女性の体に合うメンズライクなスーツ『keuzes(クーゼス)』を製造販売する事業を立ち上げた。

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INDEX
01 若き起業家
02 両親の離婚
03 つらかった小学生時代
04 二度といじめられたくない
05 「どうにでもなれ」
==================(後編)========================
06 閉ざされた世界
07 東京で訪れた転機
08 自分を成長させてくれた恋愛
09 プロジェクト始動!
10 「LGBTなんて普通」な社会に

06閉ざされた世界

「つながり」を壊したくない

高校進学後は、学校に通いながら焼肉屋でバイトをした。

「バイトなのに結構任されて。仕込みから棚卸、発注までやってました」

そのうち、周りの人より稼ぎたい、学校にいる時間もバイトにあてたいという気持ちを抱くようになる。

「バイトを頑張りすぎて単位が足りなくなったんです。結局、高2の終わり頃に中退しました」

焼肉屋のバイトではたくさん稼いだが、貯金はほとんどしなかった。

「稼いだぶんだけ好きなもの買ったり、人に奢ったりするのを楽しんでました(笑)」

「周りの友だちが『お金ないから今日は遊べないや』って言うと、自分は遊びたいから『出すよ』って」

人に奢ることで、「みんなの信頼を得ている」と実感したかったのかもしれない。

「フットワークは軽くていろんな人と遊んでたけど、結局深いつながりはつくれなくて」

「例えば自分の誕生日祝いも、自分で人を集めるみたいな(苦笑)」

必死で築き上げてきた「つながり」を壊したくない。そんな思いでいっぱいだった。

上京を決意

焼肉屋では「社員にならないか」と声もかかったが、未来像を描けず断った。

とはいえ茨城には就職先も少なく、やりたいこともない。

自分と改めて向き合ってみると、「ここで人生を終わらせたくない」という気持ちが湧いてきた。

貯金も何もない状況だったが、「東京に行こう」と思い立った。

「姉ちゃんに話したら『ウチも行きたい』って言ったんで、じゃあ一緒に上京するかって。2人で住めば家賃も安いし」

父に話したところ、案の定止められた。

「『金もないし仕事も決まってないし、どうするんだ』って。そりゃそうですよね」

でも、何を言われても変わらなかった。

「仕事なんてすぐ決まるしとりあえず行くよ、どうにかなる、って」

子どもの頃は父の顔色をいつもうかがっていたが、姉が反抗期を迎えて父に言い返すようになったのを機に、自分も本音を言えるようになっていた。

「だから上京も押しきれました。もう、その先の人生は自分の思う通りに生きたかったんです」

姉と一緒に、東京で新しい生活をスタートさせた。

「実家を出たらすごく楽になりました。いざ離れるとオトンも優しくなって。その関係が心地よくて、理想的でしたね」

07東京で訪れた転機

“オカマたち” との出会い

東京に出てきて初めて就いた仕事は、企業向けのテレアポだった。そこで、人生の転機とも言える出会いが訪れる。

「会社で一緒に働くメンバーに、LGBTがけっこういたんです」

以前からLGBTという存在について漠然と知ってはいたが、自分とは違うと思っていた。

自分はそうではないし、そうだとしても誰にも言えない、という思いがあったのだ。

「けど、職場で出会ったLGBTの人たちはみんな堂々としてて。『男になりたい』『自分は男だと思ってる』って、普通に話してたんです」

「カミングアウト」などという大げさなものではない。みんな自然に、ありのままの姿でいるだけだった。

「なるほど、こういうのもありなんだ、いいんだって思えて。そこからLGBTについて詳しく知りました」

上京してしばらくした頃、友人に紹介された女の子が、自分のことを好きになってくれた。

「告白されて動揺することもなく、好きになってくれたことがただ嬉しかったですね」

トランスジェンダーの同僚に相談したところ、「付き合ってみればいいじゃん、案外しっくりくるかもよ」と言われ、付き合うことを決める。

「同僚たちを見て、自分のことをオープンにしても受け入れてくれるんだなって思えたからかも」

地元では周りの人に何を言われるのかがとにかく気になり、自分の気持ちに蓋をしてきた。

だが、新しい居場所では「この人たちになら何を言っても大丈夫」という安心感を得られた。

「LGBTの細かい分類とか面倒だから、みんな自分たちのことを “オカマ” って言ってて(笑)。『うちらオカマのチームだね』って言い合ってました」

自分をさらけ出せる、初めての場所だった。

便宜上は「FTXでパンセクシュアル」

初めて女性と付き合ってみると、それまでの恋愛よりも自然体でいられることに気付く。

「自分にはそもそも女の子っぽさがなくて、喜びも楽しさもあんまり表に出ないし、ほとんどはしゃぐこともない」

男性と付き合っててもどうしたらいいかわからなかった。

「けど、その子と付き合ってみたら、なにもかもスムーズで。違和感が全然なかった」

立ち位置としては男性的な役割。だが、男になりたいわけでも、男として見られたいわけでもなく、あくまでたまたまだった。

男だから、女だからという枠を超えて、ただ「人間」として付き合っていた。

「今でも男の人が好きとか、女の人が好きとかあんまりよくわかってないです」

「そしたら同僚に『じゃあ、田中はFTXでパンセクシュアルだね』って言われて。そっか、って納得して、わかりやすいからそう名乗ってるだけ」

好きになるのに性別も分類も、こだわる必要はないかなと思う。

08自分を成長させてくれた恋愛

家族へのカミングアウト

今は2人目の彼女と付き合っている。

最初の彼女のことも、今の彼女のことも、家族にはすべて打ち明けていた。

「前の彼女を茨城に連れて帰ったことがあって、オトンと一緒にご飯食べたんですよ。そしたら後から『あの子って彼女なの? 付き合ってるの?』って聞かれました」

「『あの子がお前を見る目が “好き” って目だった』『2人の感じが付き合ってるようにしか見えない』って」

「オトンは自分でもいいお父さんだとは思ってなくて、『俺のこと見てたら、男が嫌だって思うのかもな』って言ってます(笑)」

「だからこそ、『お前がいいならいいんじゃない』ってすんなり受け入れてくれました」

現在交際中の彼女とは、父、姉と4人で一緒暮らしたこともある。

「上京して3年くらいしたとき、オトンがひとり暮らしに耐えられなくなって東京に転勤したんですよ。それでまた一緒に住むことになって」

「だけど、いざ同居するとやっぱりごたごたして。そんなときに彼女が転職で都内に引っ越すことになったから、『一緒に住まない?』って誘ってみたんです」

約2年間、田中家+彼女の4人で生活した。

「オトンも彼女がいる方が気を遣っておとなしくなるんで、うまくやれてましたね」

一見すると奇妙な同居生活だが、むしろ家族間の関係は改善された。

彼女からの衝撃の一言

現在交際中の彼女は5歳上。付き合った当時は26歳だった。

「26歳って結婚出産ラッシュじゃないですか。友だちに『お前が将来考えてないんだったら、相手にとっては時間の無駄。早めに別れた方がいい』って言われたんです」

「で、付き合って1年くらいのとき、別れようって話したんですよ」

当時はお金もなく、仕事も不安定。将来彼女が子どもを欲しいと思っても、どうにもならない可能性もある。

彼女のことを思うからこそ、別れを告げた。

ところが、思いもよらない答えが返ってくる。

「人の結婚式に参加して、心からおめでとう、幸せそうって思うけど、その人の幸せはその人の幸せ。でも、私の幸せは田中といることなんだよね」

「あなたは私のこと考えてるみたいに言ってるけど、そんなの自分で決める。あなたが決めることじゃなくない?」

「びっくりというか、まさかって感じで、こんな人いるのか! かっこいいなって思いました」

彼女のポジティブなところにも惹かれている。

「仕事に対しても人に対しても、全部をプラスに捉えられる人なんですよね」

自分で事業をやろうと思ったのも、彼女の影響が大きい。

「彼女の親御さんはまだ付き合ってることを知らないけど、もし将来挨拶することがあったら、今の自分じゃどうなんだろうって思ったんです。もっと仕事面で自立してれば、少しは安心してくれるかなって」

もちろん、それだけが事業を始めた理由ではない。

だが、「自分がやっていることをきちんと説明できるような人間になろう」と思ったのは大きな動機だった。

「彼女といると、どんどん自分がまともになっていくんですよね」

09プロジェクト始動!

ぶつかった壁

茨城にいたときは周りの目に縛られていたが、上京してからは仲間にも恵まれ、自分らしくいられた。

セクシュアリティについて悩むことはあまりなかった。

しかし、そんな中で初めて壁にぶつかる。

「2、3年前に初めて友だちの結婚式呼ばれて、何着ようって困りました。ドレスって選択肢はないからスーツなんですけど、体に合うものがどこにも売ってなかったんです」

「オーダーで作ってもらうのはお金がかかるし、スーツ屋の店員さんと話すのも気まずいし・・・・・・。結局、サイズが合わないスーツ風のセットアップをなんとか見つけて、それを着ました」

それまで深く考える機会もないことだったが、いざ直面すると、不便さとあまりにも選択肢がないことに不思議さを感じた。

「もしかして他の人も困ってるのかな、と思っていろんな人に話聞いてみたら、やっぱりみんな困ってて。それで、自分で作ろうって決めました」

会社を設立 若き起業家に

会社を立ち上げ、「体は女性だが、メンズライクで体に合ったスーツが欲しい」という人に向けたスーツをつくるプロジェクトを始動した。

ブランド名は「keuzes(クーゼス)」。オランダ語で「選択肢」という意味だ。

「生きていく中でいろんな選択肢があった方がいい」という願いを込めた。

「起業当初は、クラウドファンディングをやったんですけど、うまくいかなくて。どうしようかなと困ってたら、SNSで『夢のある若者に資金をプレゼント』みたいなキャンペーンを見つけたんで、これだ!と思って応募してみたんです」

見事当選。100万円を出資してもらった。

現在は、サラリーマン、事業家の二足のわらじ。
日々忙しく動いている。

「勤めている会社の人が経営のコンサルをしてくれたり、アパレルの友だちが一緒に生地を選んでくれたり。周りの人に助けられながらどうにかやってます」

まず、ネットで販売では何種類かの固定サイズを用意し、パターンオーダーやフルオーダーにも対応する。

「トランスジェンダーの人って、店で対応されるのが男の人でも女の人でも気まずいし、店舗があっても地方の人はなかなか来られない。だから、ネットで気軽に買えたらいいかなって」

「このプロジェクトが軌道に乗ったら、LGBTの他の困りごとに対しても、やれることをやっていきたいですね」

10「LGBTなんて普通」な社会に

心の居場所

茨城にいた頃は、どれだけ頑張っても「本当のつながり」は手に入らなかった。

必死で人間関係を築いても安心感は得られず、むしろ、自分らしさを表に出すことの足かせにすらなっていた。

だが、上京して “オカマのチーム” の仲間たちや恋人と出会って変わった。
今は、心から安心できるつながりの中にいる。

「セクシュアリティについて悩んでる人は、とにかく同じような人とつながってみてほしいですね」

「LGBT同士なら、共有できる部分がたくさんあるはず。当事者にしかわからないこともあるし、悩んでるときの心の支えにもなります」

「勇気が出なくてつながれない人は、せめて他の当事者の体験談を読んでみるといいのかも」

「ひとりで手探りで進んでいくより、持ってる情報が多い方がいいじゃないですか」

体験談をたくさん読んで、いろんな選択肢を知るだけでも状況は変えられると思う。

LGBTの選択肢を増やしたい

自分のようなXジェンダーの存在は、世間にはあまり知られていない。そのため、気まずい思いや面倒な思いをすることはまだまだある。

「LGBTに対する世の中の印象を変えたいですよね。今はカミングアウトってすごく重い感じになってるけど、そんなの必要ないような社会になってほしい」

「今やってるプロジェクトも、社会を変えるきっかけのひとつになればいいなと」

「まずはLGBTの選択肢を増やすことで、小さな悩みを解消したい。みんなが少しでも生きやすくなってくれたらいいですね」

仲間に恵まれ、視野が広がり、自然体でいいんだと思えた。

「いつかは『LGBT?? ふーん、別に普通じゃない?』ってなってくれればいいなって。ウチらオカマは思いますね(笑)」

今は「こうでなければならない」「こうであってはいけない」という呪縛から解放され、やっと自分らしい道を歩み始めている。

これからは、そんなふうに思える人をひとりでも増やしていく側だ。

あとがき
冒険できることーーー 田中さんの大きな強みだ。笑い顔には、ためらいがあるらしい。いっけんクールな感じだけど、話しを聴くほどに、田中さんのそれは、人への慎重さだと気づく■返信はいつも早い。生真面目さ、醒めない夢は、「スーツ」という表現ですでに始動している■石橋を叩いて壊すこともなく、かといって叩かないこともなく、着実に歩く。また、進む。欲求や夢に、良い・悪いの評価はないから、そのままじわりとおもいのままに。(編集部)

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